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4章 孤児院と神域
24.神隠しなら神官長と共に
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用意された2メートルほどのロープで神官長と体を繋がれてしまった。
「あの~……俺は犬じゃないんですが……」
恐る恐る老女と話している神官長にたずねる。俺に背負わせる荷物の中身を確認していた神官長が、ジロリと睨んでくる。
「おまえは……何も知らないんだな。森にある神域では『神の気まぐれ』という現象がおこる。迷子になったり、幻覚をみたり、神隠しにあったり。……過去に聖女が異界から現れたのも神域だ。このロープはおまえの命綱だ。神域の影響を受けない私から離れないためのな」
まさか神域がそんな恐ろしいところだとは!
大聖堂勤務が長ければ、そのうち噂で聞いたのかもしれないが、勤め出して間もない俺は知らなかった。
一市民としては、聖女についてのそんな詳しいことまで歴史で習った覚えはない。
でも聖女が異界からきたってことは、神隠しは逆に異界に迷い込んでしまうってことなのか? 聖女様の故郷……つまり聖女さまがいっぱいいるところ?
大聖堂に飾られた聖女の絵のような美女がいっぱいいる世界が思い浮かんだ。なんて極楽だろう……。
いや、いまは探索だ! それに護衛対象の神官長を置いて神隠しにあうわけにはいかない。
神官長は手に杖を、俺は荷物を背負って帯剣すると、森に入った。
神域までの道のりは何事もなかった。ただ、夕暮れが近づいているため、影が深くなってきた森は少し恐ろしさがある。
訓練している俺と遜色ない神官長の身のこなしや足取りにも感心した。
杖で草木を分けいり、道なき道を辿って一直線に目的地へ向かう気だろう。かなり足元に凹凸があり歩きにくい。
確実に子供が通った道を辿っているわけではないはずだ。
探索で最終目的地がわかっているからこそのショートカットだろう。やっぱり魔法は便利だな。
「そろそろ神域へ入る! ロープは絶対に外すな!」
「はっ!」
少し息が切れている神官長だが、まだ覇気がある。
神域に入ると少し森の雰囲気が変わったように感じた。静けさが増し、肌が泡立つような緊張感がある。
少し気温が下がって感じられたのは陽が落ちたからか。いや、陽が落ちるにはまだ時間が早い。やっぱり、どこか薄寒い場所ってことだ。
クンッとロープが引かれ、戸惑いに足が止まっていることに気づいた。なぜか思考力も鈍くなっているように感じる
「大丈夫か?」
「はっ! 問題ありません。森の気配が変わったと感じて驚いただけです」
「おまえ……目をつけられたかもしれんな」
何に?! え、ちょっと怖いんですけど……。神域だから神様? それともまさか幽霊?!
「幽霊なんてことは……ないですよね?」
「不安なら、手でもつないでやろうか?」
「はっ?! あ~~~それはまたの機会でっ」
前を向いた神官長の気配で笑っているのがわかる。
俺とは逆に、神官長は神域に入ってから余裕が出てきた。さっきよりも体が軽そうだし、あの神官長からジョークまで飛び出すとは。
……やっぱり本気にして手をつないでおけば良かったかな!? いや、騎士というキャラ崩壊と「冗談に決まってるだろ」って冷めた目を招くだけだ。
想像するだけでゾッとする。
「神官長は神域の影響を受けないとおっしゃっていましたが、やっぱり影響はあるんじゃないですか? さっきよりも動きに余裕がみえます」
「おまえはよく見ているな。神域は神聖属性の神官にはプラスの効果がかかる。魔力、体力、気力ともに上昇した」
「なるほど……魔法的なやつですね。俺は魔法が使えないので詳しくないんですが……」
「平民で魔法が使えるのはマレだからな。おいそこ、蛇だ。気をつけろ」
なんだか嫌な予感がする。同行を申し出た時に言われた、足手まといって言葉が浮かんでくる。
ザクザクと草やツルや蜘蛛の巣をはらいながら進む。たまにロープが引っかかって邪魔になった。
これは命綱。邪魔で外したい誘惑に精神力で蓋をする。それに、職員たちによってギチギチに強く結ばれているから簡単には解けない。
まぁでも剣で切ればあるいは……いや、ダメだってば。
目の端に人の姿を見た気がした。
「?!」
子供の後ろ姿が草木の間に見えた。
「神官長! 子供がいました!」
「なんだと?」
後を追おうとした俺の腕を神官長につかまれる。
「まて! 私には見えん。それは幻覚だ」
「えっ?!」
あんなにはっきり見えるのに?! もう一度そっちの方角をみると、その姿は掻き消えていた。
「いない……ですね」
「想定内だ。問題ない。いくぞ」
やっぱり神域だ。これが幻覚か。
騎士は魔法耐性をつけるために、魔法にかかる訓練もする。でも、気づかずにかかって現実と幻覚が曖昧になる状況の恐ろしさは段違いだ。
また遠くに子供の姿がみえた。さっきと同じ後ろ姿だ。
目をこすると掻き消えた子供の姿にゾッとする。本当に幻覚なんだろうか? まさか俺にしか見えていない幽霊とか……そんなことはないだろーな?!
いや、もしも幽霊だとしても、今の探し人とは別だ。無視だ無視。
その後も、何度も子供の後ろ姿をみた。神官長には伝えなかったが、もう脳がバグりそうだ。
また子供の姿に気を取られた。頭から振り払おうとした時、めまいが――
顔を上げた先で、神官長の姿を一瞬見失った。
いや、向こうの茂みに神官長の後ろ姿がある。
「まって――」
追おうとした。その時、逆側にロープが引っ張られる衝撃が走った。
「?!!!」
「どうした」
体勢を崩して地面に手をついていた。顔を上げると目の前にはロープを握る神官長がいた。
さっき見えたのはその神官長と逆側だったのに。
「あの~……俺は犬じゃないんですが……」
恐る恐る老女と話している神官長にたずねる。俺に背負わせる荷物の中身を確認していた神官長が、ジロリと睨んでくる。
「おまえは……何も知らないんだな。森にある神域では『神の気まぐれ』という現象がおこる。迷子になったり、幻覚をみたり、神隠しにあったり。……過去に聖女が異界から現れたのも神域だ。このロープはおまえの命綱だ。神域の影響を受けない私から離れないためのな」
まさか神域がそんな恐ろしいところだとは!
大聖堂勤務が長ければ、そのうち噂で聞いたのかもしれないが、勤め出して間もない俺は知らなかった。
一市民としては、聖女についてのそんな詳しいことまで歴史で習った覚えはない。
でも聖女が異界からきたってことは、神隠しは逆に異界に迷い込んでしまうってことなのか? 聖女様の故郷……つまり聖女さまがいっぱいいるところ?
大聖堂に飾られた聖女の絵のような美女がいっぱいいる世界が思い浮かんだ。なんて極楽だろう……。
いや、いまは探索だ! それに護衛対象の神官長を置いて神隠しにあうわけにはいかない。
神官長は手に杖を、俺は荷物を背負って帯剣すると、森に入った。
神域までの道のりは何事もなかった。ただ、夕暮れが近づいているため、影が深くなってきた森は少し恐ろしさがある。
訓練している俺と遜色ない神官長の身のこなしや足取りにも感心した。
杖で草木を分けいり、道なき道を辿って一直線に目的地へ向かう気だろう。かなり足元に凹凸があり歩きにくい。
確実に子供が通った道を辿っているわけではないはずだ。
探索で最終目的地がわかっているからこそのショートカットだろう。やっぱり魔法は便利だな。
「そろそろ神域へ入る! ロープは絶対に外すな!」
「はっ!」
少し息が切れている神官長だが、まだ覇気がある。
神域に入ると少し森の雰囲気が変わったように感じた。静けさが増し、肌が泡立つような緊張感がある。
少し気温が下がって感じられたのは陽が落ちたからか。いや、陽が落ちるにはまだ時間が早い。やっぱり、どこか薄寒い場所ってことだ。
クンッとロープが引かれ、戸惑いに足が止まっていることに気づいた。なぜか思考力も鈍くなっているように感じる
「大丈夫か?」
「はっ! 問題ありません。森の気配が変わったと感じて驚いただけです」
「おまえ……目をつけられたかもしれんな」
何に?! え、ちょっと怖いんですけど……。神域だから神様? それともまさか幽霊?!
「幽霊なんてことは……ないですよね?」
「不安なら、手でもつないでやろうか?」
「はっ?! あ~~~それはまたの機会でっ」
前を向いた神官長の気配で笑っているのがわかる。
俺とは逆に、神官長は神域に入ってから余裕が出てきた。さっきよりも体が軽そうだし、あの神官長からジョークまで飛び出すとは。
……やっぱり本気にして手をつないでおけば良かったかな!? いや、騎士というキャラ崩壊と「冗談に決まってるだろ」って冷めた目を招くだけだ。
想像するだけでゾッとする。
「神官長は神域の影響を受けないとおっしゃっていましたが、やっぱり影響はあるんじゃないですか? さっきよりも動きに余裕がみえます」
「おまえはよく見ているな。神域は神聖属性の神官にはプラスの効果がかかる。魔力、体力、気力ともに上昇した」
「なるほど……魔法的なやつですね。俺は魔法が使えないので詳しくないんですが……」
「平民で魔法が使えるのはマレだからな。おいそこ、蛇だ。気をつけろ」
なんだか嫌な予感がする。同行を申し出た時に言われた、足手まといって言葉が浮かんでくる。
ザクザクと草やツルや蜘蛛の巣をはらいながら進む。たまにロープが引っかかって邪魔になった。
これは命綱。邪魔で外したい誘惑に精神力で蓋をする。それに、職員たちによってギチギチに強く結ばれているから簡単には解けない。
まぁでも剣で切ればあるいは……いや、ダメだってば。
目の端に人の姿を見た気がした。
「?!」
子供の後ろ姿が草木の間に見えた。
「神官長! 子供がいました!」
「なんだと?」
後を追おうとした俺の腕を神官長につかまれる。
「まて! 私には見えん。それは幻覚だ」
「えっ?!」
あんなにはっきり見えるのに?! もう一度そっちの方角をみると、その姿は掻き消えていた。
「いない……ですね」
「想定内だ。問題ない。いくぞ」
やっぱり神域だ。これが幻覚か。
騎士は魔法耐性をつけるために、魔法にかかる訓練もする。でも、気づかずにかかって現実と幻覚が曖昧になる状況の恐ろしさは段違いだ。
また遠くに子供の姿がみえた。さっきと同じ後ろ姿だ。
目をこすると掻き消えた子供の姿にゾッとする。本当に幻覚なんだろうか? まさか俺にしか見えていない幽霊とか……そんなことはないだろーな?!
いや、もしも幽霊だとしても、今の探し人とは別だ。無視だ無視。
その後も、何度も子供の後ろ姿をみた。神官長には伝えなかったが、もう脳がバグりそうだ。
また子供の姿に気を取られた。頭から振り払おうとした時、めまいが――
顔を上げた先で、神官長の姿を一瞬見失った。
いや、向こうの茂みに神官長の後ろ姿がある。
「まって――」
追おうとした。その時、逆側にロープが引っ張られる衝撃が走った。
「?!!!」
「どうした」
体勢を崩して地面に手をついていた。顔を上げると目の前にはロープを握る神官長がいた。
さっき見えたのはその神官長と逆側だったのに。
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