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自分しか書けない物語
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「琴美ちゃん、琴美ちゃん」
「書いて……みせ…る、うーん」
「琴美ちゃん、着いたよ」
麻紀が琴美の体を揺さぶった。
「あれ、ここは、そうか遠足だったんだっけ」
琴美はどちらが現実か、一瞬分からなくなった。しかし、すぐ遠足の方の現実に戻った。
「あーあ、良く眠った」
約束のことは鮮明に覚えていたけれど、誰にも話さない方が良いような気がして、琴美は夢のことを口に出さなかった。
「もう、ぐっすり寝ていたよ。つまんなかった」麻紀はふくれた。
「ごめん、ごめん。ゆるして、ねっ」琴美は急いで謝った。
「さ、みんな降りて。ここからは歩くわよ」
真奈美先生が先導した。琴美たちもバスから降りて、歩きはじめた。麻紀は、いろいろな事を楽しく話しかけてくれるけれど、琴美はうわの空だった。ライとの約束が心に強烈に残っていたのだった。
……自分にしか書けない物語を書く。琴美は時々、ノートに空想の物語を書いていた。何も考えずただ感じるままに。その時読んだ本の影響を受けて書くこともあった。だが、ライの願いはそうではない。琴美自身にしか書けない物語を書くこと。それは、琴美の体験を踏まえた物語を書くことなのではないだろうか。そこまで考えた時、急に疑問が浮かんだ。……私って本当は誰なんだろう? 私が私だということは、どういう事なんだろう?
「……ねえ、琴美ちゃん、聞いている?」
「ごめん、ごめん。ちょっとぼうっとしちゃった。ところで、麻紀ちゃん、自分がどうして自分なのかって分かる?」
突然の問いに、麻紀は少し考え込んだ。
「ずいぶんと哲学的ね」
「テツガクテキ?」
「難しいってことよ」
麻紀はまだ考えていた。頭のいい麻紀が考えている、やっぱり難しい事なのだろうか。しばらくして、麻紀は口を開いた。
「『自分はどうして、自分なのか』か……。それは多分、自分のことを自分自身が決めているからよ。自分が決めているから、自分なの。分かる?」
「こういう事? 琴美はこういう人間になります、って決めたから、琴美は今の琴美なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言えない」
「どっちよ」琴美は吹き出した。
「どこまでが琴美ちゃんか、それを琴美ちゃんが決めているのよ。だから、琴美ちゃんは琴美ちゃんが決めているの」
「わかった! アタマいい、麻紀ちゃん!」
いい友達を持って良かった。琴美は心から感謝した。そうか、全部自分で決めているんだ。自分が自分であるためには、まず自分が自分の事を考えなければならないんだ。
「話は変わるけど、今日ウチのママがね……」
麻紀ちゃんが話しはじめたので、今度は琴美が聞き役にまわることにした。
遠足は、楽しい思い出を残して、あっと言う間に終わった。
家に帰りつくと、琴美は急いで、物語のノートを広げ、書き始めた。
「書いて……みせ…る、うーん」
「琴美ちゃん、着いたよ」
麻紀が琴美の体を揺さぶった。
「あれ、ここは、そうか遠足だったんだっけ」
琴美はどちらが現実か、一瞬分からなくなった。しかし、すぐ遠足の方の現実に戻った。
「あーあ、良く眠った」
約束のことは鮮明に覚えていたけれど、誰にも話さない方が良いような気がして、琴美は夢のことを口に出さなかった。
「もう、ぐっすり寝ていたよ。つまんなかった」麻紀はふくれた。
「ごめん、ごめん。ゆるして、ねっ」琴美は急いで謝った。
「さ、みんな降りて。ここからは歩くわよ」
真奈美先生が先導した。琴美たちもバスから降りて、歩きはじめた。麻紀は、いろいろな事を楽しく話しかけてくれるけれど、琴美はうわの空だった。ライとの約束が心に強烈に残っていたのだった。
……自分にしか書けない物語を書く。琴美は時々、ノートに空想の物語を書いていた。何も考えずただ感じるままに。その時読んだ本の影響を受けて書くこともあった。だが、ライの願いはそうではない。琴美自身にしか書けない物語を書くこと。それは、琴美の体験を踏まえた物語を書くことなのではないだろうか。そこまで考えた時、急に疑問が浮かんだ。……私って本当は誰なんだろう? 私が私だということは、どういう事なんだろう?
「……ねえ、琴美ちゃん、聞いている?」
「ごめん、ごめん。ちょっとぼうっとしちゃった。ところで、麻紀ちゃん、自分がどうして自分なのかって分かる?」
突然の問いに、麻紀は少し考え込んだ。
「ずいぶんと哲学的ね」
「テツガクテキ?」
「難しいってことよ」
麻紀はまだ考えていた。頭のいい麻紀が考えている、やっぱり難しい事なのだろうか。しばらくして、麻紀は口を開いた。
「『自分はどうして、自分なのか』か……。それは多分、自分のことを自分自身が決めているからよ。自分が決めているから、自分なの。分かる?」
「こういう事? 琴美はこういう人間になります、って決めたから、琴美は今の琴美なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言えない」
「どっちよ」琴美は吹き出した。
「どこまでが琴美ちゃんか、それを琴美ちゃんが決めているのよ。だから、琴美ちゃんは琴美ちゃんが決めているの」
「わかった! アタマいい、麻紀ちゃん!」
いい友達を持って良かった。琴美は心から感謝した。そうか、全部自分で決めているんだ。自分が自分であるためには、まず自分が自分の事を考えなければならないんだ。
「話は変わるけど、今日ウチのママがね……」
麻紀ちゃんが話しはじめたので、今度は琴美が聞き役にまわることにした。
遠足は、楽しい思い出を残して、あっと言う間に終わった。
家に帰りつくと、琴美は急いで、物語のノートを広げ、書き始めた。
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