ことみとライ

雨宮大智

文字の大きさ
上 下
3 / 16

創造の泉

しおりを挟む
 琴美はペガサスのライに乗っていた。今朝の夢の続きだ。近づくと、城と街はどんどん大きくなり、まるで、要塞のようだった。ライは大きくはばたくと、空に浮かぶ地面に着地した。
「着きました。ここが天空の城です」
 ライは頭の方を下げ、足をかがめて、琴美を地面に下ろした。

「創造の泉って?」
 朝の夢の会話を思い出しながら、琴美はライにたずねた。創造の泉が枯れてしまう、たしかライはそう言っていた。
「あなたの書く物語が、この天空の城や、天空の街の人が飲むアイディアの源泉なのです。ここは、あなたの心の中にあると同時に、多重世界にある城なのです」
「多重世界?」
 琴美には、今一つ理解できなかった。
「多重世界とは、この宇宙と並行して存在する世界のことです。パラレルワールドとも言います。要するに多くの世界がこの城と繋がっているのです」
分かったような、分からないような説明だったが、とにかく、琴美が物語を書かなくなったことが原因で、困っている人たちが居ることは分かった。
「飲み水が無くちゃ、大変でしょう?」琴美が心配そうにたずねた。
「普通の飲み水はいくらでもあります。しかし泉の水は、ただの水ではありません。様々なアイディアや創造物の源泉なのです」

 ライは丁寧に答えた。
「ごめんなさい、そんな大変なことになっているなんて、私ちっとも知らなくて……」
申し訳なくて、琴美は泣きそうだった。
「大丈夫です、大丈夫。あなた様は物語を書いてくれれば良いのです。どんな物語でも構いません。心の底より浮かび上がってくる物語です。ただ、人の真似はいけません。あなたにしか書けない物語があるはずです。それを書いてください。宜しくお願いします」

 ライは何度何度も頼みこんだ。
「わかった、書いてみる」
 琴美はライに大きくうなずいてみせた。
「約束する。きっと私だけの物語を書いてみせる」
 ライは涙を流して喜んだ。
「ありがとう、ありがとう……」
 後は言葉にならなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

賢二と宙

雨宮大智
児童書・童話
中学校3年生の宙(そら)は、小学校6年生の弟の賢二と夜空を見上げた⎯⎯。そこにあるのは、未だ星座として認識されていない星たちだった。ふたりの対話が、物語の星座を作り上げてゆく。流れ星を見た賢二はいう。「願い事を三回言うなんて、出来ないよ」兄の宙が答えた。「いつでもそうなれるように、準備しておけってことさ」。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

Sadness of the attendant

砂詠 飛来
児童書・童話
王子がまだ生熟れであるように、姫もまだまだ小娘でありました。 醜いカエルの姿に変えられてしまった王子を嘆く従者ハインリヒ。彼の強い憎しみの先に居たのは、王子を救ってくれた姫だった。

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

プラネタリウムのめざす空

詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。 普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。 短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

処理中です...