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第二章 エウクラトア聖王国
26話 協力者
しおりを挟む何故か私の正体を知っている目の前の男の人。私はこの人物に本来の姿を見せてもいいのか迷った……。
とりあえず……。
「顔を上げてください」
私がそう言うとバッと勢いよく顔を上げる男の人。驚いて思わず仰け反りそうになったではないか!耐えたけど!
男の人と目が合うと、それはもうキラキラと輝く瞳が目に入る。
この既視感……。
「ああ、私の目の前に神の使徒様がいらっしゃるなんて……。 幸せ過ぎてもう死んでもいい……」
そんなうっとりとした顔で見ないで!
「ねぇ、どうしたらいいの?」
ついに私はマーエルとナレスに助けを求めた。ていうか、見守ってないではやく助けて欲しかった……!
「アマネ様、そこにいる男は熱狂的なウーラノス様の信者なのです。 ですから、ウーラノス様の使徒様であるアマネ様のことも信仰の対象なのです」
うわーまじかー。
「キーラン大司教様は本物のウーラノス様の信者ですわ。 それにわたくしたちの正体もご存知ですの」
ナレスはニッコリ笑って言った。
ということは、この男の人もセスク達と同じってことかな?それなら……。
私は九尾の獣人の姿に戻った。
「おお……」
目の前で感激している男の人。……ていうか涙を流してない!?
ハラハラと涙を流す男の人。その涙は止まらない……。
「ああ、なんという神々しさ! なんという奇跡……! ウーラノス神よ! ありがとうございます! この奇跡に感謝いたします!!」
おーい!こっちに帰ってきておくれ~と言いたくなるくらいに自分の世界に入っている。私を見ながら……。
「おい! そろそろ戻って来い!」
あっ、マーエルが言ってくれた。その言葉に男の人は涙を流しながらだけど、私に話す。
「グスっ! 使徒様、申し訳ございません。 ご挨拶が遅れました。 私はウーラ教の大司教のバージル・キーランと申します! バージルとお呼び下さい……!!」
「バージルね、よろしく」
今度は軽い感じで返す私。というか、先程の貴族令嬢みたいな挨拶はしなくてもよかったのでは?と今になって恥ずかしくなった。
そんな照れ隠しもあって軽い感じの返事になってしまった。
だけどそんな軽い感じでも、大層感激した様子のバージル。
「ああ……! 今、私は、使徒様とお話ししている……! それに、名前を……!!」
もう、私が何を言っても感動しそうな勢いだね。ちょっとほっといた方がいいかな……?
それから、私達はバージルが落ち着くのを待った。
数分後……。
「いや、大変失礼いたしました」
盛大に感動し泣いた後は落ち着いた様子のバージル。
うん、ほっといて正解だったね!
「やはり、お前とアマネ様を会わせたらこうなることは予想できたぞ?」
はっはっはっ!と笑うマーエル。
「相変わらずの信仰心ですこと」
ナレスも笑っている。
マーエルとナレス、予想していたなら私には教えてくれても良かったんじゃないの?とか思う。
だってあの反応は流石に対応に困ったよ……。
私が心の中で苦笑いしていると、私に緊張気味で話しかけてくるバージル。
「あ、あの! 使徒様!!」
「使徒様じゃ堅苦しいからアマネって呼んで」
バージルはギョッとした様に驚く。
「め、め、滅相もないことです!! 私如きが使徒様のお名前を呼ぶなど……」
畏れ多いです!!と言った感じで私の名前を呼ぶことを遠慮した。
「だけど、みんなの前でもそう呼ばれると困るんだよね……。 だから名前で呼んで欲しいのだけど」
そうなんだよ。名前で呼んでくれないと使徒だということがバレてしまう可能性があるし、面倒なことになるに違いない……。
「うっ……。 それは、そうですね……」
バージルは納得した様に見えたけど、少し考えてから言った。
「ですが、目の前にいらっしゃる使徒様が本物だということは、教皇が連れてきたあの女は……」
「ええ、偽者よ」
バージルが言い終わる前にナレスが微笑みながら言った。その言葉を理解するとバージルは少し不快感を顔に出しながら言う。
「なんということだ……!! 教皇ともあろうお方がそんなことをなさるなんて!!」
怒りも入っているだろう言い方をしたバージル。
「それなら、逆に使徒様のことを使徒様とお呼びした方が良いのではないでしょうか? 本物の使徒様がいらっしゃるのに偽者を立てるなど許されることでは無いですし!」
本物はこっちだよ!と言いたいバージル。だけど、それをするのは今じゃない。
「バージル、今は私の正体を明かす段階ではないの。 だから、今バレる訳にはいかない。 私にもウーラノス様から依頼された件があるから……」
私がそう言うと、バージルはハッとした。
「……申し訳ございません。 このバージル理解するのが遅くて……。 承知しました、僭越ながらアマネ様とお呼びさせていただきます!」
やっと納得してくれたバージル。ウーラノス様からの依頼ということで私に何かの役目があると思ったのだと思う。それを邪魔しないようにと即名前呼びになった。
「ありがとう。 そうしてくれるとありがたいよ! それにしてもよく私が使徒だと気づいたね、バージル」
人間には私の溢れる力はただ魔力が強いとしか思われそうだけど……。
バージルは若干照れくさそうに言う。
「実は私も確信は無かったのですが、アマネ様の溢れ出るそのオーラが神の使徒様に相応しいと思ったので……」
まさかのカンだった。
それから、マーエルが付け足す。
「アマネ様、バージルは何故かは分かりませんが、神のお力を本能で感じることがある様でして……。 だから、私達もそれでバレたというか……」
ちょっと苦笑いのマーエル。
それにしても神の力を本能で感じるって……?
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