【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

文字の大きさ
上 下
22 / 69
4章 孤児院と神域

22.めんどくせぇ神官長

しおりを挟む
 神官長は口に運んでいた三色丼のひと匙を下ろして、ジロッと正面から冷たい目を向けてくる。

「はっ! なにか?」
「ジロジロこっちを見ていただろう」
「いえ、なんでもありません」
「言え」
「いや、しかし」
「言え」

 やけに突っかかるというか、しつこいというか……普段ならどうでもよさそうにスルーするのに。
 この場所の影響かな。周りの食卓では子供と職員たちが騒がしく食事している。
 忌憚なく意見を言え、ということなのかも。

「はい。たいしたことではありませんが、大聖堂とは様子が違う神官長に驚いています」
「そうか?」
「執務に邁進している姿はお見かけしていましたが、ここではリラックスしていらっしゃるように見えました」
「そうだな……ここには私の部下がいないと思っているからかもしれない」

 厳密に言えば職員たちも部下だろうけど、神官長と神官たちの関係に比べれば、関係が違うだろう。
 警備隊を護衛に連れてきたくなかったのもそれがあるのかな。

「神官長は子供が好きなんですか?」
「なに?」

 神官長が眉をひそめた。さっきからソワソワしている隣の騎士が俺の足を蹴ってくる。

「ここでは笑顔が多いです。あと、視察の様子も想像していたより手厚く感じました」

 隣からの足への攻撃が加速した。
 はいはい、分かってるって。でもせっかく態度の柔らかい神官長なんだから、もっと話をしたいじゃん。

「……子供は庇護されるべき存在だ。そういう意味では優しくするし同情もする。その結果だ。ただ、好きかどうかは個人の性格や相性など総合的に判断する。子供だから好きということはない」

 め、めんどくせっ!
 え? 子供はちっちゃくてぷにぷにほっぺが愛くるしくて好き~みたいな、そういう可愛い好きはないの?
 年上が好きとか年下が好きとか、男が好きとか女が好きとか……そういう分類での好悪の感情はないってこと?

 平等の結果なのかもしれないけど、なんか『好き』が重たいな。恋愛感情ってことならわかるけど、もうちょっと軽い好きがあってもいいじゃん。
 でも、このめんどくせぇの夜の店でも聞いたな。そしてフラれたんだっけ。

「そーですか。俺は子供も女も神官長も好きですけどね。そんなに性格を知らなくても」

 隣の騎士がサラダ用のフォークを強く握りながら睨んでくるから、いい加減に口をつぐんだ。
 フォークが飛んできたらスプーンで応戦するしかないけど、さすがに子供たちの前でスプーンチャンバラは大人げない。

「……ん、そうか」

 ぽそりと神官長の言葉が聞こえた気がしたけど、顔を向けるといつもの素っ気ない顔で三色丼を口に運んでいた。
 午後は神を祀ったホールで子供たちの病魔退散の加護を与える礼拝だ。神官長の神聖魔法がホールに満ちる。
 礼拝が終わると子供たちは庭で遊び始めた。

「あっ!」

 叫び声と共に、子供たちの様子を見ている神官長の方へボールが飛んできた。
 それを俺が軽くキャッチすると、暴投した子供と目があった。
 怯えて見える表情に悪戯心が湧く。

「いっくぞー!」

 思いっきり投げる――――――フリして手から転がし、腕、肩、背中、反対の腕へと体の上でコロコロ移動させて見せると、子供の目が丸くなった。
 背中から落としてヒールキックでボールを軽く子供へ返してやると、子供の目がキラキラしながらこっちを見ていた。

 子供を見送る俺の背中で神官長の声が聞こえた。

「器用なものだな。体が柔らかいのか?」
「そ~……ですか? ガキの頃にいろんな遊びをしたもんで」

 一瞬ドキリとした。体が柔らかいってのがセクシーダンサーのお仕事を連想させないかと。
 いや、そんなはずないな! なんなら、日々鍛えて柔軟を欠かさない騎士なら、体も柔らかい者が多いだろ。

 応接室に入った神官長は、職員室から運ばせた台帳を積んで書類仕事を始めた。
 護衛の騎士も俺含む2名が室内の扉前、残りの2名が部屋の外で待機だ。

「………………」

 しかし……視線が痛い。窓から子供たちの頭がのぞきこんでいる。子供の中には、さっきボールで遊んでいた子供の姿もあった。

「あらまぁ! あっちで遊ぶように言ってきますね」

 窓の鈴なりの頭に気づき慌てた老女を神官長が制止した。

「いやいい。……クラレンス、子供と遊んできてやれ。こんな密室に何人もいたら息苦しいだけだ」
「はっ!」
「まぁそんな! 申し訳ないですわ」
「体力のある男だ。子供の相手にはちょうどいい。それに騎士団を目指す子供もいるんだ。喜ぶだろう」

 俺としては文句はない。この部屋にいて危険があるとも思えないし、ジッと立っているより子供の相手をする方が気楽だ。
 そして、神官長にちゃんと名前を呼ばれて依頼されたのも嬉しい。これは他の騎士より気にいられてるんじゃないかな~!

 他の護衛に後を頼むと、真面目な騎士からお遊びモードに切り替えて全力で子供たちと遊んだ。
 この孤児院では子供たちは優しく愛情を込めて育てられている様子だ。どの子も天使爛漫で笑顔が明るい。
 前に神官長が内偵調査をする理由を話していた。

 この子供たちが他国の奴隷として売られていってるって?
 たしかに、許せないよな~そんなこと。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

処理中です...