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2年後
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屋敷から追い出され居場所もわからないジェンヌだったが、行き交う人に道を訪ね、親切な人に巡り合い無事村へと戻ることができた。
しかし、戻って来たジェンヌに待っていたのは好奇心と偏見の目だった。
貴族の馬車に乗ったジェンヌの姿を目撃した女性がおり、ジェンヌは貴族のお手つきになったと既に噂になっていたのだ。
それから2年。
ジェンヌは今だ独り身であった。
噂をジェンヌは否定も肯定もせず、無言を貫いた。
その様子が、噂に真実味を持たせてしまい、村人達に思われ孤立する原因になった事に気付いた時にはすでに遅かった。
出会いのための祭りも、ジェンヌは参加しなかった。
祭りに参加すれば、インシュタルに見つかるかもしれない。
また、インシュタルに出会ったら、今の自分を捨ててしまうかもしれない。過去の記憶に囚われ戻れなくなるかもしれないと恐れた。
その姿に、村人達は貴族の一夜の遊びに本気になり、捨てられたのに今だ迎えに来るのを待っているのだと噂した。
そんなある日の事。
一台の馬車がジェンヌの家の前に止まり、ノックの音が鳴り響く。
外に出たジェンヌの前にいたのは、インシュタルだった。
咄嗟に閉めようとするが、その前にインシュタルに腕を掴まれる。
(見つかってしまった!)
「・・・逃げないでくれ。少し、話をさせてくれないか?」
想像していたよりも冷静な声に、ジェンヌは彼の顔をマジマジと見つめ、どうぞと家へ案内した。
「何もないけど・・・」
「構わない」
粗末な椅子に向かい合わせで座り合う。
黙り込んだままのインシュタルに、ジェンヌは目線を泳がせて落ち着かない様子で彼からの言葉を待った。
「ずっと、話したかった。でも、いざ会うと何を話していいのか、わからなくなるな」
どれぐらい沈黙があっただろうか。ようやく話し出したインシュタルはジェンヌを見つめた。
「まずは、自己紹介から始めようか。今の私の名は、二ルガル・アルマ・シュタレーンと言うんだ。君の名前は?」
「!・・・私は、ジェンヌ。ただの、ジェンヌよ」
「そうか、ジェンヌ。ジェンヌと言うんだね」
「そうよ」
ただ、名前を聞かれただけなのに、ジェンヌの胸の内は喜びで溢れた。
ジェンヌの瞳から涙がこぼれそうになるのを彼女は必死で堪え、インシュタルーーー二ルガルの言葉を聞く。
「君の手紙で気がついたよ。私は、あの時のまま抜け出せずにいたことに・・・」
「ええ」
「今、私は貴族であることを辞めた」
「!」
「勘違いしないでくれ。君が原因じゃない。ただ、あまりに過去に囚われすぎて、父親であった男にも、母親であった女にも、全く情がわかなかったんだ」
「そんな・・・」
「両親が、前世の君の両親のような家庭だった。ただ、跡取りとして望まれ、歯車のような自分自身に嫌気がさして家を飛び出した。
身分を隠し、たまたま出会った商人に雇われ、雇用される側になり、様々な人と触れ合っていくうちに自身の視野の狭さに驚いたよ。
それから、職業上、女性と出会う機会や雇用主から紹介され、女性と触れ合う機会もあった。けれど・・・」
二ルガルは話の途中で席を立ち、ジェンヌへと近づき、跪くと真剣な表情で告げる。
「けれど、君以上に心が動く人に出会うことはなかった。今の君と向き合い、共に暮らしたい」
「イン・・・いいえ、二ルガル様」
「今の私は、貴族ではない。貴族と平民の枠もない。平民の商人として、生きていく」
「あ・・・。わ、私には、貴方がそう言っても信じることなどできない!過去の私を追い求めるのではないかと疑ってしまうの!」
「ならば、猶予をくれ。私がここに来ることを、どうか、拒まないで」
「では、友人としてならば」
「ありがとう」
二ルガルの告白に、ジェンヌは妥協する。
