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なわばりあらそいがおさまった日の、次の日。
公園に、アメショーさんがあらわれた。
「アメショーさん」
もう会えないんだろうと思っていたので、びっくりした。
「なんで、ここにいるにゃ?」
アメショーさんの答えはなかった。
おれを、上から見おろしてくる。
しばらく、見つめあっていた。
アメショーさんが、ふっと笑った。
「俺についてこい。大事な話がある」
「はいにゃ」
どこに行くんだろう?
長老は、ベンチの下にいる。あまり遠くに行ってしまうと、心配されそうな気がした。
「どこまで、行くにゃ?」
「このへんでいいか」
公園のすみっこの草むらで、アメショーさんが足を止めた。
あちこちを見まわしている。まわりを気にしてるようなそぶりだった。
「……アメショーさん?」
「マル」
鼻先が近づいてきた。あれっと思ってるあいだに、鼻がくっついていた。
「なーに?」
「うつぶせで、伏せて」
「なんでにゃ?」
「いいから」
わけがわからなかったけれど、言うとおりにした。
アメショーさんが、おれと同じ向きになった。
それから、おれの背中にのった。
「こわいにゃ」
「大丈夫だから」
「あっ、あっ……」
体が、びくっとした。
おれの中にいる。後ろから、入られてしまった。
「動くぞ」
「いやにゃ。いたいにゃ……」
「じっとしてろ。すぐに終わるから」
「あ、あーん」
「かわいい」
されてしまった。たぶん、交尾だった。
アメショーさんは、まんぞくそうだった。
「これで、俺のものだ」
おれは、ぐったりしていた。
あおむけになって、体をのばしていた。人間がねる時のようなかっこうだ。
ねる時のおれは、こういうかっこうでねることが多い。このかっこうでいると、他の猫たちはびっくりするけど、おれにとっては、これが楽なしせいだ。
おれの顔や体を、アメショーさんが、ねっしんになめてくる。
「ひどいにゃ」
「どうして? いやだった?」
「赤ちゃんが、できちゃうにゃ……」
「できないよ」
アメショーさんが、あきれたように言った。
「どうしてにゃ?」
「お前は、もう去勢されてる。子は生めない」
「そ、そんにゃあ……」
しらなかった。去勢って、そういうことだったんにゃ……。
いつかの、夏の日だった。
みっちゃんに、せまいかごに入れられて、かごの中にあったおいしいものをたべていたら、いつのまにかねていた。
目がさめた時には、長老がいる公園に戻されていた。
あの時に、おれは、去勢されたんだと思う。
ひどい。ねてるあいだに、赤ちゃんが生めない体にされていたなんて。
そんなこと、おれは、のぞんでなかったのに……。
おれは、はじめて、みっちゃんをうらんだ。
めそめそしていると、アメショーさんは困った顔をした。
「ごめんな。痛かったか?」
「それなりにゃ」
「どっちだよ」
「でも、きもちよかったにゃ」
「……そうか」
「また、してもいいにゃあ」
「ちょろい女だな」
ため息をつかれてしまった。
「俺が好き?」
「はいにゃ」
「軽いんだよな……」
「アメショーさんは?」
「好きだよ。はじめて、お前を見た時から」
「うれしいにゃあ」
「フェロモンが出てないから、わからなかったんだ。最初は。
お前が雌だって。
左耳のカットを見て、やっと気づいた」
「そうだったんにゃ」
「うん」
「おれ、雌なの?」
「……そっちか。そうだよ。
お前は雌だ。知らなかったのか?」
「誰も、教えてくれなかったにゃ」
「どういう育て方をされたんだ」
アメショーさんは、あきれてるみたいだった。
「とにかく、俺は、お前が好きになったんだ。
俺のパートナーになってくれ。いいよな?」
「えっ」
「いいよな?」
圧がすごい。鼻先と鼻先がくっついた。
「パートナー」っていう言葉の意味はわからなかったけど、きっと、もっと仲よくなろうとか、そういう意味なんだろう。
アメショーさんみたいなイケメンに言いよられて、悪い気はしなかった。
「返事は?」
「はいにゃ」
「よかった」
「ところで、『パートナー』って、なんにゃ?」
「わかってなかったのか。俺の奥さんになるってこと」
「えぇえええーっ」
「今日から、俺の家に住んでもらうから」
「それは、こまるにゃ。ごはんとか……」
「俺が獲ってくるから」
「えっ?」
「スズメとか。ネズミとか」
「い、いやにゃー!」
「まいったな」
「おれは、長老のそばでくらすんにゃ」
「まあ、そうだよな……。
わかった。とりあえずは、別居でいい」
公園に、アメショーさんがあらわれた。
「アメショーさん」
もう会えないんだろうと思っていたので、びっくりした。
「なんで、ここにいるにゃ?」
アメショーさんの答えはなかった。
おれを、上から見おろしてくる。
しばらく、見つめあっていた。
アメショーさんが、ふっと笑った。
「俺についてこい。大事な話がある」
「はいにゃ」
どこに行くんだろう?
長老は、ベンチの下にいる。あまり遠くに行ってしまうと、心配されそうな気がした。
「どこまで、行くにゃ?」
「このへんでいいか」
公園のすみっこの草むらで、アメショーさんが足を止めた。
あちこちを見まわしている。まわりを気にしてるようなそぶりだった。
「……アメショーさん?」
「マル」
鼻先が近づいてきた。あれっと思ってるあいだに、鼻がくっついていた。
「なーに?」
「うつぶせで、伏せて」
「なんでにゃ?」
「いいから」
わけがわからなかったけれど、言うとおりにした。
アメショーさんが、おれと同じ向きになった。
それから、おれの背中にのった。
「こわいにゃ」
「大丈夫だから」
「あっ、あっ……」
体が、びくっとした。
おれの中にいる。後ろから、入られてしまった。
「動くぞ」
「いやにゃ。いたいにゃ……」
「じっとしてろ。すぐに終わるから」
「あ、あーん」
「かわいい」
されてしまった。たぶん、交尾だった。
アメショーさんは、まんぞくそうだった。
「これで、俺のものだ」
おれは、ぐったりしていた。
あおむけになって、体をのばしていた。人間がねる時のようなかっこうだ。
ねる時のおれは、こういうかっこうでねることが多い。このかっこうでいると、他の猫たちはびっくりするけど、おれにとっては、これが楽なしせいだ。
おれの顔や体を、アメショーさんが、ねっしんになめてくる。
「ひどいにゃ」
「どうして? いやだった?」
「赤ちゃんが、できちゃうにゃ……」
「できないよ」
アメショーさんが、あきれたように言った。
「どうしてにゃ?」
「お前は、もう去勢されてる。子は生めない」
「そ、そんにゃあ……」
しらなかった。去勢って、そういうことだったんにゃ……。
いつかの、夏の日だった。
みっちゃんに、せまいかごに入れられて、かごの中にあったおいしいものをたべていたら、いつのまにかねていた。
目がさめた時には、長老がいる公園に戻されていた。
あの時に、おれは、去勢されたんだと思う。
ひどい。ねてるあいだに、赤ちゃんが生めない体にされていたなんて。
そんなこと、おれは、のぞんでなかったのに……。
おれは、はじめて、みっちゃんをうらんだ。
めそめそしていると、アメショーさんは困った顔をした。
「ごめんな。痛かったか?」
「それなりにゃ」
「どっちだよ」
「でも、きもちよかったにゃ」
「……そうか」
「また、してもいいにゃあ」
「ちょろい女だな」
ため息をつかれてしまった。
「俺が好き?」
「はいにゃ」
「軽いんだよな……」
「アメショーさんは?」
「好きだよ。はじめて、お前を見た時から」
「うれしいにゃあ」
「フェロモンが出てないから、わからなかったんだ。最初は。
お前が雌だって。
左耳のカットを見て、やっと気づいた」
「そうだったんにゃ」
「うん」
「おれ、雌なの?」
「……そっちか。そうだよ。
お前は雌だ。知らなかったのか?」
「誰も、教えてくれなかったにゃ」
「どういう育て方をされたんだ」
アメショーさんは、あきれてるみたいだった。
「とにかく、俺は、お前が好きになったんだ。
俺のパートナーになってくれ。いいよな?」
「えっ」
「いいよな?」
圧がすごい。鼻先と鼻先がくっついた。
「パートナー」っていう言葉の意味はわからなかったけど、きっと、もっと仲よくなろうとか、そういう意味なんだろう。
アメショーさんみたいなイケメンに言いよられて、悪い気はしなかった。
「返事は?」
「はいにゃ」
「よかった」
「ところで、『パートナー』って、なんにゃ?」
「わかってなかったのか。俺の奥さんになるってこと」
「えぇえええーっ」
「今日から、俺の家に住んでもらうから」
「それは、こまるにゃ。ごはんとか……」
「俺が獲ってくるから」
「えっ?」
「スズメとか。ネズミとか」
「い、いやにゃー!」
「まいったな」
「おれは、長老のそばでくらすんにゃ」
「まあ、そうだよな……。
わかった。とりあえずは、別居でいい」
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