1 / 54
プロローグ
乙女怪盗、参上
しおりを挟む
幾多の角灯から零れる明かりが闇夜に蠢く。
深夜の邸宅周辺を、制服を纏う警官隊が角灯をかざしては警邏していく。
その間を縫い、躍る影は屋根へ飛び移る。木々が微かにざわめいた。
ひとときの静寂。
突如、怒号が響き渡る。
「出たぞ! 乙女怪盗ジョゼフィーヌだ!」
現場は俄に慌ただしくなる。一斉に角灯が向けられた先には、尖塔に佇み漆黒のマントを翻す乙女の姿があった。
銀色の長い髪が風にたなびく。弦月を映す銀灰色の眸は宝石のごとく輝きを放つ。
体にぴたりと沿う黒のドレスは幾重にもかさねられたシフォンの裾が、麗しい腿を飾っている。すらりと伸びた脚は黒のロングブーツに包まれて、顔には舞踏会で使用するような仮面を被り、大ぶりな羽根飾りの付いた帽子を着用していた。すべてが黒で覆われた彼女の、マントの裏地だけが、燃えるような情熱の赤に染められている。
押し寄せる警官隊を嘲笑うかのように、涼やかな声音が流れた。
「月よ、華よ、きらめく星の夜、乙女怪盗ジョゼフィーヌ参上。警察のみなさま、ご苦労さま。ナイルの星は頂いていきますわ」
華奢なその手には、一粒の宝石が摘ままれている。月明かりに、きらりと煌めきを落とした。
捕まえろ、と屋根に登り出す警官に流し目をくれてやり、艶やかな出で立ちの乙女は華麗に跳躍した。満月を背に、真紅のマントが夜を彩る。瞬く間に木々に飛び移り、姿は見えなくなった。
予告状が出された宝石は、必ず盗まれる。
世間を騒がす、乙女怪盗ジョゼフィーヌ。
今宵も参上。その正体は、月だけが知っている。
深夜の邸宅周辺を、制服を纏う警官隊が角灯をかざしては警邏していく。
その間を縫い、躍る影は屋根へ飛び移る。木々が微かにざわめいた。
ひとときの静寂。
突如、怒号が響き渡る。
「出たぞ! 乙女怪盗ジョゼフィーヌだ!」
現場は俄に慌ただしくなる。一斉に角灯が向けられた先には、尖塔に佇み漆黒のマントを翻す乙女の姿があった。
銀色の長い髪が風にたなびく。弦月を映す銀灰色の眸は宝石のごとく輝きを放つ。
体にぴたりと沿う黒のドレスは幾重にもかさねられたシフォンの裾が、麗しい腿を飾っている。すらりと伸びた脚は黒のロングブーツに包まれて、顔には舞踏会で使用するような仮面を被り、大ぶりな羽根飾りの付いた帽子を着用していた。すべてが黒で覆われた彼女の、マントの裏地だけが、燃えるような情熱の赤に染められている。
押し寄せる警官隊を嘲笑うかのように、涼やかな声音が流れた。
「月よ、華よ、きらめく星の夜、乙女怪盗ジョゼフィーヌ参上。警察のみなさま、ご苦労さま。ナイルの星は頂いていきますわ」
華奢なその手には、一粒の宝石が摘ままれている。月明かりに、きらりと煌めきを落とした。
捕まえろ、と屋根に登り出す警官に流し目をくれてやり、艶やかな出で立ちの乙女は華麗に跳躍した。満月を背に、真紅のマントが夜を彩る。瞬く間に木々に飛び移り、姿は見えなくなった。
予告状が出された宝石は、必ず盗まれる。
世間を騒がす、乙女怪盗ジョゼフィーヌ。
今宵も参上。その正体は、月だけが知っている。
0
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる