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自白剤

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青年は街を抜け、森の影に隠れた馬車にジェンヌを放り込み自身も乗り込むと運転席にいた御者に車を走らせるよう命じた。
突然の出来事に驚き、逃げ出す事も出来なかったジェンヌはようやく事態を把握し怯えた表情で青年を見た。
青年は冷たい目でジェンヌを見つめ、問いかける。

「何故、お前はこのハンカチを買おうとしていた」
(ハンカチ?)
「答えろ!」
「な、懐かしかったのです」
「懐かしい?」
「は、はい」

前世での婚約者であるインシュタルによく似た男性。
わからない事があると、この様に詰め寄る所もどこかよく似ていた。
昔を思い出すと、ジェンヌはスルリと本当の事が口から出てしまった。
その言葉を聞き、青年は少し黙り込む。
そして、胸元から丸い玉を取り出すとジェンヌに飲む様に命じた。

「なんですか?これは・・・」
「いいから飲め!」

飲まなければ無理やり飲み込ませると脅す青年にジェンヌは仕方なくその玉を飲み込んだ。
しっかりと飲み込んだのを確認して、青年は頷くとジェンヌに更に問いかける。

「懐かしいとはどういう事だ?」
「それは私が作った初めて刺繍して王子に渡した物なの」

少し幼くなったような口調と、視点の合わない瞳。
ジェンヌが飲まされたのは自白剤であった。
効果は高いが持続性が低く、中毒性も低いと貴族の間では最近評判の薬。
そんなこととは知らず、ジェンヌは次々と質問に答えを返していく。

「インシュタル様と言ったな。どんな関係だ」
「前世での元婚約者」
「何故死んだんだ」
「婚約の解消でお父様の手で・・・」
「やっと見つけた。本当に、君なんだね」
「?」
「そうだ、婚約者をどう思っていたんだ?」
「それは・・・」

青年は前世を否定することなく、ただひたすら質問を繰り返す。
しかし、最後の質問をしたところで馬車が止まった。
青年の家についたのだ。

控えめなノックの音。
青年は目を閉じ、ここまでかと呟くと未だ薬が効いて動けなかなったジェンヌを横抱きに抱きしめると馬車から出る。

「おかえりなさいませ」

複数の使用人が自身の主人に抱かれているジェンヌへと目線がいく。
平民が来ている麻の服に、ろくに手入れのされていない手足、髪。
そんな人物を何故大事そうに主人は抱えているのだろう?

「客間を準備してくれ」
「はい。かしこまりました」
「それと、彼女は私の運命の女性だ」
「それはどういう・・・?」
「彼女に対し、無礼を働くことは私を敵に回すことだと思え!」

キッパリとその場にいた全員が聞こえる声で宣言する青年に、使用人たちはこの少女が何者なのか、気になりながらも主人の言葉に首を下げた。
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