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本編

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「エルゼはどこ?」
広く整えられた庭でのティータイムはわたくしにとって癒しの時間。
傍仕えのアヌーレにエルゼの事を聞く。
「そ、それがまだ戻っておりません・・・」

エルゼ・・・私よりも4つ年上の侍女見習い。
最初はただ、それだけだった。
いつからだろう、彼女の言動に私が癒されるようになったのは。



私は今よりも幼い頃から使用人に囲まれてはいるけれど、誰も彼も私に寄り添うことはなかった。
なんとも言えない寂しさがあり、お母様やお父様の側に寄りたくても、お二人ともお忙しいと、私の声はかき消されてしまう。
悲しくて、悔しくて。
どうして、私を見てくれないの?
ねぇ、お父様、私とお話ししてください。
ねぇ、お母様、私に微笑んでください。
そう願うのに、現実は残酷なものでお二人は私など存在しないかのよう。
そんな時はついつい抵抗できない使用人に当たり散らす毎日。


それが、変わったのは、彼女が見習いとして入ってきてからの事。
家庭教師に褒められ、お母様に報告をしようとしたけれどーーーあわよくば褒めてもらいたかったーーーお会いできなかった。
いつもの事ではあったけれど、納得できずいつものように傍仕えを苛めようと思っている時にエルゼが話しかけてきたのだ。
その前からよく話しかけては講義の内容を尋ねたりしていたけれど、その日は私を褒めたの。
「マリア様、今日は家庭教師のミランジュ様からお褒めの言葉を頂いたとか。さすがでございますね。ぜひ、私にも見せてはいただけないでしょうか?」
本来なら立場が上のものに自分から話しかけるなんて不敬。でも、ふんわりとほほ笑む彼女を見て、私は怒鳴り散らすことができなかった。
ううん、それどころか嬉しくなった。
頑張りを認めてくれる人ができたの?と。
私に興味を持ってくれる方がいるの?と。

「仕方ありませんわね!」
照れ隠しで悪態をつきつつ、してさしあげると、
「素晴らしいですわ!マリア様の御年でこのように美しい作法をされる方はきっと他にいませんわね」
と、本当に凄い凄いと褒めれくれる。
使用人が生意気なと、普通は思うのだろうけれど私には褒められた経験が家庭教師以外なく、なんの目的もなく褒めらる。そんなくすぐったい感覚は初めてだった。

その時、思いましたの。
彼女なら、私を見てくれるのではないかと。


そんな日々が続き、私にとってエルゼは私の理解者となった。
そしてある日、
「そうですわ」と、彼女は持っていた小さな籠の中から小さなお菓子を取り出した。「そうですわ。マリア様、いつも、楽しいお話ありがとうございます。私に出来る唯一のお礼なのですが受け取っていただけますか?」
見たこともない、白く素朴なもの。
それが食べ物なの?と思いながらも
「これを私に?」
「はい。私が作ったのですが、厨房の使用人にも食べていただいたので味は大丈夫と思います」
わざわざ私のためにと思うと嬉しくなって手を伸ばした。
「そ、そこまでいうなら食べてあげますわ!」

ぱくりっ

「~~っ!」
美味しかった。今まで食べた中で一番美味しいお菓子だと感じた。
―――実際、そのお菓子は今まで出されていたものとは段違いのお菓子だった。甘いだけの糖菓とは比べ物にならないくらいフワフワとした食感と控えめな甘さがマッチしていた。
まるで、エルゼみたいだ。
優しく、甘く私を包み込む・・・
蒸しぱんとエルゼは名付けたそれは私の好物となった。



それからも、エルゼは私がすること、なすことを褒めてくれた。
時には、それはいけませんっとか叱られることもあった。
その時は使用人の分際でっ!と怒鳴ったけれど、それでもエルゼは私から離れることなく一緒にいてくれた。


「マリア様っー!」
重たそうに籠を持ちながら近づいてくるエリゼをみてほほ笑む。
「もう、遅いわよ。私の侍女なら私を待たせないで」
「申し訳ありません。でも、お待たせした分、今日のお菓子は自信作ですよっ!!」
「ふ、ふぅーん。私を満足させるものじゃなかったらお仕置きですわよ」
そう言いながらも、エルゼのお菓子がまずかったことなんて一度もない。
そして、私はエルゼのお菓子を頂きながら、今日あったことを報告する。
え、傍仕えなのだから知っているのではって?
ふふ・・・褒めてもらうために午後の時間は自由にさせているの。
そしたらね、すっごく褒めてくれるのよ。
凄いですねって、頑張りましたねって。
彼女にそう言われると嬉しくて、照れくさくて。
顔をそむけてしまうの。でも、こそっと見るといつものようにエルゼはほほ笑んでくれている。
それが何よりも嬉しくて、今日も私はティータイムを楽しむのです。
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