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 ようやく眠りかけた頃に、岡田が、びくっと体を揺らすのを感じた。
「どした?」
「おっかない……」
 目が覚めてしまった。体が揺れている。……ちがう。体じゃない。部屋ごと揺れている。
「揺れてるなー」
「……地震だね」
「大きいな。じっとしてろよ」
「震度いくつ? 総合かEテレつけて」
 テレビに向かって、ヒサが這っていくのが見えた。

「5から7だってー。茨城と栃木と福島」
「全部、お前らの地元じゃねーか……」
「僕、親に電話する」
「灯りつけるぞー」

 三人がスマホに向かって話しているのを、ぼんやり眺めていた。
 同じく都内に住む家族に連絡しようかと思いかけて、やめた。回線は混雑しているはずだ。無駄に使わない方がよさそうだった。

「僕の家族は、みんな無事だって」
「よかったな。ヒサのとこは?」
「大丈夫だったわー。有紗も無事だって」
「よかった」
 岡田を見る。暗い顔をしていた。
「岡田。どうだった?」
「家ぶっちゃれだ。避難所、行ぐって」
「ぶっちゃ……? なに?」
「こわれたってこと」
「そ、そうか。っていうか、そうやって翻訳できるなら、最初っから、こわれたって言えよ。
 お前は、残っていいよ……。実家が落ち着くまでは、さ」
「なにそれ。出たー。有馬の、オカモンの逆差別ー」
「僕たちは? 家は無事だけど。正直、帰りたくない……」
「俺も、まだ帰りたくないなー」
「あーもう……。いいよ! いろよ! 好きなだけ!」
「有馬神が降臨した……! 有馬だいすき!」
「有馬ー。愛してるよー」
「ぜんっぜん、嬉しくねえっ……」
「アンロックが終息するまで、四人でがんばろーなー」
「そこまで?! 何年先だよ。それ」
「その頃には、都知事が変わってるかもね」
「都知事どころか、政権が変わってるっぺ」
「オカモンが毒を吐いてる。めずらしいね」
「旅行だの、外食だの……。ごじゃっぺやってっから、いじやげる。
 あーあ。観光バス、運転してーなー」
「……そうだよな」
「目が、覚めちゃったね」
「酒でも飲もうぜ。ビール、あるから」

 ベランダで横一列になって、缶ビールをあけた。
「なんかのドラマみたいだね」
「言うな。こっぱずかしい」
「星がねーなあ?」
「東京だからなー」
「マスクなしで、生きられる世界が、本当にくるのかな……」
「こないと、困るだろー。びっくりだよな。去年の春頃から、一年以上経って、これだからなー」
「しかも、震災って。どんだけだよ」
「だよなー。帰るのがこわいわー……」
「日本が滅びませんように」
「そだなー」
「縁起でもないこと、言うな。どうにかなるって。
 東京なんてな、戦後すぐは、なーんにもなかったって。ばあちゃんが言ってたぞ。それが今は、これだけ発展したんだからな」
「歴史だね」
「俺たちの世代が、どうにかしないといけないんだろーなー」
「そうかもね……。とんでもない時代になっちゃったね」
「戦時中なんだなーと思って生ぎてれば、いーんだっぺ」
「それってさー、極論じゃねー?」
「あんがい、そうかもね。もう、生きるか死ぬかのサバイバルモードに突入してるのは、ひしひしと感じてるよ。ワクチンで亡くなるって。ある? そんなの」
「なかったよな。今までは……。あったとしても、ニュースで見たことなかった」
 栄ちゃんが、横から俺の顔を覗きこんでくる。目が合うと、にこっとした。
「僕、実家から一時間くらいの街で、ひとり暮らししてるからさ。アンロックのこととか、自分の就職のこととか、不安ばっかりだったけど……。
 この部屋で、みんなと過ごして、めっちゃ安心したし、頑張らなきゃなって、あらためて思った。人と人のつながりって、目には見えないけど、一番大事なものなんだなって」
「おー。栄ちゃん、語るなあー」
「茶化さないでよね」
「マスクとアルコール除菌スプレーで武装する時代がくるなんて、誰も予想してなかったもんなー」
「僕の好きな芸能人が、自粛破りしたって、くそほど叩かれててさ。『そんなに言わなくても』と思う自分と、『今だけは、そんな、ばかなことしてほしくなかったな』と思う自分と、両方いてさ……。すっごい複雑だよ」
「栄ちゃんのお姉さん、看護師だったよな」
「うん。母さんもだよ」
「それじゃあ、許せない気持ちにもなるよなー」
「俺の会社にも、いたよ。飲み会やめようとしない奴が……。でも、飲み屋で働いてる人は、じゃあ、どうしろっていうんだよな。働かなきゃ、死んじまうんだから」
「もう、それぞれの国で、鎖国するしかねっぺ」
「そうかなー。そうかもなあー」
「寒くなってきた。中、入ろうよ」
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