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トランキル帝国編
閑話:目的は……
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ガサガサと足早に走る。
草木を感覚的に避け、走れる場所を見つけるのは得意だ。
それにしても、獅子族の若者特有の強者に対する敵愾心が、まさか眷属様にまで出てきてしまうとは。
自分は未熟者だ。精神的に育っていない……
父ならば、強者を受け入れ豪快に笑うことができただろう。
兄ならば、尊敬を込めた眼差しで側に寄り添おうとしただろう。
あんな、感情をそのままぶつけるような事はしなかった筈だ。
「はぁ……」
随分と、彼女の家からは離れた。
ここまで来れば、物事を落ち着いて考えることができる。
それにしても、不思議な少女だ。メリアという子は。
複数の眷属様を畏れることもなく受け入れ、幸せそうに暮らしている。
隣国とはいえ王の耳に入るほどの腕の持ち主。
父や兄に勝つためには己の力量を超えた何かが必要だと思いここにきたが……作られた武器を見ると自身の直感を信じて良かったと思う。
自身の戦い方を見て、最良かどうかは分からずとも見合うものをと作られた武器は正に自分の戦い方に当てはまり、手足のように動く。
一見はただの棒のようにもかかわらず、魔法の伝達機能もしっかりとしているし軽くしなやかだ。
なのに、試しだと彼女は告げていた。
私の持ちこんだキマイラの素材と合わせたらどれほどの武器が出来上がるのだろうか。
「おい!どこまで行くんだよぅ!!」
「あ、す、すまない、ニハル。君まで連れてきてしまって」
「いや、いいよ。俺も、あの眷属様は恐ろしいし!」
「……そうだな」
彼も一緒に連れてきてしまったのだった。手を引いていたというのに気づいていなかった。
居心地悪そうなのに、こちらを気遣ってくれる彼の姿に苦笑する。全く進歩がないな、私も。
「なぁ、その武器、すげー使いやすそうだな」
ニハルが私に気を使うように話を変えてくれる。
彼もまた、私からしたら不思議だった。
弱い種族でも発言力が低いとか、馬鹿にするとかそういう種族差別はないはずなのに何故か毎回兎族はこの大会に参加する。
草食系の種族の中でも臆病と言われる彼らがそうまでして戦う理由が私にはわからない。
「どうしたんだ?」
私が口を開かないことを不審に思ったのだろう。
彼は怪訝そうにしながら私に問う。
「いや、すまない」
「なんだよ。お前、謝ってばっかだなぁ」
「ふふ、そうだね」
揶揄うように言うその言葉に、確かにそうだ。と少し笑う。
まだ会ったばかりなのについつい構いたくなるのは何故なんだろう。
「とりあえず。もう一回やるか?」
「こんな足場の悪い場所で?」
「そういう場所こそ、俺たちの縄張りだ!」
楽しげに言いながら間合いをとる彼の姿に成長を感じる。
ついさっきまで逃げることしかできなかったのに。
彼を鍛えるといった言葉に嘘はない。
しかし、彼は私には勝てない。
恐らく、大会に出る全ての参加者にも勝つことはできないだろう。
それに私も、優勝しなくてはならない理由がある。
そう……私は父を止めるためにも勝たねばならない。
偶然にも聞いてしまった、父と側近の話。
今回の大会に父が勝利したら、この国を攻めると……戦争を起こすと言っていたのだ。
大会の参加者は強者ばかり。
そして、大会のために新調する武器は素晴らしいものだろう。
世界中から武器が私たちの国に集まる。
普通なら警戒するはずだけど、例年の事だと思って油断しているこの国は父の計画には気づかない。
気づいた時には戦いは始まってしまう。
だからこそ、私が父や兄に代わり皇帝になりその計画を崩してみせる。
そのために、賭けともいえる噂の鍛治師の元へきたのだから。
