「叉雷の鱗」は、なぜエタったのか？ －自作のエターナル小説について語る－

五章 千鶴

☆【４】暗雲

「灰弩？　こら、灰弩ッ」


「おいっ！　こいつ寝ちゃったよ」

「本当に、心の底から迷惑な奴だな」
「困ったわね」
　叉雷の隣に立つ千鶴が、暗い顔でこぼした。
「どうしたもんかな」
「置いて行こうよっ！」
　捺夏が恐ろしいことを口走った。
（そうだそうだ！　お前の云う通りだぜ！）
　叉雷は心の中で捺夏に激しく賛同した。
　だが次の瞬間、冬の月のように凍りついた千鶴の顔つきを見て思い止まる。
「冗談だよ」
「……笑えないわ」
　まだ顔を強張らせたままの千鶴は、厳かな声で叉雷たちを窘めたのだった。

※千鶴には、灰弩のそばにいないといけない理由がある。


「叉雷」

　千鶴は少し寝ぼけている様子だった。
　叉雷はどぎまぎしながら、千鶴の背に手を回した。――振り払われない。
「……千鶴」
　柔らかそうな唇が叉雷を誘っている。だが、叉雷はそれに触れることができなかった。


　その時である。叉雷は不意に悟った。
「そうか」
　これが、恋というものか――。