乙女ゲームの世界に転生したけど、そもそもそのゲーム知りません！

幼少期編

45 駄々っ子リラン

領地まで1週間。慣れた道だったから体力もそんなに消耗しなかった。

普段はできない屋台の食べ歩きとかバザーを見て回ったり、女性がいないとできることが増えるんだなってびっくりした。いつもは母と姉の買い物の付き添いであまり自分の見たいもの見れなかったりするけど、母と姉は「はしたない」って思われるから屋台のもの食べれないし、ヒールだからあまり歩き回れない。そもそも、歩き回るのはあまり良く思われないんだよね。女性ってイメージが大切だからそう考えると苦労することとか多いね。
前世はいい時代だったんだ。この世界も早く男尊女卑がなくなればいいなって思う。

領地の屋敷について今は一休みしてる。トトと擬き石で遊ぶのにハマってる。元はトトにオススメしてもらったルビー擬きとサファイア擬きだかだったけど、ドラゴンたちのお土産にとあれからいくつか拾ってきた。
魔力を込めると中の光が弾けて立体映像みたいに見えるんだ。これがすごく綺麗なの！

父と兄は着いて早々テーブルに地図を広げて、道を確認しながら何処らへんにいそうか話し合ってる。領地の山の部分はほとんど未開拓で地形がどうなってるとかほとんどわからないらしい。
僕も手伝おうかと思ったんだけど、トトが暇そうだったから一緒に遊ぶことにしたんだ。

てな訳で今は僕の部屋で擬き石って名付けた石たちを光らせて遊んでる。

「リラン、これまだやってないぞ」

「どれ？これ？」

トトが指したのは真珠擬き。光に透かすと水の中から見た海面みたいに揺れてる。

「わ、これ絶対綺麗！」

「そうなのか？どんなのだぞ？早く見せるんだぞ！」

「わかってるって。いくよ」

両手で真珠擬きを握って魔力を入れる。握った手を開くとまるで水の中にいるみたいな感覚になった。天井から淡い光が差し込んでいる感じで魚が普通に泳いでいそう。

「わぁ……凄い」

「うおー！凄いんだぞ！これが1番綺麗なんだぞ！父さんにあげたいぞ！」

「うん！絶対喜ぶよ。綺麗だなぁ」

僕もトトも夢中になって擬き石で遊んでたらドアをノックして兄が入ってきた。

「兄様！」

「リラン、楽しそうだね。急だけど明日から山に入るからあまりはしゃぎ過ぎないようにね？」

「わかりました！あ、兄様も遊びます？」

「ごめんね、まだやらないといけないことがあるんだ。終わったら遊ぼうね」

残念そうに寂しそうに僕の頭をポンポンと叩いて言った。僕もトトも兄が好きだからしゅんとしてしまった。トトは僕の使役を受けてるから気持ちとか少し影響されるみたい。

「仕方ないなぁ」

遊んでくれるのかと思って顔を上げると兄はポケットから領地に来る前に買ってたお菓子をくれた。

「そんなに残念そうな顔しないで。僕もリランともっと一緒に居たいんだから。今はこれで我慢して。ね？」

2歳とか小さい子をあやすよう。テンションが高かったら可愛い！尊い！カッコいい！とか思うんだろうけど、今はわがままモードになりそう。 

「すぐに終わらしてくるからね」

そう言って出て行こうとする兄のシャツを掴む。トトも兄のズボンに噛みついてる。

「リラン、トト、すぐ終わらすから」

「嫌です。嫌です」

「遊ぶんだぞ。トトとリランと遊ぶんだぞ」

2人して頭を振ってイヤイヤと駄々をこねる。最近まともに構ってもらえなくてずっと寂しかったのが爆発した感じ。辞めなきゃって思うほど感情のコントロールができなくなる。

「リラン……」

兄の呆れた声を聞いて肩がビクついた。嫌われたかなって不安になって涙がポタポタ溢れる。

「泣かないで、リラン」

僕に目線を合わせるためにしゃがんでくれた兄に抱きつく。

「一緒がいいの、嫌なの……一緒なの…」

兄の肩に顔を埋めて泣いてると兄が折れてくれて僕が泣き疲れて寝るまであやしてくれた。

「おやすみ、僕の可愛いリラン」

夢の中に入る前、兄がそう言ったように聞こえた。

トトを親の元に帰す夢を見た。神秘的な洞窟の出口に沢山のドラゴン達が羽ばたいていて、一際目立つ大きな赤い竜とトトが抱き合ってる夢。

（早く、帰してあげなきゃ……）