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クリスマス間近の街
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「母さん、ただいま!」いつものように元気よく、アリスは家に入った。父さんが戦争に行っている間、いつも母さんのニースが側にいてくれた。
母さんはいつも言う、「父さんは死んだのよ。だけど、大丈夫。母さんがずっと支えてあげるから」と。でもアリスはその言葉を信じなかった。母さんは嘘をついている。今も絶対に生きていて必ず帰ってくると、強く信じて疑わなかった。
当然のことながら、生活はとても貧しかった。母のニースは、昼に工場でミシンをかけ、夜はちょっとした内職をして細々と生活を続けていた。ニースはいつも優しく、そして気丈で、弱音を吐いたところをアリスに見せたことがなかった。
「あら、どうしたの、ケンカでもした?」
ニースはアリスをいつも温かく迎える。今日もちょっと機嫌が悪いのをすぐに見破ったのだろうか。満面の笑みで、でもいたずらっぽく応えてくれる。ニースは整った顔立ちで、金髪の巻き毛もアリスにそっくりだった。目は灰色がかった青で、瞳の奥に優しさと強さが共にあった。貧しさにあっても、清潔さと気品に溢れた姿をしていた。
「マークがね、サンタさんを信じているなんてまだ子どもだ、って言うんだもの」
「あらあら、マークらしいわね。それでなんて答えたの?」
「信じるのは自由じゃないの、って言ってやったの。神さまだって同じでしょ、って」
「それにはマークも答えられないわね」おかしそうにニースは笑った。
「でしょう? やっつけちゃった」アリスもつられて笑う。
「サンタさん、ホントにいるよね、母さん」
「もちろんよ。サンタさんは本当にいるわ。今年ももうすぐね、クリスマス」
今年も十二月になって、街にも本格的な冬が訪れようとしていた。雪はまだ降っていないが、もうしばらくすれば降り始めるだろう。アリスは雪が好きだ。真っ白なものに惹かれているのだろうか。純白な雪の姿がなにより好きだった。
アリスの覚えている父との思い出は、雪原で一緒に遊んだことだった。一面の銀世界で握りこぶしほどの雪球を作っては投げつけ合う。もちろん本気で当てようというのではない。そんな雪遊びが、雪と父のイメージをだぶらせていた。父さんは本当に嬉しそうで、アリスも本当に楽しかった。それはかけがいのない思い出だった。だから、アリスは雪が大好きなのだ。
「早くこの街にも雪が降りますように、そして、幸せなクリスマスが訪れますように……」
夕食の食卓に着いたアリスは、ささやかな祈りを捧げた。
「さぁ、晩ごはんにしましょうね」前に向かい合った母さんが、祈りの手を解いて笑顔でせかした。
「はーい」アリスもにっこりとスプーンを手にした。
食卓にはいつものように、つつましやかな晩ご飯が並び、それを囲むふたりの笑顔があった。そして小さな家の窓からは、きらめく沢山の星たちが垣間見えた。
母さんはいつも言う、「父さんは死んだのよ。だけど、大丈夫。母さんがずっと支えてあげるから」と。でもアリスはその言葉を信じなかった。母さんは嘘をついている。今も絶対に生きていて必ず帰ってくると、強く信じて疑わなかった。
当然のことながら、生活はとても貧しかった。母のニースは、昼に工場でミシンをかけ、夜はちょっとした内職をして細々と生活を続けていた。ニースはいつも優しく、そして気丈で、弱音を吐いたところをアリスに見せたことがなかった。
「あら、どうしたの、ケンカでもした?」
ニースはアリスをいつも温かく迎える。今日もちょっと機嫌が悪いのをすぐに見破ったのだろうか。満面の笑みで、でもいたずらっぽく応えてくれる。ニースは整った顔立ちで、金髪の巻き毛もアリスにそっくりだった。目は灰色がかった青で、瞳の奥に優しさと強さが共にあった。貧しさにあっても、清潔さと気品に溢れた姿をしていた。
「マークがね、サンタさんを信じているなんてまだ子どもだ、って言うんだもの」
「あらあら、マークらしいわね。それでなんて答えたの?」
「信じるのは自由じゃないの、って言ってやったの。神さまだって同じでしょ、って」
「それにはマークも答えられないわね」おかしそうにニースは笑った。
「でしょう? やっつけちゃった」アリスもつられて笑う。
「サンタさん、ホントにいるよね、母さん」
「もちろんよ。サンタさんは本当にいるわ。今年ももうすぐね、クリスマス」
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「早くこの街にも雪が降りますように、そして、幸せなクリスマスが訪れますように……」
夕食の食卓に着いたアリスは、ささやかな祈りを捧げた。
「さぁ、晩ごはんにしましょうね」前に向かい合った母さんが、祈りの手を解いて笑顔でせかした。
「はーい」アリスもにっこりとスプーンを手にした。
食卓にはいつものように、つつましやかな晩ご飯が並び、それを囲むふたりの笑顔があった。そして小さな家の窓からは、きらめく沢山の星たちが垣間見えた。
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