68 / 69
10章 崩壊と再生(最終章)
68.魔法は厄介
しおりを挟む
グレンの剣を逸らすか軽くはじきながら、剣の向こうのグレンの腕を狙う。
ただ、相手も分かった上で剣が届くほどの隙を作らない。
狭い室内で決定的なグレンの間合いに入らないよう円を描く足捌きで苦心する。
いっそ剣を持ちながら殺さないように考えるからややこしいのか?
「そうだ。ひらめいた」
後ろのベッド にあったタオルに水差しの水をぶっかけた。
剣を片手に、濡れたタオルをもう片手に構える。
「ははッ! 何の真似だ? 布なんぞ簡単に焼き捨ててやるわ」
たしかに、濡れた布だとしてもグレンの高温の剣へ攻撃するには無理がある。
でも元々攻撃したいのはそこじゃない。
剣で撹乱し、タオルで仕留める。
グレンはタオルの存在に意表を突かれながらも警戒している。こちらの動きを探るためか、ジワリと踏み出してこようとするグレンの虚を突く。
俺は大きく一歩前進した。
さっきまで引いてばっかりだった俺の大きい踏み込みに戸惑うようにグレンの剣先がブレた。
「ハァッ!」
今までは軽くはじくだけだった剣を今度は強く振り下ろす。案の定、グレンは頭上からの剣に対するガードに高温の剣を掲げた。
その剣は、最初と同じように俺の剣を刃でしのぎ、とたんに俺の剣を溶かす。その直後、手に残った剣の残骸をグレンの顔めがけて投げつけた。
「クッ!」
その残骸さえも咄嗟に剣で叩き落とそうとしたグレンに隙ができる。その腕へ水を含んだタオルを鞭のようにはたきつけた。
濡れタオルは剣を持つグレンの腕にぶつかり絡まる。剣で殺さないように制圧するより、いっそ肉弾戦に持ち込んだほうが容易い。
だから、そのまま腕に絡んだタオルで引き倒して武装解除する計画だった。
だけど、グレンの反応も素早い。
タオルを引く前に踏み込んできてタオルが無力化した。後ろに引いたなら、さらにタオルがキツく絡まったのに。
ただ、距離はグレンが剣を振るうにも近すぎる。グレンはそのまま俺に体当たりしてきたから、俺は背中から壁にぶつかった。
「ッてぇ!」
背中にビリッと痛みが走ったけど、目の前に迫るグレンに抵抗しないわけにはいかない。
高温の刃を押し込もうとするグレンと、その刃が触れないようグレンの手ごと柄を押し返す俺の押し合いだ。
体勢的にはこっちが苦しい。でも腕力はこっちが上。絶妙に拮抗していた。
壁に背を預けたまま、渾身の力で押し返してもグレンは簡単には引かない。
「最後の足掻きか……ッ!」
そう振り絞るグレンの顔には勝利を確信した腹の立つ笑みが浮かんでいた。
顔に近づく高温の刃が俺の前髪を焼く嫌な匂いが漂った。間近な刃から顔に熱も伝わってくる。
その時、ウォーレンと目が合った。
グレンのすぐ後ろに立つウォーレンと。
そうだ、この部屋にはまだウォーレンがいたんだ!
俺にもグレンにも、いつからか忘れられていたウォーレンが!
「残念、俺にはまだ切り札があったわ」
グレンの笑顔が不審げに歪んだ。
直後、ウォーレンが振り下ろした椅子はグレンの後頭部を強打して砕けた。
一瞬意識の飛んだグレンの手から力が抜ける。
その手から奪い取った剣の柄をグレンの首に叩き込んだ。倒れたグレンは昏倒したようで、白目を剥いていた。
「はぁはぁ……ナイスアシスト」
「私のまいた種だからな」
サラッと最後を持っていったウォーレンは、冷めた目でグレンを見下ろしていた。
ふと、俺の顔に違和感があった。慌てて顔をおさえると、リックが顔から外れないように魔法をかけた覆面があっけなくハラリと落ちた。
な、なんで?!
焼け焦げた跡がついた覆面は前髪と一緒にグレンの魔法の剣に焼かれていたらしい。魔法と魔法で相殺でもされたのか?!
やばっ、ウォーレンに素顔がバレる!
慌ててウォーレンに背を向けた。
こっちに来るんじゃねぇって思うのに、背後からウォーレンの足音が近づいてくる。
「どうした、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だけど、覆面が……」
片手で顔を覆ったまま、焼き切れた覆面をヒラヒラと振ってみせた。
「なんだ、そんなこと。もう嫁にくるのに覆面などいらんだろう」
………………? あれ? 俺が嫁に行くこと、もう確定してたっけ?
「いや~……でも突然だとビックリさせちゃうし。やっぱり段階を踏んでさぁ……」
まだ俺こそ、ウォーレンを驚かす覚悟ができてない。だって、体の関係がある男娼ランスが実は部下の騎士クラレンスなんだぞ?! あとあんたがふった相手だ!!
ジリジリと扉の方へ後退る。
「逃げる気か?」
「いやいや、あんたの方が逃げるかもしれないし?! 命が惜しければ俺の顔を見るな!」
「あなたはメデューサなのか?」
ウォーレンがフッと笑った気配がした。
すっと伸びてきた指の長い手に腕を掴まれた。強く引き寄せられて逃げられない。
「気弱だな。昼間の姿からは想像できないぞ、クラレンス」
?!!!
ただ、相手も分かった上で剣が届くほどの隙を作らない。
狭い室内で決定的なグレンの間合いに入らないよう円を描く足捌きで苦心する。
いっそ剣を持ちながら殺さないように考えるからややこしいのか?
「そうだ。ひらめいた」
後ろのベッド にあったタオルに水差しの水をぶっかけた。
剣を片手に、濡れたタオルをもう片手に構える。
「ははッ! 何の真似だ? 布なんぞ簡単に焼き捨ててやるわ」
たしかに、濡れた布だとしてもグレンの高温の剣へ攻撃するには無理がある。
でも元々攻撃したいのはそこじゃない。
剣で撹乱し、タオルで仕留める。
グレンはタオルの存在に意表を突かれながらも警戒している。こちらの動きを探るためか、ジワリと踏み出してこようとするグレンの虚を突く。
俺は大きく一歩前進した。
さっきまで引いてばっかりだった俺の大きい踏み込みに戸惑うようにグレンの剣先がブレた。
「ハァッ!」
今までは軽くはじくだけだった剣を今度は強く振り下ろす。案の定、グレンは頭上からの剣に対するガードに高温の剣を掲げた。
その剣は、最初と同じように俺の剣を刃でしのぎ、とたんに俺の剣を溶かす。その直後、手に残った剣の残骸をグレンの顔めがけて投げつけた。
「クッ!」
その残骸さえも咄嗟に剣で叩き落とそうとしたグレンに隙ができる。その腕へ水を含んだタオルを鞭のようにはたきつけた。
濡れタオルは剣を持つグレンの腕にぶつかり絡まる。剣で殺さないように制圧するより、いっそ肉弾戦に持ち込んだほうが容易い。
だから、そのまま腕に絡んだタオルで引き倒して武装解除する計画だった。
だけど、グレンの反応も素早い。
タオルを引く前に踏み込んできてタオルが無力化した。後ろに引いたなら、さらにタオルがキツく絡まったのに。
ただ、距離はグレンが剣を振るうにも近すぎる。グレンはそのまま俺に体当たりしてきたから、俺は背中から壁にぶつかった。
「ッてぇ!」
背中にビリッと痛みが走ったけど、目の前に迫るグレンに抵抗しないわけにはいかない。
高温の刃を押し込もうとするグレンと、その刃が触れないようグレンの手ごと柄を押し返す俺の押し合いだ。
体勢的にはこっちが苦しい。でも腕力はこっちが上。絶妙に拮抗していた。
壁に背を預けたまま、渾身の力で押し返してもグレンは簡単には引かない。
「最後の足掻きか……ッ!」
そう振り絞るグレンの顔には勝利を確信した腹の立つ笑みが浮かんでいた。
顔に近づく高温の刃が俺の前髪を焼く嫌な匂いが漂った。間近な刃から顔に熱も伝わってくる。
その時、ウォーレンと目が合った。
グレンのすぐ後ろに立つウォーレンと。
そうだ、この部屋にはまだウォーレンがいたんだ!
俺にもグレンにも、いつからか忘れられていたウォーレンが!
「残念、俺にはまだ切り札があったわ」
グレンの笑顔が不審げに歪んだ。
直後、ウォーレンが振り下ろした椅子はグレンの後頭部を強打して砕けた。
一瞬意識の飛んだグレンの手から力が抜ける。
その手から奪い取った剣の柄をグレンの首に叩き込んだ。倒れたグレンは昏倒したようで、白目を剥いていた。
「はぁはぁ……ナイスアシスト」
「私のまいた種だからな」
サラッと最後を持っていったウォーレンは、冷めた目でグレンを見下ろしていた。
ふと、俺の顔に違和感があった。慌てて顔をおさえると、リックが顔から外れないように魔法をかけた覆面があっけなくハラリと落ちた。
な、なんで?!
焼け焦げた跡がついた覆面は前髪と一緒にグレンの魔法の剣に焼かれていたらしい。魔法と魔法で相殺でもされたのか?!
やばっ、ウォーレンに素顔がバレる!
慌ててウォーレンに背を向けた。
こっちに来るんじゃねぇって思うのに、背後からウォーレンの足音が近づいてくる。
「どうした、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だけど、覆面が……」
片手で顔を覆ったまま、焼き切れた覆面をヒラヒラと振ってみせた。
「なんだ、そんなこと。もう嫁にくるのに覆面などいらんだろう」
………………? あれ? 俺が嫁に行くこと、もう確定してたっけ?
「いや~……でも突然だとビックリさせちゃうし。やっぱり段階を踏んでさぁ……」
まだ俺こそ、ウォーレンを驚かす覚悟ができてない。だって、体の関係がある男娼ランスが実は部下の騎士クラレンスなんだぞ?! あとあんたがふった相手だ!!
ジリジリと扉の方へ後退る。
「逃げる気か?」
「いやいや、あんたの方が逃げるかもしれないし?! 命が惜しければ俺の顔を見るな!」
「あなたはメデューサなのか?」
ウォーレンがフッと笑った気配がした。
すっと伸びてきた指の長い手に腕を掴まれた。強く引き寄せられて逃げられない。
「気弱だな。昼間の姿からは想像できないぞ、クラレンス」
?!!!
1
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
魔法使いは春に死ぬ
サクラハルカ
BL
去年の春、僕は罪をおかした。
一年間通い続けたパン屋に、もう行かないと決めていた日。
春の嵐が街にくる。
魔法使いの末裔の僕と、パン屋の青年の間に起こったこと。
全10話。一万字ちょっとです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる