65 / 69
10章 崩壊と再生(最終章)
65.拷問の鉄球つきネックレスより重い
しおりを挟む
ベッドに並んで寝転んでいると、ウォーレンが手を握り、何度も指にキスをしてくる。
「くすぐったいな」
「そうか? 不思議でな。舞台の上でダンスの動きを見せる時は華奢に見えるのに、こうしてみると無骨な手だから」
これでも騎士だからなぁ。がっしりして節張っているし、豆が潰れて硬くなった手だ。
「実は……プレゼントがあるんだが、ランスは受け取ってくれるだろうか」
「おう! 食べ物でも花でもアクセサリーでも何でもこいよ!」
「かなり重たいものなんだが」
「重たい? ダンベルか?」
「あなたにかかる新しい鎖になるかもしれない」
「……拷問の鉄球つきネックレス?」
ウォーレンがクスッと笑った。
「ランス、笑わせるのはやめてくれ。わかっているんだろう?」
顔が熱くなる。まさか、そんなはずはないと思うから、からかってしまう。
こんな覆面をした男相手にする話のはずがない。
でもウォーレンの浮かべる笑顔をみたら……とろけるような笑顔をみたら……つまり…………?
「指輪を作ったんだ。この無骨な指に合うサイズの指輪を。あと借金は私が肩代わりできるよう店長経由で話をつけてある」
「………………ッ! それって……」
「あなたが前に言っていただろう? 私が借金を肩代わりするなら、あなたを身請けできると。ランス、私の嫁になってくれるんだよな?」
ウォーレンが俺の手を握り、薬指にキスしてくる。そのキスに指先が痺れる。心臓が痛いほど苦しい。
「なんでだよ……付き合うとか飛び越してんじゃん」
「手順が必要か? あなたは羽のように軽いから、早めに嫁という鎖をかけて私に繋いでおきたいんだが」
「おもっ……!」
「あぁ、だから重たい私の感情まで受け取る覚悟があるか、と聞いている」
そうは言うけど、ウォーレンと繋がった手はしっかりと握られて離れない。
こんなの……逃げられないだろ。
今夜のウォーレンがやけに執着心てんこ盛りで迫ってくると思ったら、まさかこういう展開とはね……。
「あんた、覆面をしたままの男によくプロポーズできるな」
「何を言っている、ランス。私は――――――」
激しい衝撃音と共に店が揺れた。
「なんだ?!」
一度では終わらず2度目の衝撃で天井から埃が落ちる。
まさか建物が崩れるんじゃないだろうな?!
ウォーレンを机の下に押し込みしばらく様子を見る。幸いにも3度目の衝撃はこない。たまにミシッ……と軋む音が不吉だけど、すぐに崩落するというほどではなさそうだ。
一体何が起こったんだ?
衝撃音の後、階下から悲鳴や騒がしい物音が響いているから何かが起こっているのは確実だった。
さっきの衝撃だけで終わるのか、それとも――
階下が見渡せるバルコニーに駆け寄ってカーテンを乱暴に引き開けた。
悲鳴が上がっている。
バルコニー下は大惨事だった。
店の正面側に大穴が開き、もうもうと煙が立ち込めている。破壊された石材がホールに散らばり、数人の怪我人がもがいている姿が見える。
そこに、この店には似つかわしくない武装した男達がいて、武器を構えて威嚇している。
「なにが……?!」
「下はどうなっている?」
机の下から出たウォーレンが険しい顔で後ろに立っていた。
「店に外からの大穴が開いて、武器を持つ男が10人ほどでホールを制圧しようとしている。荒事対策に店にも武器はあるはずだけど……、いや、俺も下に加勢にいく。ウォーレンはここで身の安全を確保していてくれ!」
頷くウォーレンを確認して部屋の扉へ向き直る。
突然、激しく扉が開いた。
ギラリと光る剣の不穏さに、咄嗟にウォーレンの前に出てその身を庇う。
ただ、今の俺は武器も持たない半裸男だから、心許なさは半端ない。
「なーるほど、下の男たちだけじゃないわけか」
「憶測だが、私が狙いではないか?」
「下の制圧もそこそこに、わざわざ2階のこの部屋へこの人数か。……たしかに、あんた目当ての可能性が高いな」
人のプロポーズを邪魔してくれちゃって、覚悟しとけよ!
