10 / 14
3-4
しおりを挟む
スフィンクスがいた。目があった。
たたかいもしないで、おれを見ている。
いらっとした。
そもそも、おれたちは一対一で勝ったんだ。
倍の数の敵に、もみくちゃにされるすじあいはない。
おれを叩こうとした猫の顔を、アメショーさんが、するどい爪で引っかいた。
うぎゃっという悲鳴が聞こえた。
キジトラさんと、茶トラ猫の兄さんと、白猫の兄さんは、おれとアメショーさんを守るような位置にいて、たたかっていた。
みんな、強かった。
黒猫の弟の、ちいさい方が、はちわれを起こそうとして、やっきになっていた。
たたかいは、はてしなく続いた。
だんだん、敵も味方も、疲れてきた。
へろへろの体で、たたかっていた。
ばかみたいだと思った。
おれたちは、猫どうしで、いったい、なにをやってるんだろうか?
みんな、同じ立場だった。捨てられた猫たちだった。
人間に捨てられなかったら、野良猫になることもなかったのに……。
「もう、やめるんにゃー!」
おれのさけびが、空気を切りさいた。
もみあっていた猫たちが、びくっとした。
にゃーにゃーわめいていた声が、いっせいに聞こえなくなった。
「お前……」
アメショーさんの声が聞こえた。
おれは、一歩前に出た。それから、もう一歩。
「境界をこえてきて、らんぼうをするやつらに、言いたいことがある。
よーく聞けにゃ。
ここは、おれたちのなわばりにゃ。
長い間、ずっと守ってきた、大事なところにゃ。
これ以上、おれたちを苦しめようとするなら、みっちゃんにたのんで、お前らぜんいん『耳かけ』にしてやるにゃ!」
どよめきがおこった。
「みっちゃんって、誰だ?!」
「『耳かけ』にするだって……。こええんだけど」
「逃げたほうがいいんじゃない? 兄ちゃん」
敵は、こんらんしていた。
味方は、落ちついていた。なんでかというと、みんな「耳かけ」だからだと思う。
「てきとうなことを言うな!
人間が、俺たち猫の言うことなんか、聞くわけないだろ!」
「そうだ!」
「そうだ!」
「みっちゃんは、とくべつなんにゃ。
みっちゃんには、おれが言ってることが、わかるんにゃ。
だから、おれの言うことは、なんでも聞いてくれるんにゃ!」
「ほ、ほんとか……?」
「やべーな。みっちゃん……」
「おねだりすれば、いつでも、魚のきりみをくれるんにゃ」
「うらやましい話だな」
「しっ。だまれ」
あたりは、そうぜんとしていた。にゃーにゃー言う、敵の声だらけだった。
「落ちつきなさい」
りんとした声が、ひびきわたった。
敵の猫たちの、奥のほうにいたスフィンクスが、しずしずと歩いてきて、おれの前までやってきた。
「マル。わたしたちも、そなたの隣人として、礼はつくそう。
これにて、終戦とする。いかがだろうか」
「帰ってくれるんにゃ?」
「そうだ」
「それなら、いいにゃ。さっさと帰れにゃ」
「あいわかった。みなのもの。帰ろう」
敵の猫たちは、おとなしく自分たちのなわばりに帰っていった。
びっくりしてしまった。
空き地には、おれたちだけが残された。
「おわったにゃ」
「みっちゃんに、感謝しないとだな」
シャムが言った。
「けがはないか」
キジトラさんが、みんなの様子を見てまわっていた。
「マル。お前は?」
「ぴんぴんしてるにゃ」
「そのようだな。
負傷したやつはいないか。よかった」
「茶トラが、けがしてるぜ。ひとりだけ」
シャムが、ばかにしたように言った。
「ち、ちがう! これは、塀にぶつかったんだ!」
「血が出ているな。自分で、なめとっておけ」
「ふあい……」
「公園に帰るぞ」
公園に戻ると、長老が、心配そうな顔で待っていた。
「無事か」
「はいにゃ。おれたちが、勝ったんにゃ」
「なんと」
びっくりしたみたいだった。
「マルのおかげだ。こいつがみっちゃんの話をしたら、向こうのボスが、『終戦とする』って」
シャムが説明してくれた。
「おお……」
長老が、おれにひれふした。
「やはり、マルは、とくべつな猫だったの」
「そんなことないにゃ」
「食べなさい。はらがへったろう」
いつものごはんのお皿を、長老の顔がしめした。
みんなで、少しずつ食べた。
「足りないにゃ……」
「そうだな」
「みっちゃんに、おねだりしてくるにゃ」
「俺も行く」
シャムが、おれについてくることになった。
「俺も」
茶トラ猫の兄さんもついてくるらしい。
「マルちゃん。イケメンに囲まれてるね」
みっちゃんが、おれたちを見て笑った。
「いやあ。それほどでも」
茶トラ猫の兄さんが、ひとりでてれていた。
「三匹でくるってことは、よっぽど、おなかがすいてるのかな。
公園に持っていってあげようか」
「ほんとにゃ?」
「待っててね」
みっちゃんが、玄関からでてきた。
おれたちといっしょに歩いて、公園まで、ごはんを持ってきてくれた。
「あれっ?」
アメショーさんがいなくなっていた。
「アメショーさんは?」
「帰った」
キジトラさんの答えは、そっけなかった。
「せっかく、ごちそうで、おいわいしようと思ったのに……」
がっかりしてしまった。
「助っ人の礼をしようと思ったんだが。餌の話をしたら、『俺がほしいものは、それじゃない』と言っていた」
「ほしいもの?」
「いずれ、わかることだ」
さっぱり、わけがわからなかった。
みっちゃんは、たくさんのごはんを並べると、「またね」と言って、帰っていった。
「食べようぜ。マル」
シャムに言われて、ごはんを食べることにした。
おなかいっぱいたべた。
幸せな気分だった。
たたかいもしないで、おれを見ている。
いらっとした。
そもそも、おれたちは一対一で勝ったんだ。
倍の数の敵に、もみくちゃにされるすじあいはない。
おれを叩こうとした猫の顔を、アメショーさんが、するどい爪で引っかいた。
うぎゃっという悲鳴が聞こえた。
キジトラさんと、茶トラ猫の兄さんと、白猫の兄さんは、おれとアメショーさんを守るような位置にいて、たたかっていた。
みんな、強かった。
黒猫の弟の、ちいさい方が、はちわれを起こそうとして、やっきになっていた。
たたかいは、はてしなく続いた。
だんだん、敵も味方も、疲れてきた。
へろへろの体で、たたかっていた。
ばかみたいだと思った。
おれたちは、猫どうしで、いったい、なにをやってるんだろうか?
みんな、同じ立場だった。捨てられた猫たちだった。
人間に捨てられなかったら、野良猫になることもなかったのに……。
「もう、やめるんにゃー!」
おれのさけびが、空気を切りさいた。
もみあっていた猫たちが、びくっとした。
にゃーにゃーわめいていた声が、いっせいに聞こえなくなった。
「お前……」
アメショーさんの声が聞こえた。
おれは、一歩前に出た。それから、もう一歩。
「境界をこえてきて、らんぼうをするやつらに、言いたいことがある。
よーく聞けにゃ。
ここは、おれたちのなわばりにゃ。
長い間、ずっと守ってきた、大事なところにゃ。
これ以上、おれたちを苦しめようとするなら、みっちゃんにたのんで、お前らぜんいん『耳かけ』にしてやるにゃ!」
どよめきがおこった。
「みっちゃんって、誰だ?!」
「『耳かけ』にするだって……。こええんだけど」
「逃げたほうがいいんじゃない? 兄ちゃん」
敵は、こんらんしていた。
味方は、落ちついていた。なんでかというと、みんな「耳かけ」だからだと思う。
「てきとうなことを言うな!
人間が、俺たち猫の言うことなんか、聞くわけないだろ!」
「そうだ!」
「そうだ!」
「みっちゃんは、とくべつなんにゃ。
みっちゃんには、おれが言ってることが、わかるんにゃ。
だから、おれの言うことは、なんでも聞いてくれるんにゃ!」
「ほ、ほんとか……?」
「やべーな。みっちゃん……」
「おねだりすれば、いつでも、魚のきりみをくれるんにゃ」
「うらやましい話だな」
「しっ。だまれ」
あたりは、そうぜんとしていた。にゃーにゃー言う、敵の声だらけだった。
「落ちつきなさい」
りんとした声が、ひびきわたった。
敵の猫たちの、奥のほうにいたスフィンクスが、しずしずと歩いてきて、おれの前までやってきた。
「マル。わたしたちも、そなたの隣人として、礼はつくそう。
これにて、終戦とする。いかがだろうか」
「帰ってくれるんにゃ?」
「そうだ」
「それなら、いいにゃ。さっさと帰れにゃ」
「あいわかった。みなのもの。帰ろう」
敵の猫たちは、おとなしく自分たちのなわばりに帰っていった。
びっくりしてしまった。
空き地には、おれたちだけが残された。
「おわったにゃ」
「みっちゃんに、感謝しないとだな」
シャムが言った。
「けがはないか」
キジトラさんが、みんなの様子を見てまわっていた。
「マル。お前は?」
「ぴんぴんしてるにゃ」
「そのようだな。
負傷したやつはいないか。よかった」
「茶トラが、けがしてるぜ。ひとりだけ」
シャムが、ばかにしたように言った。
「ち、ちがう! これは、塀にぶつかったんだ!」
「血が出ているな。自分で、なめとっておけ」
「ふあい……」
「公園に帰るぞ」
公園に戻ると、長老が、心配そうな顔で待っていた。
「無事か」
「はいにゃ。おれたちが、勝ったんにゃ」
「なんと」
びっくりしたみたいだった。
「マルのおかげだ。こいつがみっちゃんの話をしたら、向こうのボスが、『終戦とする』って」
シャムが説明してくれた。
「おお……」
長老が、おれにひれふした。
「やはり、マルは、とくべつな猫だったの」
「そんなことないにゃ」
「食べなさい。はらがへったろう」
いつものごはんのお皿を、長老の顔がしめした。
みんなで、少しずつ食べた。
「足りないにゃ……」
「そうだな」
「みっちゃんに、おねだりしてくるにゃ」
「俺も行く」
シャムが、おれについてくることになった。
「俺も」
茶トラ猫の兄さんもついてくるらしい。
「マルちゃん。イケメンに囲まれてるね」
みっちゃんが、おれたちを見て笑った。
「いやあ。それほどでも」
茶トラ猫の兄さんが、ひとりでてれていた。
「三匹でくるってことは、よっぽど、おなかがすいてるのかな。
公園に持っていってあげようか」
「ほんとにゃ?」
「待っててね」
みっちゃんが、玄関からでてきた。
おれたちといっしょに歩いて、公園まで、ごはんを持ってきてくれた。
「あれっ?」
アメショーさんがいなくなっていた。
「アメショーさんは?」
「帰った」
キジトラさんの答えは、そっけなかった。
「せっかく、ごちそうで、おいわいしようと思ったのに……」
がっかりしてしまった。
「助っ人の礼をしようと思ったんだが。餌の話をしたら、『俺がほしいものは、それじゃない』と言っていた」
「ほしいもの?」
「いずれ、わかることだ」
さっぱり、わけがわからなかった。
みっちゃんは、たくさんのごはんを並べると、「またね」と言って、帰っていった。
「食べようぜ。マル」
シャムに言われて、ごはんを食べることにした。
おなかいっぱいたべた。
幸せな気分だった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺の部屋はニャンDK
白い黒猫
キャラ文芸
大学進学とともに東京で下宿生活をすることになった俺。
住んでいるのは家賃四万五千円の壽樂荘というアパート。安さの理由は事故物件とかではなく単にボロだから。そんなアパートには幽霊とかいったモノはついてないけれど、可愛くないヤクザのような顔の猫と個性的な住民が暮らしていた。
俺と猫と住民とのどこか恍けたまったりライフ。
以前公開していた作品とは人物の名前が変わっているだけではなく、設定や展開が変わっています。主人公乕尾くんがハッキリと自分の夢を持ち未来へと歩いていく内容となっています。
よりパワーアップした物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
小説家になろうの方でも公開させていただいております。
先生と僕
真白 悟
ライト文芸
高校2年になり、少年は進路に恋に勉強に部活とおお忙し。まるで乙女のような青春を送っている。
少しだけ年上の美人な先生と、おっちょこちょいな少女、少し頭のネジがはずれた少年の四コマ漫画風ラブコメディー小説。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
三百字 -三百字の短編小説集-
福守りん
ライト文芸
三百字以内であること。
小説であること。
上記のルールで書かれた小説です。
二十五才~二十八才の頃に書いたものです。
今だったら書けない(書かない)ような言葉がいっぱい詰まっています。
それぞれ独立した短編が、全部で二十話です。
一話ずつ更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる