9 / 14
今と過去
しおりを挟む
ジェンヌの腕を掴み、まるで逃さないというようにインシュタルは彼女を抱きしめた。
インシュタルの行動に、ジェンヌは戸惑い、跳ね除けようとするがそれは叶わなかった。
「公爵が幽閉され、君の棺が土に埋れていくのを見て本当に後悔した。だから・・・」
「インシュタル様・・・?」
インシュタルの声が震える。
抱きしめられる腕に力が入り、徐々に締め付けられるように感じ、ジェンヌは痛みに眉を歪ましインシュタルに訴える。
「い、たい。痛いです、インシュタル様・・・」
「ああ、すまない」
腕の束縛が弱まったことにホッとしながらジェンヌはインシュタルを見つめた。
その視線に気付きながら、インシュタルは自虐的に笑いながら、続きを告げる。
「自らの命を絶った」
「!そんな・・・」
「そして、気付けば此処にいたよ。記憶が戻ったのは7歳の時だったかな?
思い出して絶望して、何度も命を断とうとする私に両親はもちろん、使用人達も離れていった。
そして、何度目かの失敗の時にふと思ったんだ。
もしかしたら、君もこの世界にいるかもしれないと」
それで、この部屋を作らせたんだ。いつか君に会えたときのためにねと告げるインシュタルに、ジェンヌは震えた。
(それ程に想われていたなんて)
しかし、ジェンヌにはひとつ疑問がわいた。
露店のハンカチは彼が仕組んだものだったのだろうか?
「あのハンカチは・・・貴方が仕掛けたものだったんですか?」
「ハンカチ?ああ、初めて君がくれた贈り物だったよね。あれは偶然だよ」
「偶然・・・?」
「ああ。今の私の身分はね、辺境伯の跡取り息子なんだ。この街には見回りに来ていたんだよ」
(覚えててくださっていたんだ)
色がすっかり変わったハンカチを取り出して、インシュタルは『少女』の刺繍をなぞり、懐かしげに微笑んだ。
「私が好きだった花を入れてくれたよね。もうすっかり色褪せてしまっているけれど」
「それだけの年月が経ったということでしょう。私も、前の『私』ではありません。どうか、家に返してください」
「嫌だ!君は『彼女』だ。もう離したくない。離して、また、喪いたくないんだ・・・」
「インシュタル様・・・。私には、今は家族がいます。以前とは違い、両親にも愛されているのです!帰らねば、心配させてしまう・・・。どうか、お願いです。帰させて」
「・・・嫌だ。君はあの時、簡単に婚約を解消してしまった。帰せば、もう私の元には来てくれないだろう?」
「それは・・・」
口籠もり、顔を背けるジェンヌに、インシュタルは「だから、君を帰すわけにはいかない」と告げた。
そして、身体を離すと少し考えて「手紙ならば届けよう」と言うと部屋から出ていき、ガチャリと鍵が閉まる音が聞こえジェンヌは部屋に残された。
1人になったジェンヌは自らを抱きしめながらポロリと涙をこぼした。
インシュタルの行動に、ジェンヌは戸惑い、跳ね除けようとするがそれは叶わなかった。
「公爵が幽閉され、君の棺が土に埋れていくのを見て本当に後悔した。だから・・・」
「インシュタル様・・・?」
インシュタルの声が震える。
抱きしめられる腕に力が入り、徐々に締め付けられるように感じ、ジェンヌは痛みに眉を歪ましインシュタルに訴える。
「い、たい。痛いです、インシュタル様・・・」
「ああ、すまない」
腕の束縛が弱まったことにホッとしながらジェンヌはインシュタルを見つめた。
その視線に気付きながら、インシュタルは自虐的に笑いながら、続きを告げる。
「自らの命を絶った」
「!そんな・・・」
「そして、気付けば此処にいたよ。記憶が戻ったのは7歳の時だったかな?
思い出して絶望して、何度も命を断とうとする私に両親はもちろん、使用人達も離れていった。
そして、何度目かの失敗の時にふと思ったんだ。
もしかしたら、君もこの世界にいるかもしれないと」
それで、この部屋を作らせたんだ。いつか君に会えたときのためにねと告げるインシュタルに、ジェンヌは震えた。
(それ程に想われていたなんて)
しかし、ジェンヌにはひとつ疑問がわいた。
露店のハンカチは彼が仕組んだものだったのだろうか?
「あのハンカチは・・・貴方が仕掛けたものだったんですか?」
「ハンカチ?ああ、初めて君がくれた贈り物だったよね。あれは偶然だよ」
「偶然・・・?」
「ああ。今の私の身分はね、辺境伯の跡取り息子なんだ。この街には見回りに来ていたんだよ」
(覚えててくださっていたんだ)
色がすっかり変わったハンカチを取り出して、インシュタルは『少女』の刺繍をなぞり、懐かしげに微笑んだ。
「私が好きだった花を入れてくれたよね。もうすっかり色褪せてしまっているけれど」
「それだけの年月が経ったということでしょう。私も、前の『私』ではありません。どうか、家に返してください」
「嫌だ!君は『彼女』だ。もう離したくない。離して、また、喪いたくないんだ・・・」
「インシュタル様・・・。私には、今は家族がいます。以前とは違い、両親にも愛されているのです!帰らねば、心配させてしまう・・・。どうか、お願いです。帰させて」
「・・・嫌だ。君はあの時、簡単に婚約を解消してしまった。帰せば、もう私の元には来てくれないだろう?」
「それは・・・」
口籠もり、顔を背けるジェンヌに、インシュタルは「だから、君を帰すわけにはいかない」と告げた。
そして、身体を離すと少し考えて「手紙ならば届けよう」と言うと部屋から出ていき、ガチャリと鍵が閉まる音が聞こえジェンヌは部屋に残された。
1人になったジェンヌは自らを抱きしめながらポロリと涙をこぼした。
38
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる