【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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9章 東奔西走

59.縛り上げたろか

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 最高級の品とまではいかないけど、町で揃えられるだけの高級な服に神官長は着替えた。
 神官の服は町中じゃ目立ちすぎるから着替えたけど、王宮に入るための服となるとそれなりに立派な装いとなる。

 イケメンの神官長がそんな立派な服を身につけたら……王子様みたいになってしまった……これも目立つな。

「どうかしたか?」

 首元にクラバットを巻いている神官長と目が合った。
 着替えの手伝いと思って同室したのに、ついつい見惚れてしまってよからぬ思考をしてしまう。

「あ~…いえ、こういう装いも似合うので流石だなと思いまして」

 神官服はゆったりした服だけど、今着てる服は細身のジャケットだから体の線がわかりやすい。
 高い身長と長い足に、背筋の伸びた立ち姿は威風堂々としていて、さすが元貴族だと思わせた。どこか義弟のグレンに似た貴公子然とした立ち居振る舞いに同じ血族を感じさせる。

「見惚れたか」

 ドキッ! ひぃ……見透かされてんじゃん!

「神官長……フった相手にそういう事を言うのは酷じゃありませんか?」
「おまえをフった? ……そういう見方もあるか」

 そういう見方しかないでしょうが! 『おまえの気持ちに応えるのは難しい』って言ったでしょうが!

「おまえが私を助けようと動くのはなぜだ? フラれたと思うなら私のことなど放っておけば良い。まさか、私の懐に入って騙し討ちにしようなどと……思うおまえではないのは分かっているが」

 チラリと覗いた神官長の疑心に胸がギシリと軋んだ。
 ただこんな状況なんだから疑心が浮かぶのもわかる。それにここまでお供する俺を本気で疑う神官長でもない。

「まだまだ俺のことがわかっていませんね。俺は下心で動く人間ですよ。弱みにつけ込んで隙あらばと思っているんです。あなたは俺に弱みを見せない方が良いですよ」
「なるほど下心か……。それは想定外だ」

 スッと差し出された手に一瞬ドキリとした。人に手首を見せる姿というのは隙に見えないか? 手首を取られて縛られたら……?
 いや、手首のボタンを留めてくれという仕草まで邪推してしまうとは、キてるな。

 ボタンを留めながら、手首から香るシラキスに意識が持っていかれそうになる。

「おまえにはどんな下心があるんだ?」

 神官長の声にゾクリとする色香を感じた。いや、まさか……。
 そんな妄想を振り払おうと軽口で応じる。

「俺の職務違反は騎士団にすでにバレてそうなので……除隊されても神官長の復権が叶ったなら、家政夫として雇って貰おうかな~とか?」
「家政夫か……それも想定外だが、考えておこう」

 ふと変な想像が湧いた。目の前にいる神官長の目がさぐるように俺をみている。

「神官長の想定内って、どんなもんなんですか?」
「無実を信じる私を職務に反してでも助けたいお人好しなのかと思っていた。そしておまえの下心とはいつもの破廉恥な悪戯かと、な」
「……その想定内通りとするなら、あなたはどうやって俺を退けるんですか? 俺をこんなに近寄らせてしまって」

 今留めた手首のボタンを外した。抵抗が無いのをいいことに、その内手首に口づける。
 強く吸い付くと白い腕には内出血の跡が浮かんだ。

 これは所有欲なんだろうか。夜のランスとウォーレンは男娼と客の関係だ。許可されないと故意に跡などつけない。
 フラれた男がフッた相手の隙をついてキスマークをつけるなんて、やっぱり未練がましい行為か。

「クラレンス、私の体が報酬となるなら――」

 神官長が手首についた跡をみて少し笑った。

「おまえに身を任せるのも一興かと思った」

 ゾクゾクッと背筋に震えが走った。
 反則だろう……それは!

 神官長の結んだクラバットを手荒く掴むと、緩んだ襟元から白い鎖骨が覗いた。誘惑の白に引き寄せられそうになる。

「神官長――」

 でも、これは罠だ。

「――また俺を試していますね?」
「なぜそう思う」

 神官長がまた少し笑った。綺麗な顔に似合わない意地悪な笑みだ。

「あなたは割り切った体の関係は嫌だと俺をフッたんだ。なのに報酬にその身を差し出すなんて……俺の気持ちを試しているんでしょう。俺がその報酬に飛びつく程度の男なら、切り捨てるつもりなんだ」
「深読みしすぎじゃないか? こんな状況では、今後私がどうなるかもわからない。おまえに未練がないようにしようと思っただけだ」

 神官長の自暴自棄な言葉に頭に血が上った。

「いりませんよ、そんな温情は。それにこんな場所で、こんな差し迫ったタイミングで、そんな誘惑の言葉はずるいです! そしてあなたはあなたが思っているよりも確実に、絶対に俺が守ります!」

 神官長の目をにらみながらハッキリ言ってやった。
 感情の読めない表情だった神官長の顔が、少し歪む。

「ははッ! やはり、時と場所が許せば襲われそうだな。いや、おまえの本音が聞けてよかった」

 ………………。
 軽口でごまかそうとした本音を、引きずり出された気がする。フラレても引きずっている未練がましい男の執着を。

 襟元から手を離すと、神官長はサッとクラバットを巻き直し、手首のボタンを留めた。 ……って自分で留められるじゃん!? ボタンを留めさせたのはやっぱり俺に隙きを見せるため!? そうなんですか!?

「さぁ、行こうか」

 髪を後ろで結んだ神官長は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
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