【完結】悪役令嬢になんてさせません。

夜船 紡

文字の大きさ
上 下
3 / 29
本編

2

しおりを挟む
これから仕える主―――マリア様に挨拶をしたら前世を思い出しましたってどんなギャグよ。
私は30代前半の喪女、俗にいうモテない女だった。そんな私にトキメキを与えてくれたサブカルキャー、それが『華は可憐に咲き誇る』だった。
物語はよくある中世ヨーロッパ風のファンタジー物で、主人公は伯爵令嬢ながら心優しく、偶然と運命に導かれ、国の皇太子と結婚する。まあ、玉の輿ストーリーだ。
マリア様は、ありがちな展開だけれども、主人公と皇太子の仲を裂こうとする悪役令嬢として描かれていたお方だ。
このままだとマリア様は婚約を破棄され、自暴自棄になって主人公を襲い皇太子に殺される。
アリーヌ様に確認したら、まだ婚約はなさっていないようだけれど・・・


しかし、ど、どうしよう。このままだと私も巻き添え食らうんじゃ?今からでも別のところに奉公に出るべき?
でも、公爵家のご令嬢は悪役令嬢として死ぬので別のところで働きたいです。なんて、実家も公爵家も許してくれるわけないし・・・
はぁ。転生しても運がないのかなぁ。


そんな風に悩みながら働いて1ヶ月が経ちました。
よく観察していると、マリア様は癇癪持ちですが、いつもご両親を目で追っておられます。それに、マリア様って、習い事とかはサボったりしないんだなぁって。
癇癪持ちで我儘っていえば、習い事サボったりって当たり前のように起きると思ってたんだけど、全然ない。それにこの間のことだけれど・・・こんなことがあった。

あれは、アリーヌ様に言われてお茶の準備を片付けてお部屋に戻る最中のこと、
「お母様、お父様っ!お戻りになられましたのね」
廊下の角で姿は見えないが、マリア様の弾んだ声がした。
珍しい。お昼頃にご当主様とお方様がお戻りになられるなんて・・・
そろっと見てみると、マリア様がお方様に嬉しそうな笑顔で声をかけておられた。
「マリア。くだらないお喋りなら遠慮してくださる?」
「すまないが、まだ書斎ですることがあるんだ」
そう言うとご当主様とお方様はあーではない、こーではないと話をしながら、マリア様を放って歩いていく。
そんな2人の背中にマリア様は美しいお顔を強張らせ、「申し訳ありません・・・」と小さな声で呟いていた。必死で泣きたいのを堪えておられるのだろう、両手は震えながらスカートをギュッとつまんで・・・
そんなマリア様の姿に気づくことなくお二人は書斎へと入っていった。
その後のマリア様はあれがしたいと言ったかと思えば、そんなこと言ってないと言われ、お茶の準備をしていると遅いっと怒鳴り・・・荒れておられた。
そして、誰も入ってくるなっ!と部屋に籠られる瞬間、マリア様がお一人で泣いておられたのを、私は確かにこの目で見た。


そんなことが数度あり、ようやく私は気づいたの。マリア様は、ご両親に声をかけようとしたり、何かしらアクションをおこそうとしても無視されるときにしか我儘も癇癪もなされないことに。
これって、精神的ネグレクトを受けておられるってことじゃない?
ご当主様も、お方様もマリア様に話しかけたりすることが全くないのです。
お二人とも悪いお方ではないのですが・・・
ご当主様はいつもお城で政を―――小説とかでよくある立場を利用して悪いことをしているわけではない―――、お方様もそんなご当主様を支えようと、情報収集に励んでおられるがために子どもにまでは手につかないご様子。
そりゃ、お屋敷にはたくさんの使用人もいるし、家庭教師もいる。それに、お金も自由に使っていいからほしいものは何でも手に入る。
別に自分が見守る必要もないのだろうけど・・・
でも、マリア様が求めておられたのはご両親の関心・・・いや、愛情だ。
だから、どんなに物欲を満たしてもどれほど我儘を言ってもマリア様の心は満たされていない。
だって、ご両親からの関心は向けられないから。本当に欲しい愛情は手に入らないんだもの。

現年齢12歳、精神年齢30台・・・そんな私は、健気なマリア様にキュンキュンと胸が高鳴るようになりました。
あの悲しげな顔を笑顔にしたい。
使用人に出来ることなんて少ないかもしれないけれど、出来る限りの事はしよう。


私、決めたわ。
マリア様をお守りするって。
まずは、褒めることからはじめましょう。
昔からテレビで育児は褒めることが重要だって言ってたはず。

後は・・・ご褒美もいるかな?
昔作った蒸しケーキとかどうかしら。
こっちの世界のお菓子って甘いだけの砂糖菓子しかないから受けそうだけど・・・
厨房に材料とか借りれないか尋ねてみよう。
うーん、やることがたくさん増えました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...