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朝食

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あの後、再び青年が入ってきてジェンヌの真向かいへと座った。
そして、侍女に目をやると部屋の中に2人前の食事が運ばれてくる。
青年はそれを当たり前の様に食べ始めた。
青年と食事を交互に見て、ジェンヌは食べるべきか悩む。
湯気の立つスープや白いふわりとしたパン、新鮮なサラダ。それは少女時代、毎朝食べていたメニューそのままだった。

「どうしたの?食べないの?」
「・・・あの、家に帰してください」
「食べないなら、下げるよ?」
「お願い、両親が心配してると思うの」

その言葉に青年はピタリと動かしていた手をとめる。
そしてジェンヌをじっと見つめ、ひとつため息をつくと、少し考えた素振りを見せて、口を開いた。

「食べたら、考えてあげるよ」
「本当ね?」
「ああ」

青年と初めて言葉が通じた瞬間に、ジェンヌはほっとした。
そして、ゆっくりと朝食をとり始めた。

(懐かしい味・・・)

今のジェンヌからすればご馳走で、普通の平民であればがっついてしまう様なものだったが、部屋の雰囲気と元婚約者によく似た青年を前にしてジェンヌの心は少女時代に戻っていた。
完璧なマナーで食べるジェンヌを青年は見つめていた事に彼女は気づかない。
全て食べ終えるとジェンヌは青年を見て驚いた。
青年が泣いていたからだ。

「な、ど、どうしました?」
「やっと、やっと会えた」
「え?」
「インシュタルだよ。私は。君の婚約者のインシュタル」
「インシュタル王子・・・?」
「そう、君が亡くなって、私は本当の気持ちに気づいたんだ」

実は青年ーインシュタルはジェンヌが目覚めてからずっと彼女を観察していたのだ。
本当に『彼女』なのかと。
人というのは身についた習慣が無自覚に出てきてしまうものだ。
ジェンヌの様な平民が、侍女に世話をされるのを慣れているはずがない。むしろ戸惑い自分でしようとするはずだ。
食事もわかりやすいものだ。
食べる順番と言うのは案外個性が出る。
インシュタルはそうやって、ジェンヌが本当に自分が追ってきた『少女』であると確信したのだ。
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