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物語のおわり
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部屋に入るとすぐ、コトミは続きを書きはじめた。
『ペガサスのつばさ 四』
天空の城は、琴美たちの見つけた場所に降り立ちました。そこで修復を行うのです。琴美とライは役目を終え、また大広間に呼ばれました。
ふたりがかしこまっていると、国王アンディと王妃エビナスが入ってきました。
「面をあげよ」
「はい」
「良く素晴らしい場所を見つけてくれた。ここなら石切り場も近いし、森もある。木造の修理に使う材木やレンガを焼くための木もとれる。それになにより景色が良く、空気が清浄だ。礼をいうぞ」
「良く見つけてくれました、琴美様、そしてライ。特に琴美様は、辛いなか良くがんばりましたね。礼を言います。本当にありがとう」
「復旧の作業の指揮は、私にお任せあれ」ベルナルドが言いました。
半年ほどして、城は完全に復旧しました。明日いよいよ飛び立つという夜、祝いのパーティが催されました。琴美とライも招待されました。
琴美は、着慣れないドレスをまといました。
「ライ、似合っている?」
「すごく似合っているよ、琴美」
この数カ月で、琴美は大きく成長しました。冒険の物語を書くことが、琴美を飛躍的に成長させてくれたのです。
いよいよ、パーティの夜がやってきました。大勢の騎士たちや淑女たちが、着飾って参加していました。楽団の音楽が流れる中、パーティは進みました。
パーティの中で、王妃エビナスが琴美のもとに近づいてきました。素晴らしい装飾品を身に着けていましたが、王妃エビナスはその心の方が美しく、また賢い人であると、琴美には分かっていました。
「そのドレス、とても良くお似合いですよ、琴美様」
「ありがとうございます。王妃様もすごく素敵です。けれど、もっと大事なものがあると、王妃様が教えてくれました。知恵と心です」
「ありがとう。現実の世界はどうですか?元に戻りましたか?」王妃は心配そうにたずねた。
「多くの『創造の人』は、現実に還れなくなってしまうことが良くあるのです。この物語の世界の方が、居心地が良くなってしまって……」
「大丈夫です。ちゃんと帰るとおもいます。秘密が分かりました」
「よく気がつきましたね。秘密は名前にあるのです。あなたが、本当の名前を使う時、ここへはいつでも来ることができ、そして還ることができます。しかし、偽物の名前を使っていると、帰れなくなるのです」
王妃との話が終わり、一人になると、ライが話しかけてきた。
「琴美、今までありがとう。辛いけれども、一度、お別れをしなくてはならない。もし何かあったら、また夢枕に立つよ。本当にありがとう!」
「ううん、ライ、お礼を言わなくてはならないのは、私の方よ。私を呼んでくれてありがとう。私、自分の進むべき道が見えた気がするの。本当に、本当にありがとう。さようなら」琴美はうっすらと涙を浮かべて言った。
パーティは朝まで続いた。次の日、城は天空へと、昇って行った。今はもうどこにあるのか分からない。そう、ガイド役のライがいなければ。琴美は、今でも思う。あれは夢だったんじゃないだろうか、と。しかし、空色のターコイズが、手元にある限り、決してライを、王妃を、そして物語の全てを忘れることはないだろう。
天空の城は、今日もどこかを漂っているに違いない。
(おしまい)
やっと書き上げた。もう夕食時だ。父さんも帰ってきているに違いない。さあ、現実の世界に戻ろう。また、いつでも遊びにいける。そう、ちゃんと帰り方さえ知っていれば。
「おおい、琴美ご飯だぞ」一階から父さんの声が聞こえた。琴美はにっこりすると、大きな声で返事をした。
「はーい、今行きます!」琴美は下へと降りて行った。現実に戻るために。
開け放たれた窓から、風が入り込み、物語のノートをパラパラとめくった。真っ白な新しいページが、開かれた。それは、琴美の新しい物語のはじまりを象徴するかのようだった。
