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5章 嫁取りの宴
40.魔王への謁見 sideレオン
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レオンは違和感しかないベッドで目を覚ました。いつも目覚めたら隣にいる存在がない。
ラシャはまだ帰ってきていなかった。宴にはいづらいからすぐに帰ると言っていたのに、朝になっても帰ってこない。
寝室のドアを開けると、護衛としてつけられている竜騎士団団長の副官マクシムと目が合った。マクシムもすぐに戻るというラシャの言葉を聞いていたから、不安そうな目をしていた。
「ラシャがまだ帰ってこない」
「……どこかの御令嬢か御令息のお部屋に行かれたとか」
「そんなことがあるわけない」
キッパリ断言すると、マクシムも考えるように頷く。
「わかった。団長に確認しよう」
そこからは早かった。団長のフェルディナンに確認すると途中退場して部屋に帰っていることになっている。
でもレオンもマクシムも下男のマルゴもそれを知らなかった。
おそらく宴から部屋のあいだで姿を消していた。
フェルディナンが急いで、王子が行方不明だと捜索をかけようとしたところで、第3王子ブレーズの下男から報告が届く。
『ラシャ王子は宴の後、不貞の輩に誘拐されそうになった。危険を回避するため、第3王子ブレーズの命により身柄を保護している。捜索は不要。』
「ブレーズ……だと? なんであいつがラシャを保護するんだ?! あいつ自身が危ないやつだろ!」
レオンの怒鳴り声に、フェルディナンも頭をかかえながら渋面をつくる。
「まぁ……ね。あの人、暴走したね。ラシャが受け入れるわけないし、これは保護という名の監禁かな……あぁぁ厄介なことになった」
「離宮とかいう場所にいるんだろ? 助けに行くぞ!」
「まてまて。一応保護という名目で監禁されているから、へたに突撃するとこっちが捕らえられかねない。魔王様に事情を申し上げて、第3王子を諌めてもらうのが1番早い」
フェルディナンはすぐに竜騎士団長の権限を駆使して、午後すぐの時間に魔王への謁見をもぎ取った。
フェルディナンは副官とレオンを連れて謁見の場に乗り込んだが、思う通りに話は進まなかった。
第3王子の強行を察した第2王子は、父王の横で困った顔で額を手でおさえた。中央に座る父王は動じる様子もなく、なんなら少し笑っている。
多少、同情的な第2王子が父王に代わって事情を説明する。
「おまえたちの言いぶんもわかる。でもブレーズからは保護という名目で報告があがっている。双方の意見が食い違っているとはいえ……第3王子の意見をないがしろにして強制捜査はできない」
その言葉に、レオンは怒りの湧き上がるままに声を上げた。
「俺たちに合わせずに保護するなんて状況からみても、普段の関係からみてもおかしいことだらけだ! ラシャがブレーズに保護されるわけがない! 監禁に決まっている!」
レオンが言い切って第2王子と魔王を睨む。そのレオンの前にいたフェルディナンが「お、おまえ! 王様の前で口をつつしめッ」とか小さい声で言っているが、それを止めたのは意外にも魔王だった。
「いやいい。俺の前で威勢がいい人間は珍しいな。ラシャのペットの人間だったか?」
この魔王は威勢のいい生き物が気にいるたちらしい。それはラシャにも受け継がれているように思えた。
魔王はクックッと小さく笑いながら、王座の椅子から身を乗り出す。
「で、ラシャとブレーズの関係か? ブレーズが変に懸想しているのは若気のいたりだろうと思っていたがな。とはいえ、ラシャの合意がないとも限らん。次期魔王の呼び声が高い男前だろ? とうとう絆されて合意の上ってこともありえる」
「おい……兄弟だろ」
レオンは醜悪さに顔を歪めた。
フェルディナンが困った顔で「褒められたことではないから表立ってはないけど、魔族は色々と緩いから……」とコソコソと付けくわえる。
「魔族は他人の閨事には干渉しない。男と女、いや、男と男で兄弟か、障害があるほど燃えるものだ」
「ブレーズが勝手に燃え上がってるんだろ。ラシャは嫌がっていた! おい、魔王……あんたは嫌がる女を強姦するような甲斐性なしか?! それが魔族のやりかたなのか!」
レオンがほえると、不意に真顔になった魔王が考えるように顎を撫でた。
「なるほど。そういう輩もいるが……ワシは好きではない。なら、ワシの命令はくださんが、フェルディナンの人脈を使った救出部隊を結成するなら、離宮への襲撃を許そう」
「「陛下!」」
フェルディナンと第2王子の驚きの声が重なった。
「力のあるものが讃えられる魔族。力で自分達の主張を通せばよかろう。第3王子に肩入れしておまえたちの主張を潰すのも野暮な気がするしな」
魔王は玉座に深く座り、シワの刻まれた顔でニヤニヤ笑った。喧嘩騒ぎが好きで面白がっているだけだと見て取れる。
人の手のひらの上で踊らされることが嫌いなレオンだが、この時ばかりは逆らわずに頭をたれた。
「どっちに軍配があがるにしろ、そののちラシャからの処罰の申し出で、合意の上の保護だったならフェルディナンとペットを処罰。逆に非合意の監禁だったならブレーズを処罰しよう」
こうして、魔王の中立宣言で、離宮襲撃が決まった。
急ぎ、フェルディナンが救出隊のメンバー招集に声をかけようと行動する。そのフェルディナンをレオンが呼び止めた。
「フェルディナンは救出部隊で表から襲撃してくれ。俺は裏から単独で忍び込む」
「まて! 裏から忍び込むなんて恥ずべき行為だぞ!」
