にゃんというイケメン

福守りん

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「この、くそぼけどもが」
 おれのすぐ近くから、ものすごい台詞が聞こえてきたので、びっくりした。
 アメショーさんだった。
「アメショーさん!」
られたくなかったら、お前らのテリトリーに帰れ!」
 アメショーさんが威嚇しただけで、黒猫たちは、びびったみたいだった。
「お、おぼえてろよ!」
「そうだ、そうだ!」
 遠くから、にゃーにゃー言っている。
 アメショーさんの答えは、「うせろ」だった。
 かっこよかった。
 やっぱり、イケメン……。
 ほれぼれとして、アメショーさんをながめているうちに、黒猫たちはいなくなっていた。

「大丈夫か」
「はいにゃ」
「お前な。そんな短い足じゃ、逃げられないだろ。こんな危ないところを、ひとりでうろちょろするんじゃない」
「あい……」
「帰るぞ」
 アメショーさんが、しっぽをゆらして後ろを向いた。おれは、すごすごとついていった。

 公園に戻るとちゅうで、立ちどまった。
「どうした」
「聞きたいことがあるにゃ」
「なんだ」
「アメショーさん。『耳かけ』って、なんにゃ?」
「どこで聞いたんだ」
「黒猫の三兄弟の、兄ちゃんが」
「去勢されると、耳に印がつく。耳の先をカットされるんだ」
「カット?」
「切るってこと」
「いたそうにゃー」
「お前も、切られてるぞ」
「そうにゃ?」
「そうだよ。雄は右耳、雌は左耳をカットされる」
 そこまで言って、はっとしたような顔をした。
「どうしたんにゃ?」
「なんでもない」
「ふうん?」
「ついてくるなよ。長老のところにでも、行ってろ」
 アメショーさんは、つめたかった。
「はいにゃ……」
 すたすたっと、歩いていってしまう。アメショーさんの後ろ姿を見ていたおれは、あれっと思った。
「アメショーさんは、『耳かけ』じゃないにゃ……」
 ふたつの耳は、ぴんと立っていて、どこもかけてはいなかった。
 いいなあ、と思った。


 公園には、シャムがいた。
 長老は、ベンチの下でねていた。

 シャムが、おれに近づいてきた。
「ごはん、来てるぜ。俺は、これから見まわりだ」
「境界よりもこっちに、黒猫たちがいたにゃ」
「マル。また、境界に行こうとしたのか。
 あぶないって、言っただろ」
 シャムは、けわしい顔つきになった。
「ごめんなさいにゃ」
「いいけどさ……。すごい度胸だよな。
 よく、ここまで戻ってこれたな」
「アメショーさんが、助けてくれたんにゃ」
「あいつか」
 シャムは、にがいものでもかんだような顔をした。
「アメショーさんのこと、きらいにゃ?」
「そんなこと言ってない。俺たちがふがいないから、ボスが探してきたんだろうし」
「戦争になると思うにゃ?」
「そうだな。このままだったら、いずれ、そうなるだろうな」
「ふうん……」
 いやだなあと思った。キジトラさんの前では、いせいのいいところを見せようとしているけれど、おれはべつに、たたかいたいとは思っていなかった。
「お前は、たたかわなくていい」
 おれの心を読んだみたいに、シャムが言った。
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