今はそれでいいと、二ルガルも頷き、用事は済んだからと出て行った。
ジェンヌはその後を目線で追いながら、自身の胸が高鳴るのを止めることができなかった。
しかし、戻って来たジェンヌに待っていたのは好奇心と偏見の目だった。
貴族の馬車に乗ったジェンヌの姿を目撃した女性がおり、ジェンヌは貴族のお手つきになったと既に噂になっていたのだ。
それから2年。
ジェンヌは今だ独り身であった。
噂をジェンヌは否定も肯定もせず、無言を貫いた。
その様子が、噂に真実味を持たせてしまい、村人達に思われ孤立する原因になった事に気付いた時にはすでに遅かった。
出会いのための祭りも、ジェンヌは参加しなかった。
祭りに参加すれば、インシュタルに見つかるかもしれない。
また、インシュタルに出会ったら、今の自分を捨ててしまうかもしれない。過去の記憶に囚われ戻れなくなるかもしれないと恐れた。
その姿に、村人達は貴族の一夜の遊びに本気になり、捨てられたのに今だ迎えに来るのを待っているのだと噂した。
そんなある日の事。
一台の馬車がジェンヌの家の前に止まり、ノックの音が鳴り響く。
外に出たジェンヌの前にいたのは、インシュタルだった。
咄嗟に閉めようとするが、その前にインシュタルに腕を掴まれる。
(見つかってしまった!)
「・・・逃げないでくれ。少し、話をさせてくれないか?」
想像していたよりも冷静な声に、ジェンヌは彼の顔をマジマジと見つめ、どうぞと家へ案内した。
「何もないけど・・・」
「構わない」
粗末な椅子に向かい合わせで座り合う。
黙り込んだままのインシュタルに、ジェンヌは目線を泳がせて落ち着かない様子で彼からの言葉を待った。
「ずっと、話したかった。でも、いざ会うと何を話していいのか、わからなくなるな」
どれぐらい沈黙があっただろうか。ようやく話し出したインシュタルはジェンヌを見つめた。
「まずは、自己紹介から始めようか。今の私の名は、二ルガル・アルマ・シュタレーンと言うんだ。君の名前は?」
「!・・・私は、ジェンヌ。ただの、ジェンヌよ」
「そうか、ジェンヌ。ジェンヌと言うんだね」
「そうよ」
ただ、名前を聞かれただけなのに、ジェンヌの胸の内は喜びで溢れた。
ジェンヌの瞳から涙がこぼれそうになるのを彼女は必死で堪え、インシュタルーーー二ルガルの言葉を聞く。
「君の手紙で気がついたよ。私は、あの時のまま抜け出せずにいたことに・・・」
「ええ」
「今、私は貴族であることを辞めた」
「!」
「勘違いしないでくれ。君が原因じゃない。ただ、あまりに過去に囚われすぎて、父親であった男にも、母親であった女にも、全く情がわかなかったんだ」
「そんな・・・」
「両親が、前世の君の両親のような家庭だった。ただ、跡取りとして望まれ、歯車のような自分自身に嫌気がさして家を飛び出した。
身分を隠し、たまたま出会った商人に雇われ、雇用される側になり、様々な人と触れ合っていくうちに自身の視野の狭さに驚いたよ。
それから、職業上、女性と出会う機会や雇用主から紹介され、女性と触れ合う機会もあった。けれど・・・」
二ルガルは話の途中で席を立ち、ジェンヌへと近づき、跪くと真剣な表情で告げる。
「けれど、君以上に心が動く人に出会うことはなかった。今の君と向き合い、共に暮らしたい」
「イン・・・いいえ、二ルガル様」
「今の私は、貴族ではない。貴族と平民の枠もない。平民の商人として、生きていく」
「あ・・・。わ、私には、貴方がそう言っても信じることなどできない!過去の私を追い求めるのではないかと疑ってしまうの!」
「ならば、猶予をくれ。私がここに来ることを、どうか、拒まないで」
「では、友人としてならば」
「ありがとう」
二ルガルの告白に、ジェンヌは妥協する。
今はそれでいいと、二ルガルも頷き、用事は済んだからと出て行った。
ジェンヌはその後を目線で追いながら、自身の胸が高鳴るのを止めることができなかった。
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