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1巻

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 侍女頭が他国の王女の予定を勝手に立てるとは思えないが、まさか、レオンハルトの指示なのだろうか。

「変ね……。七日という日程は事前に使者から伝えていたはずなのに。どこかで齟齬そごがあったのかしら。私から陛下に伺ってみるわ」
「ユリアーナさまのお手をわずらわせて申し訳ございません。わたくしからも侍女頭に詳しいことを聞いてみます」
「いいのよ、気にしないで。侍女頭と仲良くしてちょうだいね」
「かしこまりましてございます」

 深く頭を下げたロラだが、ふと思い出したように顔を上げた。

「そういえばユリアーナさま。懐妊指導をお受けになるとか」
「ええ、そうなのよ。皇帝陛下の助言なの」
「それはようございますね。今晩、懐妊指導官がお越しになるので、侍女は寝室に近づかないようにと命じられておりますが……ユリアーナさまは、わたくしがいなくても大丈夫でございますか?」

 母親みたいな心配顔で案じる彼女に、ユリアーナは笑顔を向ける。

「もちろん平気よ。ロラったら、私がいつまでも子どもだと思っているのね」

 懐妊指導官は王族の子女へ懐妊のための手ほどきを行う宮廷付きの女教師であり、身元のしっかりした人物でなければ着任できない。人払いを行うのも、その講義内容がせんさいであるゆえだ。
 今まで帝王学や経済学などの数多あまたの講義を受けてきたが、ユリアーナはいずれの講義でも優秀な成績を収めている。実地の懐妊指導は初めてだが、きっと難しくはないはずだ。
 気楽に考えるユリアーナに、ロラは微苦笑で答えた。

「わたくしにとってユリアーナさまは我が子のようにいつくしむべきお方です。ですが、ひとりの女性として尊重いたしております。もちろん君主としても尊敬しております」
「わかっているわ。ありがとう」

 何度も繰り返されたロラの言葉に、いつものように返事をする。
 ――ロラったら、心配性なんだから。
 ロラがき終わった髪を放すと、つややかな銀髪がさらりと肩口のレースに舞い散った。
 お辞儀をして寝室を辞したロラが扉を閉め、部屋が急に静まり返る。
 暖炉に置かれた燭台しょくだいの炎が音もなく揺れた。天蓋てんがいから下ろされた薄い紗布しゃぎぬが、蝋燭ろうそくの灯を映して光と影を織り成している。

「懐妊指導官は厳しい方かしら……?」

 寝台の側に置かれた天鵞絨ビロードの寝椅子に腰を下ろしたユリアーナは、気を引きしめて指導官の訪れを待つ。
 やがて、重厚なかしの扉がノックされた。

「どうぞ、お入りなさい」

 懐妊指導官がやってきたらしい。
 声をかけて扉へ目を向けると、開いた扉の隙間から手燭てしょくの灯が漏れていた。
 そこに現れた人物を目にして、ユリアーナは思わず椅子から立ち上がる。

「レオンハルト……⁉」

 夜着らしきローブをまとったレオンハルトが、後ろ手に扉を閉めた。
 ひとりだ。
 夜に女性の寝室を、男性――しかも供の者も連れていない皇帝が訪れるなんて、ただごとではない。
 懐妊指導官が来たものとばかり思っていたユリアーナは、虚をかれた。

「どうしたの、レオ……いえ、陛下。何か起こったのですか?」
「ふたりきりのときは、幼なじみとして接してほしいとお願いしただろう。今の私は皇帝ではないよ。敬語も使わなくていい」

 薄い笑みを口元に刻んだレオンハルトは、昼のときよりも声をひそめている。そうすると、彼のつやめいた低い声音が、淫靡いんびに響いた。

「あ……そうだったわね。レオンハルトがそれでいいのなら、そうするわ」
「良い子だ。ユリアーナ」

 さらりとこぼれた長い銀髪のひと房をすくげ、彼はユリアーナの髪にくちづけを与える。
 彼でなければ気分が悪くなりそうなところだが、不思議とユリアーナは嫌悪を覚えなかった。
 むしろ、胸がとくりと甘く弾む。

「非常事態が起こったわけではないので、心配しないでくれ。懐妊指導を行うと言っていただろう?」

 皇帝が王女の寝室を訪れていること自体、非常事態だが、人払いをしているので侍女や侍従にどういうことなのかたずねるわけにもいかない。
 ユリアーナはレオンハルトから目をらしてうなずいた。
 ローブ姿という夜の支度は、昼間の厳格な軍装とは異なり、彼の魅力を増している。男性の無防備な姿を目にするなんて、夫でもなければありえないことだ。
 胸が高鳴ってしまう。

「ええ。支度を終えたので、懐妊指導官を待っていたところよ」
「私がその、懐妊指導官だよ」
「……えっ?」

 ユリアーナはぎょっとして目をみはった。
 懐妊指導官とは、宮廷付きの教師に与えられる役職ではないだろうか。
 それに王女への指導なのだから、ロラのような乳母うばを務めた経験豊富な女性が教えてくれるものだと思っていた。

「懐妊指導官は、女性ではないの?」
「通常は女性だね。だがユリアーナには、私が直に指導したい。それとも、私では嫌かい?」
「いいえ、そんなことはないけれど……」

 嫌だなんてことはない。
 レオンハルトは大切な幼なじみで、彼には子どもの頃から好意を抱いている。
 互いの立場上、結婚できる間柄ではないと彼への想いは封印していたのだ。
 それなのにこうして夜の寝室にふたりきりになり、懐妊指導をしてもらうなんて、淡い恋心が再燃してしまいかねない。
 ――どうしよう……
 困惑したユリアーナは、無意識に身を引いた。レオンハルトの手にしていた銀髪が、さらりと離れて落ちる。
 レオンハルトは側のテーブルに手燭てしょくを置くと、戸惑うユリアーナに一歩近づいた。ふたりの距離が再び縮まる。

「あなたを困らせることや、嫌がることはしない。安心して私に身をゆだねてほしい」

 彼のたくましい腕が、ユリアーナの背に回される。薄い夜着のみをまとった頼りない身体を抱き込まれて、ユリアーナはレオンハルトの腕の中にすっぽりと収まった。
 どきんと跳ねた鼓動が、早鐘みたいに鳴り響く。
 ――男の人の身体は、こんなにも熱いのだわ……
 初めて抱きしめられた男性が、レオンハルトで良かったと心から思える。
 ユリアーナは胸に湧き上がる、じんとした想いを抱えながら、レオンハルトの身体から匂い立つさわやかな石鹸せっけんの香りを吸い込んだ。
 この幸せな時間は、これが最後かもしれない。
 どうせ想いが叶うことはないのだ。
 いずれレオンハルトは国内の貴族の令嬢を妃にめとるだろう。もし妃がいれば、ユリアーナに懐妊指導を行うなどということはありえなかった。レオンハルトが未婚の今だからこそ、申し出てくれたのだ。 
 そして、ドメルグ大公が野心を捨てない限り、ユリアーナが結婚できる未来もない。
 ならば、レオンハルトとの思い出として、彼から懐妊指導を受けたい。
 レオンハルトに、処女をささげたかった。
 その結果として、もし子どもが生まれたとしても、王家の子として大切に育てていこう。
 ユリアーナは広い背中に、そっと腕を回した。

「レオンハルトに、懐妊指導をしてほしいわ……」
「ありがとう、ユリアーナ。優しくするよ」

 抱きしめられ、ちゅ、とひたいにくちづけを落とされる。大きなてのひらにゆっくりと髪をでられると、心の隅にあったこわりがほどけていくようだ。

「身体の力を抜いて、リラックスするんだ。怖いことは何もないから、恐れないで」
「はい……」

 ちゅ、ちゅ、とまぶたやこめかみ、鼻の頭にまでくちづけられる。
 柔らかな唇の感触に陶然とうぜんとしたユリアーナは、ほうと甘い吐息をこぼした。
 懐妊指導は、くちづけまでするものなのだろうかと疑問が湧くものの、レオンハルトのやり方があるのだろうし、彼に任せようと思い直す。
 それに、ちっとも嫌ではない。
 それどころか、くちづけがひとつ降るたびに、とくんと胸が弾む。
 愛する人とひとつになることを期待する心と身体が、次第に高まっていった。
 レオンハルトのくちづけは止まない。
 頬からあごに落とされた唇は、ついに、あかい唇に優しく触れた。

「あ……」

 けれど、すぐに離れていってしまう。
 キスは一瞬のできごとだった。
 それをユリアーナは、とても寂しいと思ってしまう。
 もっと、キスしてほしい。
 ねだるように濡れた瞳でレオンハルトを見上げたことに、ユリアーナ自身は気づかなかった。

「あなたの瞳は、とても綺麗だ。その瞳に自分が映っていることに、私は今、猛烈に感動しているよ」

 熱のもったそうぼうで情熱的に告げられ、とくりとくりと鼓動が甘く刻まれていく。
 そんな台詞せりふを耳元でささやきかけられたら、愛されていると勘違いをしてしまいそうだ。
 レオンハルトは懐妊指導官として、義務的に教えるといった指導法ではなかった。まるで本当の恋人か夫婦であると思えるほど、愛情を込めてくれる。
 それが、たまらなく嬉しい。

「レオンハルトのこんぺきの瞳にも、私が映っているわ……」
「そうだろうとも。私は、あなたしか見ていないのだから」
「お互いだけを見つめることも、懐妊のためには必要なのかしら?」

 疑問をつぶやくと、レオンハルトは薄い笑みを口元に刻んだ。

「そうだね。作業のように行っても、子ははらめないと私は考えている。やはりそこに愛情がなくてはね。だから今夜を、私たち夫婦の初夜としよう。いいかい?」

 彼の言うことも、もっともだ。夫婦のいとなみは愛をともなわなくてはいけない。やり方のみを知っていても、懐妊には繫がらないのかも、とユリアーナは思った。

「ええ、わかったわ」

 うなずいた彼女のおとがいすくげたレオンハルトは、せいかんな顔をかたむける。
 気がついたときには、ふたりの唇は優しく触れ合っていた。
 今度は、長いキスだ。
 薄い彼の唇の意外な熱さと弾力を感じて、ユリアーナはうっとりとまぶたを閉じる。
 そっと唇の合わせを柔らかな舌でなぞられる甘い刺激に、ぴくりと肩が跳ねた。誘われるままに薄く唇を開くと、ぬるりと濡れたものが口腔にれられる。

「ん……っ」

 それは歯列を辿たどり、頬裏をなぞり上げて、敏感な口蓋こうがいねぶる。
 口内を蹂躙じゅうりんする熱い舌が動くたびに、ユリアーナは身体の芯に熱が灯る気がした。

「ん、ふ……んぅ……」

 濃厚なくちづけにより溢れた蜜が、あごを伝い落ちる。
 レオンハルトの熱情におくしたユリアーナは思わず腰を引こうとするが、きょうじんな腕にきつく抱きしめられていて叶わない。
 ――こんなに激しいくちづけがあったなんて。
 くちづけとは、唇を少々くっつけるだけなのだと思っていた。懐妊のためには、こんなにも濃密なくちづけを交わさなければならないのだ。
 どうもうな舌におびえる舌をすくげられ、じゅるりとすすられる。
 じん、と頭の芯がしびれる感覚に、いつしかユリアーナの身体から力が抜けていった。

「あ……はぁ……」

 ようやく唇が解放されたときには、すっかり息が上がっている。
 くたりとくずおれそうになる身体を抱き留めてくれたレオンハルトが、不埒ふらちな濡れた舌で口端からこぼれたユリアーナの蜜をった。

「上手だよ。さあ、ベッドへ行こう」

 膝をすくげられ、力の入らない身体が容易たやすく抱え上げられる。軽々と横抱きにされて、すぐ側の寝台へ運ばれた。
 レオンハルトがさらりと紗布しゃぎぬめくる。寝台にそっと下ろされた身体を、純白のシーツが優しく受け止めた。
 けれどすぐさま男のきょうじんな身体がおおかぶさってきて、密着する熱に、ユリアーナはびくりと身をすくませる。

「あ……っ」

 これから、何が行われるのだろう。
 知識としては持っていても、実際に男性の身体に抱きしめられる感触は未知のものだ。
 緊張にこわるユリアーナをなだめるように、レオンハルトが微笑ほほえみを向けてきた。優しい仕草で銀髪をでる。

「深いキスは、気持ち良かった?」
「ん……よくわからないわ」
「初めてで驚いたよね。女性が男性の精を身体の奥で受け止めるためには、前戯ぜんぎが必要なんだ。お互いに触れ合って、性感を高めることが大切なんだよ」
「そうなのね……でも、どうして私が初めてだと知っているの?」

 その疑問に、レオンハルトはゆったりとした笑みを浮かべる。

「あなたのことなら、なんでも知っているよ」

 薄い夜着の上から、レオンハルトの大きなてのひらが触れる。彼は脇腹をなぞり、胸の膨らみをそっとてのひらに包み込んだ。


 布地の上なので直接的な感触ではないが、手の熱さが伝わってくる。
 優しくみ込まれ、胸のいただきがぞくりとうずいた。

「ん……ん……」
「声は我慢しないで。可愛い声を聞かせてほしい」
「んっ……でも、恥ずかしいわ」
「感じている声を聞くことで、雄は高まるんだ。ほら、こんなふうに」

 そっと手を取られて、レオンハルトの股間に導かれる。彼の股の間には、硬くて太い棒状のものが屹立きつりつしていた。

「えっ⁉ これは……?」

 生まれて初めて触れたものに驚いて、ユリアーナは手を離してしまう。
 もしかして、これが雄のしるしなのだろうか。まさかこんなに大きいなんて。

「これが男根だよ。興奮するとこうなるんだ」

 ローブの上からでも充分にそのたくましさが伝わる。この雄々おおしいものを女性の性器にくっつけて受精させるのだ。
 女性の下肢にはひだがあり、その奥が子宮に繫がっている。身体の奥にあるその子宮で子ははぐくまれるという。
 ユリアーナは講義で教わった人体の仕組みについて思い出した。
 このあとはひだに雄をくっつければ終わりだと予想したユリアーナの夜着を、レオンハルトが丁寧に開いていく。
 夜気に触れた白磁はくじに似た肌が、ぶるりと震えた。

「え……どうして、脱がせるの?」

 夫婦のいとなみは夜着をまとった状態で行われるのではないのだろうか。そのために性器のみを露出できる仕様に作られている夜着もあるくらいだ。
 だが、身体を起こしたレオンハルトはまとっていたローブをいさぎよく脱ぐと、自らのたくましい裸身をさらした。
 まるで名匠が手がけた彫刻みたいな見事な肉体に、ユリアーナは目をみはる。
 男性の裸体を見るのは、もちろん初めてのことだ。

「私はユリアーナのすべてを見たい。あなたの肌も、胸もはなひだも、もっと奥のほうまで……目で、指で、そして私の雄ででて快楽にかせたい」

 情熱的で官能に満ちた言葉を注がれて、頬に熱が集まる。
 冷徹にも見える皇帝のレオンハルトが、直截ちょくさい台詞せりふ臆面おくめんもなく放つなんて。それほどに欲してくれているのだと、胸が熱くなった。
 ふいにレオンハルトがつやめいたそうぼうすがめる。

「今のあなたは、私の妻だ。初夜の花嫁に私の精をたっぷりと注いで、はらませたい」

 ユリアーナははっとして、彼の端麗な面差しを見上げた。
 この行為は指導ではあるが、夫婦として接しようと始めに取り決めたのだ。身も心も夫にゆだねていなければ、懐妊には至らないらしいのだから……

「抱いて……レオンハルト」

 陶然とうぜんとして、ユリアーナも一夜の夫となったレオンハルトを欲する。
 ままごとの夫婦であっても、彼女の心は真にレオンハルトを求めていた。
 彼が好きだ。
 ずっと、好きだった。幼い頃から今まで、レオンハルトのことを忘れられなかったのだ。
 今だけは、彼の花嫁でいられる。
 自分の立場のために封印していた想いを、解放できるのだ。
 一糸いっしまとわぬ身体を、ちょうが羽を開くように男の眼前にさらす。
 ――今夜だけは私……レオンハルトの妻なのだわ。
 ユリアーナの裸体を丹念に眺めたレオンハルトが、くっと息を詰めた。

「綺麗だ……。我が花嫁の肌は、極上の真珠みたいだね」

 ちゅ、ちゅ、と首筋から鎖骨へと、キスの雨を降らせる。くちづけのあとは大きなてのひらが鎖骨をなぞり、胸へい下りた。
 直に肌に触れているレオンハルトのてのひらは、このうえもなく熱い。
 男の手が、こんなに熱いものだなんて知らなかった。
 熱をびたてのひらは、まろやかな胸を包み込み、優しくみしだく。そして指の腹で淡い色をした胸のいただきをくるくると円を描いてあいした。
 その刺激にユリアーナの胸の中心がつんとがる。

「ああ、ってきたね。感じるかい?」
「ん……ん、あ、ん……」

 あえぎながら、ユリアーナは幾度もうなずく。
 胸をみ込まれながら乳首をあいされるたび、あえかな吐息があとからあとからこぼちてしまう。
 しかもレオンハルトは両方の胸に刺激を与えてくるのだから、たまらない。
 ずくりとした甘いうずきが胸から全身に広がっていく。
 官能の芽吹きに身をよじると、胸の突起が濡れたものに含まれた。

「え……、あっ、ん……」

 レオンハルトの口腔に乳首が含まれている。彼は胸に顔を伏せ、美味おいしそうに乳首をめしゃぶっているのだ。
 まるであめを転がすみたいに舌先でなぶり、音を立ててすすられる。ちゅく、と淫靡いんびな水音が室内に響き、ユリアーナの頬は羞恥しゅうちに染まった。

「あ、あ……そんな、こと……」
「ごらん。濡れた乳首が珊瑚さんごみたいに輝いているよ」

 その言葉に従って顔を上げて胸元を見やると、淫猥いんわいな舌から解放された乳首はみだらに濡れ光っていた。
 ぷくりとがり、あいによる快楽を主張している。

「こちらの乳首も可愛がってあげよう」

 もう片方の乳首に顔をうずめたレオンハルトは、同じように舌先であいほどこし、きつくすすげる。その間にも濡れたほうの乳首に指先を伸ばし、硬くとがった乳首を執拗しつようまわした。

「あぁ……ん、あ……はぁ……」

 じわりと身体の奥底から、何かがにじてくる。
 それはレオンハルトの舌と指先がうごめくたびに強くなっていった。
 ――これが、快感なのかしら……
 熾火おきびくすぶるのにも似た熱は、嵐の前兆をともなっている。
 初めて知る快楽にユリアーナは身をもだえさせた。
 やがて銀糸をしたたらせて乳首を離したレオンハルトの唇が、そのまま鳩尾みぞおち辿たどっていく。温かな感触は、まるで彼の色に全身を染め上げていこうとしているみたいだ。下腹へい下り、今度はへそくぼみに舌先をねじませる。
 それが銀色の淡いしげみをかすめたとき、男の手がももにかかり、ゆっくりとユリアーナの足を開かせた。

「あ……」

 恥ずかしい部分を、レオンハルトがまばたきもせずに凝視している。足の狭間は、彼女自身も見たことがない場所だ。 

「見ないで……恥ずかしい……」
「とても綺麗だよ。ずっと、あなたのはなひだを見たいと願っていた」
「ずっと……?」
「そう。子どもの頃から」

 そう言ってレオンハルトが顔を沈めると、足の間に濡れた感触を覚える。身体が覚えた彼の熱い舌先が、ぴたりと閉じていたはなひだを優しくなぞり上げていくのがわかった。
 硬いつぼみが開くように、ひだがその花弁を開く。

「ああ……もう濡れているね。まるで朝露がこぼれたみたいだ」

 とろりと花弁の奥の蜜壺から愛液がしたたち、レオンハルトが躊躇ためらいもなくそれをすすげた。
 じゅるっと淫猥いんわいな水音が響き、ユリアーナは驚いて腰を跳ね上げる。

「えっ⁉ 何をしたの?」

 まさか、と驚愕きょうがくする。
 皇帝であるレオンハルトが誰かの足の狭間に顔をうずめるばかりか、下肢から溢れたものを口に含むなんて。
 戸惑うユリアーナを、彼は優しく腰をでてなだめた。

「心配ないよ。愛液をすすっただけだ。ユリアーナの蜜はとても甘美で美味おいしい」
「愛液……? けれど、身体から出てくるものをすするなんて、汚くはないの?」

 みどりいろの濡れた瞳をまたたかせるユリアーナの疑問に、とろける声が返される。

「愛のいとなみに汚いことなどありはしない。身体の性感が高まると、女性は足の間から愛液をしたたらせるんだ。その蜜で滑りが良くなり、雄を呑み込みやすくするんだよ」
「雄を、呑み込む……の?」
「そうだよ。処女の壺口は硬いから、もっと溶かしてあげよう。そうすれば私の雄も中に入っていける」

 どうやら夫婦のいとなみとは、性器をくっつけるだけではないらしい。
 中に入るということはまさか、膣にレオンハルトの男性器を挿入するのだろうか。
 先ほど触れた彼の雄はとても硬くて太かった。あんなに大きなものをおなかに入れるなんて、信じられない。


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