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少女アリス
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十二月、街がクリスマス色に彩られる季節。あちらこちらで、クリスマスのイベントが催されていた。クリスマス・セール。クリスマス・コンサート。街が一番賑やかな季節なのかもしれないな、とアリスは思った。
そんな楽しい時に対立するのが、サンタがいると主張するアリスたちのグループと、サンタなんていないと主張するマークたちのグループだ。果たしてサンタはいるのかどうか、それが学校や家庭で話題になる。
「サンタなんて絶対にいない、と僕は思うな」
学校の帰り道、同級生のにきび顔をしたマークは、メガネを押し上げて言った。
「プレゼントを持ってくるのは、確実にパパかママだって」念を押すように、アリスの方を向いてマークは続けた。
「そんなこと無い。きっとサンタさんはいるに違いないよ」アリスは決して譲らない。
アリスは金髪の巻き毛の少女だ。彼女を見た人は皆、天使だという。青い瞳に柔らかな髪の毛。清潔でよくとかされた髪の毛は、天使の羽根の柔らかさを思わせた。アリスは今年で十才になる。
「証拠はあるの?」
成績はクラスで上の方だけれど、思ったことをズバズバというマークが、アリスはちょっと苦手だった。ただ今日はたまたま帰り道が一緒になったのだ。
「サンタを信じているなんて、子どもなんだよ」マークは嫌味たっぷりに言い放った。
「私もマークも、まだ子どもでしょ。それとサンタさんを信じるかどうかは関係ないわ。あなたは迷信だって言いたんでしょ。じゃあ神さまはどうなるの。それも迷信なの?」
「それは……」マークは二の句を継げない。ただうつむいて小石を蹴る。 あまりにマークが落ち込んでしまったので、慌ててアリスは言葉を続けた。
「ごめんなさい、やり込める気はなかったの。ただ、わたしにはサンタさんが必要なの。それにマークにもサンタさんは来るでしょう。幸せな気分になるでしょう?」
「どうしてそんなにサンタにこだわるんだよ。サンタなんて大人の作り上げた偽者さ」
「いいの、サンタさんは本当にいるんだから」
「ごめん。じゃあ、僕、こっちの道だから」
「うん、バイバイ」ちょっぴり嫌な気分だったが、にっこり笑ってアリスは手を振った。
長い戦争が街に暗い影を落としていた。アリスに戦争の事は良く分からなかったが、ひどく悪い事が起こっているという事だけは感じていた。そして、自分の父親が戦争に取られてしまっている事が、何より悔しかった。
アリスが持っている父親の記憶は、あいまいで漠然としたものだ。家族で撮った白黒の写真が飾ってあるのは、まだアリスが幼児で父に抱きかかえられている様子のもの。傍らには、今よりもずっと若く美しい母が寄り添っている。その写真のみが、アリスの持つ、はかない父親のイメージだった。
そんな楽しい時に対立するのが、サンタがいると主張するアリスたちのグループと、サンタなんていないと主張するマークたちのグループだ。果たしてサンタはいるのかどうか、それが学校や家庭で話題になる。
「サンタなんて絶対にいない、と僕は思うな」
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「プレゼントを持ってくるのは、確実にパパかママだって」念を押すように、アリスの方を向いてマークは続けた。
「そんなこと無い。きっとサンタさんはいるに違いないよ」アリスは決して譲らない。
アリスは金髪の巻き毛の少女だ。彼女を見た人は皆、天使だという。青い瞳に柔らかな髪の毛。清潔でよくとかされた髪の毛は、天使の羽根の柔らかさを思わせた。アリスは今年で十才になる。
「証拠はあるの?」
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「サンタを信じているなんて、子どもなんだよ」マークは嫌味たっぷりに言い放った。
「私もマークも、まだ子どもでしょ。それとサンタさんを信じるかどうかは関係ないわ。あなたは迷信だって言いたんでしょ。じゃあ神さまはどうなるの。それも迷信なの?」
「それは……」マークは二の句を継げない。ただうつむいて小石を蹴る。 あまりにマークが落ち込んでしまったので、慌ててアリスは言葉を続けた。
「ごめんなさい、やり込める気はなかったの。ただ、わたしにはサンタさんが必要なの。それにマークにもサンタさんは来るでしょう。幸せな気分になるでしょう?」
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「いいの、サンタさんは本当にいるんだから」
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「うん、バイバイ」ちょっぴり嫌な気分だったが、にっこり笑ってアリスは手を振った。
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