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第3章 軍人編
第59話 ザクセン公国 ~政略結婚~
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アイダ―運河も完成し、ホルシュタインの経済も活況を呈してきた。
また、ゴットハルトに任せていたジブラルタルを抜けて地中海に入る航路の開発も完了した。
この2つにより海路による商業活動はますます盛況となることが予想される。
残るは陸路による商業活動だ。
ホルシュタインから陸路を通じて各地へ向けた商業活動を行うには、地理的にザクセン公国を通らなければならない。
だが、ザクセン公国は旧態依然としており、各地方領主が好き勝手に通行税を徴収している状態であり、商品の流通を阻害する大きな要因となっていた。
ここはザクセン公と交渉してなんとかせねばなるまい。
しかし、ザクセン公は先のリューネブルク会戦でフリードリヒが散々に痛めつけたという前歴がある。
ザクセン公がリューネブルク会戦のことを恨みに思っていなければ良いのだが…
◆
フリードリヒは先触れの知らせを出すと、ザクセン公を訪ねた。
ザクセン公のベルンハルト・フォン・アスカーニエンに挨拶をする。
「始めまして。ザクセン公。私、ホルシュタイン伯のフリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲンと申します。どうぞよしなにお願いいたします」
「覚えておるぞ。リューネブルク会戦のとき、わが軍を散々に痛めつけてくれた小僧だな」
「その節はたいへん失礼をいたしました」
「なんの。敵味方に分かれればそれも仕方がないというもの。負けた我が軍が弱かったというだけの話だ。そのことで貴殿を恨んでも栓ない話だ」
──なかなかの大物じゃないか。これはいけるか?
「そこで折り入ってお願いがあるのですが」
「何なりと申してみよ」
「ホルシュタインではアイダ―運河も開通し、またジブラルタルを通る海路も開発されました。これによって海運による商業はこれからますます盛況になるものと予想されます」
「なるほど」
「そこで問題になるのが陸路を使った商品の流通でございます。
失礼ながら言わせていただくと、現在、ザクセン公国は各地方領主が好き勝手に通行税を徴収している状態であり、商品の流通を阻害する大きな要因となっております。
このままですとザクセン公国が経済の発展から取り残されるのみならず、帝国の内陸部も同様の状態になってしまいます」
「通行税を止めよということか?」
「お察しのとおりでございまます。ここは通行税を廃止し、商人の出入りを自由にすることで経済が発展し、結果として国の利益になるかと愚行いたしております」
「貴殿が商工組合総連合会で言っている自由主義というやつだな」
「ご見識恐れ入ります。まさにその通りでございます」
「では、どうすればいい?」
「まずはホルシュタイン伯国とザクセン公国で通行税などの関税を撤廃する自由貿易協定を締結させていただけないかと思います。ゆくゆくはそれを周辺国に拡大していきたいのです」
「我が国はその第1号という訳か」
「初めてということで不安もあると思いますが、逆に先行者利益というものもあります。
いち早く自由貿易に取り組むことでそのノウハウを他に先駆けて蓄積することができ、他国よりも有利に事が運べるということもございます」
この一言でザクセン公は踏ん切りがついたようだ。
「貴殿の経済運営には以前から感服しておったところだ。遅ればせながら我が国もそのおこぼれにあずかることにしよう」
「なんの。貴国にはハンザ都市も多くあり、その底力は計り知れないものがあります。経済運営の進路さええ間違えなければ繁栄は間違いありません」
「ぜひともそうありたいものだな」
君主同士の話はついたので、協定の文言などは事務方を派遣して処理することになった。
「ところでホルシュタイン伯。貴国とは今後ともよしみを通じておきたいと考えておったところなのだ。
そこで相談なのだが、わしの息子のアルブレヒトにはアグネスという正妻はおるのだが、まだ側室がおらぬのでな。貴国からぜひ嫁をもらえないか?」
「しかし、私の娘はまだ結婚できるような年齢ではありませんが…」
「なに。何も娘とは言っていない。年頃の妹がおられるではないか」
──この狸爺め。最初からその気で調べていたな。
「その件については、私の一存では決めかねます。持ち帰らせていただき、後ほど返答いたします」
「うむ。よい返事を期待しておるぞ」
側室とはいえ大公家の嫁となれば悪い話ではない。とりあえずツェーリンゲン家に戻って相談するか。
◆
バーデン=バーデンのツェーリンゲン家に戻り、領主の祖父にザクセン公からの申し出を説明する。
これを受けて家族会議を行うこととなった。
祖父のハインリヒⅢ世が話を切り出す。
「今日フリードリヒから話があった。ザクセン公のご子息がツェーリンゲン家に嫁をもらいたいとの申し出があったということだ。
相手はおそらく大公の地位を継ぐお方だ。側室とはいえこの上ない良縁だと思う。
順番的にも年齢的にもアイリーンが適任だと思うがどうだ?」
当のアイリーンは突然の話に当惑している。
「そ、それは…その…」
「あなた。今聞いたばかりで答えろというのも無理ですよ。少しはアイリーンのことも考えてあげてください」
祖母のカロリーネがフォローを入れた。
「それもそうだな。アイリーン。考えておいてくれ。
おまえはどう思う」
祖父は息子のヘルマンⅣ世に見解を問うた。
「私はこの上ない良縁だと思います。アイリーンさえよければ否やはありません」
「ということだな。あとはアイリーンの心次第だ」
──またお祖父さまはアイリーンを追い込むようなことを…
◆
私はアイリーン・フォン・ツェーリンゲン。バーデン=バーデン辺境伯の次女である。
今日、ザクセン公の子息との縁談の話があった。
突然の話で驚いたことは確かだが、皆が言うように良縁であることは私でもわかる。
でも、私には好きな人がいる。
それはフリードリヒお兄様だ。
母親が違うとはいえ結婚できないことはわかっている。また、それをブラコンということもわかっている。
だが、ダメだと思いつつ私はその感情をずっと払拭できないでいたのだ。
こんな気持ちで結婚したところで、幸福な家庭など築けるとは思えないし、相手に対してとても失礼だと思う。
私はいったいどうしたらいい?
その時、私の部屋のドアがノックされた。
「誰?」
「私だ」
フリードリヒお兄様だ。
私はお兄様を部屋に招き入れた。
「突然、重たい話を持ってきてしまってすまない」
「お兄様が謝ることではありませんわ」
「しかし、不安だろう。まだ一度もあったことのない男と結婚するなど…」
「それはそうなのですが…」
私は、意を決して本心を告白することにした。
「私はお兄様のことが好きです」
「…………」
しばらくの沈黙のあとお兄様は答えた。
「私もアイリーンが好きだよ
でもその好きは家族の親愛の情であって、男女の好きとは少し違う」
「そうなの…でしょうか?」
──なんだかはぐらかされている気もする。
「男女が好きなどというものは浮ついた感情ですぐに流されてしまうものだ。だが、家族や夫婦の親愛の情というものは違う。もっと強固で簡単には壊せない」
「私にはよくわからないわ」
「アイリーンは、例えばお祖父様とお祖母様を見てどう思う?」
「とてもお似合いの夫婦だと思います」
「だが、そもそも夫婦というものは違う環境で育ったもの同士が一緒になるものだ。当然に最初は価値観や習慣のぶつかり合いが必ずある。それをお互いに譲り合いながら夫婦としての一つの価値観を形成していくのだ。
結婚して夫婦になるのではない。結婚は夫婦になるためのスタート地点に過ぎない。そこから長い年月をかけて真の夫婦になっていくのだ。
アイリーンも力まずに気長に取り組んでいけばそれでいい」
「う~ん。そういうものなのですね。少しだけ気持ちが楽になりました。でも、お兄様に会えなくなるのは正直寂しいです」
「なに。私もホルシュタインにはしょっちゅう行っている。ホルシュタインとザクセンは近いからね。たまに様子を見にいくよ」
「本当ですか。約束ですよ」
私はそう言うとお兄様の胸に顔を埋めた。
お兄様はそれをそっと抱きかかえ、優しく髪を撫でてくれる。
気持ちが落ち着いた私はお兄様にお礼を言った。
「お兄様。ありがとうございます」
◆
結局、アイリーンは結婚を受け入れた。
結婚式は、ザクセン公国内の司教座で行われ、もちろんツェーリンゲン家一同が参列した。
1月ほどして、フリードリヒはロスヴィータを伴ってザクセン公の邸宅を訪ねた。
ロスヴィータはアイーンと同じく料理好きということもあるし、女でなければ話せないこともあると思ったからだ。
邸宅に着くとアルブレヒト・フォン・アスカーニエンが自ら出迎えてくれた。
「これはホルシュタイン伯。おいでいただきありがとうございます。」
結婚式ではほとんど会話できなかったが、素直そうな好青年ではないか。とてもあの狸おやじの息子とは思えない。
「アイリーンはちゃんとやっていますかな?」
「アイリーンの手料理が館の者に大評判でして、助かっていますよ」
「あなたは貴族らしくないとか言わないのですね」
「もちろん。妻の手料理が食べられるなど素晴らしいことではないですか」
「私もそう思います。ここにいるロスヴィータも手料理が上手なのですよ。趣味が合うかと思って連れてきました」
「それはご配慮いただきありがとうございます」
「私もアイリーンさんがどういう料理を作られるのか興味がありますわ」
ロスヴィータがアイリーンに話題を振った。
「お義姉様。ここでは何ですから。あちらでお話いたしましょう」
早速二人は意気投合したようである。
「こちらが正妻のアグネスです」
「初めまして。ホルシュタイン伯。本日は歓迎いたしますわ」
──見たところ、意地悪な小姑とかじゃなさそうだな…
その日は、アイリーンとロスヴィータの合作料理で夕食ということになった。
アルブレヒトは「義理の姉妹の合作料理が食べられるなんて、貴族ではなかなかできない体験ですよ。素晴らしい」と感動していた。
なかなかいい人そうではないか。これでアイリーンもひと安心かな。
また、ゴットハルトに任せていたジブラルタルを抜けて地中海に入る航路の開発も完了した。
この2つにより海路による商業活動はますます盛況となることが予想される。
残るは陸路による商業活動だ。
ホルシュタインから陸路を通じて各地へ向けた商業活動を行うには、地理的にザクセン公国を通らなければならない。
だが、ザクセン公国は旧態依然としており、各地方領主が好き勝手に通行税を徴収している状態であり、商品の流通を阻害する大きな要因となっていた。
ここはザクセン公と交渉してなんとかせねばなるまい。
しかし、ザクセン公は先のリューネブルク会戦でフリードリヒが散々に痛めつけたという前歴がある。
ザクセン公がリューネブルク会戦のことを恨みに思っていなければ良いのだが…
◆
フリードリヒは先触れの知らせを出すと、ザクセン公を訪ねた。
ザクセン公のベルンハルト・フォン・アスカーニエンに挨拶をする。
「始めまして。ザクセン公。私、ホルシュタイン伯のフリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲンと申します。どうぞよしなにお願いいたします」
「覚えておるぞ。リューネブルク会戦のとき、わが軍を散々に痛めつけてくれた小僧だな」
「その節はたいへん失礼をいたしました」
「なんの。敵味方に分かれればそれも仕方がないというもの。負けた我が軍が弱かったというだけの話だ。そのことで貴殿を恨んでも栓ない話だ」
──なかなかの大物じゃないか。これはいけるか?
「そこで折り入ってお願いがあるのですが」
「何なりと申してみよ」
「ホルシュタインではアイダ―運河も開通し、またジブラルタルを通る海路も開発されました。これによって海運による商業はこれからますます盛況になるものと予想されます」
「なるほど」
「そこで問題になるのが陸路を使った商品の流通でございます。
失礼ながら言わせていただくと、現在、ザクセン公国は各地方領主が好き勝手に通行税を徴収している状態であり、商品の流通を阻害する大きな要因となっております。
このままですとザクセン公国が経済の発展から取り残されるのみならず、帝国の内陸部も同様の状態になってしまいます」
「通行税を止めよということか?」
「お察しのとおりでございまます。ここは通行税を廃止し、商人の出入りを自由にすることで経済が発展し、結果として国の利益になるかと愚行いたしております」
「貴殿が商工組合総連合会で言っている自由主義というやつだな」
「ご見識恐れ入ります。まさにその通りでございます」
「では、どうすればいい?」
「まずはホルシュタイン伯国とザクセン公国で通行税などの関税を撤廃する自由貿易協定を締結させていただけないかと思います。ゆくゆくはそれを周辺国に拡大していきたいのです」
「我が国はその第1号という訳か」
「初めてということで不安もあると思いますが、逆に先行者利益というものもあります。
いち早く自由貿易に取り組むことでそのノウハウを他に先駆けて蓄積することができ、他国よりも有利に事が運べるということもございます」
この一言でザクセン公は踏ん切りがついたようだ。
「貴殿の経済運営には以前から感服しておったところだ。遅ればせながら我が国もそのおこぼれにあずかることにしよう」
「なんの。貴国にはハンザ都市も多くあり、その底力は計り知れないものがあります。経済運営の進路さええ間違えなければ繁栄は間違いありません」
「ぜひともそうありたいものだな」
君主同士の話はついたので、協定の文言などは事務方を派遣して処理することになった。
「ところでホルシュタイン伯。貴国とは今後ともよしみを通じておきたいと考えておったところなのだ。
そこで相談なのだが、わしの息子のアルブレヒトにはアグネスという正妻はおるのだが、まだ側室がおらぬのでな。貴国からぜひ嫁をもらえないか?」
「しかし、私の娘はまだ結婚できるような年齢ではありませんが…」
「なに。何も娘とは言っていない。年頃の妹がおられるではないか」
──この狸爺め。最初からその気で調べていたな。
「その件については、私の一存では決めかねます。持ち帰らせていただき、後ほど返答いたします」
「うむ。よい返事を期待しておるぞ」
側室とはいえ大公家の嫁となれば悪い話ではない。とりあえずツェーリンゲン家に戻って相談するか。
◆
バーデン=バーデンのツェーリンゲン家に戻り、領主の祖父にザクセン公からの申し出を説明する。
これを受けて家族会議を行うこととなった。
祖父のハインリヒⅢ世が話を切り出す。
「今日フリードリヒから話があった。ザクセン公のご子息がツェーリンゲン家に嫁をもらいたいとの申し出があったということだ。
相手はおそらく大公の地位を継ぐお方だ。側室とはいえこの上ない良縁だと思う。
順番的にも年齢的にもアイリーンが適任だと思うがどうだ?」
当のアイリーンは突然の話に当惑している。
「そ、それは…その…」
「あなた。今聞いたばかりで答えろというのも無理ですよ。少しはアイリーンのことも考えてあげてください」
祖母のカロリーネがフォローを入れた。
「それもそうだな。アイリーン。考えておいてくれ。
おまえはどう思う」
祖父は息子のヘルマンⅣ世に見解を問うた。
「私はこの上ない良縁だと思います。アイリーンさえよければ否やはありません」
「ということだな。あとはアイリーンの心次第だ」
──またお祖父さまはアイリーンを追い込むようなことを…
◆
私はアイリーン・フォン・ツェーリンゲン。バーデン=バーデン辺境伯の次女である。
今日、ザクセン公の子息との縁談の話があった。
突然の話で驚いたことは確かだが、皆が言うように良縁であることは私でもわかる。
でも、私には好きな人がいる。
それはフリードリヒお兄様だ。
母親が違うとはいえ結婚できないことはわかっている。また、それをブラコンということもわかっている。
だが、ダメだと思いつつ私はその感情をずっと払拭できないでいたのだ。
こんな気持ちで結婚したところで、幸福な家庭など築けるとは思えないし、相手に対してとても失礼だと思う。
私はいったいどうしたらいい?
