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1巻

1-3

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 彼女は、俺のかぎ爪でちょいちょいと引っかけてやると、おもしろいほど反応を示す。
 初めは真っ赤になって反論していたが、やがて俺のやり方に慣れると、距離を取るようになった。そこをまたかぎ爪で引っかける。吉岡さんとのやり取りは楽しくて仕方ない。
 だが、彼女をもてあそびたいわけではない。
 懸命に仕事を頑張る姿を見ているうちに、健気な吉岡さんの力になりたいと思うようになった。
 例えば今日、彼女の同僚である村木から意地悪く仕事を押しつけられたときも、嫌な顔一つせず彼女は引き受けた。そんな真面目なところにも好感を持っている。やがて俺は、仕事だけでなくプライベートの彼女のことも知りたくなった。
 だが、会社の飲み会では肉食女子たちに囲まれて身動きがとれない。しかも吉岡さんは、高橋と仲睦まじそうに話しているではないか。
 俺の耳に、二人が恋愛について話しているのが届いた。
 二人の話していた『あてのないドライブ』のことを聞き出す目的もあり、ホテルのバーへ誘ったわけだが、話を聞いて納得した。吉岡さんは恋愛に奥手のようだが、それは昔の男から与えられた傷のせいだったのだ。
 そうなると、デリケートになっている彼女に「付き合ってくれ」と告白さえすればいいというわけにはいかないようだ。
 俺は彼女の顔を覗き込んで、微笑を浮かべた。

「それは、一夜に誘ってくれている、と受け取ってもいいのかな?」
「いえ、あの、私、すごく大胆なことを言ってしまいましたよね」
「少し驚いたけどね。俺はきみの気持ちを大切にしたい。吉岡さんは、子どもが欲しいの?」
「はい。恋愛や結婚はしなくていいんです。子どもだけが欲しいんです」

 彼女は言いきった。
 独特な価値観に、俺は笑みを顔面に貼りつけながら内心で驚愕するしかない。

「つまり……俺の体だけが目当てで、それ以外に興味はない……ということかい?」
「ええと……はい。そうなります」

 ――この機会を逃してはならない。
 彼女が俺と寝たいと望んでいるなんて、極上の据え膳だ。
 しかし俺としては体だけの関係でいいわけではないので、少々舵取りをしたいところだ。
 彼女にバレないよう牙を綺麗に隠した俺は笑みを見せる。

「それじゃあ、部屋へ行こうか。二人きりの空間で、もう少しゆっくり話そう」

 バーへ来る前に、すでにコンシェルジュデスクで部屋を取っている。吉岡さんから、泊まるのかと疑問がなかったのには驚いたが、清純な彼女のことだ、バーへの入場にもチェックが必要と思ったのかもしれない。
 そのときちょうど、ピアノの演奏がやんだ。
 バーは静かな空間に包まれる。
 周りに目を配った吉岡さんは、ゆるゆると頷いた。
 我々はそれぞれのグラスを手に取ると、残った酒を飲み干した。
 ロックグラスに隠して舌舐めずりをした俺は、無垢むくな羊をからる算段をした。


    ◆


 バーを出た私と部長は、エレベーターに乗り込み、ある階で下りた。
 いくつもの扉の前を通り過ぎて廊下を進み、突き当たりのドアの前で部長はカードキーをかざす。
 初めにデスクに寄ったときにチェックインを済ませていたようだ。
 ということは……部長は私の話を聞く以前から、ホテルに泊まる前提だったのだろうか。
 私は脳内に広がる妄想を打ち消した。
 二人でホテルに泊まると、あらかじめ決まっていたわけではない。部長が一人で宿泊するつもりだったのだろう。
 廊下を進み室内に入ると、丁寧に整えられたベッドが二つ並んでいた。奥には簡易的なデスクと椅子がある。窓からは鮮やかな照明に彩られたシンボルタワーが見えた。

「綺麗ですね……」

 私が呟くと、あとから部屋に入った部長が、カチリとドアガードをロックする。防犯のために必要だからだろうけれど、なんだか部長に囚われたように感じてしまう。
 景色を眺めていると、後ろから、そっと部長に抱きしめられた。
 熱い彼の体温に、どきどきと鼓動が高まる。

「あの……部長……」
「その、『部長』はやめよう。仕事みたいだから」
「わかりました。じゃあ、久我さん」
「いいね。俺は、さやかって呼ぶから」

 部長――久我さんは、ゆっくりと、でも確実に私との距離を詰めてくる。なんだか猛獣にからられるかのよう。
 でもそれは嫌ではない。彼の傍にいるのは、心地よかった。
 改めて考えると、『子どもだけ欲しい』なんて身勝手な言い分だったと思う。
 けれど、相手が久我さんだから言えたのだ。責任を取らなくていいなら楽だ、なんて考えるような男だったら、たとえ酔っていたとしても、きっと言わないと思う。彼に抱きしめられて、嫌悪感はまったくなかった。
 嫌悪を感じないということは、私は久我さんに好感を抱いているんだ……と思えた。

「先ほどの話なんですけど……私は恋愛も結婚もするつもりはないんです。昔は憧れていたときもありましたけど、それらに絶望したから子どもだけ欲しいという考えに至ったんです」
「憧れていたときは、あったんだね」
「それなりには……。乙女でしたから」

 振り向くと、すぐ傍に久我さんの優しい顔があった。
 端麗な顔がこんなにも近くにあるなんて、どきんと胸が弾んでしまう。

「さやかの憧れを、取り戻してあげたいな」
「どうやってですか?」
「そうだな……。まずは俺に気を許してもらわないといけない」

 久我さんは、そっと私のこめかみにくちづけた。
 雄々しくて熱い唇が押し当てられ、どきりとする。

「あ……っ」
「嫌だった?」

 私はゆるゆると首を横に振った。ちっとも嫌ではない。

「う、嬉しい……です」

 久我さんにキスされて嬉しい。
 私の心が喜びにあふれている。
 久我さんに正直に言うと、彼は妖艶ようえんな笑みを見せた。

「それじゃあ、これはどうかな?」

 向き合った彼に、おとがいすくい上げられる。
 ちゅ、と今度は唇にキスされてしまった。初めてのキスに、私は目を見開いて硬直してしまう。
 けれど胸の鼓動は、とくんと甘く響いた。
 ……キスって、こんなに柔らかいんだ。
 ちゅ、ちゅ、と小鳥が啄むようなバードキスを繰り返す。彼とのキスが気持ちよくて、頭がぼうっとしてくる。
 少し唇を離した久我さんが、私に問いかけた。

「俺とのキスは、気持ちいい?」
「はい……」
「さやかは、俺との子どもが欲しいという気持ちに変わりはない?」

 私は、しっかりと頷いた。
 子どもは欲しいけれど、誰でもいいわけではない。
 久我さんとの子どもが欲しい。
 つまり私は、彼に抱かれることを望んでいる。
 処女を捧げるなら、久我さんがよかった。

「久我さんとの子どもが欲しいんです。あの、よかったら……私の処女を、もらってください」
「喜んで。さやかの処女をもらえるなんて、嬉しいよ」

 そう言って抱きしめてきた久我さんは、首筋を唇で辿りながら、私の上着を脱がせた。ブラウスのボタンも、丁寧に一つずつ外していく。
 これから彼に抱かれると思うと、どきどきと胸が高鳴った。

「あ、あの、シャワーを……浴びてもいいですか?」
「それじゃあ、一緒に浴びよう」

 スカートを下ろされ、私はキャミソール姿になった。
 薄着になった私を、久我さんはお姫様のように横抱きにする。

「きゃ……!」
「俺に掴まって」

 軽々と私を抱き上げる久我さんの腕はとても強靱で、安定感がある。
 私はぎゅっと彼の首に腕を回した。
 薄いキャミソールしか着ていないので、彼の剛健な胸から体温が伝わり、どきどきしてしまう。膝裏に腕を回され、敏感な膝裏の皮膚に触れられて体が熱くなった。
 彼に抱き上げられたまま、寝室からバスルームへ移動する。
 久我さんはパウダールームに私を下ろすと、楽しげにキャミソールを脱がせた。リノリウムの床に、すとんと水色のキャミソールが落ちる。それから、ブラジャーとショーツも剥がされた。
 彼も服を脱いで裸になると、腰を抱えられ、二人でシャワールームへ入る。
 セピア色の壁を背景にして、シャワーコックを捻る久我さんの強靱な体躯が目に眩しい。水の香りが鼻腔をかすめると、すぐに頭上から雨粒のようにレインシャワーが降り注いだ。

「ああ、我慢できない。キスしよう」

 私が水滴に目をすがめたとき、久我さんの体躯が迫り、獰猛どうもうな腕に囲い込まれて情熱的なキスが降ってくる。
 ぴたりと密着した体が、熱い。
 触れた唇もとろけるように柔らかい。
 私は彼の熱情に応えて舌を差し出し、濃密に絡め合った。

「あ……ふ……ふぅ、ん……」

 彼の腕に囚われて、息もできないほどのくちづけを受ける。
 腰には屹立した楔が押し当てられている。熱くて硬い感触が私の官能を煽った。
 顔の角度を変えて、久我さんは私の唇を延々とむさぼる。ややあって、銀糸をしたたらせながら少しだけ顔を離した久我さんの双眸そうぼうには情欲の色がたぎっていた。

「きみの唇は極上だ。俺は世界一、きみの唇が好きだよ」

 大仰な褒め言葉に照れてしまう。でもそんなふうに言われるのは嬉しい。

「あ、ありがとうございます……」

 濃厚なキスで頭がぼうっとした私には、礼を言うので精一杯だった。
 つやめいた表情を見せた久我さんは、また私の唇に、チュッと吸いつく。

「ずっとここに閉じこもって、きみとキスしていたいくらいだ」
「私も……久我さんのキス、気持ちいいです」
「でも、きみの中に入りたい。だから……さやかの体を洗ってあげる」

 呆然として立ち尽くしていると、久我さんはアメニティのシャワージェルをスポンジに垂らす。それを泡立ててから私の腕に滑らせた。
 男性に体を洗ってもらうなんて初めての経験だ。

「くすぐったい……」
「じっとして」

 彼の手が動いて、柔らかいスポンジを肌に優しく滑らせる。そのたびに、肌が粟立つような、ぞくりとした感覚が芽生えた。
 スポンジは腕から背中を辿り、腰から尻へと下りていく。尻の狭間の際どいところまで優しく擦られて、私はぴくんと体を跳ねさせた。

「あっ……ん」

 体の前へ回ってきたスポンジが、鎖骨を辿る。それから胸へ下り、円を描いて丹念に撫で擦られた。乳首にもスポンジが触れて引っかけられるので、つんと尖りは勃ち上がってしまう。
 久我さんは猛禽類のように目を細めて、私の胸に見入った。

「感じた? ここが、つんと勃ったね」
「あ、これは……スポンジが触れた刺激で……」

 久我さんはスポンジで私の乳首をゆっくりといじる。しかも角で、ちょいと突起を押し上げるような悪戯いたずらを仕掛けた。そんなことをされたらいっそう硬く張りつめてしまう。

「こっちも、平等に洗ってあげないとな」

 今度は反対側の突起も同じようにされる。
 このままでは体がうずうずして、たまらなくなってしまう。

「あの、一緒に久我さんの体も洗ってあげます」
「そうだね。じゃあ、洗いっこしようか」

 久我さんの体を洗ってあげたら、彼の気が逸れるのではないか。
 私はもう一つのスポンジを手にすると、透明なシャワージェルを垂らす。
 シャワールームには甘い花の香りが広がった。
 私の胸を丁寧に洗う久我さんの、まずは肩にスポンジを滑らせた。
 スポンジ越しでもわかるが、彼の肩はまるで鋼鉄のごとく硬く強靱だ。

「筋肉の鎧みたいですね。久我さんの肩、すごく硬い……」
「さやかの好みの体かな?」
「えっ? そ、それは、どうでしょうね……」

 こんなに素敵な肉体を嫌いな人なんていないだろう。
 けれど、「体が好き」なんて素直には言えなくて、私は言葉を濁した。
 彼の手は私の両の乳首をつんと勃ち上がらせて満足したようで、次にスポンジを腹部へと滑らせていった。ほっとした私は硬い胸や割れた腹筋をスポンジで擦り、泡立てる。

「久我さん。背中を向けてください」
「了解」

 後ろ向きなら、もう悪戯いたずらできないだろう。
 安堵した私は背中を向けた久我さんの肌を洗う。
 彼の広い背中は勇猛さを感じさせた。

「背中、大きいですね」
「男だからね。……ところで、大事な部分も洗ってほしいんだけど、いいかな?」

 彼の背中を擦り上げた私は目を瞬かせた。
 すぐにはっとして、まさか……と目線を下に向ける。

「あ……もしかして……」
「そう。俺の中心も洗ってもらいたいな。だけど恥ずかしいだろう……? 俺はこのまま後ろを向いているから、手を前に持ってきて」
「わかりました」

 それなら直視しなくて済む。さすがに正面から男性の中心を見るのは恥ずかしい。
 私はスポンジを持った右手を伸ばし、彼の股間を探るようにしてそっと擦った。
 だけど見えないせいか、うまく洗えているのかよくわからない。

「んっ、どうですかね。洗えてますか?」
「ちょっと……そこじゃないんだな。左手も前に回してもらっていいかい?」

 言われた通り、私は空いている左手も彼の前に回した。その手を久我さんが取り、そっと中心に導く。
 触れた中心は火傷しそうなほどに熱かった。
 私の頬も、かぁっと熱くなる。
 屹立した男性の中心をさわるなんて、とてつもない羞恥がよぎり、照れてしまう。
 でもきちんと洗わないといけないから、手を放すことはできない。

「ここを持って、右手で擦ると位置がわかりやすいんじゃないかな?」
「そ、そうですね」

 すでに硬く屹立している雄芯に、左手でそっと触れつつ、右手のスポンジで撫でるように洗う。
 そうすると両手を彼の腰に回す形になり、彼の背に私の胸がぴたりと密着した。
 前が見えないので手探り状態で腕を動かすたびに、泡でぬるぬるになった乳首が硬い背中に擦られる。さらに胸の膨らみも、ぎゅっと押しつけられた。

「ああ……最高だよ。ありがとう」
「ど、どういたしまして」

 敏感な部分なので強く擦ったりしないよう、ことさら優しく撫でた。

「あの、力加減ってこのくらいでいいんですか?」
「うん。ちょうどいいよ。そろそろ俺が限界だから、今度はさやかの大事なところを洗ってあげる」
「は、はい」
「ただ、女性の秘所はとても繊細だから、スポンジじゃなくて……」

 振り向いた久我さんは、そっと私の秘部に指を差し入れて撫で上げた。彼の片手にはいつの間にかシャワーヘッドが握られている。

「こうして指で優しく擦って、洗い流してあげないと、ね?」
「そうです……ね、……んっ」

 そこはもう、ぬるぬると愛蜜に濡れていた。ぬるついた秘所が彼の指とシャワーによって洗い流されていく。
 久我さんの指がうごめくたび、腰の奥がむず痒くて、もどかしく膝を擦り合わせる。
 ようやく秘所から手を離した久我さんは、丁寧に私の体にシャワーをかけて、残った泡を洗い流してくれた。お返しに私も、彼の体にシャワーをかけて洗い流す。
 シャワーのコックを閉めた久我さんは、最後にちゅっと私の唇にくちづけを一つ落とした。
 シャワールームを出ると、バスタオルで自らの体を素早く拭いた久我さんは、私に手を伸ばしてきた。
 彼の腕にからられて、バスタオルごと私の体は胸の中に収まる。

「俺はもうさやかを逃がすつもりはないから。きみは今から、俺に抱かれるんだ」

 直截ちょくせつな台詞で堂々と宣言されて、胸がきゅんと弾む。
 ――もう久我さんのことしか考えられない。
 シャワールームでの戯れで、私の体はしとどに濡れて、雄を迎える準備ができているのだから。
 私の首筋に残った水滴を、ちゅっと吸った久我さんは、再び膝裏を抱えて横抱きにした。
 まだバスタオルをまとっている私はそのままベッドルームに運ばれる。ベッドに下ろされると、私は布団を捲り、その中にもぞもぞと身を隠す。

「おっと。俺の女神様は天岩戸あまのいわとにお隠れかな?」
「恥ずかしいんです……」
「俺はもう女神様にむしゃぶりつきたくてたまらないよ。ちょっとだけ顔を見せてくれ」

 布団に隠れていた私は、そっと目だけを覗かせた。
 けれど、久我さんはいない。

「あれ……?」

 不思議に思って顔を出したそのとき、ぎゅうっと布団の中で脚を抱きかかえられた。

「きゃあっ」
「捕まえた。もう離さないぞ」

 久我さんは反対側から布団にもぐり込んだのだ。
 笑い転げながら、じたばたして逃れようとするけれど、強靱な腕に胴を掴まれて身動きできない。足も絡められて、完全に捕まってしまった。

「もう、久我さんたら。離して」
「だめだよ。俺と百万回キスするまで、こうしてくっついているから」
「わかりましたから。それじゃあ……一回目」

 弧を描いた彼の唇に、そっとキスをする。
 久我さんは、私を甘い罠でからるのがうまい。
 唇を離すと、今度は久我さんのほうから追いかけてくる。
 彼は熱情のこもった双眸そうぼうをして、私の唇に吸いついた。
 角度を変えて、何度も何度も互いの唇をむさぼる。

「舌、れるよ」
「あ……ん。久我さんが言うと、なんかエロいです」

 ふっと笑った久我さんは、嬉しそうに私の口腔こうこうに濡れた舌を挿し入れた。
 ディープキスに応えて、舌を差し出し、濃密に絡める。
 互いの舌を擦り合わせるたびに、ずくんと体の芯が疼くような気がした。
 このもどかしい切なさが、快感……?
 久我さんのキスはすごく気持ちよくて、それなのに切なくて、体が熱くてたまらなくなる。
 ややあって唇を離した久我さんは、雄の色香をしたたらせた。

「最高に気持ちいいよ。俺たち、相性がいいんだな」
「だったら、嬉しいです。私も気持ちよくて、夢中になってキスしちゃいます」
「そう言ってくれると嬉しいね。じゃあ、キス以外も確かめてみようか」

 どきどきした私は目を瞬かせた。
 ……キス以外……ということは。

「か、体の相性ですか?」
「そうだよ。子作りするためには、体の相性は重要だろう?」
「そ、そうかもしれませんね」

 あなたとの子どもが欲しいと言った私の言葉に嘘はない。
 でもまさか久我さんがこんなに妖艶ようえんで、こんなに彼とのセックスに期待を持ってしまうなんて思いもしなかったから、少々戸惑った。

「まずは、さやかの体をとろとろにとろかしてあげないとな」

 覆い被さってきた久我さんは、私の頬にくちづけを落とす。
 それから唇で首筋を辿り、鎖骨をチュッチュと吸い上げた。くすぐったいけれど、ほのかな刺激が心地よく体に響く。
 陶然としていると、彼のてのひらに胸を覆われる。
 円を描いて丹念に揉み込まれ、紅い突起にくちづけられた。
 たまらず唇から甘い声が漏れ出てしまう。

「あ……ん」
「可愛い声だ。もっと聞かせてくれ」

 ジュッと、きつく乳首を吸い上げられ、びりっとした痺れが全身に走った。

「あっ、あん!」
「痛かった?」

 久我さんは宥めるように、やわやわと胸を揉みながら、今度は優しく乳首を舐めしゃぶった。

「ううん。平気です……なんだか体がしびれたみたいになって」
「それが、快感、だよ」

 そう言った久我さんは、尖りをきつく吸ったり、舌でね回したりと、様々な愛撫を加えた。左右の乳首を交互に、たっぷりねっとりと、舌と指先を駆使していじる。

「あぁ……はぁ……あ……ん」

 私は彼の愛戯に翻弄されて、甘い嬌声を上げることしかできない。
 仕上げとばかりに、ちゅっと乳首を吸った久我さんは、次に二の腕の柔らかいところに唇を寄せた。

「痕をつけたいな。俺のものだっていう証にね」
「あ……いや……」
「本当に嫌?」

 意地悪そうに笑んだ久我さんは、二の腕の内側の柔らかい肌に吸いつく。
 チュウゥ……ッと、長くきつく吸われて、花びらのような紅いあざがついてしまった。

「ここなら見えないから、いいだろう?」
「もう……久我さんたら」
「本当は全身に花びらを散らしたいんだけど――。さて、花園はどうなってるか、見せてもらおうかな」

 チュッと、臍に軽いキスを落とした久我さんは、私の膝裏を抱え上げた。

「あぁっ……」

 大きく両脚を広げられ、秘所がさらされる。
 久我さんは私の秘部を、じっくりと見入っていた。
 自分でも見たことのないところなのに、そんなに凝視されたら恥ずかしくてたまらない。

「綺麗だ……。さやかの体は、どこもかしこも美しいんだね」

 感心したように呟いた久我さんの言葉は、たとえお世辞でも嬉しかった。

「あ、ありがとうございます……」

 久我さんのほうこそ、名匠が作り上げた傑作の彫刻みたいな体をしているのに。
 そんな私の考えをよそに、久我さんはくつくつと笑い出した。

「なにかおかしかったですか?」
「いや、さやかの素直さに感激してる。可愛いよ」

 久我さんが頭を下げると、秘所にぬるりとしたものを感じた。
 彼の舌が、花びらを舐めしゃぶっているのに気づかされる。

「あっ、いや、そんなとこ、汚い……!」
「汚くないよ。それに、気持ちいいだろう?」

 ぬくっと、蜜口に生温かいものが挿し入れられた。
 久我さんの舌が、私の胎内に挿入されているのだ。
 それだけでなく、舌はぬくぬくと出しれされて、蜜口の浅いところをねぶっている。

「あん……久我さん……舌が……んぁ」
「気持ちいい?」
「……はい」
「よかった。さやかは体も素直だな。どんどん蜜があふれてくる」


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