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本編

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お茶会以降、マリア様とクラウス様が仲良くなりお2人とも交流を深めておられる。
それにより私のお菓子の腕前も随分上がったように思う。
そんなある日、ドルマン様に再び呼び出しを受けた。

ため息を抑え、絞りだすようにドルマン様が鋭い眼差しで私を見る。
「どうして呼ばれたか、わかっているね」
確信めいたように告げられ、
「マリア様とクラウス様の事でしょうか?お2人が仲良くなることはそれほどいけないことのようには思いませんが・・・?」
「そこだよ。今までお2人は、食事の時ですら会話を交わしたとはあまりなかった」
上級貴族って家族間の会話しないの?
「あるのは、用事のある時だけそんなお2人が最近は楽し気に交流をしている・・・」
私の家では多少の会話はあったわよ?
いい天気ねとか、お洗濯が良く乾くわみたいな。あれ、これも事務的な話しかしてない?
「それがどれほど稀有なことか、君にはわからないようだね」
鋭い眼差しは影を潜め、苦笑いに代わる。
「侯爵家の跡を継ぐのはクラウス様だ。マリア様は所詮スペアに過ぎない・・・。そして、何事も無ければ侯爵家の為に嫁がなくてはならない存在だ。それは君もよく知っているだろう」
「ですが、ドルマン様。お2人の仲が良いことがそれにより悪くはなりませんわ。それどころか、家族の為になるのならと、喜んで嫁がれえることになるでしょう」
「確かにその通りだ。だからこそ、君に聞きたい。・・・・跡取りたるクラウス様に近づく理由を」
「は・・・・?」
「一部の使用人たちから君がクラウス様を誘惑し、侯爵家の一員になろうとしているのではないかと懸念しているのだよ」
「私が・・・クラウス様を、ですか?」
「そう、その為にマリア様を利用していると」
「えーと、つまり、私がマリア様と親しくしているのは、クラウス様に近づくためだと?」
「そうだ」
「ドルマン様」
「なんだ」
「私、そんな魅力のある娘でしょうか?」
鳩が豆鉄砲を食らったようなお顔される。
「だって、私の顔なんてどこにでもあるような、平凡極まりない顔ですよ?」
そう、私の顔はごくごく平凡なありふれた顔なのだ。
マリア様のような、傾国のような美女ではない。
また、クラウス様の周りにいる使用人は顔が整ったものばかり。
そんな中にこんな平々凡々がいても、物珍しさはあるだろうが、誘惑なんてされるわけがない。
そう説明するとドルマン様は背中を震わせて笑うのを耐えておられた。
「いっそのこと、大笑いしてくださいよ」
「くくく・・・ははははっ!!!」
そういった途端、皴のある顔をさらにクシャっとさせて笑われた。
しばらくして、落ち着かれたのか、目尻を拭きながら
「いや、すまない。そんな声が出ているというだけだ。そ、それに君は君で十分可愛らしいよ」
くくくっと上品に笑いながら言われる。
「では、何のために君はマリア様にクラウス様とお茶会をするよう言ったんだい?」
「あれは、クラウス様がマリア様に近づいて私が何を企んでいると言われたので、マリア様を慕っているのだなぁと思い、交流を進めただけですわ」
「ふむ。では他意はないと?」
「はい。ただ、思うことがありますの」
「ほう?なんだ?言ってみなさい」
「交流会後より、マリア様はもちろん、クラウス様も講義に対して真剣になられているとか」
「それは私も聞き存じている」
「であれば、もっと、お2人が自然に一緒にいる時間を増やしてはどうかと」
「例えば?」
「ダンスレッスンやマナー講義の際、お2人とも別々に受けておられますが、一緒に受けるのはいかがでしょうか?」
「ふむ・・・その意図は?」
「お2人の向上心をあおる為ですわ。マリア様は姉としてクラウス様に良いところを見せようとなさいますし、クラウス様はマリア様に追いつこうと努力なさるはずですわ」
「・・・・考えておこう」
「それと・・・差し出がましいですが」
「なんだ」
「ご当主様や、お方様に・・・お2人の頑張りを褒めていただければと思います」
「・・・・たかが、見習いが言う事ではないな」
それまで普通に話しを聞いてくださっていたドルマン様の表情が再び鋭くなり「調子に乗るな」と水を差されたような気になり、顔を下げ、謝罪する。
「はい・・・・申し訳ありません」
「しかし、君の言っている事は一理ある。私からご当主様にご相談しておく」
「は、はい」
「それと」
「?」
「君はマークを巻き込んでお菓子を作っているようだな」
「え、ええ」
「お方様が気にしておられた。今度、お方様にも提供するように」
マーク様は、侯爵家の台所を預かる調理人の料理長を務める方だ。
以前一度、お菓子を作らせてもらった際見せた調理法が気に入り、それからは私が台所に入ると私の調理法を張り付いてみてくる研究熱心な方だ。
「かしこまりました」
「では、さがりたまえ」

今回も、首ではなかった。
提案も考えて下さると言ってくれた。
ドルマン様は本当にマリア様やクラウス様、そしてこの侯爵家の事を考えておられるのだろう。
お方様にお菓子を提供か・・・明日、マーク様に相談してみよう。
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