上 下
24 / 28
婚前旅行編

ふたりきりのロマンティックディナー

しおりを挟む
 静かな波が打ち寄せる中、エスコートされてゆったりと歩んでいく。
 辿り着いたテーブルにはキャンドルの灯火と共に、ディナー用のテーブルセッティングがコーディネートされていた。瑛司に椅子を引いてもらい、着席する。
 ふたりきりのロマンティックなディナーを迎えた。初めの料理はなんといっても、テーブルから見渡せる大海原と、その海に沈もうとしている夕陽だ。
 うっとりとして夕陽が水平線に沈もうとしている雄大な景色を眺めていると……ふと、足に温かなものがくっつけられていることに気づく。

「ん?」

 テーブルの下を覗き込んだ私は目を瞬かせた。
 いつのまにか瑛司の長い足が、私の足に絡められている。テーブルは狭いわけではないのに。
 私の疑問を察知したかのように、瑛司は悠々と言い放つ。

「これなら両手で食事をしても安心だからな」
「……そうだね」

 満足げな瑛司に微苦笑を返す。
 まるで私の体温がないと、彼は呼吸すらできないとでも言いたげなほどだ。瑛司の執着愛には白旗を上げてしまう。
 そのとき、銀盆を掲げた島のスタッフが音もなく小道を歩いてきた。
 私と瑛司の前に置かれたフルートグラスに、シャンパンのボトルから黄金色の液体が注がれる。
 瑛司がフルートグラスを掲げたので、私もそれに倣う。

「ふたりの初夜に、乾杯」
「しょ……初夜って……!」

 小さな音を立てて、フルートグラスの縁が重ね合わされた。
 その刹那、ふたりのグラスに映り込んだ夕日の最後の一欠片が海に溶け落ちる。
 平然としている瑛司は優雅な仕草でシャンパンをひとくち含む。

「テタンジェの洗練された味わいは幅広い料理に合うが、今夜のディナーは魚介類をメインにしたのでワインとのマリアージュを楽しもう」

 いかにもお金持ちらしい、こだわりのある台詞をなんとなく理解した私は、金の蔓模様が描かれた繊細なフルートグラスを、純白のテーブルクロスの上に置いた。
 ふたりきりだけれど、小声で瑛司に問いかける。

「ちょっと瑛司、なんて恥ずかしいこと言うの。私たち、初夜じゃないよ」

 婚前旅行ではあるけれど、とうに同棲して、婚約しているのだ。
 まるで今夜がふたりが結ばれる初めての夜と、特別な扱いにされたようで、私の頬が朱に染まる。

「俺たちにとっては初めての旅行だから初夜と称してみたのだが、訂正しよう。正確には、九十九夜だ」
「……えっ、そうなの? もしかして、数えてるの?」
「当然だ。俺の病を治すという流れからのセックスを一夜目とカウントして、今夜が九十九夜目だ」
「……すごいね」

 瑛司の明晰な頭脳がこんなところにも生かされているんだなぁ……と、私は妙に感心してしまう。何回セックスしたかなんて、覚えていられない。瑛司が明確に数えていることに呆れる一方で、とても嬉しくて。
 今夜からは私も、何回目なのかメモ帳に付けておこう……
 大粒の星空の下で、仄かな明かりと共にロマンティックディナーに舌鼓を打つ。
 冷たい前菜は真鯛のサラダ仕立て。温かい前菜は、カキとムール貝のナージュ仕立て。どちらも新鮮な魚介の出汁が生かされた料理だ。まるで庭園を思わせるような芸術的な盛り付けも美しい。
 渡り蟹の濃厚なポタージュの次は、魚料理のブレゼ、トマトフォンデュと共に。地元産の白身魚が白ワインで調理され、魚介の旨味が存分に引き出されている。
 そのあとは、肉料理の仔牛フィレ肉のポワレ、マデラ酒のソースを添えて。
 どの料理も、特別なロマンティックディナーを彩る最高の品だ。
 私は輝く星空を眺めたり、打ち寄せる波の囁きを聞いたり、そして豪勢なディナーを堪能したりと、感嘆の連続である。 
 やがて濃厚なチーズに赤ワインというマリアージュを楽しんでいるとき、ふいに瑛司は真摯な双眸で私を見つめた。

「だが俺は、九十九夜だろうが千夜だろうが、初夜と変わらない想いでおまえを抱きたい。俺にとって、おまえとのセックスはいつでも新鮮な気持ちで挑んでいる」

 私はワイングラスを手にしたまま、目を見開く。
 まるで、九十九夜目のプロポーズみたい。
 瑛司は初夜からずっとこの先も、千夜を超えても、私を好きでいてくれるんだ……
 そのことが、じんわりと心に染みた。まるで温かい水に満たされるように、体の深いところまで浸透する。

「瑛司ったら、もう……恥ずかしいこと言うんだから……」

 九十九夜目も、そして千夜目も、私は瑛司に抱かれながら眩い朝陽を見ることができるだろう。
 私も、瑛司のことが大好きだから。
 デザートを食べてディナーを締め括る頃には、私はまるで魔法にでもかかったように、瑛司から目を離せなくなってしまったのだった。
 私たちは見つめ合いながら、南の島のロマンティックな夜を過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!? 不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。 「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」 強引に同居が始まって甘やかされています。 人生ボロボロOL × 財閥御曹司 甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。 「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」 表紙イラスト ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。