15 / 16
変えるべき現実
しおりを挟む
「おはよう、コトミ」父さんが言った。その時、コトミは気付いた。
『私は誰かに書かれている!』
「ことみ」のイントネーションが違う。父さんはいつも「琴美」と呼ぶ。いま父さんは「コトミ」と私の事を呼んだ。私も物語の登場人物になっている? そんなことって……。王妃が言った「変えるべき現実」とはこの事なのだろうか?
「どうしたの、コトミ? 早く食べてね」
母さんのイントネーションも違う! コトミは冷静になろうと必死に努めた。
「いただきます」
朝食を済ますと、学校へ行く準備をして、すぐに出かけた。そうだ、ノートを持っていこう。麻紀ちゃんなら、何かわかるかもしれない。
「いってきます」
「いってらっしゃい、コトミ」
学校へ着くと、隣の席の麻紀はもうすでに来ていて、今日の予習をしていた。
「おはよう、コトミちゃん」
麻紀ちゃんまで……。
「おはよう、麻紀ちゃん。あのね、後で見てほしいものがあるんだ。放課後、ちょっと時間とれる?」
「大丈夫よ、コトミちゃん、顔がこわばっているよ、どうかしたの?」
「ううん、何でもないの」
「コトミちゃん、何か元気ないけど、大丈夫?」先生が心配そうに声をかけてきた。コトミは思わず涙ぐんだ。
「コトミちゃんのお父さんとお母さんに何かあったの? 本当に病気とかじゃないの?」
「大丈夫です。本当に」
「何かあったら、すぐ言ってね、コトミちゃん」
放課後、誰もいなくなった教室で、コトミは物語のノートをランドセルから取り出した。
「実はね、私、物語を書いているんだ」
「へぇ、すごいね。どれどれ、わたしに見せて」
麻紀はゆっくりと読んでいった。『ペガサスのつばさ』・『ペガサスのつばさ 2』・『天空の城とドラゴン』・『ペガサスのつばさ 3』……。
麻紀が読んでいる間、時間はカタツムリのように、のろのろと進んでいるかに思えた。 コトミはズボンのポケットに忍ばせたターコイズを握りしめた。
「あー、面白かった。どうしてこれ、途中で終わっているの。もっと続きを書けばいいのに。ねぇ、琴美ちゃん、どうして?」
えっ、と琴美は驚いた。イントネーションが元に戻っている。どうして……?
「面白いよ、これ。ねぇ、もっと続きを書いてよ、琴美ちゃん」
「ありがとう、麻紀ちゃん。もう少しで、完成なんだ。頑張って書いてみるね」嬉しくなって、コトミは満面の笑みを浮かべた。
「今日、帰ってから書くよ」
「じゃ、明日見せてね。約束よ、琴美ちゃん」
「わかった! 約束ね」
家に帰りつくと、母さんはもう仕事から帰って来ていて、玄関の掃除をしていた。
「お帰り、コトミ」
コトミはイントネーションが、朝のままだったのにはもう驚かなかった。
「あのね、見てもらいたいものがあるの」
「何? テスト?」
「違う、これなの」
コトミは物語のノートをランドセルから取り出した。
「読んでみて」
母さんは好奇心にかられたのか、物語のノートを読みだした。コトミはポケットのターコイズに指先を当てた。
「……へぇ、面白いじゃない、琴美」
コトミはほっとして、思わず息をもらした。
「でも中途半端はいけないわね。最後まで書いて無いじゃない。こういう物はね、全部書いてから人に見せるものなのよ。分かった、琴美」
「今度から、そうするね。ありがとう、母さん」
『私は誰かに書かれている!』
「ことみ」のイントネーションが違う。父さんはいつも「琴美」と呼ぶ。いま父さんは「コトミ」と私の事を呼んだ。私も物語の登場人物になっている? そんなことって……。王妃が言った「変えるべき現実」とはこの事なのだろうか?
「どうしたの、コトミ? 早く食べてね」
母さんのイントネーションも違う! コトミは冷静になろうと必死に努めた。
「いただきます」
朝食を済ますと、学校へ行く準備をして、すぐに出かけた。そうだ、ノートを持っていこう。麻紀ちゃんなら、何かわかるかもしれない。
「いってきます」
「いってらっしゃい、コトミ」
学校へ着くと、隣の席の麻紀はもうすでに来ていて、今日の予習をしていた。
「おはよう、コトミちゃん」
麻紀ちゃんまで……。
「おはよう、麻紀ちゃん。あのね、後で見てほしいものがあるんだ。放課後、ちょっと時間とれる?」
「大丈夫よ、コトミちゃん、顔がこわばっているよ、どうかしたの?」
「ううん、何でもないの」
「コトミちゃん、何か元気ないけど、大丈夫?」先生が心配そうに声をかけてきた。コトミは思わず涙ぐんだ。
「コトミちゃんのお父さんとお母さんに何かあったの? 本当に病気とかじゃないの?」
「大丈夫です。本当に」
「何かあったら、すぐ言ってね、コトミちゃん」
放課後、誰もいなくなった教室で、コトミは物語のノートをランドセルから取り出した。
「実はね、私、物語を書いているんだ」
「へぇ、すごいね。どれどれ、わたしに見せて」
麻紀はゆっくりと読んでいった。『ペガサスのつばさ』・『ペガサスのつばさ 2』・『天空の城とドラゴン』・『ペガサスのつばさ 3』……。
麻紀が読んでいる間、時間はカタツムリのように、のろのろと進んでいるかに思えた。 コトミはズボンのポケットに忍ばせたターコイズを握りしめた。
「あー、面白かった。どうしてこれ、途中で終わっているの。もっと続きを書けばいいのに。ねぇ、琴美ちゃん、どうして?」
えっ、と琴美は驚いた。イントネーションが元に戻っている。どうして……?
「面白いよ、これ。ねぇ、もっと続きを書いてよ、琴美ちゃん」
「ありがとう、麻紀ちゃん。もう少しで、完成なんだ。頑張って書いてみるね」嬉しくなって、コトミは満面の笑みを浮かべた。
「今日、帰ってから書くよ」
「じゃ、明日見せてね。約束よ、琴美ちゃん」
「わかった! 約束ね」
家に帰りつくと、母さんはもう仕事から帰って来ていて、玄関の掃除をしていた。
「お帰り、コトミ」
コトミはイントネーションが、朝のままだったのにはもう驚かなかった。
「あのね、見てもらいたいものがあるの」
「何? テスト?」
「違う、これなの」
コトミは物語のノートをランドセルから取り出した。
「読んでみて」
母さんは好奇心にかられたのか、物語のノートを読みだした。コトミはポケットのターコイズに指先を当てた。
「……へぇ、面白いじゃない、琴美」
コトミはほっとして、思わず息をもらした。
「でも中途半端はいけないわね。最後まで書いて無いじゃない。こういう物はね、全部書いてから人に見せるものなのよ。分かった、琴美」
「今度から、そうするね。ありがとう、母さん」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちいさな哲学者
雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
クリスマス・アリス
雨宮大智
児童書・童話
サンタクロースは実在するのだろうか⎯⎯。それが少女アリスたちの学校で話題になる。「サンタはいない」と主張する少年マークたちのグループと、「サンタはいる」というアリスたちのグループは対立して……。そんな中、少女アリスは父親のいないクリスマスを迎える。至極のクリスマス・ファンタジー。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
賢二と宙
雨宮大智
児童書・童話
中学校3年生の宙(そら)は、小学校6年生の弟の賢二と夜空を見上げた⎯⎯。そこにあるのは、未だ星座として認識されていない星たちだった。ふたりの対話が、物語の星座を作り上げてゆく。流れ星を見た賢二はいう。「願い事を三回言うなんて、出来ないよ」兄の宙が答えた。「いつでもそうなれるように、準備しておけってことさ」。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
空の話をしよう
源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」
そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。
人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。
生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる