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1.ダブル・デート
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それから、次の週の土曜日に、悟さんは紗希ちゃんと別れた。
デートから帰った紗希ちゃんに怒られた。よけいなことをしないでって。
でも、お礼も言われた。悟さんとデートできたのは、すごく嬉しかったって。
これまでにつき合ってきた人たちとは、何かが違った。緊張したけど、あたし自身をしっかり見てくれていた気がする。紗希ちゃんは、そんなことを言っていた。
その日の夜、悟さんに電話をした。
「今、大丈夫?」
「うん。よかった。このままフェードアウトされたら、どうしようかと思ってた」
「そんなこと、しないよ」
「どうかな」
「あの、ありがとう……。紗希ちゃんに、いろいろ言われた?」
「ううん。泣かれはしたけど。洗いざらい、全部話したよ」
「そっか……。そうだよね。わたし、まちがってた。ごめんなさい」
「いいよ。それより、次はいつ会えるの?」
「え、えー? 来週末、でいい?」
「うん」
「土曜日でいい? 悟さんの部屋で……」
「いいよ。出る時に、時間だけ教えて。バス停まで迎えに行く」
「わっ、わたし。その日は、お化粧……してみようと、思うんだけど」
「いいんじゃない? でも、無理しなくていいよ」
「……そ、そっか。うまく、できないかも」
「どんな顔でもいいよ。おかしくてもいい。その方が笑えるし。どっちかと言えば、見て笑いたい気分だ」
「ひっどい……」
「そのままでも、充分かわいいよ。だから、何も心配しないで来て」
「うん」
また泣きそうになった。だから、泣くかわりに「だいすき」と言った。
悟さんは、スマホの向こうで長いため息をついていた。なぜかはわからない。
日曜日は、紗希ちゃんとずっと一緒に過ごした。
どこにも行きたくないという紗希ちゃんは、かわいそうなくらいに、両目がはれ上がっていた。昨日の夜、わたしが見ていないところで、たくさん泣いたんだってことが、言われなくてもわかった。
「さきちゃーん。あついよー……」
いくらエアコンがきいていても、こんなに、ぎゅうぎゅうにくっつかれていたら暑い。
「我慢してよね。失恋したんだから」
「紗希ちゃんなら、いつでも彼ができるよ。ちょっと前に、会社の人に告白されたって、言ってなかった?」
「されたけど。ぜんぜん、ぴんとこなかった」
「そう……」
「悟さんに双子のお兄さんとか、弟とか、いないの?」
「い、いない。たぶん」
「はーあー。もっと長く、つき合いたかったなー」
紗希ちゃんは、本当にがっかりしているみたいだった。胸が痛んだ。
わたしのひどさを一番知らないのは、もしかしたら、紗希ちゃんなのかもしれなかった。
「ごめんね。わたし、悟さんを試したかったのかもしれない」
「どういうこと?」
「今まで、いろんな人から頼みごとをされた。紗希ちゃんとつき合いたいからって、手紙を渡されたり、呼びだしてくれって言われたり……。
紗希ちゃんとつき合ったら、紗希ちゃんを選ぶはずだって思ったの」
「そっか。でも、悟さんは違った。よかったじゃん」
「よかった……のかな」
「自信もちなって。あたしにも、問題があるんだと思う。ぜーんぜん、長続きしないんだもん。誰とつき合っても、だんだん、違和感の方が大きくなっちゃうんだ」
「そっか……」
「いらいらしてくんの。紗恵と一緒にいた方が、楽しいって思う」
「えっ?」
「ほんとに」
「そ、そう……」
「なに笑ってんの」
「うれしい、から」
「紗恵に似てる人を選んだつもりだったんだよ。すごいどんでん返しがあったけど」
紗希ちゃんが笑う。
わたしと完全に同じ遺伝子を持つ、わたしの妹は、わたしによく似ている。
それでも、やっぱり、わたしたちはべつべつの人間だ。
同じ日に生まれたわたしたちは、きっと、それぞれべつの日に命を終える。
不思議だった。こんなに似ているのに。
わたしの人生と紗希ちゃんの人生は、同じものではありえないのだった。
