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第三章
審査会の舞台
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でも、星玉師として恥ずかしくない解放を披露しなくては。
これまで沢山の星玉を解放してきた。今日のために懸命に練習も重ねてきた。その成果だけでも発揮しないと。
ふと辺りを見回して、まだラークが戻ってこないことに気づく。随分時間がかかっているようだ。受付で何かあったのだろうか。
「もうすぐ始まっちゃうわね。どうしたのかしら」
他の星玉師たちは道具の最終確認をしている。ルウリは席を立って受付へ赴いた。
ラークは丁度受付を後にして、こちらへ向かってくるところだった。
「心配したわ。何かあったの?」
少し眸を眇めたラークは、何でもないという風に軽く手を挙げてルウリを促す。彼の肩越しに何気なく目を遣ると、受付の女性は嫌悪を含んだ目でこちらを見ていた。
まただ。
怖いもの、嫌なものを見る目つき。
検問所の番兵と同じだった。
共通するのは、許可証だ。ラークの許可証には特別な何かがあるというのだろうか。
「気分はもういいのか」
「えっ?」
突然話しかけられて眸を瞬かせる。待機所では、舞台に上がる順番を役人が説明していた。
「……その様子なら平気そうだな。星玉の準備はいいのか」
「う、うん。大丈夫」
慌てて腰袋から星玉を取り出す。貝の封印された星玉は、解放すれば口が開くだろう。砂金の入った革袋も用意する。後は星玉と対話する心構えだけだ。
深呼吸していると、ラークは先ほどあげたシダルの星玉を眺めていた。いつの間にか革手袋を嵌めている。
「ラークはいつも手袋をして解放するの?」
「念のためだ」
素手のほうが良いのではないかと思ったが、やり方は人ぞれぞれだろう。
舞台上では司会の役人が観客へむけて、挨拶や審査の説明をしている。五人ずつ舞台に上がった星玉師の技を見て、審査員たちがその場で判断を下すという明瞭な方法だ。
「それでは星玉師の皆様方、どうぞよろしくお願いいたします。バラモン・カマル様のお眼鏡に叶いますように」
役人がバラモンに向かって恭しく礼をした。カーテン越しに、手を挙げた仕草が見て取れる。はじめに舞台に上がった星玉師たちが観客に拍手で迎えられた。
ベテランの星玉師たちの技は素晴らしいものだった。
ある者は魚を解放して水盆で泳がせ、またある者は鳥を解放して空に羽ばたかせた。技術だけではない。美しい女性の助手を舞台に上がらせて、踊りを交えてひらりと布を翻し、注目すべき箇所を示唆したりする。観客を退屈させないよう工夫を凝らしているのだ。王都の星玉師たちはショーとして披露することに場慣れしていた。
拍手喝采が起こるたびに審査員たちは感嘆したように頷く。そして技の披露が済むと、審査員はバラモンのほうに目をむける。バラモンは微動だにせず、ひとことも発しない。審査員長らしき男性が首を横に振ると、司会は残念でしたねと苦笑いをして星玉師を舞台から降ろす。
それの繰り返しだった。
誰が華麗な技や珍しい解放を披露しても、バラモンは反応しない。
「あの人、寝てるんじゃない?」
「しー。パナ、聞こえるわよ」
イディアの最高権力者なのである。不敬を働いたら首が飛んでしまう。
薄いカーテンが引かれているので顔は見えないが、もしかしたらショーを楽しんでいるのかもしれない。しかし合格者が出ていないので、一体どんな解放をすれば合格できるのか見当がつかない。
「次の五名の方、舞台へお上がりください」
ルウリとラークの番になった。司会の合図で壇上へ進む。
とにかく自分の力を出しきるしかない。
右手と右足を同時に出しながら、ルウリは前を歩く純白のローブを見つめた。
跪いてバラモンに挨拶し、前方へ向きを変える。舞台には六人の星玉師がいるので、司会が書類を確認しながら解説した。
「ルウリ氏とラーク氏は連名ですから、お一人分ということになります。ご一緒にどうぞ。お若いふたりに、皆様拍手を」
観客からぬるい笑みと共に、まばらな拍手が送られる。ベテランでも合格できないのだから、若手の力試しと見られていることは明白だった。
一緒に解放するつもりで連名にしたわけではなかったが、今更訂正するわけにもいかない。
「ラーク、大丈夫……よね?」
同時に解放するという未知の事態に不安が過ぎる。ラークの解放は、一度も見たことがないのだ。ちらりと横顔を見上げると、ラークは何か考え事でもするように遠くを見ていた。
「ああ」
いつもと同じ、短い答え。