「それは魔族の信条だろ。俺の信条は違う。人間だからな」
しばらくフェルディナンは逡巡していたが、「人間だものな……」と諦め顔でつぶやいた。
ラシャはまだ帰ってきていなかった。宴にはいづらいからすぐに帰ると言っていたのに、朝になっても帰ってこない。
寝室のドアを開けると、護衛としてつけられている竜騎士団団長の副官マクシムと目が合った。マクシムもすぐに戻るというラシャの言葉を聞いていたから、不安そうな目をしていた。
「ラシャがまだ帰ってこない」
「……どこかの御令嬢か御令息のお部屋に行かれたとか」
「そんなことがあるわけない」
キッパリ断言すると、マクシムも考えるように頷く。
「わかった。団長に確認しよう」
そこからは早かった。団長のフェルディナンに確認すると途中退場して部屋に帰っていることになっている。
でもレオンもマクシムも下男のマルゴもそれを知らなかった。
おそらく宴から部屋のあいだで姿を消していた。
フェルディナンが急いで、王子が行方不明だと捜索をかけようとしたところで、第3王子ブレーズの下男から報告が届く。
『ラシャ王子は宴の後、不貞の輩に誘拐されそうになった。危険を回避するため、第3王子ブレーズの命により身柄を保護している。捜索は不要。』
「ブレーズ……だと? なんであいつがラシャを保護するんだ?! あいつ自身が危ないやつだろ!」
レオンの怒鳴り声に、フェルディナンも頭をかかえながら渋面をつくる。
「まぁ……ね。あの人、暴走したね。ラシャが受け入れるわけないし、これは保護という名の監禁かな……あぁぁ厄介なことになった」
「離宮とかいう場所にいるんだろ? 助けに行くぞ!」
「まてまて。一応保護という名目で監禁されているから、へたに突撃するとこっちが捕らえられかねない。魔王様に事情を申し上げて、第3王子を諌めてもらうのが1番早い」
フェルディナンはすぐに竜騎士団長の権限を駆使して、午後すぐの時間に魔王への謁見をもぎ取った。
フェルディナンは副官とレオンを連れて謁見の場に乗り込んだが、思う通りに話は進まなかった。
第3王子の強行を察した第2王子は、父王の横で困った顔で額を手でおさえた。中央に座る父王は動じる様子もなく、なんなら少し笑っている。
多少、同情的な第2王子が父王に代わって事情を説明する。
「おまえたちの言いぶんもわかる。でもブレーズからは保護という名目で報告があがっている。双方の意見が食い違っているとはいえ……第3王子の意見をないがしろにして強制捜査はできない」
その言葉に、レオンは怒りの湧き上がるままに声を上げた。
「俺たちに合わせずに保護するなんて状況からみても、普段の関係からみてもおかしいことだらけだ! ラシャがブレーズに保護されるわけがない! 監禁に決まっている!」
レオンが言い切って第2王子と魔王を睨む。そのレオンの前にいたフェルディナンが「お、おまえ! 王様の前で口をつつしめッ」とか小さい声で言っているが、それを止めたのは意外にも魔王だった。
「いやいい。俺の前で威勢がいい人間は珍しいな。ラシャのペットの人間だったか?」
この魔王は威勢のいい生き物が気にいるたちらしい。それはラシャにも受け継がれているように思えた。
魔王はクックッと小さく笑いながら、王座の椅子から身を乗り出す。
「で、ラシャとブレーズの関係か? ブレーズが変に懸想しているのは若気のいたりだろうと思っていたがな。とはいえ、ラシャの合意がないとも限らん。次期魔王の呼び声が高い男前だろ? とうとう絆されて合意の上ってこともありえる」
「おい……兄弟だろ」
レオンは醜悪さに顔を歪めた。
フェルディナンが困った顔で「褒められたことではないから表立ってはないけど、魔族は色々と緩いから……」とコソコソと付けくわえる。
「魔族は他人の閨事には干渉しない。男と女、いや、男と男で兄弟か、障害があるほど燃えるものだ」
「ブレーズが勝手に燃え上がってるんだろ。ラシャは嫌がっていた! おい、魔王……あんたは嫌がる女を強姦するような甲斐性なしか?! それが魔族のやりかたなのか!」
レオンがほえると、不意に真顔になった魔王が考えるように顎を撫でた。
「なるほど。そういう輩もいるが……ワシは好きではない。なら、ワシの命令はくださんが、フェルディナンの人脈を使った救出部隊を結成するなら、離宮への襲撃を許そう」
「「陛下!」」
フェルディナンと第2王子の驚きの声が重なった。
「力のあるものが讃えられる魔族。力で自分達の主張を通せばよかろう。第3王子に肩入れしておまえたちの主張を潰すのも野暮な気がするしな」
魔王は玉座に深く座り、シワの刻まれた顔でニヤニヤ笑った。喧嘩騒ぎが好きで面白がっているだけだと見て取れる。
人の手のひらの上で踊らされることが嫌いなレオンだが、この時ばかりは逆らわずに頭をたれた。
「どっちに軍配があがるにしろ、そののちラシャからの処罰の申し出で、合意の上の保護だったならフェルディナンとペットを処罰。逆に非合意の監禁だったならブレーズを処罰しよう」
こうして、魔王の中立宣言で、離宮襲撃が決まった。
急ぎ、フェルディナンが救出隊のメンバー招集に声をかけようと行動する。そのフェルディナンをレオンが呼び止めた。
「フェルディナンは救出部隊で表から襲撃してくれ。俺は裏から単独で忍び込む」
「まて! 裏から忍び込むなんて恥ずべき行為だぞ!」
「それは魔族の信条だろ。俺の信条は違う。人間だからな」
しばらくフェルディナンは逡巡していたが、「人間だものな……」と諦め顔でつぶやいた。
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