(結)
『ペガサスのつばさ 四』
天空の城は、琴美たちの見つけた場所に降り立ちました。そこで修復を行うのです。琴美とライは役目を終え、また大広間に呼ばれました。
ふたりがかしこまっていると、国王アンディと王妃エビナスが入ってきました。
「面をあげよ」
「はい」
「良く素晴らしい場所を見つけてくれた。ここなら石切り場も近いし、森もある。木造の修理に使う材木やレンガを焼くための木もとれる。それになにより景色が良く、空気が清浄だ。礼をいうぞ」
「良く見つけてくれました、琴美様、そしてライ。特に琴美様は、辛いなか良くがんばりましたね。礼を言います。本当にありがとう」
「復旧の作業の指揮は、私にお任せあれ」ベルナルドが言いました。
半年ほどして、城は完全に復旧しました。明日いよいよ飛び立つという夜、祝いのパーティが催されました。琴美とライも招待されました。
琴美は、着慣れないドレスをまといました。
「ライ、似合っている?」
「すごく似合っているよ、琴美」
この数カ月で、琴美は大きく成長しました。冒険の物語を書くことが、琴美を飛躍的に成長させてくれたのです。
いよいよ、パーティの夜がやってきました。大勢の騎士たちや淑女たちが、着飾って参加していました。楽団の音楽が流れる中、パーティは進みました。
パーティの中で、王妃エビナスが琴美のもとに近づいてきました。素晴らしい装飾品を身に着けていましたが、王妃エビナスはその心の方が美しく、また賢い人であると、琴美には分かっていました。
「そのドレス、とても良くお似合いですよ、琴美様」
「ありがとうございます。王妃様もすごく素敵です。けれど、もっと大事なものがあると、王妃様が教えてくれました。知恵と心です」
「ありがとう。現実の世界はどうですか?元に戻りましたか?」王妃は心配そうにたずねた。
「多くの『創造の人』は、現実に還れなくなってしまうことが良くあるのです。この物語の世界の方が、居心地が良くなってしまって……」
「大丈夫です。ちゃんと帰るとおもいます。秘密が分かりました」
「よく気がつきましたね。秘密は名前にあるのです。あなたが、本当の名前を使う時、ここへはいつでも来ることができ、そして還ることができます。しかし、偽物の名前を使っていると、帰れなくなるのです」
王妃との話が終わり、一人になると、ライが話しかけてきた。
「琴美、今までありがとう。辛いけれども、一度、お別れをしなくてはならない。もし何かあったら、また夢枕に立つよ。本当にありがとう!」
「ううん、ライ、お礼を言わなくてはならないのは、私の方よ。私を呼んでくれてありがとう。私、自分の進むべき道が見えた気がするの。本当に、本当にありがとう。さようなら」琴美はうっすらと涙を浮かべて言った。
パーティは朝まで続いた。次の日、城は天空へと、昇って行った。今はもうどこにあるのか分からない。そう、ガイド役のライがいなければ。琴美は、今でも思う。あれは夢だったんじゃないだろうか、と。しかし、空色のターコイズが、手元にある限り、決してライを、王妃を、そして物語の全てを忘れることはないだろう。
天空の城は、今日もどこかを漂っているに違いない。
(おしまい)
やっと書き上げた。もう夕食時だ。父さんも帰ってきているに違いない。さあ、現実の世界に戻ろう。また、いつでも遊びにいける。そう、ちゃんと帰り方さえ知っていれば。
「おおい、琴美ご飯だぞ」一階から父さんの声が聞こえた。琴美はにっこりすると、大きな声で返事をした。
「はーい、今行きます!」琴美は下へと降りて行った。現実に戻るために。
開け放たれた窓から、風が入り込み、物語のノートをパラパラとめくった。真っ白な新しいページが、開かれた。それは、琴美の新しい物語のはじまりを象徴するかのようだった。
(結)
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