一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

文字の大きさ
51 / 56

五十一話

しおりを挟む
 強い意志を持つことができたのも、悠司のおかげだ。
 彼と接した日々がなければ、きっと今も依存されて、利用されるばかりの女でいただろう。
 街の明かりが次々に通り過ぎる。
 ハンドルを握った悠司は、力強い声でひとこと放った。
「俺が、きみを守る」
「悠司さん……」
 でも、彼は叔父の勧めた見合い相手がいるはずだ。婚約したなら、もう紗英との関係を続けることはできないだろう。
 うつむいた紗英は、小さな声で問いかけた。
「どうして私のところに来てくれたんですか……? 叔父さんが勧める令嬢と顔合わせがあったんじゃないんですか?」
「俺がきみを放って、ほかの女性と会うわけがないだろう」
「でも、悠司さんは令嬢と結婚する未来がありますよね? 私とはかりそめの恋人なんだし……」
「それについてなんだが、マンションに戻ったら、きちんと話をしよう」
「……わかりました」
 依存するクズ男を撥ねのけることができたように、悠司とのことについても、きちんと向き合わなければならないと、紗英は心に決めた。
 もう、『強い子』の仮面を被ったままの弱い自分ではないから。

六、愛する彼からのプロポーズ

 やがて車はマンションのある高級住宅街へ辿り着いた。
 マンション地下の駐車場に入庫すると、ふたりは車を降りる。
 きゅっと、悠司は手をつないできた。
 彼の体温が伝わり、これまで不安だった紗英の胸には安堵が広がる。
 エレベーターで三階の角部屋へ着くと、カードキーで解錠した悠司は室内へ招き入れた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
 またこの部屋を訪れることができるなんて、嬉しい。
 リビングの窓に広がる夜景を眺めた紗英は、とりあえず紙袋をそっと床に置いた。
 ジャケットを脱いだ悠司は、キッチンに入る。
「紅茶でも淹れよう。紗英は座ってて」
「あ、紅茶は……」
 茶葉を買ってあるのだが、ティーポットなどのこし器がなければ飲めない。
 ひしゃげてしまった紙袋から中身を取り出した紗英は、商品の状態を確認した。
 茶葉の缶は無事だが、ティーポットと、ふたつのマグカップは無残に割れてしまっている。これでは捨てるしかない。
 落胆を隠せない紗英の前に、マグカップをふたつ持ってやってきた悠司は、破壊された陶器を見て眉を寄せた。
「ひどいな。買ったばかりだったんだろ?」
「……はい。あ、でも、この猫のマグカップは悠司さんと使うつもりだったわけじゃなくて、可愛かったので、飾るために買っただけですけども……」
 言い訳めいたことを呟く紗英に、悠司は温かい湯気が立ち上るマグカップを手渡した。彼は口元に弧を描いている。
「ふうん。俺と使うつもりじゃないんだ。ふたつ合わせると猫がキスしてるなんて、恋人用じゃないか」
「……だって、私たちは、かりそめの恋人でしょう?」
 ソファに腰を下ろした悠司は、テーブルに無地のマグカップを置いた。彼は真摯な双眸を、紗英に向ける。
「もとは勝負のことを俺が言い出したから始まったようなものだな。『俺がクズ男になったら、俺の負け。きみのことは諦める。ただし、きみが俺に惚れて甘えられたら、俺の勝ち。俺の言うことを聞いてもらう』その勝負のために、仮の恋人という関係になろうと、俺は提案した」
「そうでしたね……」
 今さらだが、すでに勝負はついたようなものだ。
 悠司がクズ男になることなどなかった。それどころか、彼はクズ男から紗英を守ってくれた。そして紗英は何度も悠司に甘えて、彼に惚れることになった。
 勝負は完全に悠司の勝ちである。
 だが、そうなったときに、悠司の言うことに従わないといけないらしいが、それはなんだろう。
「きみの判定結果としては、どうだった? 俺はクズ男に変わったか?」
 紗英は大きく首を横に振る。
「とんでもないです。悠司さんはクズ男なんかじゃありません。私があなたをクズ男に変えてしまうなんて思ったのは、傲慢でした。自立している悠司さんが、自堕落に変わってしまうなんてことがあるわけなかったんです。私はあなたと接していて、それがはっきりわかりました」
「それじゃあ、紗英は俺に甘えてくれたかな?」
「……そうですね。私は悠司さんに教わるまで、甘えるという正しい意味を知らなかったんですけど、それは依存とは違って、小さなことをお願いするとか、手をつなぐとか、肩にもたれるとか……そういうことだと知りました。私は悠司さんにたくさん甘えられました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...