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第1章 クロッカスの咲く頃に
1-3 スタート
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季節は四月になり、新年度が始まった。私は高校二年生になる。桜はまだ咲かなかったが、私の心は新しい季節に、悦びを覚えていた。それは新クラスでの授業のスタートだった。
私のクラスは、簿記会計などを学ぶ商業科のクラスである。正直にいうと、高校選びに失敗したのだ。叔母の家に良く行くようになったのが、高校一年生の夏休みから。その日から、文学や文化学に触れた私は、人生が変わってしまった。「圭子さん」という私の人生の先輩が、大きく私を変えてしまったのである。どうしても、文化学や文化人類学の道に進みたいと、考えるようになったのだ。
学校の授業は英語や数学の時間が少なく、普通科のように四年制の大学受験に対応していないとさえいえる。
私は、一人悶々としていた。
「どうしたの、あんずちゃん」
放課後の時間、私がいろんなことを、ぼぉっと考えていると、友達が声をかけてきた。
井上和子、通称かずちゃん。私の大切な友達。
「かずちゃん。私、文系の短大受けようかしら……」
私は思い切ってそう告白した。
「……簿記の授業とか、成績が良いのに? どうしたの?」
かずちゃんは、コンピュータを専門に学びたくてこの学科に入ったのだが、コンピュータ・プログラムとの相性が悪かったために、二年次から八組の簿記のクラスに入った。学校の授業の一環として、一年生の冬に簿記の検定試験を受け、私もかずちゃんも合格していた。
「最近、文学に目覚めてしまったのよ、私。それで本を読みながら、あんな風な勉強をしたいと思い始めたの」
「それ分かるなぁ。私、コンピュータの時がそうだったから」
かずちゃんは、コンピュータがとの馴れ初めが良かったらしい。そのあとが大変だったらしいけれども。
「私、四年制の大学に合格できるかしら。いまの授業形態だと、難しいよね」
「うーん、それは勉強次第じゃないかな」とかずちゃん。
「予備校とか、通った方がいいかしら」
「加島先生に相談してみたら?」
「それ、名案!」
加島先生は私たちのクラス担任で、社会の先生である。年のころは四十才前後で、私たちが入学した一昨年に結婚した。フルネームは「加島芳樹」先生。旅が好きで、夏休みには一泊二日の電車の旅に出掛ける。旅の土産話がすこぶる面白い。
「加島せんせー、今お時間ありますか」
かずちゃんと私は、放課後の職員室へ来ていた。
「珍しいな。どうした、黒崎。井上も」
「進路の相談に乗ってほしいんですよ」
私は、思い切って今の気持ちをぶつけてみた。
「私、文系の大学に進学したいんです。経済とか情報処理ではなくて。不可能でしょうか」
加島先生は少し考えてから言葉を発した。
「不可能じゃないけど、難しいと思う」
「やっぱり……」私は意気消沈した。
「黒崎は学校の成績や内申点が良いから、推薦入学で小論文を頑張れば、大丈夫かもしれないな」
傍らでかずちゃんが、ほほ笑んだ。
「よかったね。あんずちゃん」
「どういう勉強をすればいいんでしょうか」私は暗い気持ちでつぶやいた。
「国語と英語と小論文だな。試験は共通一次より早くて、夏ごろが多いだろう。今から頑張れば大丈夫だよ」加島先生は渋い顔をしながら、語りかけた。
「小論文ですか?」
私の問いに、加島先生は頷いた。
「毎日、テーマを決めるから、国語の坂川先生に見てもらって。僕の方から頼んでおくよ」
「よかったね。あんずちゃん」
加島先生の言葉に、私は胸を撫でおろした。
「先生、本当にありがとう」
それから、私の大学入試への挑戦が始まったのだった。
私のクラスは、簿記会計などを学ぶ商業科のクラスである。正直にいうと、高校選びに失敗したのだ。叔母の家に良く行くようになったのが、高校一年生の夏休みから。その日から、文学や文化学に触れた私は、人生が変わってしまった。「圭子さん」という私の人生の先輩が、大きく私を変えてしまったのである。どうしても、文化学や文化人類学の道に進みたいと、考えるようになったのだ。
学校の授業は英語や数学の時間が少なく、普通科のように四年制の大学受験に対応していないとさえいえる。
私は、一人悶々としていた。
「どうしたの、あんずちゃん」
放課後の時間、私がいろんなことを、ぼぉっと考えていると、友達が声をかけてきた。
井上和子、通称かずちゃん。私の大切な友達。
「かずちゃん。私、文系の短大受けようかしら……」
私は思い切ってそう告白した。
「……簿記の授業とか、成績が良いのに? どうしたの?」
かずちゃんは、コンピュータを専門に学びたくてこの学科に入ったのだが、コンピュータ・プログラムとの相性が悪かったために、二年次から八組の簿記のクラスに入った。学校の授業の一環として、一年生の冬に簿記の検定試験を受け、私もかずちゃんも合格していた。
「最近、文学に目覚めてしまったのよ、私。それで本を読みながら、あんな風な勉強をしたいと思い始めたの」
「それ分かるなぁ。私、コンピュータの時がそうだったから」
かずちゃんは、コンピュータがとの馴れ初めが良かったらしい。そのあとが大変だったらしいけれども。
「私、四年制の大学に合格できるかしら。いまの授業形態だと、難しいよね」
「うーん、それは勉強次第じゃないかな」とかずちゃん。
「予備校とか、通った方がいいかしら」
「加島先生に相談してみたら?」
「それ、名案!」
加島先生は私たちのクラス担任で、社会の先生である。年のころは四十才前後で、私たちが入学した一昨年に結婚した。フルネームは「加島芳樹」先生。旅が好きで、夏休みには一泊二日の電車の旅に出掛ける。旅の土産話がすこぶる面白い。
「加島せんせー、今お時間ありますか」
かずちゃんと私は、放課後の職員室へ来ていた。
「珍しいな。どうした、黒崎。井上も」
「進路の相談に乗ってほしいんですよ」
私は、思い切って今の気持ちをぶつけてみた。
「私、文系の大学に進学したいんです。経済とか情報処理ではなくて。不可能でしょうか」
加島先生は少し考えてから言葉を発した。
「不可能じゃないけど、難しいと思う」
「やっぱり……」私は意気消沈した。
「黒崎は学校の成績や内申点が良いから、推薦入学で小論文を頑張れば、大丈夫かもしれないな」
傍らでかずちゃんが、ほほ笑んだ。
「よかったね。あんずちゃん」
「どういう勉強をすればいいんでしょうか」私は暗い気持ちでつぶやいた。
「国語と英語と小論文だな。試験は共通一次より早くて、夏ごろが多いだろう。今から頑張れば大丈夫だよ」加島先生は渋い顔をしながら、語りかけた。
「小論文ですか?」
私の問いに、加島先生は頷いた。
「毎日、テーマを決めるから、国語の坂川先生に見てもらって。僕の方から頼んでおくよ」
「よかったね。あんずちゃん」
加島先生の言葉に、私は胸を撫でおろした。
「先生、本当にありがとう」
それから、私の大学入試への挑戦が始まったのだった。
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