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七章 天地鳴動

☆【4】呪詛、【5】惑乱、【6】涙

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ザカーの呪いによって、弱っていく千鶴
もうエターナルしてるので、がんがんネタバレしていくスタイル
伝説のドラクーラ(吸血鬼)のザカーが灰弩に寄生してるということです
なんというネタバレ

   【5】惑乱


「どうしたの……?」


「飲みなさい」
 叉雷が諭す。千鶴は激しく頭を振った。
「嫌」
「いいから」
「……飲みたくない!」
「おれはもう、君が苦しんでいる姿を見たくないんだ」
「叉雷?」
 問いかけるような瞳が叉雷を見上げる。
「なぜ」
「おれは、君が」
「やめて!」
 千鶴が叫ぶ。叉雷が止める間もなく、彼の口元は千鶴の両手で塞がれていた。
 
「――ごめんなさい」
 千鶴はぐったりしたように脱力する。

「お願いだ。飲んでくれ」
「だめよ」
 喘ぐように口にする。叉雷の差し出す杯を見ようともしない。
「生きてほしい。おれのために……」
「そんなこと、云ってはいけないわ」
「なぜ?」
「人の血を啜ってまで、生きようとは思わない」
「おれが、それを望んでも?」
「……」

「千鶴」


 叉雷の手が腕の布にかかる。躊躇う指先は微かに震えていた。
「……叉雷?」
「君に見せたいものがある」
 穏やかな声だ。叉雷以外の者には決して分からないだろう。その言葉が、血を吐くような叫びに等しいのだとは。
「でも、今はまだ見せられない。これを見せたいと思う理由が、おれ一人が楽になりたいだけだと知っているから」
 ぐっと唇を引き結ぶ。叉雷を見返す千鶴は、微笑んでいた。
「千鶴?」
「あなたは不思議な人ね」
「君の方が……」
 叉雷は苦笑するしかない。



   【6】涙


 泉の淵で横たわっている。力を失って崩れ落ちたまま、起き上がることすら出来ないのだ。痙攣する小さな背中を見た時、叉雷の心の内側を凶暴な風が吹き抜けていった。それは怒りに似ていた。
 叉雷の手の届かない所で、千鶴が苦しんでいる。そんなことは許せなかった。
 一歩ずつ歩み寄る。千鶴の目の前に腰を下ろして、震える肩に手を伸ばした。
 千鶴は声を上げない。見瞠いた瞳。白い頬を伝う幾筋もの汗。
「痛むの?」
 叉雷の問いかけに首を振る力も無いのか、片手をゆるく左右に動かして見せる。
「云って。何か、おれに出来ることはある?」

「千鶴」

「どうしたら……」

「どうすれば君を助けられる?」


「君を失いたくない」
 嗚咽が喉元を走った。力の抜けた両腕で体を支える。これは何だ。眩暈がする。熱情としか云いようがない。叉雷は声もなく涙を零した。千鶴は感情の読めない瞳で叉雷を見つめている。
 千鶴の指先が微かに動いた。薄く開いた唇が震えている。口元に耳が触れるほど近くに寄り添い、叉雷は千鶴の言葉を待った。
「泣かないで」
 囁かれる。がむしゃらに腕を伸ばして体を捕らえる。
「叉雷」
 困ったように笑う。叉雷も歪んだ微笑を返した。離したくない。離せない。
 
「……捺夏が」

「あなたたちと、出逢ったばかりの頃……云っていたわ」

「いつか、あなたが、私のために泣いてくれるって」
「捺夏がそんなことを?」
「私は信じてなかった。でも、――」
 千鶴の瞳は涙で潤んでいる。だが、白い頬が涙に濡れることは無かった。
「千鶴」
 一呼吸置いて、千鶴の手が叉雷をやんわりと拒絶する。
「まだ何も終わっていない」

「起き上がって平気なの?」
「大丈夫。痛みは引いたわ」

「行きましょう。彼が待っている」

「君は強いな。おれより年下とは、到底思えない」
「……私には、泣く資格など無いのよ」
 美しい瞳が見上げてくる。千鶴は微笑んでいた。
 叉雷には分からない。泣くことも許されないほどの罪とは、一体何だろうか。

「君の敵は誰だ」
「もう分かっている筈よ。私を狙っているのは誰か」
「灰弩か」
「……ええ」

「私にしか止められない」
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