「双子に生まれてよかったって、思う?」
「思うよ。紗恵は?」
「思う……。紗希ちゃん、だいすき」
「はいはい」
デートから帰った紗希ちゃんに怒られた。よけいなことをしないでって。
でも、お礼も言われた。悟さんとデートできたのは、すごく嬉しかったって。
これまでにつき合ってきた人たちとは、何かが違った。緊張したけど、あたし自身をしっかり見てくれていた気がする。紗希ちゃんは、そんなことを言っていた。
その日の夜、悟さんに電話をした。
「今、大丈夫?」
「うん。よかった。このままフェードアウトされたら、どうしようかと思ってた」
「そんなこと、しないよ」
「どうかな」
「あの、ありがとう……。紗希ちゃんに、いろいろ言われた?」
「ううん。泣かれはしたけど。洗いざらい、全部話したよ」
「そっか……。そうだよね。わたし、まちがってた。ごめんなさい」
「いいよ。それより、次はいつ会えるの?」
「え、えー? 来週末、でいい?」
「うん」
「土曜日でいい? 悟さんの部屋で……」
「いいよ。出る時に、時間だけ教えて。バス停まで迎えに行く」
「わっ、わたし。その日は、お化粧……してみようと、思うんだけど」
「いいんじゃない? でも、無理しなくていいよ」
「……そ、そっか。うまく、できないかも」
「どんな顔でもいいよ。おかしくてもいい。その方が笑えるし。どっちかと言えば、見て笑いたい気分だ」
「ひっどい……」
「そのままでも、充分かわいいよ。だから、何も心配しないで来て」
「うん」
また泣きそうになった。だから、泣くかわりに「だいすき」と言った。
悟さんは、スマホの向こうで長いため息をついていた。なぜかはわからない。
日曜日は、紗希ちゃんとずっと一緒に過ごした。
どこにも行きたくないという紗希ちゃんは、かわいそうなくらいに、両目がはれ上がっていた。昨日の夜、わたしが見ていないところで、たくさん泣いたんだってことが、言われなくてもわかった。
「さきちゃーん。あついよー……」
いくらエアコンがきいていても、こんなに、ぎゅうぎゅうにくっつかれていたら暑い。
「我慢してよね。失恋したんだから」
「紗希ちゃんなら、いつでも彼ができるよ。ちょっと前に、会社の人に告白されたって、言ってなかった?」
「されたけど。ぜんぜん、ぴんとこなかった」
「そう……」
「悟さんに双子のお兄さんとか、弟とか、いないの?」
「い、いない。たぶん」
「はーあー。もっと長く、つき合いたかったなー」
紗希ちゃんは、本当にがっかりしているみたいだった。胸が痛んだ。
わたしのひどさを一番知らないのは、もしかしたら、紗希ちゃんなのかもしれなかった。
「ごめんね。わたし、悟さんを試したかったのかもしれない」
「どういうこと?」
「今まで、いろんな人から頼みごとをされた。紗希ちゃんとつき合いたいからって、手紙を渡されたり、呼びだしてくれって言われたり……。
紗希ちゃんとつき合ったら、紗希ちゃんを選ぶはずだって思ったの」
「そっか。でも、悟さんは違った。よかったじゃん」
「よかった……のかな」
「自信もちなって。あたしにも、問題があるんだと思う。ぜーんぜん、長続きしないんだもん。誰とつき合っても、だんだん、違和感の方が大きくなっちゃうんだ」
「そっか……」
「いらいらしてくんの。紗恵と一緒にいた方が、楽しいって思う」
「えっ?」
「ほんとに」
「そ、そう……」
「なに笑ってんの」
「うれしい、から」
「紗恵に似てる人を選んだつもりだったんだよ。すごいどんでん返しがあったけど」
紗希ちゃんが笑う。
わたしと完全に同じ遺伝子を持つ、わたしの妹は、わたしによく似ている。
それでも、やっぱり、わたしたちはべつべつの人間だ。
同じ日に生まれたわたしたちは、きっと、それぞれべつの日に命を終える。
不思議だった。こんなに似ているのに。
わたしの人生と紗希ちゃんの人生は、同じものではありえないのだった。
「双子に生まれてよかったって、思う?」
「思うよ。紗恵は?」
「思う……。紗希ちゃん、だいすき」
「はいはい」
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