身代わり花嫁は俺様御曹司の抱き枕

沖田弥子

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婚前旅行編

スケルトンバスへの誘い 1

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 ディナーを終えると、ヴィラへ戻った私はバスルームへ向かった。
 海外はシャワーがメインだけれど、やっぱり湯船に浸かって疲れを取りたい。
 大きな窓から海が眺められるバスタブはなんと透明で、下の海が透けて見えた。いくつもの花が散らされているスケルトンバスからは、良い香りが立ち上っている。昼間に入浴すれば、花の下で泳ぐ魚たちが見られそう。
 ゆったりと透明なバスタブに浸かれば、心地好い疲労感が昇華していくのを感じる。
 ……と、うなじにくちづけられる感触で、私は途端に現在の状況を思い出した。

「うなじと首筋に、たくさん痕をつけてやる。いつも痕をつけるなとうるさいが、しばらくは誰にも会わないんだからな」

 ちゅ、ちゅ、と雄々しい唇がうなじに吸いついて、徐々に肩のほうに這い下りていく。
 肌のどこかを触れ合わせている約束により、当然のごとくバスルームについてきた瑛司からワンピースを脱がされ、一緒にバスタブに入って後ろから抱きしめられているという状態だ。

「……んっ、もう……そんなに吸ったら、いっぱい蚊に刺されたみたいになっちゃう」

 肩を吸った唇は、またうなじを辿っていく。
 じゅっ、と耳の後ろを強く吸われて、私の膝はびくんと跳ねた。
 フラワーバスに浮かべられた花たちが、ふわりと揺れる。

「この島には蚊がいないから、問題ない。おまえの肌を吸うのは俺だけだから安心しろ」
「それ、安心することじゃないんじゃ……んんっ」

 不埒な掌が胸へ回り、湯の中でたゆんと揺れる乳房を弄んだ。
 濃厚な花の香り、それに乳房を揉み込まれる甘い快感に包まれて、私は喉を仰け反らせる。

「あっ……あん……」

 大きな掌に擦られた乳首が、つんと硬く勃ち上がってしまう。
 瑛司の手の中にすっぽりと包み込まれた胸の膨らみを、円を描くように愛撫されて、浅い息を継いだ。
 肩口を甘噛みする瑛司の片手が、するりと下腹を辿り、淫裂へと忍び込む。
 長い指でなぞられるけれど、足を開いていないので、花襞はぴたりと口を閉ざしていた。

「花園の入り口は固く閉じているな」

 瑛司の声が嬉しそうに弾んでいる。
 私がまだ身代わり花嫁だったとき、大島家のお風呂で同じように体を弄られたことを思い出した。あのとき瑛司は『花嫁の体は俺が洗う』と頑として譲らなかった。私の抵抗虚しく、結局一緒にお風呂に入ることになり、洗い場で洗われながら体の至るところを愛撫されたのだ。
 思い返すと未だに顔が赤くなる。
 独占欲の強い瑛司は征服することに燃えるようで、そのときから私は瑛司の好きなように体を蕩かされるばかりだ。
 でも……
 私は、ちらりとバスタブの外に目を向けた。
 ここは海外なので日本の風呂場とは異なり、洗い場というものがない。シャワールームには腰をかけられる備え付けの台座があるけれど、休憩のためという感じの造りなので、あそこに座らせて洗うというのは無理がある。
 ほっとする反面、がっかりしてしまうという両極の感情が胸の裡に湧き上がる。
 そのとき、今度は耳朶を甘噛みしていた瑛司が、ふいに囁いた。

「今夜は記念すべき九十九夜だ。思い出に残るセックスにしようじゃないか」
「そ、そう? 瑛司とのセ……は、全部思い出に残ってるよ?」

 なぜか息を呑んだ瑛司は、背後からぎゅっと私の体を抱きしめる。

「おまえは俺を昂ぶらせる天才だ」
「えっ?」

 何が瑛司を感動させたのかよくわからないけれど、私の腰に当たっている雄芯はすでに硬く屹立していた。
 瑛司に体を返されて、向き合う格好になる。
 精悍な相貌が傾き、雄々しい唇が近づいたのを目にした私はそっと瞼を閉じる。
 しっとりと、唇は重ね合わされた。
 何度キスを重ねても、新しい情愛が湧き上がってくる。
 まるで枯れない泉のようだ。瑛司への恋心は九十九夜を迎えても衰えるどころか、初めてのときと同じように胸がどきどきと弾む。
 くちづけながら、背に回された腕で引き寄せられ、さらに体は密着した。くちづけも、深いものへと変わる。
 夢中になって濡れた舌を絡め合い、ふたりの唾液を混じり合わせて貪欲に啜る。
 瑛司の分厚い舌はいつでも獰猛に、私の小さな舌を掬い上げて翻弄した。
 濃密な接吻に息が上がってくる。ようやく互いの唇が離れたとき、ふいに私の体が浮き上がった。
 ざばりと湯が波打つ。

「あっ……」

 瑛司に両手で腋を持ち上げられたのだ。私は自然にバスタブの底に足を着いて、立ち上がる。
 どうしたのだろう。お風呂から上がるのかな?
 首を傾げる私に瑛司は、にやりと口端を吊り上げてみせた。
 ……結婚詐欺師のようなこの顔は、何かを企んでいる。おそらく、とても口にできないような淫らなことを。

「そのまま片足を上げてみろ。支えておいてやるから、バスタブの縁に踵を乗せるんだ」
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