夏なので、怪談話を1つ

夜船 紡

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虫の知らせ

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私の祖父はお酒を飲みすぎて膵臓癌になり亡くなりました。
当時の私は小さくて、しっかりとはその顔を覚えていません。
けれども、棺桶に入った祖父の顔が穏やかだったのは覚えています。

私が、それを見たのは2階へと続く階段でした。
誰かが上から下へと降りて来たのです。
それを見て私は祖父だ。と何故か感じました。
前日に病院で見舞いに行ったばかりのことでしたが、元気になって訪ねに来たのだと。
祖父は、私の前を横切り、居間へと入って行きました。
私も後を追います。
居間では父が座って新聞を見ていました。
祖父の姿はありません。私は、あれ?と思い父に訊ねました。

「お父さん、おじいちゃんは?」
「何を言っているんだ、来るわけないだろ」
「え、だって、さっき会ったよ?」

父からの返答は予想もしないことで、私は頭にハテナが飛びます。
その瞬間、電話が鳴り出しました。
父が恐る恐る取ると病院からで、それは祖父の危篤を知らせるものでした。
そして、私たちが病院に到着すると同時に祖父は亡くなったのです。

今でもお盆の時期、私は祖父が階段を降りていくのが見られるのではないかと、家の階段を見つめています。
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