氷剣の皇子は紫水晶と謳われる最強の精霊族を愛でる

梶原たかや

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1話◆白皙の紫水晶

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「……お前は俺を猫呼ばわりするが」
 カイの気持ちを知ってか知らずか、イルは自分の首に唇を寄せる頭を尚もやんわりと撫で続ける。
「それならお前は犬だなと思う」
「いぬ」
「そう、大型犬。……の、子犬」
「……大型犬の子犬」
 相手が一体どれだけ生きているのかは知らないが、子犬扱いは流石に不本意で、思わず目の前の白い首を本気で噛んでやろうかと思ってしまう。代わりに態と擽るように耳先を撫でると思った通り不機嫌そうにぱたりと耳が跳ねる。それを見て溜飲を下げたカイは、胸の尖りに触れている方とは逆の手指を首筋に沿わせながら、浮き出た鎖骨に唇で触れる。硬い骨にそって肩の方へと舌先で軽くなぞり、シャツの襟に鼻が触れるとそこまでで唇を離す。胸の小さな粒を弄んでいた手を腰元へと落とすと、その手を支えとして身を屈めたまま、今まで突いていた尖りに唇で触れた。指で触っていた分にはあまり思わなかったが、唇で触れるとやはり若干ひんやりと感じられる。呼吸に合わせて微かに上下するそれを、カイは口の中に含んだ。舌先で突き、ゆっくりと転がして、ぬるぬると舌全体で撫でては音を立てて小さく吸う。唇を離せば先端は唾液でてらりと艶めいて、今まで気にしたこともない男の乳首にこんなにも淫猥な気持ちになるのかと少し驚く。
「…………」
 刺激によってつんと立ち上がったそこは皮膚の薄さも相俟って綺麗な色をしていて、そっと舌先で触れると、柔かな弾力を感じる。愛おしむように口内に含んでは、小さく音を立ててゆっくりと吸う。片手は首筋からそろそろと下りて、もう一つの突起の方へと。まさぐる先を見ていないのもあって、触れたと同時に爪の先で下から上へと軽く弾く形になる。
「……っ、」
 声にならない息を詰め、組み敷いている身体が一瞬ひくん、と強張る。気付いてカイは口内で粒の一つを転がしながら、もう一つを片手で先ほどと同じように爪先で下から上へとそっと弾く。最初ほどではないにしても、僅かに下敷きの身体が反応した気がした。何度も爪で引っ掻いては傷付けそうで、ぷくりと芯を持ったそこを指の腹で何度か弾いてやると、イルの身体がもぞりと腕の下で身じろいだ。もしかして、とカイは身を起こして相手の顔を見る。
「……気持ちいい、のか」
 イルは口元に手の甲を当てながらカイを見上げていたが、無言のままゆっくりと薄紫の視線を斜めに彷徨わせる。
(気持ちよかったんだな)
 さっきまで自分を子供のように扱って頭を撫でていた相手から主導権を奪えた気がして少し気分が良い。カイは片手を伸べて意趣返しのように相手の髪を梳き撫でる。
「……別に俺のことはどうでもいい」
 髪を撫でられながら、機嫌を損ねた風でもなくイルが淡々と告げては徐にカイの体に手を伸ばす。
「お前がその気になっているかどうかが重要だから……」
「……っ……!」
 不意に伸びてきた手に下腹の辺りを撫でられて、カイはぎょっとして思わず相手の手を掴んでしまう。だが制止には一歩遅かったようだった。
「……へぇ」
 服越しに触れただけでも判る程度にカイの陰部は硬く張り詰めていて、そこまで前戯もしていないのに、とイルは純粋に感嘆するが、当のカイ本人は首から上を真っ赤に染めてしまう。
「正直なところ、最後まで出来るか以前に、そもそもお前がその気になれるかどうかすら危ういと思っていたが。……少し安心した」
 不意打ちされて何も言えないカイに対してイルは落ち着いたものである。だが、ふと何かに思い至ったようで怪訝な顔を見せた。
「お前、女と経験が有るとは言ったが。男もそういう対象なのか」
「……それは……」
 カイは口籠る。だがイルは今実際に組み伏せている性奴であり、特に性的な嗜好や事情を隠すような相手ではない。とはいえ、カイ自身もよくよく考えつつ言葉を選んで口にする。
「対象は女性だと思っているし、今まで同性にそういった感情を抱いたことは無いんだけど……、君に対してはそういう気持ちが……有る、みたいだ」
「……女と見間違えるような容姿でもないんだがな」
 性的嗜好が女性ということなら、少女のように愛らしい顔かたちと華奢な肢体であれば対象となるのもまだ分かる。しかしイルはカイとそこまで大幅に体格差が有るわけではないし、細身とはいえ痩せぎすなわけでもない。造りが綺麗で中性的なところはあるが、嫋やかな女性に間違えられるほどでもない。恩人として特別な感情を持たれていることは理解したが、性的対象の範囲外な気がするのにここまで反応を見せるのは、単純に不思議だった。
「……それは俺も……、ちょっと戸惑ってることだから」
「……なるほど」
 本人自身が認識している対象との懸隔を感じているのなら、イルに理解出来ないのも無理からぬことと納得する。所謂例外というやつなのだろう。そう理解すると腑に落ちた。
「とりあえず、光栄だと言っておくべきか。……無理やり勃たせてやることになるかと案じていたが、お前が俺に欲情してくれるのなら色々とやりやすい」
「……無理やりって……」
 何をされそうになっていたのだろう、と顔を引き攣らせるカイに対して、イルは曖昧に首を傾げるばかり。そんなイルは掴まれた腕をやんわりと解くと、今度は相手の下腹に直接ではなく、自分を組み敷く腿にそっと触れた。強請るというほどの所作ではないが、今、カイの目の前の相手は糧が欲しい。かくいう自分もそこそこ前が苦しい。カイは意を決して相手の腰元にそろりと手を添える。
「ここから先は俺は本当に分からないから……、教えて欲しいし、嫌だったら言ってほしい」
 真摯な矢車菊の色をひたと定められてイルは黙するが、そんな事を前置きする性奴の主人も居ないと言ったところでカイにはあまり意味が無いことをもう知っている。素直に小さく肯いて、イルは腰を浮かせた。
「……脱がせてくれないか」
 促されてカイはイルのズボンの履き口に指を掛けるが、こっちも、と下着も一緒に示されて途端に緊張した面持ちになる。何かの折に同性の上半身だけなら目にする機会も有るが、下半身となるとそうそう有るものでもない。緊張しつつも、相手が腰を上げているうちにと下着ごと服を下ろしていくと、胸元と同じく色の白い下肢が晒される。下生えの殆ど無い股間のものはカイとは異なり兆している気配は無いが、イルは気にした風でもなく片足の膝裏に腕を掛けて、ぐいと胸元に引き寄せる。足が引っ張られると共に腰が浮いて、会陰の更に下、菊座が露わとなった。誰かの性器も後孔もあまり見たことが無いカイは、閨に居ても尚、秘所を凝視しては失礼だという意識が捨てられないでいる。視線のやり場に困っているらしき相手にイルは暫く物珍しそうな観察眼を向けていたが、やがてもう片手を伸ばして、自らの孔に中指の腹を這わせた。
「さっき用意してもらった油で解していく。俺が自分でやっても良いが、……やってみるか」
 更なる緊張にカイは息を飲む。初めてなのでイルのお手本を見て学びたい気持ちも有ったが、これからは自分が相手に糧を提供するのだから、なるべく早くやり方を把握したいと思った。神妙な面持ちで肯くと、カイは栓を緩めて枕元に寄せてあった小瓶を引き寄せる。
「少し取って孔の周りに広げながら……、そこにも垂らして塗り込めながら指をゆっくり一本挿れていく」
「指を……」
 緩めてあった瓶の口から栓を抜き、手のひらに少量垂らしながらカイはイルの説明を口内で反芻する。だが指など自身の尻にすら挿れたことが無いのに、他人の身体に対して上手く出来るのだろうかと不安が過ぎる。相手は手慣れているわけで、力の抜き方なども熟知しているのだろうが、如何せん自分に色んなものが足りていない。
「そんなに心配せずとも、俺が慣れてるから大丈夫だ」
 カイの不安を感じ取ったようで、イルが言葉を添える。
「最初は力加減が分からないだろうが、気にしないでいい。多少傷が付いても構わないからとりあえずやってみれば……」
「俺が嫌だ」
 遮るようにはっきりと告げられてイルは言葉を無くす。あんなに不安げだったのに急に意思の強い眼でじっと見つめられれば否定も出来ず、一つ二つ瞬く間を置いてから言葉の無いまま小さく一つ頷く。それを確かめてからカイは手に取った油をそっと相手の菊門に滲み込ませる。とろりと滑る窄まりをそろそろと撫でてから人差し指をゆっくりと差し込んでいくと、思いのほか抵抗無く緩々と飲み込まれていく。片膝を自ら抱えるイルが深呼吸めいた息をゆっくり吐くのを見遣り、彼の力の抜き方が上手いのだと理解する。
「……痛くないか」
「大丈夫だ」
 平気そうな声音にカイはほっとする。イルは痛みに対して声は上げないが、痛くないわけではないらしいというのは古城の檻で目にしている。声は上げずとも恐らく痛ければ反応が有る筈で、それが見られないということは実際に平気だという認識で良いのだろう。
「……ゆっくり抜き差ししてくれ」
 言われたとおり、爪先で内壁を引っ掻いて傷付けないように注意しながらそうっと指を抜いたり再び根元まで飲み込ませたりする。挿れた最初はそればかりに気を取られていたが、落ち着いてくると指先を覆う肉壁の熱さに気付く。先ほど彼が告げた、腹の中も温かいと思う、との言葉を思い出してカイの肌がざわりと粟立つ。この狭く熱い内側に自身を潜り込ませたなら、どれほど気持ちが良いのだろう。
「ある程度硬さが抜けてきたら……、指を一本足す」
 慎重に指を進めているのと、油の滑りとで次第に抜き差しする指に感じる抵抗が和らいでくる。緩い吐息と共に告げられる指南にカイは根元まで飲み込ませた人差し指をゆっくりと抜いて、指先と菊座にそれぞれ油を足して指を二本に増やし、そろりと再び窄まりの奥へ進ませる。指が増えることで圧迫感が有るが、やはりイルは慣れた風にゆっくりと呼吸するだけで痛みや違和を訴えてはこない。念を押しているとはいえ、ある程度の痛みなら仮に有ったとしても彼は無言で流してしまいそうなので、注意深く様子を見ておく。とはいえ、促されるままに更に三本目の指を飲み込ませても、痛そうな様子は微塵も無い。
(……ここに指を挿れてもそんなに痛くないものなんだろうか)
 相手がけろりとしているのでついそんなことを考えてしまうが、経験値が高くて慣れている彼だからなのだろうとは思うし、自分の尻に指が三本も入る気なんてしない。
「……そろそろ解れただろうから、お前の好きな時に挿れてくれればいい」
 あれこれと考えながら指を抜き差ししていると、不意にイルが次の指示を寄越す。相変わらず彼の声は淡々としていて、こちらはそれどころではないのに、色艶を感じさせる雰囲気があまり無い。彼にとってはこの行為も単なる食事の一環に過ぎないからだろうか。多少複雑な気持ちになるも、カイは肯いてゆっくりと指を引き抜いていく。外気に晒される指が聊か冷たく感じられるので、やはり彼の内側は相応に温かいようだ。よく解れ、赤い内側が微かに覗く菊門は、油によっててらてらと輝き、正に濡れた性器のようにも見える。カイはゆっくりと長く細い息を吐いて、自身の前を寛げる。そこは既に張り詰めていて、正直苦しい。カイはそのまま相手の窄まりに怒張した自分のものを触れさせようとして、ふと思い至り、小瓶から油を取って起立したそこに塗り付けていく。相手の後孔はよく濡れて柔らかいが、自分のものも入り易ければ、より相手の内側に負担を掛けずに済むかと思った。イルはカイの所作を何を言うでもなく眺めていたが、カイが身を寄せようとすると、枕を自分の腰の下へと差し込みつつ、自ら抱えていた片足を相手の肩へと掛けるべく持ち上げてくる。成程、そうすれば後ろが持ち上がって晒され、挿入しやすくなるのかとカイは理解して、相手の両足を持ち上げて担ぐように自分の肩へと掛けた。
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