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5章 嫁取りの宴
31.魔力測定 sideレオン
しおりを挟むレオンはフェルディナンに連れられて竜騎士団の訓練場に来ていた。
今日のラシャは儀式の予行演習とか言いながらマルゴに連れて行かれた。そのため、レオンは迎えにきたフェルディナンと行動を共にしている。
「ここにくるのは初めてだったかな? 今は訓練をしているけど、年に1度、竜騎士対抗の剣術大会をするんだよ。ちなみに去年の優勝者は私だ」
フェルディナンは自慢なのか軽口なのかわからない調子でしゃべる。嘘ではないだろうが、それほど自慢したがりなタイプにも見えない。
フェルディナンに案内された訓練場は、広いグラウンドの周りを客席が囲むようにつけられている円形闘技場だ。
ここでは100人ほどの魔族が剣を振ったり、弓で的を射たりと訓練に励んでいた。
「あの大きい男が副団長のジェルマンだ。そして今こっちに走ってくるのが俺の副官のマクシム」
マクシムと紹介された男は、細身の朴訥とした雰囲気の青年だ。どこか苦労性をにじませる表情をしていて、レオンはフェルディナンの下で振り回されているんだろうと察する。
「団長! お早いお戻りですね。ラシャ様のところでお茶でもしてくるのかと思っていましたよ」
「ラシャはマルゴに引っ張っていかれたさ。マルゴにスケジュールを詰めこまれすぎて、ラシャはもう身動きが取れんよ。私の息抜き場所が減ってしまった」
「僕としては助かりますけどね。それで、そちらがラシャ様のペットですか」
「そうだ。今は私のペットだよ♡」
フェルディナンにぎゅっと肩を抱かれて、レオンはゾワッとして腕で引き離した。
冗談にしても、この男には抱きつかれたくない。
マクシムはまじまじとレオンを眺めて首をかしげた。
「たしか人間……ですよね? 魔法弾の流れ弾に当たらないように、気をつけて見ていてくださいね。人間はすぐに死んでしまうんでしょう?」
「これは人間の中でも自衛できるほうだから、大丈夫だよ。でもそうか、マクシムも人間は知らないのか。魔族と人間の交流が無さすぎるのも問題があるなぁ。どうにも魔族は人間を侮りすぎる」
フェルディナンの考えるようなつぶやきが聞こえた。そのフェルディナンがあらためてレオンに紹介する。
「レオン、私の副官のマクシムは信頼できる部下だ。ラシャと私が宴に出ているあいだ、キミの護衛をしてもらう」
「ええ?! 初耳ですが?!」
「いつも信頼していると伝えていなかってかな?」
「そっちじゃなくて、護衛の話です!……副団長には会場警備を任命されているので、変更してもらわないといけませんね」
「よろしく」
ため息をつくマクシムを意にかいさず、フェルディナンはあっさりと依頼を終えていた。
遠くで魔法弾の訓練をしていた小さな影が、こちらに向かってくるのが見えた。それを見たフェルディナンがつぶやく。
「おや、王子様も訓練にきていたのか」
第5王子のアレクシスが笑顔でレオンに挨拶する。
アレクシスとは以前に魔獣狩りに同行して顔見知りだった。王子の中ではまだ扱いやすい相手だとレオンも認識していた。
「レオンもお兄様と一緒に戻ったんだね。僕はまだ宴に参加する年齢じゃないから暇があって訓練にきていたんだ。レオンも暇なら、また一緒に狩りに行こう」
アレクシスの言葉に、フェルディナンが目を丸くした。
「レオンは殿下と狩りに行ったことがあるんですか?」
「あぁ、魔法が封じられているとかで、物理だけしか見てないけど。アリカゴスを安易と仕留めていたよ」
「ほほう……なるほど」
フェルディナンの目が面白そうに輝く。レオンはフェルディナンが面白そうにしているといつも不快な気分になる。訝しげに睨んだが気づいていない。
「そうだ。レオンの封印はもうなくなったの?」
「あぁ、ラシャのおかげだ」
「わぁ! 喋れるようになってる! 良かったねぇ」
レオンが答えると、アレクシスは無邪気に喜んだ。
そのアレクシスに、にっこり笑ったフェルディナンが誘いをかける。
「殿下、せっかく訓練にきたなら魔力測定をしますか? 前回から1年経ちますし、測定値が上がっているかもしれませんよ」
「えぇ?そうかなぁ。1年じゃそんなに変わらない気がするけど」
あまり乗り気でないものの了承した王子に頷き、フェルディナンはマクシムに指示を出す。
マクシムが倉庫から大きな魔導具を台車に乗せて運んできた。
4メートルくらいの円形の鏡のようなものだ。枠は木の枝を何本も組み合わせたようなもので、鏡面をぐるりと囲んでいる。鏡面のような部分は真っ黒で写りが悪く、正確には鏡ではない。
「これは魔力測定の魔導具だ。魔法への耐性がとても高い樹木を利用して作られて、その耐性の元となる樹液で魔力を判定する。あの黒い部分は樹液の膜だよ」
マクシムの準備が整うと、アレクシスが膜に向けて大きな火球を放った。
火球は鏡面に当たると吸い込まれるように消え、当たった部分には50センチくらいの穴が空いた。アレクシスが放った火球に比べると小さな穴だった。
その穴の大きさを器具で測ったマクシムが声を上げる。
「52ポイントです!」
数値が良かったのか、周りではどよめきが起きる。
ただ、アレクシスはしょんぼりと肩を落とした。
「前回から1ポイントしか上がってない……」
「まだ成長過程ですから! それでも僕よりよほど高い測定値です!」
気落ちする王子を副官が必死に励ましている。
マクシムは周りの全てをフォローするタイプの苦労性だろうか。
逆にその上官は王子の様子を意に介さず、レオンにも誘いをかけてくる。
「そうだ! レオンもやってみないかい? せっかく封印も無くなったんだからさ。人間なら、平均が指先くらい、高くても拳一つくらいの穴があく程度かなぁ」
第5王子の大きさに比べると微々たる大きさの例に、レオンが少しムッとする。
それにやる気が出たと判断したのか、返答も聞かずにフェルディナンはマクシムに再度準備の指示を出した。
アレクシスが開けた穴が、ぬるりと埋まってまた黒い鏡面のような膜が張られる。
レオンは久しぶりの感覚に少し悩みながら、火球を出すと魔導具に向かって放った。それが鏡面に当たると、確かに拳くらいの穴が開く。
「12ポイント!」
「やっぱり、なかなか高いね。ラシャは良いペットを選んだようだ」
フェルディナンはそう褒めるが、レオンは少し考えてまたフェルディナンを催促した。
「もう一度だ」
少し目を丸くしたフェルディナンだが、反論なくまた準備の指示をだす。
その間に、レオンは目を閉じて集中する。体の奥にある魔力の源を意識して、普段は抑えている精神の枷を『みっつ』外す。
目を開き、体の奥から渦巻くような魔力の奔流をまとめ上げて火球に変えると、的に向かって放った。
今度は先程よりも大きく30センチくらいの穴が空く。
「31ポイント!」
「おお!」
周りからはどよめきが起こるが、レオンも大きな魔法を使いすぎて地面に膝をついた。
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