「くすぐったいな」
「そうか? 不思議でな。舞台の上でダンスの動きを見せる時は華奢に見えるのに、こうしてみると無骨な手だから」
これでも騎士だからなぁ。がっしりして節張っているし、豆が潰れて硬くなった手だ。
「実は……プレゼントがあるんだが、ランスは受け取ってくれるだろうか」
「おう! 食べ物でも花でもアクセサリーでも何でもこいよ!」
「かなり重たいものなんだが」
「重たい? ダンベルか?」
「あなたにかかる新しい鎖になるかもしれない」
「……拷問の鉄球つきネックレス?」
ウォーレンがクスッと笑った。
「ランス、笑わせるのはやめてくれ。わかっているんだろう?」
顔が熱くなる。まさか、そんなはずはないと思うから、からかってしまう。
こんな覆面をした男相手にする話のはずがない。
でもウォーレンの浮かべる笑顔をみたら……とろけるような笑顔をみたら……つまり…………?
「指輪を作ったんだ。この無骨な指に合うサイズの指輪を。あと借金は私が肩代わりできるよう店長経由で話をつけてある」
「………………ッ! それって……」
「あなたが前に言っていただろう? 私が借金を肩代わりするなら、あなたを身請けできると。ランス、私の嫁になってくれるんだよな?」
ウォーレンが俺の手を握り、薬指にキスしてくる。そのキスに指先が痺れる。心臓が痛いほど苦しい。
「なんでだよ……付き合うとか飛び越してんじゃん」
「手順が必要か? あなたは羽のように軽いから、早めに嫁という鎖をかけて私に繋いでおきたいんだが」
「おもっ……!」
「あぁ、だから重たい私の感情まで受け取る覚悟があるか、と聞いている」
そうは言うけど、ウォーレンと繋がった手はしっかりと握られて離れない。
こんなの……逃げられないだろ。
今夜のウォーレンがやけに執着心てんこ盛りで迫ってくると思ったら、まさかこういう展開とはね……。
「あんた、覆面をしたままの男によくプロポーズできるな」
「何を言っている、ランス。私は――――――」
激しい衝撃音と共に店が揺れた。
「なんだ?!」
一度では終わらず2度目の衝撃で天井から埃が落ちる。
まさか建物が崩れるんじゃないだろうな?!
ウォーレンを机の下に押し込みしばらく様子を見る。幸いにも3度目の衝撃はこない。たまにミシッ……と軋む音が不吉だけど、すぐに崩落するというほどではなさそうだ。
一体何が起こったんだ?
衝撃音の後、階下から悲鳴や騒がしい物音が響いているから何かが起こっているのは確実だった。
さっきの衝撃だけで終わるのか、それとも――
階下が見渡せるバルコニーに駆け寄ってカーテンを乱暴に引き開けた。
悲鳴が上がっている。
バルコニー下は大惨事だった。
店の正面側に大穴が開き、もうもうと煙が立ち込めている。破壊された石材がホールに散らばり、数人の怪我人がもがいている姿が見える。
そこに、この店には似つかわしくない武装した男達がいて、武器を構えて威嚇している。
「なにが……?!」
「下はどうなっている?」
机の下から出たウォーレンが険しい顔で後ろに立っていた。
「店に外からの大穴が開いて、武器を持つ男が10人ほどでホールを制圧しようとしている。荒事対策に店にも武器はあるはずだけど……、いや、俺も下に加勢にいく。ウォーレンはここで身の安全を確保していてくれ!」
頷くウォーレンを確認して部屋の扉へ向き直る。
突然、激しく扉が開いた。
ギラリと光る剣の不穏さに、咄嗟にウォーレンの前に出てその身を庇う。
ただ、今の俺は武器も持たない半裸男だから、心許なさは半端ない。
「なーるほど、下の男たちだけじゃないわけか」
「憶測だが、私が狙いではないか?」
「下の制圧もそこそこに、わざわざ2階のこの部屋へこの人数か。……たしかに、あんた目当ての可能性が高いな」
人のプロポーズを邪魔してくれちゃって、覚悟しとけよ!
1
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる