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1巻
1-3
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侍女頭が他国の王女の予定を勝手に立てるとは思えないが、まさか、レオンハルトの指示なのだろうか。
「変ね……。七日という日程は事前に使者から伝えていたはずなのに。どこかで齟齬があったのかしら。私から陛下に伺ってみるわ」
「ユリアーナさまのお手を煩わせて申し訳ございません。わたくしからも侍女頭に詳しいことを聞いてみます」
「いいのよ、気にしないで。侍女頭と仲良くしてちょうだいね」
「かしこまりましてございます」
深く頭を下げたロラだが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばユリアーナさま。懐妊指導をお受けになるとか」
「ええ、そうなのよ。皇帝陛下の助言なの」
「それはようございますね。今晩、懐妊指導官がお越しになるので、侍女は寝室に近づかないようにと命じられておりますが……ユリアーナさまは、わたくしがいなくても大丈夫でございますか?」
母親みたいな心配顔で案じる彼女に、ユリアーナは笑顔を向ける。
「もちろん平気よ。ロラったら、私がいつまでも子どもだと思っているのね」
懐妊指導官は王族の子女へ懐妊のための手ほどきを行う宮廷付きの女教師であり、身元のしっかりした人物でなければ着任できない。人払いを行うのも、その講義内容が繊細であるゆえだ。
今まで帝王学や経済学などの数多の講義を受けてきたが、ユリアーナはいずれの講義でも優秀な成績を収めている。実地の懐妊指導は初めてだが、きっと難しくはないはずだ。
気楽に考えるユリアーナに、ロラは微苦笑で答えた。
「わたくしにとってユリアーナさまは我が子のように愛しむべきお方です。ですが、ひとりの女性として尊重いたしております。もちろん君主としても尊敬しております」
「わかっているわ。ありがとう」
何度も繰り返されたロラの言葉に、いつものように返事をする。
――ロラったら、心配性なんだから。
ロラが梳き終わった髪を放すと、艶やかな銀髪がさらりと肩口のレースに舞い散った。
お辞儀をして寝室を辞したロラが扉を閉め、部屋が急に静まり返る。
暖炉に置かれた燭台の炎が音もなく揺れた。天蓋から下ろされた薄い紗布が、蝋燭の灯を映して光と影を織り成している。
「懐妊指導官は厳しい方かしら……?」
寝台の側に置かれた天鵞絨の寝椅子に腰を下ろしたユリアーナは、気を引きしめて指導官の訪れを待つ。
やがて、重厚な樫の扉がノックされた。
「どうぞ、お入りなさい」
懐妊指導官がやってきたらしい。
声をかけて扉へ目を向けると、開いた扉の隙間から手燭の灯が漏れていた。
そこに現れた人物を目にして、ユリアーナは思わず椅子から立ち上がる。
「レオンハルト……⁉」
夜着らしきローブを纏ったレオンハルトが、後ろ手に扉を閉めた。
ひとりだ。
夜に女性の寝室を、男性――しかも供の者も連れていない皇帝が訪れるなんて、ただごとではない。
懐妊指導官が来たものとばかり思っていたユリアーナは、虚を衝かれた。
「どうしたの、レオ……いえ、陛下。何か起こったのですか?」
「ふたりきりのときは、幼なじみとして接してほしいとお願いしただろう。今の私は皇帝ではないよ。敬語も使わなくていい」
薄い笑みを口元に刻んだレオンハルトは、昼のときよりも声をひそめている。そうすると、彼の艶めいた低い声音が、淫靡に響いた。
「あ……そうだったわね。レオンハルトがそれでいいのなら、そうするわ」
「良い子だ。ユリアーナ」
さらりと零れた長い銀髪のひと房を掬い上げ、彼はユリアーナの髪にくちづけを与える。
彼でなければ気分が悪くなりそうなところだが、不思議とユリアーナは嫌悪を覚えなかった。
むしろ、胸がとくりと甘く弾む。
「非常事態が起こったわけではないので、心配しないでくれ。懐妊指導を行うと言っていただろう?」
皇帝が王女の寝室を訪れていること自体、非常事態だが、人払いをしているので侍女や侍従にどういうことなのか訊ねるわけにもいかない。
ユリアーナはレオンハルトから目を逸らして頷いた。
ローブ姿という夜の支度は、昼間の厳格な軍装とは異なり、彼の魅力を増している。男性の無防備な姿を目にするなんて、夫でもなければありえないことだ。
胸が高鳴ってしまう。
「ええ。支度を終えたので、懐妊指導官を待っていたところよ」
「私がその、懐妊指導官だよ」
「……えっ?」
ユリアーナはぎょっとして目を瞠った。
懐妊指導官とは、宮廷付きの教師に与えられる役職ではないだろうか。
それに王女への指導なのだから、ロラのような乳母を務めた経験豊富な女性が教えてくれるものだと思っていた。
「懐妊指導官は、女性ではないの?」
「通常は女性だね。だがユリアーナには、私が直に指導したい。それとも、私では嫌かい?」
「いいえ、そんなことはないけれど……」
嫌だなんてことはない。
レオンハルトは大切な幼なじみで、彼には子どもの頃から好意を抱いている。
互いの立場上、結婚できる間柄ではないと彼への想いは封印していたのだ。
それなのにこうして夜の寝室にふたりきりになり、懐妊指導をしてもらうなんて、淡い恋心が再燃してしまいかねない。
――どうしよう……
困惑したユリアーナは、無意識に身を引いた。レオンハルトの手にしていた銀髪が、さらりと離れて落ちる。
レオンハルトは側のテーブルに手燭を置くと、戸惑うユリアーナに一歩近づいた。ふたりの距離が再び縮まる。
「あなたを困らせることや、嫌がることはしない。安心して私に身を委ねてほしい」
彼の逞しい腕が、ユリアーナの背に回される。薄い夜着のみを纏った頼りない身体を抱き込まれて、ユリアーナはレオンハルトの腕の中にすっぽりと収まった。
どきんと跳ねた鼓動が、早鐘みたいに鳴り響く。
――男の人の身体は、こんなにも熱いのだわ……
初めて抱きしめられた男性が、レオンハルトで良かったと心から思える。
ユリアーナは胸に湧き上がる、じんとした想いを抱えながら、レオンハルトの身体から匂い立つ爽やかな石鹸の香りを吸い込んだ。
この幸せな時間は、これが最後かもしれない。
どうせ想いが叶うことはないのだ。
いずれレオンハルトは国内の貴族の令嬢を妃に娶るだろう。もし妃がいれば、ユリアーナに懐妊指導を行うなどということはありえなかった。レオンハルトが未婚の今だからこそ、申し出てくれたのだ。
そして、ドメルグ大公が野心を捨てない限り、ユリアーナが結婚できる未来もない。
ならば、レオンハルトとの思い出として、彼から懐妊指導を受けたい。
レオンハルトに、処女を捧げたかった。
その結果として、もし子どもが生まれたとしても、王家の子として大切に育てていこう。
ユリアーナは広い背中に、そっと腕を回した。
「レオンハルトに、懐妊指導をしてほしいわ……」
「ありがとう、ユリアーナ。優しくするよ」
抱きしめられ、ちゅ、と額にくちづけを落とされる。大きな掌にゆっくりと髪を撫でられると、心の隅にあった強張りが解けていくようだ。
「身体の力を抜いて、リラックスするんだ。怖いことは何もないから、恐れないで」
「はい……」
ちゅ、ちゅ、と瞼やこめかみ、鼻の頭にまでくちづけられる。
柔らかな唇の感触に陶然としたユリアーナは、ほうと甘い吐息を零した。
懐妊指導は、くちづけまでするものなのだろうかと疑問が湧くものの、レオンハルトのやり方があるのだろうし、彼に任せようと思い直す。
それに、ちっとも嫌ではない。
それどころか、くちづけがひとつ降るたびに、とくんと胸が弾む。
愛する人とひとつになることを期待する心と身体が、次第に高まっていった。
レオンハルトのくちづけは止まない。
頬から顎に落とされた唇は、ついに、紅い唇に優しく触れた。
「あ……」
けれど、すぐに離れていってしまう。
キスは一瞬のできごとだった。
それをユリアーナは、とても寂しいと思ってしまう。
もっと、キスしてほしい。
ねだるように濡れた瞳でレオンハルトを見上げたことに、ユリアーナ自身は気づかなかった。
「あなたの瞳は、とても綺麗だ。その瞳に自分が映っていることに、私は今、猛烈に感動しているよ」
熱の籠もった双眸で情熱的に告げられ、とくりとくりと鼓動が甘く刻まれていく。
そんな台詞を耳元で囁きかけられたら、愛されていると勘違いをしてしまいそうだ。
レオンハルトは懐妊指導官として、義務的に教えるといった指導法ではなかった。まるで本当の恋人か夫婦であると思えるほど、愛情を込めてくれる。
それが、たまらなく嬉しい。
「レオンハルトの紺碧の瞳にも、私が映っているわ……」
「そうだろうとも。私は、あなたしか見ていないのだから」
「お互いだけを見つめることも、懐妊のためには必要なのかしら?」
疑問を呟くと、レオンハルトは薄い笑みを口元に刻んだ。
「そうだね。作業のように行っても、子は孕めないと私は考えている。やはりそこに愛情がなくてはね。だから今夜を、私たち夫婦の初夜としよう。いいかい?」
彼の言うことも、もっともだ。夫婦の営みは愛を伴わなくてはいけない。やり方のみを知っていても、懐妊には繫がらないのかも、とユリアーナは思った。
「ええ、わかったわ」
頷いた彼女の頤を掬い上げたレオンハルトは、精悍な顔を傾ける。
気がついたときには、ふたりの唇は優しく触れ合っていた。
今度は、長いキスだ。
薄い彼の唇の意外な熱さと弾力を感じて、ユリアーナはうっとりと瞼を閉じる。
