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ん・・・まだ少し薄暗い部屋は、いつもの自分の部屋ではない場所だと嫌でもわかった。夢じゃなかったのかと少し残念に思いながらベッドから降り、カーテンをめくる。
ほんのりと空の色が変わり始めていた。
ヴィーグさんは、いずれ戻れると言ったけれど、それがいつなのかはわからない。
世界が私という存在を認識した時に戻れるのだという。
それはどういうことなんだろうか・・・?
思考の海に潜り込もうとした時だった。
コンコンと控えめなノック音が扉の向こうから聞こえた。
「リーナさん?起きていらっしゃいますか?」
「はい、起きてます」
「私、トルテと申します。ヴィーグ様に頼まれて貴女を教育しに参りました」
「は、はい。今、扉を開けます」
トルテさんは背筋がシャキッとしていて清潔感のある女性だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「これが、貴女の着る制服です。着方はわかりますか?」
「は、はい」
「では、着てみてください」
じっと見つめられながら着るのは緊張するなぁ。
えーと、ここがああで、そこがこうで・・・
「・・・・参考までにいっておきますが、使用人からの貴女の評価はあまり良くありません。ここの使用人達は皆、厳しい試験を受けたり、名家の方々の紹介状があって初めて採用されています。フェルデ様が拾い、ヴィーグ様のご意見故に採用された貴女は、これから厳しい目を浴びることになるでしょう」
おそらく、返事は求めていない。ただの警告であり、注意喚起だ。もたもたとエプロンをつけていたら、「こうですよ」と手だけは優しく動かしてくれる。
「ましてや、お付きの使用人を学園に連れて行ったことなんてないのに、貴女だけ特別に連れていくと聞きました。余計に皆の悋気を煽ることになります」
「・・・はい」
「はい。出来ましたよ」
「ありがとうございました。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。私は貴女の教育係ですから」
私と向き合い、トルテさんは言う。
「だからこそ、誰の目から見ても完璧にこなせる様にならなければなりません。お励みなさい」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずは使用人達の食堂へ案内しましょう」
トルテさんはああやって言うことで私自身に気をつけるように教えてくれたのだろう。
自分にできる範囲内で、こうやっていってくれる人は貴重だ。やっぱり、この人は前世の時に接していた時と同じように優しい人だ。
彼女の後ろをついて歩いている間も、確かに厳しい目線を感じた。
でも、彼女達からしたら、私はぽっと出の素人が運良くここに来てしかも、フェルデという自分達が仕える人の近くに採用される。確かに、トルテさんのいった通り、自分が逆の立場でも嫌だろう。
とりあえず、何かされたりしないように自衛には気をつけておこう。
「ここが使用人の食堂です」
食堂は厨房が見えるカウンター式。お盆に乗ったご飯を受け取ったら空いてる座席に座って食べる。
パンはおかわりができるようにカウンター隣に少し積まれて置かれていた。
「美味しい・・・」
朝食だからだろう、パンとスープのみのお盆を手に取る。
少し硬いが、小麦の甘味がしっかりと出ているパン。ほんのりと暖かく野菜の旨味がたっぷりのスープには、牛脂が浮いており、これもまた旨味を出しているようだ。
昨日はタイムスリップした事と、これからのことを考えていた所為かお腹が空いていなかったが、ひと口食べると身体は飢えていたのを思い出したかのように急激に空腹を訴えてきた。
「手の空いた者から食事は順番に取ります。そして終わったらすぐに勤務に戻るように」
「はい」
手は止めず、食べながら返事をする。
食べ終わったお盆はお返し棚に置けば、厨房見習が下げてくれる仕組みだ。
「美味しかったです、ご馳走様」
丁度下げに来た見習にそういうと、「っす」と顔を下げて行ってしまった。
腹ごしらえが済んだら、いよいよ使用人のお仕事を覚えなくてはいけない。
・・・メモ帳が欲しいかもしれない。
その頃、リーナが食事に夢中の間、他の若い女性の使用人達は彼女をじっと見てコソコソと話をしていた。
「なんであんな子が・・・」
「馬鹿っぽい子よねー。私達の方が優秀そう」
「フェルデ様やヴィーグ様に色仕掛けでとりいったのかな?」
「えー?あんな身体でぇ?泣き落としじゃないかしらー?」
「どうでもいいわよ。それよりも、あんな子が私達を差し置いてお付きになるなんて本当にあり得ない。どうにかしてその座を奪えないかしら?」
「あの子に辞退するよう言えばいいんじゃない?」
「それよりも・・・・」
ひそひそ話は内緒話に変わり、皆、にやりと笑い、またリーナを見つめるのだった。
ほんのりと空の色が変わり始めていた。
ヴィーグさんは、いずれ戻れると言ったけれど、それがいつなのかはわからない。
世界が私という存在を認識した時に戻れるのだという。
それはどういうことなんだろうか・・・?
思考の海に潜り込もうとした時だった。
コンコンと控えめなノック音が扉の向こうから聞こえた。
「リーナさん?起きていらっしゃいますか?」
「はい、起きてます」
「私、トルテと申します。ヴィーグ様に頼まれて貴女を教育しに参りました」
「は、はい。今、扉を開けます」
トルテさんは背筋がシャキッとしていて清潔感のある女性だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「これが、貴女の着る制服です。着方はわかりますか?」
「は、はい」
「では、着てみてください」
じっと見つめられながら着るのは緊張するなぁ。
えーと、ここがああで、そこがこうで・・・
「・・・・参考までにいっておきますが、使用人からの貴女の評価はあまり良くありません。ここの使用人達は皆、厳しい試験を受けたり、名家の方々の紹介状があって初めて採用されています。フェルデ様が拾い、ヴィーグ様のご意見故に採用された貴女は、これから厳しい目を浴びることになるでしょう」
おそらく、返事は求めていない。ただの警告であり、注意喚起だ。もたもたとエプロンをつけていたら、「こうですよ」と手だけは優しく動かしてくれる。
「ましてや、お付きの使用人を学園に連れて行ったことなんてないのに、貴女だけ特別に連れていくと聞きました。余計に皆の悋気を煽ることになります」
「・・・はい」
「はい。出来ましたよ」
「ありがとうございました。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。私は貴女の教育係ですから」
私と向き合い、トルテさんは言う。
「だからこそ、誰の目から見ても完璧にこなせる様にならなければなりません。お励みなさい」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずは使用人達の食堂へ案内しましょう」
トルテさんはああやって言うことで私自身に気をつけるように教えてくれたのだろう。
自分にできる範囲内で、こうやっていってくれる人は貴重だ。やっぱり、この人は前世の時に接していた時と同じように優しい人だ。
彼女の後ろをついて歩いている間も、確かに厳しい目線を感じた。
でも、彼女達からしたら、私はぽっと出の素人が運良くここに来てしかも、フェルデという自分達が仕える人の近くに採用される。確かに、トルテさんのいった通り、自分が逆の立場でも嫌だろう。
とりあえず、何かされたりしないように自衛には気をつけておこう。
「ここが使用人の食堂です」
食堂は厨房が見えるカウンター式。お盆に乗ったご飯を受け取ったら空いてる座席に座って食べる。
パンはおかわりができるようにカウンター隣に少し積まれて置かれていた。
「美味しい・・・」
朝食だからだろう、パンとスープのみのお盆を手に取る。
少し硬いが、小麦の甘味がしっかりと出ているパン。ほんのりと暖かく野菜の旨味がたっぷりのスープには、牛脂が浮いており、これもまた旨味を出しているようだ。
昨日はタイムスリップした事と、これからのことを考えていた所為かお腹が空いていなかったが、ひと口食べると身体は飢えていたのを思い出したかのように急激に空腹を訴えてきた。
「手の空いた者から食事は順番に取ります。そして終わったらすぐに勤務に戻るように」
「はい」
手は止めず、食べながら返事をする。
食べ終わったお盆はお返し棚に置けば、厨房見習が下げてくれる仕組みだ。
「美味しかったです、ご馳走様」
丁度下げに来た見習にそういうと、「っす」と顔を下げて行ってしまった。
腹ごしらえが済んだら、いよいよ使用人のお仕事を覚えなくてはいけない。
・・・メモ帳が欲しいかもしれない。
その頃、リーナが食事に夢中の間、他の若い女性の使用人達は彼女をじっと見てコソコソと話をしていた。
「なんであんな子が・・・」
「馬鹿っぽい子よねー。私達の方が優秀そう」
「フェルデ様やヴィーグ様に色仕掛けでとりいったのかな?」
「えー?あんな身体でぇ?泣き落としじゃないかしらー?」
「どうでもいいわよ。それよりも、あんな子が私達を差し置いてお付きになるなんて本当にあり得ない。どうにかしてその座を奪えないかしら?」
「あの子に辞退するよう言えばいいんじゃない?」
「それよりも・・・・」
ひそひそ話は内緒話に変わり、皆、にやりと笑い、またリーナを見つめるのだった。
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