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「あいつら、洗濯しないで出かけやがって……」
乾燥機能がついていて、よかった。俺の分だけだったら、いつもと同じように干していたと思う。あまりにも大量に見えて、心がくじけた。だけど……。洗濯物を干したくない理由は、それだけじゃなかった。
昼前に、三人が大量の食材と日用品を買って帰ってきた。
宿代の代わりだと言われて、仰天した。さすがに、大学生の頃とは違うらしい。
「オカモンの料理、めっちゃうまいなー」
「ほんとだね。どこかで習ったの?」
「おばあちゃんがおせてくれた」
「有馬からのコメントがないね」
「……うまいよ」
空いた皿を流しに持っていく。岡田は、流しをスポンジで掃除してくれていた。
「ごちそうさま」
「おそまづでした」
「洗うから。置いといて」
「あんがとー。ちっとだから」
皿を洗う手つきは、慣れたものだった。岡田の家には、両親がいない。そのことを俺が知ったのは、大学二年の時だった。
のどかな田舎にある、母方の祖母の家で育った。そう言っていた。
午後一時になった。
「今から打ち合わせするから。静かにしてて」
「ラジャー」
「了解!」
「わがった」
うなずいたわりには、三人とも、俺の背後から動こうとしない。
「オンラインに映りこもうとするんじゃねーよ。画面がうるさい」
呼び出し音が、ノートパソコンから鳴った。もう、出るしかない……。
「有馬くん。ずいぶん、画面がにぎやかねえ」
「すいません……。居候が、三人もいて」
「ワンルームじゃなかった? すごいわね。三人って」
五分くらいで打ち合わせは終わった。上司の品川さんが、俺ではなく、俺の後ろを見ている様子だったのが心配だ。査定に響くんじゃないのか。これ。
「やばい。品川さんに引かれた……。ぜったい、やべー奴だと思われてる」
「思われないだろー。このご時世だし」
「アンロックとワンルームで四人暮らしは、何の関係もないだろ……」
夜になった。昨日と同じように布団を敷いた。
すぐに、ヒサと栄ちゃんの枕投げが始まった。なんでだよ。
たった二つの枕で、どうしてこうも騒げるのか。さっぱりわからない。
「お前ら、ほんっと、いいかげんにしろよ……!
ここ壁、薄いんだぞ! 苦情がくるんだって! まじで!」
ヒサと栄ちゃんが顔を見合わせる。謝らないことに、いらっとした。
「もう、かえれっ。かえってくれっ!」
「あ、ほらっ。緊急事態宣言延長だって。今、外に出たら、うつって死ぬから」
「そんなに簡単にうつらねーよ! 大人しくマスクしてろっ!」
「マスクしてたって、うつる時はうつるんですー」
「そうなんだよなー。『俺、ちゃんとやってます!』って、まわりの人に示すためのアイテムだと思ってるよ」
「明日には、ぜったいに、出て行ってもらう! アンロックとか、関係ねーから!」
「うっせーな」
緊張が走った。岡田の一言で、空気が凍りついた。
「枕投げは、やめれ。有馬くんも。そげな大声ださんでもいいべ」
「はい。反省してます……」
「悪かったなー。有馬ー」
「もう、いいよ。結局、俺が一番うるさかったし」
気まずい雰囲気のまま、暗くした部屋で眠ろうとした。
なかなか眠れなかった。
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