改めて決意を決め、武器を硬く握りしめると、ニハルに攻撃を加えるべく地面を蹴った。
草木を感覚的に避け、走れる場所を見つけるのは得意だ。
それにしても、獅子族の若者特有の強者に対する敵愾心が、まさか眷属様にまで出てきてしまうとは。
自分は未熟者だ。精神的に育っていない……
父ならば、強者を受け入れ豪快に笑うことができただろう。
兄ならば、尊敬を込めた眼差しで側に寄り添おうとしただろう。
あんな、感情をそのままぶつけるような事はしなかった筈だ。
「はぁ……」
随分と、彼女の家からは離れた。
ここまで来れば、物事を落ち着いて考えることができる。
それにしても、不思議な少女だ。メリアという子は。
複数の眷属様を畏れることもなく受け入れ、幸せそうに暮らしている。
隣国とはいえ王の耳に入るほどの腕の持ち主。
父や兄に勝つためには己の力量を超えた何かが必要だと思いここにきたが……作られた武器を見ると自身の直感を信じて良かったと思う。
自身の戦い方を見て、最良かどうかは分からずとも見合うものをと作られた武器は正に自分の戦い方に当てはまり、手足のように動く。
一見はただの棒のようにもかかわらず、魔法の伝達機能もしっかりとしているし軽くしなやかだ。
なのに、試しだと彼女は告げていた。
私の持ちこんだキマイラの素材と合わせたらどれほどの武器が出来上がるのだろうか。
「おい!どこまで行くんだよぅ!!」
「あ、す、すまない、ニハル。君まで連れてきてしまって」
「いや、いいよ。俺も、あの眷属様は恐ろしいし!」
「……そうだな」
彼も一緒に連れてきてしまったのだった。手を引いていたというのに気づいていなかった。
居心地悪そうなのに、こちらを気遣ってくれる彼の姿に苦笑する。全く進歩がないな、私も。
「なぁ、その武器、すげー使いやすそうだな」
ニハルが私に気を使うように話を変えてくれる。
彼もまた、私からしたら不思議だった。
弱い種族でも発言力が低いとか、馬鹿にするとかそういう種族差別はないはずなのに何故か毎回兎族はこの大会に参加する。
草食系の種族の中でも臆病と言われる彼らがそうまでして戦う理由が私にはわからない。
「どうしたんだ?」
私が口を開かないことを不審に思ったのだろう。
彼は怪訝そうにしながら私に問う。
「いや、すまない」
「なんだよ。お前、謝ってばっかだなぁ」
「ふふ、そうだね」
揶揄うように言うその言葉に、確かにそうだ。と少し笑う。
まだ会ったばかりなのについつい構いたくなるのは何故なんだろう。
「とりあえず。もう一回やるか?」
「こんな足場の悪い場所で?」
「そういう場所こそ、俺たちの縄張りだ!」
楽しげに言いながら間合いをとる彼の姿に成長を感じる。
ついさっきまで逃げることしかできなかったのに。
彼を鍛えるといった言葉に嘘はない。
しかし、彼は私には勝てない。
恐らく、大会に出る全ての参加者にも勝つことはできないだろう。
それに私も、優勝しなくてはならない理由がある。
そう……私は父を止めるためにも勝たねばならない。
偶然にも聞いてしまった、父と側近の話。
今回の大会に父が勝利したら、この国を攻めると……戦争を起こすと言っていたのだ。
大会の参加者は強者ばかり。
そして、大会のために新調する武器は素晴らしいものだろう。
世界中から武器が私たちの国に集まる。
普通なら警戒するはずだけど、例年の事だと思って油断しているこの国は父の計画には気づかない。
気づいた時には戦いは始まってしまう。
だからこそ、私が父や兄に代わり皇帝になりその計画を崩してみせる。
そのために、賭けともいえる噂の鍛治師の元へきたのだから。
改めて決意を決め、武器を硬く握りしめると、ニハルに攻撃を加えるべく地面を蹴った。
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