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運命の番 2

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「ひあぁ……っ、ああ、鴇、そんな……」

 鴇は足の狭間に割り込み、尻たぶを広げて濡れた舌を挿し入れる。指により擦り上げられ、愛撫された蜜壺からは愛液が滴り、それを受け止めた唇に啜られていく。蕾にぴたりと唇を押し宛てられて淫らな音色を奏でられ、安珠は快楽に噎び泣いた。

「あぁんん……鴇ぃ……らめ……もうだめぇ……」
「可愛いね。安珠の唾液も、精も愛液も、ぜんぶ呑みたい」

 卑猥な台詞を下肢に顔を埋めながら放たれ、恥辱と悦楽が攪拌して体の奥はいっそう雄を求めて甘く戦慄く。髪から雫を滴らせながら、安珠は小さくねだった。

「鴇……いれて……」

 熱くて硬い雄芯で、ひくつく蜜壺を貫いてほしい。顔を上げた鴇は濡れた髪を掻き上げながら、唇に弧を描いた。

「俺も、安珠が欲しい。ここで挿れるよ」

 壁に背を預けながら鴇と向き合い、片足を掬い上げられる。男の愛撫で熟れた蕾に、熱い先端が宛がわれた。ずちゅ、と濡れた音が鳴り、灼熱の楔が隘路に押し込まれていく。

「んっ、あ……あっあっ……は、あぅん、あぁああ……っ」

 ずっぷりと蜜壺に突き入れられた肉棒は、熱く脈打ち、身を焦がす。与えられた充溢に、安堵の息が零れた。鴇の逞しい首根に腕を回すと、支えていたほうの足も抱え上げられて、体のすべてを預ける形になってしまう。

「ああ……最高だ。俺のすべてが、包み込まれてる」
「んぅ、きもちいい……鴇、きもちい……」
「俺も。すごく気持ちいいよ。揺するから、しっかり掴まって」

 ゆさゆさと揺すり上げられ、快楽に翻弄されながらも必死に鴇の首根にしがみつく。逞しい肉棒が媚肉を擦り上げるたびに、宙に浮いた安珠の足が淫らに揺れた。
 愛しい人の雄芯を包み込みながら体を委ねる行為に深い陶酔を誘われる。
 腰骨が軋むほどの愉悦に身を震わせながら、眼前にある濡れた唇に吸いつく。

「中で、出して。鴇の……赤ちゃんがほしい」

 鴇が安珠のすべてを欲するように、安珠も鴇のすべてを呑み込みたい。そして愛し合った証を残せたら、こんなに素晴らしいことはない。
 息を荒げた鴇と夢中で口づけを貪り合う。

「いっぱい、出すよ。孕ませるからね……っく」

 ずくり、と最奥を抉られ、強烈な絶頂に導かれて深い極みを味わう。全身を蕩かすような甘い痺れが広がり、頭の中が白く染め上げられる。
 深い口づけを交わしながら、最奥を穿つ雄芯は爆ぜた。濃厚な白濁が迸り、奥の口に注がれていく。
 舌を擦り合わせて互いの唾液を交換し、隘路でもふたりの体液は濃密に混じり合う。
 愛する男とひとつになれた悦びに、胸が甘く切なく震える。

「嬉しい……鴇」
「愛してる」

 間近から覗き込む漆黒の双眸は熱を孕み、真摯な光を帯びている。惹かれるようにまた唇を求め合う。
 ふたりはつながれたまま、静かに鼓動を重ね合わせていた。



 庭園に藤の花が揺れる椿小路公爵家からは、軽快なピアノの音色が流れてくる。
 グランドピアノが置かれたサロンで演奏に聴き入っていた安珠は微笑を浮かべた。

「頑張って練習したね。この曲は合格だよ」

 青地のシャツを身につけた三歳の息子は愛らしい微笑みを浮かべる。

「はあい、おかあさま」

 大きな眸にぽってりとして唇は安珠に似ているが、漆黒の髪と黒い眸は鴇からの遺伝だ。
 妊娠した安珠は無事に子を出産した。妊娠が分かると同時に鴇と婚姻を結び、公爵家で愛する家族に囲まれながら暮らしている。ピアノ講師の職も細々と続けることができて、とても幸せな日々だ。
 穏やかな陽射しが降り注ぐサロンの一角から、赤ん坊の泣き声が上がる。レッスンの様子を眺めていた鴇は、慣れた手つきでゆりかごから赤子を抱き上げた。

「おとうさまのレッスンのときはボクが赤ちゃんをみててあげる。まっててね」

 ふたりめの子も産まれたので、父親の鴇は忙しそうだ。お兄ちゃんの自覚が生まれた息子は弟の面倒をよく見てくれる。鴇と息子のふたりにピアノを教えている安珠は手が塞がりがちなので、とても助かっていた。

「お兄ちゃんは面倒見が良いものな。俺に似たようだ」

 子煩悩な鴇の抱っこにより、赤子は泣き止んだ。足元のヒロは尻尾を振りながら様子を窺っている。老犬は子どもたちの良き遊び相手になってくれていた。
 幸せを噛みしめながら安珠は楽譜を捲る。次の曲は、草競馬だ。

「あれ、おかあさま。この記号はなに?」

 息子はト音記号の隣に記された、アッラ・ブレーヴェを指し示す。竪琴のようなその記号を、安珠は指先でなぞった。

「これは二分の二拍子を表す拍子記号で、アッラ・ブレーヴェという名前だ。廣仁のお爺さまが、ふたりは一緒だという意味を込めて、この記号を大切にしていたんだよ……」

 快活なピアノの音色がサロンを彩る。
 ゆりかごの中に置かれていた金無垢の懐中時計が、陽光を撥ねて眩く煌めいた。
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みんなの感想(6件)

gd19880818
2020.09.13 gd19880818

もどかしさを乗り越え、今読み終えました!
切なくて切なくて、なんで真っ直ぐにお互いを好きなんだと受け入れられないんだろうと胸が痛かったです( ´・・)

澪と彰久、鴇と安珠、
どちらのお話も最高でした……!
抱えてるものは違うけど、相手を想い敬い、ピンチには必ず助けてくれる!
はぁ……
最高でした♪

沖田弥子
2020.09.13 沖田弥子

ご愛読ありがとうございました。
楽しんでいただけて大変光栄です。

解除
白雪
2020.04.23 白雪

すっごく面白いです…!
澪がめっちゃ可愛い…🥺
夜中にいっきに読んだのでもしかしたら読み過ごしたのかもしれないんですけど、番外編でトキは安珠のことずっと好きだったのにどうして澪のこと襲ったんですか?😭

沖田弥子
2020.04.23 沖田弥子

ご愛読ありがとうございました。
ご質問についてですが……もとはトキは、別荘に下男が必要になったため三分ほどでキャラ考案した間男でした。
それがイメージが広がったので続編の攻になりました。
安珠と再会する前は遊び人でテクニックを磨いていたというわけで、ご容赦ください。

解除
りこぴん
2019.05.03 りこぴん

完結おめでとうございます!
澪が幸せになって良かったです(*´-`)
毎日更新を楽しみにしていたので、『終わってしまったのか~』と思ってしまいました…

ぜひ、続編や番外編などの構想があったら嬉しいです(^^)
もしくは、子供たちのお話など!
まずはお疲れ様でした。

沖田弥子
2019.05.03 沖田弥子

ご愛読ありがとうございました。
番外編については構想の段階です。
もし公開したときは、お読みいただければ幸いです。

解除

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