ラークが星玉を取り出した。観客に見えやすいように、白い布が敷かれたテーブルに乗せる。
これまで沢山の星玉を解放してきた。今日のために懸命に練習も重ねてきた。その成果だけでも発揮しないと。
ふと辺りを見回して、まだラークが戻ってこないことに気づく。随分時間がかかっているようだ。受付で何かあったのだろうか。
「もうすぐ始まっちゃうわね。どうしたのかしら」
他の星玉師たちは道具の最終確認をしている。ルウリは席を立って受付へ赴いた。
ラークは丁度受付を後にして、こちらへ向かってくるところだった。
「心配したわ。何かあったの?」
少し眸を眇めたラークは、何でもないという風に軽く手を挙げてルウリを促す。彼の肩越しに何気なく目を遣ると、受付の女性は嫌悪を含んだ目でこちらを見ていた。
まただ。
怖いもの、嫌なものを見る目つき。
検問所の番兵と同じだった。
共通するのは、許可証だ。ラークの許可証には特別な何かがあるというのだろうか。
「気分はもういいのか」
「えっ?」
突然話しかけられて眸を瞬かせる。待機所では、舞台に上がる順番を役人が説明していた。
「……その様子なら平気そうだな。星玉の準備はいいのか」
「う、うん。大丈夫」
慌てて腰袋から星玉を取り出す。貝の封印された星玉は、解放すれば口が開くだろう。砂金の入った革袋も用意する。後は星玉と対話する心構えだけだ。
深呼吸していると、ラークは先ほどあげたシダルの星玉を眺めていた。いつの間にか革手袋を嵌めている。
「ラークはいつも手袋をして解放するの?」
「念のためだ」
素手のほうが良いのではないかと思ったが、やり方は人ぞれぞれだろう。
舞台上では司会の役人が観客へむけて、挨拶や審査の説明をしている。五人ずつ舞台に上がった星玉師の技を見て、審査員たちがその場で判断を下すという明瞭な方法だ。
「それでは星玉師の皆様方、どうぞよろしくお願いいたします。バラモン・カマル様のお眼鏡に叶いますように」
役人がバラモンに向かって恭しく礼をした。カーテン越しに、手を挙げた仕草が見て取れる。はじめに舞台に上がった星玉師たちが観客に拍手で迎えられた。
ベテランの星玉師たちの技は素晴らしいものだった。
ある者は魚を解放して水盆で泳がせ、またある者は鳥を解放して空に羽ばたかせた。技術だけではない。美しい女性の助手を舞台に上がらせて、踊りを交えてひらりと布を翻し、注目すべき箇所を示唆したりする。観客を退屈させないよう工夫を凝らしているのだ。王都の星玉師たちはショーとして披露することに場慣れしていた。
拍手喝采が起こるたびに審査員たちは感嘆したように頷く。そして技の披露が済むと、審査員はバラモンのほうに目をむける。バラモンは微動だにせず、ひとことも発しない。審査員長らしき男性が首を横に振ると、司会は残念でしたねと苦笑いをして星玉師を舞台から降ろす。
それの繰り返しだった。
誰が華麗な技や珍しい解放を披露しても、バラモンは反応しない。
「あの人、寝てるんじゃない?」
「しー。パナ、聞こえるわよ」
イディアの最高権力者なのである。不敬を働いたら首が飛んでしまう。
薄いカーテンが引かれているので顔は見えないが、もしかしたらショーを楽しんでいるのかもしれない。しかし合格者が出ていないので、一体どんな解放をすれば合格できるのか見当がつかない。
「次の五名の方、舞台へお上がりください」
ルウリとラークの番になった。司会の合図で壇上へ進む。
とにかく自分の力を出しきるしかない。
右手と右足を同時に出しながら、ルウリは前を歩く純白のローブを見つめた。
跪いてバラモンに挨拶し、前方へ向きを変える。舞台には六人の星玉師がいるので、司会が書類を確認しながら解説した。
「ルウリ氏とラーク氏は連名ですから、お一人分ということになります。ご一緒にどうぞ。お若いふたりに、皆様拍手を」
観客からぬるい笑みと共に、まばらな拍手が送られる。ベテランでも合格できないのだから、若手の力試しと見られていることは明白だった。
一緒に解放するつもりで連名にしたわけではなかったが、今更訂正するわけにもいかない。
「ラーク、大丈夫……よね?」
同時に解放するという未知の事態に不安が過ぎる。ラークの解放は、一度も見たことがないのだ。ちらりと横顔を見上げると、ラークは何か考え事でもするように遠くを見ていた。
「ああ」
いつもと同じ、短い答え。
ラークが星玉を取り出した。観客に見えやすいように、白い布が敷かれたテーブルに乗せる。
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