そっと唇の合わせを柔らかな舌でなぞられる甘い刺激に、ぴくりと肩が跳ねた。誘われるままに薄く唇を開くと、ぬるりと濡れたものが口腔に挿し入れられる。
「ん……っ」
それは歯列を辿り、頬裏をなぞり上げて、敏感な口蓋を舐る。
口内を蹂躙する熱い舌が動くたびに、ユリアーナは身体の芯に熱が灯る気がした。
「ん、ふ……んぅ……」
濃厚なくちづけにより溢れた蜜が、顎を伝い落ちる。
レオンハルトの熱情に臆したユリアーナは思わず腰を引こうとするが、強靱な腕にきつく抱きしめられていて叶わない。
――こんなに激しいくちづけがあったなんて。
くちづけとは、唇を少々くっつけるだけなのだと思っていた。懐妊のためには、こんなにも濃密なくちづけを交わさなければならないのだ。
獰猛な舌に怯える舌を掬い上げられ、じゅるりと啜られる。
じん、と頭の芯が痺れる感覚に、いつしかユリアーナの身体から力が抜けていった。
「あ……はぁ……」
ようやく唇が解放されたときには、すっかり息が上がっている。
くたりと頽れそうになる身体を抱き留めてくれたレオンハルトが、不埒な濡れた舌で口端から零れたユリアーナの蜜を舐め取った。
「上手だよ。さあ、ベッドへ行こう」
膝を掬い上げられ、力の入らない身体が容易く抱え上げられる。軽々と横抱きにされて、すぐ側の寝台へ運ばれた。
レオンハルトがさらりと紗布を捲る。寝台にそっと下ろされた身体を、純白のシーツが優しく受け止めた。
けれどすぐさま男の強靱な身体が覆い被さってきて、密着する熱に、ユリアーナはびくりと身を竦ませる。
「あ……っ」
これから、何が行われるのだろう。
知識としては持っていても、実際に男性の身体に抱きしめられる感触は未知のものだ。
緊張に強張るユリアーナを宥めるように、レオンハルトが微笑みを向けてきた。優しい仕草で銀髪を撫でる。
「深いキスは、気持ち良かった?」
「ん……よくわからないわ」
「初めてで驚いたよね。女性が男性の精を身体の奥で受け止めるためには、前戯が必要なんだ。お互いに触れ合って、性感を高めることが大切なんだよ」
「そうなのね……でも、どうして私が初めてだと知っているの?」
その疑問に、レオンハルトはゆったりとした笑みを浮かべる。
「あなたのことなら、なんでも知っているよ」
薄い夜着の上から、レオンハルトの大きな掌が触れる。彼は脇腹をなぞり、胸の膨らみをそっと掌に包み込んだ。
布地の上なので直接的な感触ではないが、手の熱さが伝わってくる。
優しく揉み込まれ、胸の頂がぞくりと疼いた。
「ん……ん……」
「声は我慢しないで。可愛い声を聞かせてほしい」
「んっ……でも、恥ずかしいわ」
「感じている声を聞くことで、雄は高まるんだ。ほら、こんなふうに」
そっと手を取られて、レオンハルトの股間に導かれる。彼の股の間には、硬くて太い棒状のものが屹立していた。
「えっ⁉ これは……?」
生まれて初めて触れたものに驚いて、ユリアーナは手を離してしまう。
もしかして、これが雄の徴なのだろうか。まさかこんなに大きいなんて。
「これが男根だよ。興奮するとこうなるんだ」
ローブの上からでも充分にその逞しさが伝わる。この雄々しいものを女性の性器にくっつけて受精させるのだ。
女性の下肢には襞があり、その奥が子宮に繫がっている。身体の奥にあるその子宮で子は育まれるという。
ユリアーナは講義で教わった人体の仕組みについて思い出した。
このあとは襞に雄をくっつければ終わりだと予想したユリアーナの夜着を、レオンハルトが丁寧に開いていく。
夜気に触れた白磁に似た肌が、ぶるりと震えた。
「え……どうして、脱がせるの?」
夫婦の営みは夜着を纏った状態で行われるのではないのだろうか。そのために性器のみを露出できる仕様に作られている夜着もあるくらいだ。
だが、身体を起こしたレオンハルトは纏っていたローブを潔く脱ぐと、自らの逞しい裸身を曝した。
まるで名匠が手がけた彫刻みたいな見事な肉体に、ユリアーナは目を瞠る。
男性の裸体を見るのは、もちろん初めてのことだ。
「私はユリアーナのすべてを見たい。あなたの肌も、胸も花襞も、もっと奥のほうまで……目で、指で、そして私の雄で愛でて快楽に啼かせたい」
情熱的で官能に満ちた言葉を注がれて、頬に熱が集まる。
冷徹にも見える皇帝のレオンハルトが、直截な台詞を臆面もなく放つなんて。それほどに欲してくれているのだと、胸が熱くなった。
ふいにレオンハルトが艶めいた双眸を眇める。
「今のあなたは、私の妻だ。初夜の花嫁に私の精をたっぷりと注いで、孕ませたい」
ユリアーナははっとして、彼の端麗な面差しを見上げた。
この行為は指導ではあるが、夫婦として接しようと始めに取り決めたのだ。身も心も夫に委ねていなければ、懐妊には至らないらしいのだから……
「抱いて……レオンハルト」
