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4章 孤児院と神域
22.めんどくせぇ神官長
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神官長は口に運んでいた三色丼のひと匙を下ろして、ジロッと正面から冷たい目を向けてくる。
「はっ! なにか?」
「ジロジロこっちを見ていただろう」
「いえ、なんでもありません」
「言え」
「いや、しかし」
「言え」
やけに突っかかるというか、しつこいというか……普段ならどうでもよさそうにスルーするのに。
この場所の影響かな。周りの食卓では子供と職員たちが騒がしく食事している。
忌憚なく意見を言え、ということなのかも。
「はい。たいしたことではありませんが、大聖堂とは様子が違う神官長に驚いています」
「そうか?」
「執務に邁進している姿はお見かけしていましたが、ここではリラックスしていらっしゃるように見えました」
「そうだな……ここには私の部下がいないと思っているからかもしれない」
厳密に言えば職員たちも部下だろうけど、神官長と神官たちの関係に比べれば、関係が違うだろう。
警備隊を護衛に連れてきたくなかったのもそれがあるのかな。
「神官長は子供が好きなんですか?」
「なに?」
神官長が眉をひそめた。さっきからソワソワしている隣の騎士が俺の足を蹴ってくる。
「ここでは笑顔が多いです。あと、視察の様子も想像していたより手厚く感じました」
隣からの足への攻撃が加速した。
はいはい、分かってるって。でもせっかく態度の柔らかい神官長なんだから、もっと話をしたいじゃん。
「……子供は庇護されるべき存在だ。そういう意味では優しくするし同情もする。その結果だ。ただ、好きかどうかは個人の性格や相性など総合的に判断する。子供だから好きということはない」
め、めんどくせっ!
え? 子供はちっちゃくてぷにぷにほっぺが愛くるしくて好き~みたいな、そういう可愛い好きはないの?
年上が好きとか年下が好きとか、男が好きとか女が好きとか……そういう分類での好悪の感情はないってこと?
平等の結果なのかもしれないけど、なんか『好き』が重たいな。恋愛感情ってことならわかるけど、もうちょっと軽い好きがあってもいいじゃん。
でも、このめんどくせぇの夜の店でも聞いたな。そしてフラれたんだっけ。
「そーですか。俺は子供も女も神官長も好きですけどね。そんなに性格を知らなくても」
隣の騎士がサラダ用のフォークを強く握りながら睨んでくるから、いい加減に口をつぐんだ。
フォークが飛んできたらスプーンで応戦するしかないけど、さすがに子供たちの前でスプーンチャンバラは大人げない。
「……ん、そうか」
ぽそりと神官長の言葉が聞こえた気がしたけど、顔を向けるといつもの素っ気ない顔で三色丼を口に運んでいた。
午後は神を祀ったホールで子供たちの病魔退散の加護を与える礼拝だ。神官長の神聖魔法がホールに満ちる。
礼拝が終わると子供たちは庭で遊び始めた。
「あっ!」
叫び声と共に、子供たちの様子を見ている神官長の方へボールが飛んできた。
それを俺が軽くキャッチすると、暴投した子供と目があった。
怯えて見える表情に悪戯心が湧く。
「いっくぞー!」
思いっきり投げる――――――フリして手から転がし、腕、肩、背中、反対の腕へと体の上でコロコロ移動させて見せると、子供の目が丸くなった。
背中から落としてヒールキックでボールを軽く子供へ返してやると、子供の目がキラキラしながらこっちを見ていた。
子供を見送る俺の背中で神官長の声が聞こえた。
「器用なものだな。体が柔らかいのか?」
「そ~……ですか? ガキの頃にいろんな遊びをしたもんで」
一瞬ドキリとした。体が柔らかいってのがセクシーダンサーのお仕事を連想させないかと。
いや、そんなはずないな! なんなら、日々鍛えて柔軟を欠かさない騎士なら、体も柔らかい者が多いだろ。
応接室に入った神官長は、職員室から運ばせた台帳を積んで書類仕事を始めた。
護衛の騎士も俺含む2名が室内の扉前、残りの2名が部屋の外で待機だ。
「………………」
しかし……視線が痛い。窓から子供たちの頭がのぞきこんでいる。子供の中には、さっきボールで遊んでいた子供の姿もあった。
「あらまぁ! あっちで遊ぶように言ってきますね」
窓の鈴なりの頭に気づき慌てた老女を神官長が制止した。
「いやいい。……クラレンス、子供と遊んできてやれ。こんな密室に何人もいたら息苦しいだけだ」
「はっ!」
「まぁそんな! 申し訳ないですわ」
「体力のある男だ。子供の相手にはちょうどいい。それに騎士団を目指す子供もいるんだ。喜ぶだろう」
俺としては文句はない。この部屋にいて危険があるとも思えないし、ジッと立っているより子供の相手をする方が気楽だ。
そして、神官長にちゃんと名前を呼ばれて依頼されたのも嬉しい。これは他の騎士より気にいられてるんじゃないかな~!
他の護衛に後を頼むと、真面目な騎士からお遊びモードに切り替えて全力で子供たちと遊んだ。
この孤児院では子供たちは優しく愛情を込めて育てられている様子だ。どの子も天使爛漫で笑顔が明るい。
前に神官長が内偵調査をする理由を話していた。
この子供たちが他国の奴隷として売られていってるって?
たしかに、許せないよな~そんなこと。
「はっ! なにか?」
「ジロジロこっちを見ていただろう」
「いえ、なんでもありません」
「言え」
「いや、しかし」
「言え」
やけに突っかかるというか、しつこいというか……普段ならどうでもよさそうにスルーするのに。
この場所の影響かな。周りの食卓では子供と職員たちが騒がしく食事している。
忌憚なく意見を言え、ということなのかも。
「はい。たいしたことではありませんが、大聖堂とは様子が違う神官長に驚いています」
「そうか?」
「執務に邁進している姿はお見かけしていましたが、ここではリラックスしていらっしゃるように見えました」
「そうだな……ここには私の部下がいないと思っているからかもしれない」
厳密に言えば職員たちも部下だろうけど、神官長と神官たちの関係に比べれば、関係が違うだろう。
警備隊を護衛に連れてきたくなかったのもそれがあるのかな。
「神官長は子供が好きなんですか?」
「なに?」
神官長が眉をひそめた。さっきからソワソワしている隣の騎士が俺の足を蹴ってくる。
「ここでは笑顔が多いです。あと、視察の様子も想像していたより手厚く感じました」
隣からの足への攻撃が加速した。
はいはい、分かってるって。でもせっかく態度の柔らかい神官長なんだから、もっと話をしたいじゃん。
「……子供は庇護されるべき存在だ。そういう意味では優しくするし同情もする。その結果だ。ただ、好きかどうかは個人の性格や相性など総合的に判断する。子供だから好きということはない」
め、めんどくせっ!
え? 子供はちっちゃくてぷにぷにほっぺが愛くるしくて好き~みたいな、そういう可愛い好きはないの?
年上が好きとか年下が好きとか、男が好きとか女が好きとか……そういう分類での好悪の感情はないってこと?
平等の結果なのかもしれないけど、なんか『好き』が重たいな。恋愛感情ってことならわかるけど、もうちょっと軽い好きがあってもいいじゃん。
でも、このめんどくせぇの夜の店でも聞いたな。そしてフラれたんだっけ。
「そーですか。俺は子供も女も神官長も好きですけどね。そんなに性格を知らなくても」
隣の騎士がサラダ用のフォークを強く握りながら睨んでくるから、いい加減に口をつぐんだ。
フォークが飛んできたらスプーンで応戦するしかないけど、さすがに子供たちの前でスプーンチャンバラは大人げない。
「……ん、そうか」
ぽそりと神官長の言葉が聞こえた気がしたけど、顔を向けるといつもの素っ気ない顔で三色丼を口に運んでいた。
午後は神を祀ったホールで子供たちの病魔退散の加護を与える礼拝だ。神官長の神聖魔法がホールに満ちる。
礼拝が終わると子供たちは庭で遊び始めた。
「あっ!」
叫び声と共に、子供たちの様子を見ている神官長の方へボールが飛んできた。
それを俺が軽くキャッチすると、暴投した子供と目があった。
怯えて見える表情に悪戯心が湧く。
「いっくぞー!」
思いっきり投げる――――――フリして手から転がし、腕、肩、背中、反対の腕へと体の上でコロコロ移動させて見せると、子供の目が丸くなった。
背中から落としてヒールキックでボールを軽く子供へ返してやると、子供の目がキラキラしながらこっちを見ていた。
子供を見送る俺の背中で神官長の声が聞こえた。
「器用なものだな。体が柔らかいのか?」
「そ~……ですか? ガキの頃にいろんな遊びをしたもんで」
一瞬ドキリとした。体が柔らかいってのがセクシーダンサーのお仕事を連想させないかと。
いや、そんなはずないな! なんなら、日々鍛えて柔軟を欠かさない騎士なら、体も柔らかい者が多いだろ。
応接室に入った神官長は、職員室から運ばせた台帳を積んで書類仕事を始めた。
護衛の騎士も俺含む2名が室内の扉前、残りの2名が部屋の外で待機だ。
「………………」
しかし……視線が痛い。窓から子供たちの頭がのぞきこんでいる。子供の中には、さっきボールで遊んでいた子供の姿もあった。
「あらまぁ! あっちで遊ぶように言ってきますね」
窓の鈴なりの頭に気づき慌てた老女を神官長が制止した。
「いやいい。……クラレンス、子供と遊んできてやれ。こんな密室に何人もいたら息苦しいだけだ」
「はっ!」
「まぁそんな! 申し訳ないですわ」
「体力のある男だ。子供の相手にはちょうどいい。それに騎士団を目指す子供もいるんだ。喜ぶだろう」
俺としては文句はない。この部屋にいて危険があるとも思えないし、ジッと立っているより子供の相手をする方が気楽だ。
そして、神官長にちゃんと名前を呼ばれて依頼されたのも嬉しい。これは他の騎士より気にいられてるんじゃないかな~!
他の護衛に後を頼むと、真面目な騎士からお遊びモードに切り替えて全力で子供たちと遊んだ。
この孤児院では子供たちは優しく愛情を込めて育てられている様子だ。どの子も天使爛漫で笑顔が明るい。
前に神官長が内偵調査をする理由を話していた。
この子供たちが他国の奴隷として売られていってるって?
たしかに、許せないよな~そんなこと。
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