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9章 東奔西走
58.神官長をめぐるキャットファイト
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昔の冒険者仲間は神官長の状況に憤りながら協力を約束してくれた。
冒険者たちの宿泊する宿に部屋を追加で頼み、部屋に入ったところでようやく警邏の目に監視されている錯覚から抜け出した。
白魔法士の女の子が運んできてくれたスープとサンドイッチをかじると緊張で冷えた臓腑が温まり人心地つく。
「郊外で身を隠す当てはあるのか?」
顎髭のイカツイ剣士が机に地図を広げながらウォーレンに話をふった。
そこに横から口を出してくるのが興奮で頰を染めた白魔法士の女の子だ。
「わたくしの地元はいかがですか? あの辺りは穏やかな気候で過ごしやすいですし、ここから離れています。わたくしの実家からも援助させますわ」
コイツ下心がミエミエすぎる。
さらっと援助を申し出るあたりから推測するに、商家のお嬢様かもしれない。
「あらあら~、こんな小娘に囲われるくらいなら、北東の国のダンジョンで稼ぎましょ。ウォーレン向けのアンデッド系ダンジョンよ」
弓使いの妖艶なお姐さんが白魔法士の下心を踏みつけて遊び始めた。
白魔法士の女の子は冷静で大人びたタイプにみえたのに、悔しそうに歯噛みしている顔を見ると年相応だ。
もちろんそこに俺も参戦する。
「小娘に囲われるのも危険なダンジョンもお勧めしませんね。貧乏ながらも隠れ蓑には最適な、王都郊外の農家はいかがでしょ」
「「却下よ」」
貧乏暮らしなんて絶対神官長には似合わないんだから! って白魔法士の女の子にブツブツ言いながら睨まれた。
ヘイヘイ、冗談ですとも! ほっかむりで畑仕事する神官長って、似合わなすぎて掃き溜めにツルみたいな絵面だなって妄想したけど!
そんな俺たちの神官長をめぐるキャットファイトを涼しい顔で受け流した神官長は考えるように額に手を当てた。
「私としてはいつまでも逃げ回っているつもりはない。ツテを使ってでも、不正をしたのは誰か、本当に捕縛されるべきは誰なのかをハッキリさせるつもりだ。だから王都からそれほど遠くに離れると動きづらい」
「んじゃ、南のあの町が良いんじゃないか? 領主が独立独歩の精神で王家からちょっと距離を置いてるし、ギャンブルで町を運営している町だ。後ろ暗いところがある町だから王宮からの捜索依頼にはいい顔しないだろ。しばらくの時間稼ぎにはなる」
真面目な神官長と顎髭剣士の方針が決まり、南の検問を抜けるには……と話しているのを聞いていた。
そんな時にヒラリと小鳥が部屋に舞い込んできた。
「ユルゲンの鳥だ」
シュルリと鳥の姿が解けて一枚の紙に変じた。
ユルゲン爺さんは情報収集してくる、と武闘家の四角い顔の男を連れてフラリと宿を出てから姿を見せなかった。
「……なるほど、予定変更だな」
その紙を読んだ神官長が眉間にシワを寄せながら告げた。
「私は王宮へ行く」
「は?! 何言ってんですか! 王宮騎士から逃げてきたってのに、王宮に行ったらすぐ捕まるじゃないですか!」
「これが罠ならそうなるな。ただユルゲンを信じるならそうはならないだろう」
「……ユルゲン爺さんが王宮に来いっていってるんですか?」
「ユルゲンからは、私の捕縛令状が偽造の可能性あり、ということだ。それに関連して、宰相が私に会う意向がある、と」
「さいしょう……って神官長の」
「私の父だ。今出向いてその意向を聞いておかなければならない。父も向こうにつくなら……厄介なことになるからな」
神官長を聖堂に送った義母と、不正に関与していたのが義弟①で、神官長を捕まえにきたのが義弟②? これだけ見るとウォーレンと敵対している義家族の姿が見える。
そこにきて義家族を好き勝手に放置している実父に会いに行くって、すごく危険じゃないか?
「あの……お父様が向こうについていて、飛んで火に入る夏の虫って感じに捕まる可能性……どれくらいです?」
「……私は父を信じている。私の後ろ盾の主柱が父だ。彼が敵対するなら私の神官人生が終わると思っていい。可能性を論じるんじゃなく、良い結果を引きずり出さなければ先はない」
な、なるほど。宰相に裏切られるわけにいかないんだ。もし心が義家族に傾いているなら全力で引き戻す必要がある、ということか?
「私もお供します」
神官長の鋭い目が俺を見た。俺もグッと口を引き結んで真面目な顔を作る。
断られそうな予感にジワッと緊張したが、予想外に神官長は簡単に折れた。
「好きにしろ。おまえはいつも断っても聞かないからな」
「はっ!」
呆れられるかもしれないけど、こんな状況で放り出すなら初めから手助けしたりしない。
すでに聖堂騎士の任務放棄をしているのが騎士団の上司にバレている頃だろう。
この事件が終わる頃には失職しているだろうし、どうせなら地獄の底までお供するつもりだ。
フラれたってのに未練がましいだと? うるせぇ俺はまだ諦めてねぇぞ!
冒険者たちの宿泊する宿に部屋を追加で頼み、部屋に入ったところでようやく警邏の目に監視されている錯覚から抜け出した。
白魔法士の女の子が運んできてくれたスープとサンドイッチをかじると緊張で冷えた臓腑が温まり人心地つく。
「郊外で身を隠す当てはあるのか?」
顎髭のイカツイ剣士が机に地図を広げながらウォーレンに話をふった。
そこに横から口を出してくるのが興奮で頰を染めた白魔法士の女の子だ。
「わたくしの地元はいかがですか? あの辺りは穏やかな気候で過ごしやすいですし、ここから離れています。わたくしの実家からも援助させますわ」
コイツ下心がミエミエすぎる。
さらっと援助を申し出るあたりから推測するに、商家のお嬢様かもしれない。
「あらあら~、こんな小娘に囲われるくらいなら、北東の国のダンジョンで稼ぎましょ。ウォーレン向けのアンデッド系ダンジョンよ」
弓使いの妖艶なお姐さんが白魔法士の下心を踏みつけて遊び始めた。
白魔法士の女の子は冷静で大人びたタイプにみえたのに、悔しそうに歯噛みしている顔を見ると年相応だ。
もちろんそこに俺も参戦する。
「小娘に囲われるのも危険なダンジョンもお勧めしませんね。貧乏ながらも隠れ蓑には最適な、王都郊外の農家はいかがでしょ」
「「却下よ」」
貧乏暮らしなんて絶対神官長には似合わないんだから! って白魔法士の女の子にブツブツ言いながら睨まれた。
ヘイヘイ、冗談ですとも! ほっかむりで畑仕事する神官長って、似合わなすぎて掃き溜めにツルみたいな絵面だなって妄想したけど!
そんな俺たちの神官長をめぐるキャットファイトを涼しい顔で受け流した神官長は考えるように額に手を当てた。
「私としてはいつまでも逃げ回っているつもりはない。ツテを使ってでも、不正をしたのは誰か、本当に捕縛されるべきは誰なのかをハッキリさせるつもりだ。だから王都からそれほど遠くに離れると動きづらい」
「んじゃ、南のあの町が良いんじゃないか? 領主が独立独歩の精神で王家からちょっと距離を置いてるし、ギャンブルで町を運営している町だ。後ろ暗いところがある町だから王宮からの捜索依頼にはいい顔しないだろ。しばらくの時間稼ぎにはなる」
真面目な神官長と顎髭剣士の方針が決まり、南の検問を抜けるには……と話しているのを聞いていた。
そんな時にヒラリと小鳥が部屋に舞い込んできた。
「ユルゲンの鳥だ」
シュルリと鳥の姿が解けて一枚の紙に変じた。
ユルゲン爺さんは情報収集してくる、と武闘家の四角い顔の男を連れてフラリと宿を出てから姿を見せなかった。
「……なるほど、予定変更だな」
その紙を読んだ神官長が眉間にシワを寄せながら告げた。
「私は王宮へ行く」
「は?! 何言ってんですか! 王宮騎士から逃げてきたってのに、王宮に行ったらすぐ捕まるじゃないですか!」
「これが罠ならそうなるな。ただユルゲンを信じるならそうはならないだろう」
「……ユルゲン爺さんが王宮に来いっていってるんですか?」
「ユルゲンからは、私の捕縛令状が偽造の可能性あり、ということだ。それに関連して、宰相が私に会う意向がある、と」
「さいしょう……って神官長の」
「私の父だ。今出向いてその意向を聞いておかなければならない。父も向こうにつくなら……厄介なことになるからな」
神官長を聖堂に送った義母と、不正に関与していたのが義弟①で、神官長を捕まえにきたのが義弟②? これだけ見るとウォーレンと敵対している義家族の姿が見える。
そこにきて義家族を好き勝手に放置している実父に会いに行くって、すごく危険じゃないか?
「あの……お父様が向こうについていて、飛んで火に入る夏の虫って感じに捕まる可能性……どれくらいです?」
「……私は父を信じている。私の後ろ盾の主柱が父だ。彼が敵対するなら私の神官人生が終わると思っていい。可能性を論じるんじゃなく、良い結果を引きずり出さなければ先はない」
な、なるほど。宰相に裏切られるわけにいかないんだ。もし心が義家族に傾いているなら全力で引き戻す必要がある、ということか?
「私もお供します」
神官長の鋭い目が俺を見た。俺もグッと口を引き結んで真面目な顔を作る。
断られそうな予感にジワッと緊張したが、予想外に神官長は簡単に折れた。
「好きにしろ。おまえはいつも断っても聞かないからな」
「はっ!」
呆れられるかもしれないけど、こんな状況で放り出すなら初めから手助けしたりしない。
すでに聖堂騎士の任務放棄をしているのが騎士団の上司にバレている頃だろう。
この事件が終わる頃には失職しているだろうし、どうせなら地獄の底までお供するつもりだ。
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