陶然として、ユリアーナも一夜の夫となったレオンハルトを欲する。
ままごとの夫婦であっても、彼女の心は真にレオンハルトを求めていた。
彼が好きだ。
ずっと、好きだった。幼い頃から今まで、レオンハルトのことを忘れられなかったのだ。
今だけは、彼の花嫁でいられる。
自分の立場のために封印していた想いを、解放できるのだ。
一糸纏わぬ身体を、蝶が羽を開くように男の眼前に曝す。
――今夜だけは私……レオンハルトの妻なのだわ。
ユリアーナの裸体を丹念に眺めたレオンハルトが、くっと息を詰めた。
「綺麗だ……。我が花嫁の肌は、極上の真珠みたいだね」
ちゅ、ちゅ、と首筋から鎖骨へと、キスの雨を降らせる。くちづけのあとは大きな掌が鎖骨をなぞり、胸へ這い下りた。
直に肌に触れているレオンハルトの掌は、このうえもなく熱い。
男の手が、こんなに熱いものだなんて知らなかった。
熱を帯びた掌は、まろやかな胸を包み込み、優しく揉みしだく。そして指の腹で淡い色をした胸の頂をくるくると円を描いて愛撫した。
その刺激にユリアーナの胸の中心がつんと勃ち上がる。
「ああ、勃ってきたね。感じるかい?」
「ん……ん、あ、ん……」
喘ぎながら、ユリアーナは幾度も頷く。
胸を揉み込まれながら乳首を愛撫されるたび、あえかな吐息があとからあとから零れ落ちてしまう。
しかもレオンハルトは両方の胸に刺激を与えてくるのだから、たまらない。
ずくりとした甘い疼きが胸から全身に広がっていく。
官能の芽吹きに身を捩ると、胸の突起が濡れたものに含まれた。
「え……、あっ、ん……」
レオンハルトの口腔に乳首が含まれている。彼は胸に顔を伏せ、美味しそうに乳首を舐めしゃぶっているのだ。
まるで飴を転がすみたいに舌先で弄り、音を立てて啜られる。ちゅく、と淫靡な水音が室内に響き、ユリアーナの頬は羞恥に染まった。
「あ、あ……そんな、こと……」
「ごらん。濡れた乳首が珊瑚みたいに輝いているよ」
その言葉に従って顔を上げて胸元を見やると、淫猥な舌から解放された乳首は淫らに濡れ光っていた。
ぷくりと勃ち上がり、愛撫による快楽を主張している。
「こちらの乳首も可愛がってあげよう」
もう片方の乳首に顔を埋めたレオンハルトは、同じように舌先で愛撫を施し、きつく啜り上げる。その間にも濡れたほうの乳首に指先を伸ばし、硬く尖った乳首を執拗に捏ね回した。
「あぁ……ん、あ……はぁ……」
じわりと身体の奥底から、何かが滲み出てくる。
それはレオンハルトの舌と指先が蠢くたびに強くなっていった。
――これが、快感なのかしら……
熾火が燻るのにも似た熱は、嵐の前兆を伴っている。
初めて知る快楽にユリアーナは身を悶えさせた。
やがて銀糸を滴らせて乳首を離したレオンハルトの唇が、そのまま鳩尾を辿っていく。温かな感触は、まるで彼の色に全身を染め上げていこうとしているみたいだ。下腹へ這い下り、今度は臍の窪みに舌先を捩り込ませる。
それが銀色の淡い茂みを掠めたとき、男の手が腿にかかり、ゆっくりとユリアーナの足を開かせた。
「あ……」
恥ずかしい部分を、レオンハルトが瞬きもせずに凝視している。足の狭間は、彼女自身も見たことがない場所だ。
「見ないで……恥ずかしい……」
「とても綺麗だよ。ずっと、あなたの花襞を見たいと願っていた」
「ずっと……?」
「そう。子どもの頃から」
そう言ってレオンハルトが顔を沈めると、足の間に濡れた感触を覚える。身体が覚えた彼の熱い舌先が、ぴたりと閉じていた花襞を優しくなぞり上げていくのがわかった。
硬い蕾が開くように、襞がその花弁を開く。
「ああ……もう濡れているね。まるで朝露が零れたみたいだ」
とろりと花弁の奥の蜜壺から愛液が滴り落ち、レオンハルトが躊躇いもなくそれを啜り上げた。
じゅるっと淫猥な水音が響き、ユリアーナは驚いて腰を跳ね上げる。
「えっ⁉ 何をしたの?」
まさか、と驚愕する。
皇帝であるレオンハルトが誰かの足の狭間に顔を埋めるばかりか、下肢から溢れたものを口に含むなんて。
戸惑うユリアーナを、彼は優しく腰を撫でて宥めた。
「心配ないよ。愛液を啜っただけだ。ユリアーナの蜜はとても甘美で美味しい」
「愛液……? けれど、身体から出てくるものを啜るなんて、汚くはないの?」
碧色の濡れた瞳を瞬かせるユリアーナの疑問に、蕩ける声が返される。
「愛の営みに汚いことなどありはしない。身体の性感が高まると、女性は足の間から愛液を滴らせるんだ。その蜜で滑りが良くなり、雄を呑み込みやすくするんだよ」
「雄を、呑み込む……の?」
「そうだよ。処女の壺口は硬いから、もっと溶かしてあげよう。そうすれば私の雄も中に入っていける」
どうやら夫婦の営みとは、性器をくっつけるだけではないらしい。
中に入るということはまさか、膣にレオンハルトの男性器を挿入するのだろうか。
先ほど触れた彼の雄はとても硬くて太かった。あんなに大きなものをお腹に入れるなんて、信じられない。
「変ね……。七日という日程は事前に使者から伝えていたはずなのに。どこかで齟齬があったのかしら。私から陛下に伺ってみるわ」
「ユリアーナさまのお手を煩わせて申し訳ございません。わたくしからも侍女頭に詳しいことを聞いてみます」
「いいのよ、気にしないで。侍女頭と仲良くしてちょうだいね」
「かしこまりましてございます」
深く頭を下げたロラだが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえばユリアーナさま。懐妊指導をお受けになるとか」
「ええ、そうなのよ。皇帝陛下の助言なの」
「それはようございますね。今晩、懐妊指導官がお越しになるので、侍女は寝室に近づかないようにと命じられておりますが……ユリアーナさまは、わたくしがいなくても大丈夫でございますか?」
母親みたいな心配顔で案じる彼女に、ユリアーナは笑顔を向ける。
「もちろん平気よ。ロラったら、私がいつまでも子どもだと思っているのね」
懐妊指導官は王族の子女へ懐妊のための手ほどきを行う宮廷付きの女教師であり、身元のしっかりした人物でなければ着任できない。人払いを行うのも、その講義内容が繊細であるゆえだ。
今まで帝王学や経済学などの数多の講義を受けてきたが、ユリアーナはいずれの講義でも優秀な成績を収めている。実地の懐妊指導は初めてだが、きっと難しくはないはずだ。
気楽に考えるユリアーナに、ロラは微苦笑で答えた。
「わたくしにとってユリアーナさまは我が子のように愛しむべきお方です。ですが、ひとりの女性として尊重いたしております。もちろん君主としても尊敬しております」
「わかっているわ。ありがとう」
何度も繰り返されたロラの言葉に、いつものように返事をする。
――ロラったら、心配性なんだから。
ロラが梳き終わった髪を放すと、艶やかな銀髪がさらりと肩口のレースに舞い散った。
お辞儀をして寝室を辞したロラが扉を閉め、部屋が急に静まり返る。
暖炉に置かれた燭台の炎が音もなく揺れた。天蓋から下ろされた薄い紗布が、蝋燭の灯を映して光と影を織り成している。
「懐妊指導官は厳しい方かしら……?」
寝台の側に置かれた天鵞絨の寝椅子に腰を下ろしたユリアーナは、気を引きしめて指導官の訪れを待つ。
やがて、重厚な樫の扉がノックされた。
「どうぞ、お入りなさい」
懐妊指導官がやってきたらしい。
声をかけて扉へ目を向けると、開いた扉の隙間から手燭の灯が漏れていた。
そこに現れた人物を目にして、ユリアーナは思わず椅子から立ち上がる。
「レオンハルト……⁉」
夜着らしきローブを纏ったレオンハルトが、後ろ手に扉を閉めた。
ひとりだ。
夜に女性の寝室を、男性――しかも供の者も連れていない皇帝が訪れるなんて、ただごとではない。
懐妊指導官が来たものとばかり思っていたユリアーナは、虚を衝かれた。
「どうしたの、レオ……いえ、陛下。何か起こったのですか?」
「ふたりきりのときは、幼なじみとして接してほしいとお願いしただろう。今の私は皇帝ではないよ。敬語も使わなくていい」
薄い笑みを口元に刻んだレオンハルトは、昼のときよりも声をひそめている。そうすると、彼の艶めいた低い声音が、淫靡に響いた。
「あ……そうだったわね。レオンハルトがそれでいいのなら、そうするわ」
「良い子だ。ユリアーナ」
さらりと零れた長い銀髪のひと房を掬い上げ、彼はユリアーナの髪にくちづけを与える。
彼でなければ気分が悪くなりそうなところだが、不思議とユリアーナは嫌悪を覚えなかった。
むしろ、胸がとくりと甘く弾む。
「非常事態が起こったわけではないので、心配しないでくれ。懐妊指導を行うと言っていただろう?」
皇帝が王女の寝室を訪れていること自体、非常事態だが、人払いをしているので侍女や侍従にどういうことなのか訊ねるわけにもいかない。
ユリアーナはレオンハルトから目を逸らして頷いた。
ローブ姿という夜の支度は、昼間の厳格な軍装とは異なり、彼の魅力を増している。男性の無防備な姿を目にするなんて、夫でもなければありえないことだ。
胸が高鳴ってしまう。
「ええ。支度を終えたので、懐妊指導官を待っていたところよ」
「私がその、懐妊指導官だよ」
「……えっ?」
ユリアーナはぎょっとして目を瞠った。
懐妊指導官とは、宮廷付きの教師に与えられる役職ではないだろうか。
それに王女への指導なのだから、ロラのような乳母を務めた経験豊富な女性が教えてくれるものだと思っていた。
「懐妊指導官は、女性ではないの?」
「通常は女性だね。だがユリアーナには、私が直に指導したい。それとも、私では嫌かい?」
「いいえ、そんなことはないけれど……」
嫌だなんてことはない。
レオンハルトは大切な幼なじみで、彼には子どもの頃から好意を抱いている。
互いの立場上、結婚できる間柄ではないと彼への想いは封印していたのだ。
それなのにこうして夜の寝室にふたりきりになり、懐妊指導をしてもらうなんて、淡い恋心が再燃してしまいかねない。
――どうしよう……
困惑したユリアーナは、無意識に身を引いた。レオンハルトの手にしていた銀髪が、さらりと離れて落ちる。
レオンハルトは側のテーブルに手燭を置くと、戸惑うユリアーナに一歩近づいた。ふたりの距離が再び縮まる。
「あなたを困らせることや、嫌がることはしない。安心して私に身を委ねてほしい」
彼の逞しい腕が、ユリアーナの背に回される。薄い夜着のみを纏った頼りない身体を抱き込まれて、ユリアーナはレオンハルトの腕の中にすっぽりと収まった。
どきんと跳ねた鼓動が、早鐘みたいに鳴り響く。
――男の人の身体は、こんなにも熱いのだわ……
初めて抱きしめられた男性が、レオンハルトで良かったと心から思える。
ユリアーナは胸に湧き上がる、じんとした想いを抱えながら、レオンハルトの身体から匂い立つ爽やかな石鹸の香りを吸い込んだ。
この幸せな時間は、これが最後かもしれない。
どうせ想いが叶うことはないのだ。
いずれレオンハルトは国内の貴族の令嬢を妃に娶るだろう。もし妃がいれば、ユリアーナに懐妊指導を行うなどということはありえなかった。レオンハルトが未婚の今だからこそ、申し出てくれたのだ。
そして、ドメルグ大公が野心を捨てない限り、ユリアーナが結婚できる未来もない。
ならば、レオンハルトとの思い出として、彼から懐妊指導を受けたい。
レオンハルトに、処女を捧げたかった。
その結果として、もし子どもが生まれたとしても、王家の子として大切に育てていこう。
ユリアーナは広い背中に、そっと腕を回した。
「レオンハルトに、懐妊指導をしてほしいわ……」
「ありがとう、ユリアーナ。優しくするよ」
抱きしめられ、ちゅ、と額にくちづけを落とされる。大きな掌にゆっくりと髪を撫でられると、心の隅にあった強張りが解けていくようだ。
「身体の力を抜いて、リラックスするんだ。怖いことは何もないから、恐れないで」
「はい……」
ちゅ、ちゅ、と瞼やこめかみ、鼻の頭にまでくちづけられる。
柔らかな唇の感触に陶然としたユリアーナは、ほうと甘い吐息を零した。
懐妊指導は、くちづけまでするものなのだろうかと疑問が湧くものの、レオンハルトのやり方があるのだろうし、彼に任せようと思い直す。
それに、ちっとも嫌ではない。
それどころか、くちづけがひとつ降るたびに、とくんと胸が弾む。
愛する人とひとつになることを期待する心と身体が、次第に高まっていった。
レオンハルトのくちづけは止まない。
頬から顎に落とされた唇は、ついに、紅い唇に優しく触れた。
「あ……」
けれど、すぐに離れていってしまう。
キスは一瞬のできごとだった。
それをユリアーナは、とても寂しいと思ってしまう。
もっと、キスしてほしい。
ねだるように濡れた瞳でレオンハルトを見上げたことに、ユリアーナ自身は気づかなかった。
「あなたの瞳は、とても綺麗だ。その瞳に自分が映っていることに、私は今、猛烈に感動しているよ」
熱の籠もった双眸で情熱的に告げられ、とくりとくりと鼓動が甘く刻まれていく。
そんな台詞を耳元で囁きかけられたら、愛されていると勘違いをしてしまいそうだ。
レオンハルトは懐妊指導官として、義務的に教えるといった指導法ではなかった。まるで本当の恋人か夫婦であると思えるほど、愛情を込めてくれる。
それが、たまらなく嬉しい。
「レオンハルトの紺碧の瞳にも、私が映っているわ……」
「そうだろうとも。私は、あなたしか見ていないのだから」
「お互いだけを見つめることも、懐妊のためには必要なのかしら?」
疑問を呟くと、レオンハルトは薄い笑みを口元に刻んだ。
「そうだね。作業のように行っても、子は孕めないと私は考えている。やはりそこに愛情がなくてはね。だから今夜を、私たち夫婦の初夜としよう。いいかい?」
彼の言うことも、もっともだ。夫婦の営みは愛を伴わなくてはいけない。やり方のみを知っていても、懐妊には繫がらないのかも、とユリアーナは思った。
「ええ、わかったわ」
頷いた彼女の頤を掬い上げたレオンハルトは、精悍な顔を傾ける。
気がついたときには、ふたりの唇は優しく触れ合っていた。
今度は、長いキスだ。
薄い彼の唇の意外な熱さと弾力を感じて、ユリアーナはうっとりと瞼を閉じる。
そっと唇の合わせを柔らかな舌でなぞられる甘い刺激に、ぴくりと肩が跳ねた。誘われるままに薄く唇を開くと、ぬるりと濡れたものが口腔に挿し入れられる。
「ん……っ」
それは歯列を辿り、頬裏をなぞり上げて、敏感な口蓋を舐る。
口内を蹂躙する熱い舌が動くたびに、ユリアーナは身体の芯に熱が灯る気がした。
「ん、ふ……んぅ……」
濃厚なくちづけにより溢れた蜜が、顎を伝い落ちる。
レオンハルトの熱情に臆したユリアーナは思わず腰を引こうとするが、強靱な腕にきつく抱きしめられていて叶わない。
――こんなに激しいくちづけがあったなんて。
くちづけとは、唇を少々くっつけるだけなのだと思っていた。懐妊のためには、こんなにも濃密なくちづけを交わさなければならないのだ。
獰猛な舌に怯える舌を掬い上げられ、じゅるりと啜られる。
じん、と頭の芯が痺れる感覚に、いつしかユリアーナの身体から力が抜けていった。
「あ……はぁ……」
ようやく唇が解放されたときには、すっかり息が上がっている。
くたりと頽れそうになる身体を抱き留めてくれたレオンハルトが、不埒な濡れた舌で口端から零れたユリアーナの蜜を舐め取った。
「上手だよ。さあ、ベッドへ行こう」
膝を掬い上げられ、力の入らない身体が容易く抱え上げられる。軽々と横抱きにされて、すぐ側の寝台へ運ばれた。
レオンハルトがさらりと紗布を捲る。寝台にそっと下ろされた身体を、純白のシーツが優しく受け止めた。
けれどすぐさま男の強靱な身体が覆い被さってきて、密着する熱に、ユリアーナはびくりと身を竦ませる。
「あ……っ」
これから、何が行われるのだろう。
知識としては持っていても、実際に男性の身体に抱きしめられる感触は未知のものだ。
緊張に強張るユリアーナを宥めるように、レオンハルトが微笑みを向けてきた。優しい仕草で銀髪を撫でる。
「深いキスは、気持ち良かった?」
「ん……よくわからないわ」
「初めてで驚いたよね。女性が男性の精を身体の奥で受け止めるためには、前戯が必要なんだ。お互いに触れ合って、性感を高めることが大切なんだよ」
「そうなのね……でも、どうして私が初めてだと知っているの?」
その疑問に、レオンハルトはゆったりとした笑みを浮かべる。
「あなたのことなら、なんでも知っているよ」
薄い夜着の上から、レオンハルトの大きな掌が触れる。彼は脇腹をなぞり、胸の膨らみをそっと掌に包み込んだ。
布地の上なので直接的な感触ではないが、手の熱さが伝わってくる。
優しく揉み込まれ、胸の頂がぞくりと疼いた。
「ん……ん……」
「声は我慢しないで。可愛い声を聞かせてほしい」
「んっ……でも、恥ずかしいわ」
「感じている声を聞くことで、雄は高まるんだ。ほら、こんなふうに」
そっと手を取られて、レオンハルトの股間に導かれる。彼の股の間には、硬くて太い棒状のものが屹立していた。
「えっ⁉ これは……?」
生まれて初めて触れたものに驚いて、ユリアーナは手を離してしまう。
もしかして、これが雄の徴なのだろうか。まさかこんなに大きいなんて。
「これが男根だよ。興奮するとこうなるんだ」
ローブの上からでも充分にその逞しさが伝わる。この雄々しいものを女性の性器にくっつけて受精させるのだ。
女性の下肢には襞があり、その奥が子宮に繫がっている。身体の奥にあるその子宮で子は育まれるという。
ユリアーナは講義で教わった人体の仕組みについて思い出した。
このあとは襞に雄をくっつければ終わりだと予想したユリアーナの夜着を、レオンハルトが丁寧に開いていく。
夜気に触れた白磁に似た肌が、ぶるりと震えた。
「え……どうして、脱がせるの?」
夫婦の営みは夜着を纏った状態で行われるのではないのだろうか。そのために性器のみを露出できる仕様に作られている夜着もあるくらいだ。
だが、身体を起こしたレオンハルトは纏っていたローブを潔く脱ぐと、自らの逞しい裸身を曝した。
まるで名匠が手がけた彫刻みたいな見事な肉体に、ユリアーナは目を瞠る。
男性の裸体を見るのは、もちろん初めてのことだ。
「私はユリアーナのすべてを見たい。あなたの肌も、胸も花襞も、もっと奥のほうまで……目で、指で、そして私の雄で愛でて快楽に啼かせたい」
情熱的で官能に満ちた言葉を注がれて、頬に熱が集まる。
冷徹にも見える皇帝のレオンハルトが、直截な台詞を臆面もなく放つなんて。それほどに欲してくれているのだと、胸が熱くなった。
ふいにレオンハルトが艶めいた双眸を眇める。
「今のあなたは、私の妻だ。初夜の花嫁に私の精をたっぷりと注いで、孕ませたい」
ユリアーナははっとして、彼の端麗な面差しを見上げた。
この行為は指導ではあるが、夫婦として接しようと始めに取り決めたのだ。身も心も夫に委ねていなければ、懐妊には至らないらしいのだから……
「抱いて……レオンハルト」
陶然として、ユリアーナも一夜の夫となったレオンハルトを欲する。
ままごとの夫婦であっても、彼女の心は真にレオンハルトを求めていた。
彼が好きだ。
ずっと、好きだった。幼い頃から今まで、レオンハルトのことを忘れられなかったのだ。
今だけは、彼の花嫁でいられる。
自分の立場のために封印していた想いを、解放できるのだ。
一糸纏わぬ身体を、蝶が羽を開くように男の眼前に曝す。
――今夜だけは私……レオンハルトの妻なのだわ。
ユリアーナの裸体を丹念に眺めたレオンハルトが、くっと息を詰めた。
「綺麗だ……。我が花嫁の肌は、極上の真珠みたいだね」
ちゅ、ちゅ、と首筋から鎖骨へと、キスの雨を降らせる。くちづけのあとは大きな掌が鎖骨をなぞり、胸へ這い下りた。
直に肌に触れているレオンハルトの掌は、このうえもなく熱い。
男の手が、こんなに熱いものだなんて知らなかった。
熱を帯びた掌は、まろやかな胸を包み込み、優しく揉みしだく。そして指の腹で淡い色をした胸の頂をくるくると円を描いて愛撫した。
その刺激にユリアーナの胸の中心がつんと勃ち上がる。
「ああ、勃ってきたね。感じるかい?」
「ん……ん、あ、ん……」
喘ぎながら、ユリアーナは幾度も頷く。
胸を揉み込まれながら乳首を愛撫されるたび、あえかな吐息があとからあとから零れ落ちてしまう。
しかもレオンハルトは両方の胸に刺激を与えてくるのだから、たまらない。
ずくりとした甘い疼きが胸から全身に広がっていく。
官能の芽吹きに身を捩ると、胸の突起が濡れたものに含まれた。
「え……、あっ、ん……」
レオンハルトの口腔に乳首が含まれている。彼は胸に顔を伏せ、美味しそうに乳首を舐めしゃぶっているのだ。
まるで飴を転がすみたいに舌先で弄り、音を立てて啜られる。ちゅく、と淫靡な水音が室内に響き、ユリアーナの頬は羞恥に染まった。
「あ、あ……そんな、こと……」
「ごらん。濡れた乳首が珊瑚みたいに輝いているよ」
その言葉に従って顔を上げて胸元を見やると、淫猥な舌から解放された乳首は淫らに濡れ光っていた。
ぷくりと勃ち上がり、愛撫による快楽を主張している。
「こちらの乳首も可愛がってあげよう」
もう片方の乳首に顔を埋めたレオンハルトは、同じように舌先で愛撫を施し、きつく啜り上げる。その間にも濡れたほうの乳首に指先を伸ばし、硬く尖った乳首を執拗に捏ね回した。
「あぁ……ん、あ……はぁ……」
じわりと身体の奥底から、何かが滲み出てくる。
それはレオンハルトの舌と指先が蠢くたびに強くなっていった。
――これが、快感なのかしら……
熾火が燻るのにも似た熱は、嵐の前兆を伴っている。
初めて知る快楽にユリアーナは身を悶えさせた。
やがて銀糸を滴らせて乳首を離したレオンハルトの唇が、そのまま鳩尾を辿っていく。温かな感触は、まるで彼の色に全身を染め上げていこうとしているみたいだ。下腹へ這い下り、今度は臍の窪みに舌先を捩り込ませる。
それが銀色の淡い茂みを掠めたとき、男の手が腿にかかり、ゆっくりとユリアーナの足を開かせた。
「あ……」
恥ずかしい部分を、レオンハルトが瞬きもせずに凝視している。足の狭間は、彼女自身も見たことがない場所だ。
「見ないで……恥ずかしい……」
「とても綺麗だよ。ずっと、あなたの花襞を見たいと願っていた」
「ずっと……?」
「そう。子どもの頃から」
そう言ってレオンハルトが顔を沈めると、足の間に濡れた感触を覚える。身体が覚えた彼の熱い舌先が、ぴたりと閉じていた花襞を優しくなぞり上げていくのがわかった。
硬い蕾が開くように、襞がその花弁を開く。
「ああ……もう濡れているね。まるで朝露が零れたみたいだ」
とろりと花弁の奥の蜜壺から愛液が滴り落ち、レオンハルトが躊躇いもなくそれを啜り上げた。
じゅるっと淫猥な水音が響き、ユリアーナは驚いて腰を跳ね上げる。
「えっ⁉ 何をしたの?」
まさか、と驚愕する。
皇帝であるレオンハルトが誰かの足の狭間に顔を埋めるばかりか、下肢から溢れたものを口に含むなんて。
戸惑うユリアーナを、彼は優しく腰を撫でて宥めた。
「心配ないよ。愛液を啜っただけだ。ユリアーナの蜜はとても甘美で美味しい」
「愛液……? けれど、身体から出てくるものを啜るなんて、汚くはないの?」
碧色の濡れた瞳を瞬かせるユリアーナの疑問に、蕩ける声が返される。
「愛の営みに汚いことなどありはしない。身体の性感が高まると、女性は足の間から愛液を滴らせるんだ。その蜜で滑りが良くなり、雄を呑み込みやすくするんだよ」
「雄を、呑み込む……の?」
「そうだよ。処女の壺口は硬いから、もっと溶かしてあげよう。そうすれば私の雄も中に入っていける」
どうやら夫婦の営みとは、性器をくっつけるだけではないらしい。
中に入るということはまさか、膣にレオンハルトの男性器を挿入するのだろうか。
先ほど触れた彼の雄はとても硬くて太かった。あんなに大きなものをお腹に入れるなんて、信じられない。
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