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密やかな別荘 1
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「これから一週間、セナを独占できるんだ。片時も離さないからな。たっぷり俺の精を飲ませて、孕ませてやる」
ぎゅっとセナに抱きついてくるハリルは、まるで子どものような無邪気さを見せる。皆が敬う最強の騎士団長は、セナとふたりきりのときは甘えてきたりする。それなのに抱くときは強引な面もあるので、そのギャップに戸惑ってしまうのだ。
でも、そんなハリルが、もちろん大好きなのだけれど。
抱き竦められたセナは笑いながら、ハリルの背に腕を回した。指先に触れた彼の強靱な筋肉に、愛しさが込み上げる。
「ハリルさまったら。お仕事はどうするんですか?」
「当然休むに決まってるだろ。そのためにラシードが舞踏会なんぞ開いてた一週間のうちに、仕事を全部片付けたんだからな」
淫蕩な舞踏会のことが脳裏を過ぎり、セナの頬が朱に染まる。
ハリルの耳にも、舞踏会でどのようなことが行われていたか報告は入っているだろう。
「そ、そうですか」
「ラシードと違って、俺は他の男を使ったりしないからな。おまえを抱くのは俺だけだ」
かぁっと、耳まで真っ赤になってしまう。
様々なアルファたちから淫靡な愛撫を施され、最後にはシャンドラに後戯と称して抱かれてしまったことが、今さら恥ずかしくてたまらなくなった。
「あ、あの、あれはですね……ラシードさまが淫紋を動かすという目的を達成させるために、お忙しい時間を縫って色々と考えてくださったんです。僕はラシードさまのなさることなら、なんでも喜んで受け入れ……」
言い終わらないうちに、ハリルはじっとりとした半眼を間近から浴びせてきた。
懸命に己の想いを述べたのだけれど、なにやら彼の気に障ってしまったらしい……
「ラシードの擁護か。ふたりきりなのに、他の男を持ち上げられると傷つくもんだ。槍で突かれるよりひどい痛みだな」
「……そんなつもりではなかったんですけど……すみません……」
ふっと笑みを浮かべたハリルは抱きしめていたセナの腰をいっそう引き寄せて、額にくちづけをひとつ落とす。
「そこでな、お籠もりの一週間での、ルールを決めようじゃないか」
「ルールですか……。たとえば、どんな?」
「まあ、食べながら聞けよ」
ハリルが手を掲げると、茂みの間から音もなく召使いが姿を見せた。彼は食事が乗せられた大きな盆を手にしている。
その盆をプールサイドから、すいと水面に滑らせた。
たくさんの皿やグラスが乗っているというのに、籐で編まれた円形の盆は沈まず、ぷかりと浮いている。
「わあ……」
盆を引き寄せたハリルは、マンゴージュースの入ったグラスを手にした。グラスの縁に飾られていた赤い花を摘まむと、セナの髪に挿す。
「フローティングブランチだ。プールに入りながら食べる食事も洒落たもんだろ?」
セナにグラスを持たせたハリルは、サンドイッチを手にしてかじりつく。紙で作られたストローを啜れば、甘ったるいのに冷たくて美味しいマンゴージュースが喉を流れていった。
「ん……美味しいです」
「ほら。これも食べろ」
食べかけのサンドイッチを口元に寄せられる。グラスを持っているので両手が塞がっているセナは、ぱくりとサンドイッチをかじった。
盆には他にも様々な料理が乗せられているのだけれど、きっとハリルは自分が食べたものをセナに分け与えたいのだ。親鳥が咀嚼してから雛に餌を与えるのと、同じようなものと思われる。
遠慮なくセナは餌付けされるままに、ハリルの手から食べた。
「味わって食べろよ。これが最後の、余裕のある食事かもしれないからな」
「……え? どういうことですか?」
最後の余裕のある食事とは、いかなる意味だろう。
ゆるりと過ごせそうなこのヴィラで、食事する暇もなく忙しく過ごすことになるとは思えないのだけれど。
ハリルはにやりと、悪い男の笑みを浮かべた。
「さっき話した、お籠もりルールだけどな。そのひとつは、このヴィラで俺といるときには他の男の話をしないこと。いいな?」
「はい。わかりました」
それはハリルへの当たり前の礼儀だろう。先程はいつもの調子でラシードを庇ってしまったけれど、ハリルとしては不満を覚えて当然だ。
ふたりきりで蜜月を過ごすのだから、ハリルだけを見て、彼のことだけを考えなくては。
セナはそう心に刻んで、素直に頷いた。
グラスの水をひとくち含んだハリルは、指を二本立てる。
「ふたつめ。ヴィラではずっと、体を繫げていること。簡単だろ?」
「はい、簡単……えっ? ずっと体を繫げて……と言いますと……」
何かの聞き間違いをしてしまったのかと己の耳を疑ったセナは、瞠目して聞き返した。ハリルは爽やかな笑みを浮かべながら、噛み砕いて丁寧に説明してくれる。
「朝も昼も夜も、食事するときも寝るときも、プールで泳いでいるときも、おまえの花筒に俺の男根を収めておくということだ」
「……それは素晴らしいルール……ですね」
繫がりながらプールで泳ぐことは可能なのかな……などと、ぼんやり考えてしまう。
ぎゅっとセナに抱きついてくるハリルは、まるで子どものような無邪気さを見せる。皆が敬う最強の騎士団長は、セナとふたりきりのときは甘えてきたりする。それなのに抱くときは強引な面もあるので、そのギャップに戸惑ってしまうのだ。
でも、そんなハリルが、もちろん大好きなのだけれど。
抱き竦められたセナは笑いながら、ハリルの背に腕を回した。指先に触れた彼の強靱な筋肉に、愛しさが込み上げる。
「ハリルさまったら。お仕事はどうするんですか?」
「当然休むに決まってるだろ。そのためにラシードが舞踏会なんぞ開いてた一週間のうちに、仕事を全部片付けたんだからな」
淫蕩な舞踏会のことが脳裏を過ぎり、セナの頬が朱に染まる。
ハリルの耳にも、舞踏会でどのようなことが行われていたか報告は入っているだろう。
「そ、そうですか」
「ラシードと違って、俺は他の男を使ったりしないからな。おまえを抱くのは俺だけだ」
かぁっと、耳まで真っ赤になってしまう。
様々なアルファたちから淫靡な愛撫を施され、最後にはシャンドラに後戯と称して抱かれてしまったことが、今さら恥ずかしくてたまらなくなった。
「あ、あの、あれはですね……ラシードさまが淫紋を動かすという目的を達成させるために、お忙しい時間を縫って色々と考えてくださったんです。僕はラシードさまのなさることなら、なんでも喜んで受け入れ……」
言い終わらないうちに、ハリルはじっとりとした半眼を間近から浴びせてきた。
懸命に己の想いを述べたのだけれど、なにやら彼の気に障ってしまったらしい……
「ラシードの擁護か。ふたりきりなのに、他の男を持ち上げられると傷つくもんだ。槍で突かれるよりひどい痛みだな」
「……そんなつもりではなかったんですけど……すみません……」
ふっと笑みを浮かべたハリルは抱きしめていたセナの腰をいっそう引き寄せて、額にくちづけをひとつ落とす。
「そこでな、お籠もりの一週間での、ルールを決めようじゃないか」
「ルールですか……。たとえば、どんな?」
「まあ、食べながら聞けよ」
ハリルが手を掲げると、茂みの間から音もなく召使いが姿を見せた。彼は食事が乗せられた大きな盆を手にしている。
その盆をプールサイドから、すいと水面に滑らせた。
たくさんの皿やグラスが乗っているというのに、籐で編まれた円形の盆は沈まず、ぷかりと浮いている。
「わあ……」
盆を引き寄せたハリルは、マンゴージュースの入ったグラスを手にした。グラスの縁に飾られていた赤い花を摘まむと、セナの髪に挿す。
「フローティングブランチだ。プールに入りながら食べる食事も洒落たもんだろ?」
セナにグラスを持たせたハリルは、サンドイッチを手にしてかじりつく。紙で作られたストローを啜れば、甘ったるいのに冷たくて美味しいマンゴージュースが喉を流れていった。
「ん……美味しいです」
「ほら。これも食べろ」
食べかけのサンドイッチを口元に寄せられる。グラスを持っているので両手が塞がっているセナは、ぱくりとサンドイッチをかじった。
盆には他にも様々な料理が乗せられているのだけれど、きっとハリルは自分が食べたものをセナに分け与えたいのだ。親鳥が咀嚼してから雛に餌を与えるのと、同じようなものと思われる。
遠慮なくセナは餌付けされるままに、ハリルの手から食べた。
「味わって食べろよ。これが最後の、余裕のある食事かもしれないからな」
「……え? どういうことですか?」
最後の余裕のある食事とは、いかなる意味だろう。
ゆるりと過ごせそうなこのヴィラで、食事する暇もなく忙しく過ごすことになるとは思えないのだけれど。
ハリルはにやりと、悪い男の笑みを浮かべた。
「さっき話した、お籠もりルールだけどな。そのひとつは、このヴィラで俺といるときには他の男の話をしないこと。いいな?」
「はい。わかりました」
それはハリルへの当たり前の礼儀だろう。先程はいつもの調子でラシードを庇ってしまったけれど、ハリルとしては不満を覚えて当然だ。
ふたりきりで蜜月を過ごすのだから、ハリルだけを見て、彼のことだけを考えなくては。
セナはそう心に刻んで、素直に頷いた。
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何かの聞き間違いをしてしまったのかと己の耳を疑ったセナは、瞠目して聞き返した。ハリルは爽やかな笑みを浮かべながら、噛み砕いて丁寧に説明してくれる。
「朝も昼も夜も、食事するときも寝るときも、プールで泳いでいるときも、おまえの花筒に俺の男根を収めておくということだ」
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