その時、私の部屋のドアがノックされた。
「誰?」
「私だ」
フリードリヒお兄様だ。
私はお兄様を部屋に招き入れた。
「突然、重たい話を持ってきてしまってすまない」
「お兄様が謝ることではありませんわ」
「しかし、不安だろう。まだ一度もあったことのない男と結婚するなど…」
「それはそうなのですが…」
私は、意を決して本心を告白することにした。
「私はお兄様のことが好きです」
「…………」
しばらくの沈黙のあとお兄様は答えた。
「私もアイリーンが好きだよ
でもその好きは家族の親愛の情であって、男女の好きとは少し違う」
「そうなの…でしょうか?」
──なんだかはぐらかされている気もする。
「男女が好きなどというものは浮ついた感情ですぐに流されてしまうものだ。だが、家族や夫婦の親愛の情というものは違う。もっと強固で簡単には壊せない」
「私にはよくわからないわ」
「アイリーンは、例えばお祖父様とお祖母様を見てどう思う?」
「とてもお似合いの夫婦だと思います」
「だが、そもそも夫婦というものは違う環境で育ったもの同士が一緒になるものだ。当然に最初は価値観や習慣のぶつかり合いが必ずある。それをお互いに譲り合いながら夫婦としての一つの価値観を形成していくのだ。
結婚して夫婦になるのではない。結婚は夫婦になるためのスタート地点に過ぎない。そこから長い年月をかけて真の夫婦になっていくのだ。
アイリーンも力まずに気長に取り組んでいけばそれでいい」
「う~ん。そういうものなのですね。少しだけ気持ちが楽になりました。でも、お兄様に会えなくなるのは正直寂しいです」
「なに。私もホルシュタインにはしょっちゅう行っている。ホルシュタインとザクセンは近いからね。たまに様子を見にいくよ」
「本当ですか。約束ですよ」
私はそう言うとお兄様の胸に顔を埋めた。
お兄様はそれをそっと抱きかかえ、優しく髪を撫でてくれる。
気持ちが落ち着いた私はお兄様にお礼を言った。
「お兄様。ありがとうございます」
◆
結局、アイリーンは結婚を受け入れた。
結婚式は、ザクセン公国内の司教座で行われ、もちろんツェーリンゲン家一同が参列した。
1月ほどして、フリードリヒはロスヴィータを伴ってザクセン公の邸宅を訪ねた。
ロスヴィータはアイーンと同じく料理好きということもあるし、女でなければ話せないこともあると思ったからだ。
邸宅に着くとアルブレヒト・フォン・アスカーニエンが自ら出迎えてくれた。
「これはホルシュタイン伯。おいでいただきありがとうございます。」
結婚式ではほとんど会話できなかったが、素直そうな好青年ではないか。とてもあの狸おやじの息子とは思えない。
「アイリーンはちゃんとやっていますかな?」
「アイリーンの手料理が館の者に大評判でして、助かっていますよ」
「あなたは貴族らしくないとか言わないのですね」
「もちろん。妻の手料理が食べられるなど素晴らしいことではないですか」
「私もそう思います。ここにいるロスヴィータも手料理が上手なのですよ。趣味が合うかと思って連れてきました」
「それはご配慮いただきありがとうございます」
「私もアイリーンさんがどういう料理を作られるのか興味がありますわ」
ロスヴィータがアイリーンに話題を振った。
「お義姉様。ここでは何ですから。あちらでお話いたしましょう」
早速二人は意気投合したようである。
「こちらが正妻のアグネスです」
「初めまして。ホルシュタイン伯。本日は歓迎いたしますわ」
──見たところ、意地悪な小姑とかじゃなさそうだな…
その日は、アイリーンとロスヴィータの合作料理で夕食ということになった。
アルブレヒトは「義理の姉妹の合作料理が食べられるなんて、貴族ではなかなかできない体験ですよ。素晴らしい」と感動していた。
なかなかいい人そうではないか。これでアイリーンもひと安心かな。
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