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四章 幻の龍を追って

☆【1】塔の住人

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※ついに、メインヒロインと叉雷が出会います(やっとか!)
※降魔師は、あれです。ひらたく言うと、魔法使いです
※降魔寮は、○○ー○ッ○ーの寮みたいな感じです
※降魔主と祭主は対立関係にあります
※このへんの設定は、正直作者ですらうろ覚えです
※当時のネタ帳を早急に探す必要がある……
※ネタ帳に作中の地図とか描いていた。いたい


希莉江と別れた後の叉雷と捺夏

「まったくもう。やっと安心した。キリエと会ってから、いろいろと心配事が多かったよ。まー、アンディの手には負えないだろうね。やんちゃだった頃のおれよりひどい」
「まあ、いいんじゃないの。先生とは気が合うと思うよ」
 叉雷は笑っている。ようやく肩の荷が下りた気分だった。
「顔は可愛かったね。ちょっとびっくりするくらい」
「そうだな。可愛いかったよ。顔だけじゃなくて、性格も」
「惚れたの?」
 訊き返す捺夏は、ぽかんと口を開けて目を丸くしている。
「バカだな。妹みたいだったなってことさ」
「そうか。叉雷の家には、きょうだいがいないもんな」
「……」
 叉雷は一瞬、何かを口にする素振りを見せたが、すぐに唇を閉ざしてしまった。
「ああ。うちで引き取ってもいいかとも思ったけど、肝心のおれが村にいないんじゃあ、どうしようもない」
「大丈夫。アンディなら上手くやってくれるよ。また帰りに寄ろうよ」
「そうだな」



「これから、どうするの?」
「ちょっと知人に逢いに」
「こんな場所に知り合いなんていたっけ?」
「お前なあ。去年絽々の背に乗せて、ここまで送った人を忘れるかなあ」
「あっ!」
 捺夏は、片方の手のひらにもう一方の拳を当てるという古典的な身振りをした。
「宝花楼様か!」
「そ」

「懐かしいなあ。もう一年も前になるのか」
「手紙が届いたんだ」
「いつ?」
「つい最近だよ。キリエが来る前の日だ」

「白来降魔学の最高学府といえば、降魔寮だよね」
「ああ。降魔の塔とも呼ぶらしいな」
「彼女、降魔師たちを指導する降魔博士だっけ。凄いねえ。あんなに若いのに」
「そうだな」
「でも、あの子の魔術は一つも見せてもらえなかったけど」
「この国じゃ、魔術は全て帝のためにあるのさ。『大義無き魔は罰せらるるべし』――ってね」
 叉雷の足取りは迷わない。
「おいおい。どこが入り口だよ?」
「黙ってついてこい。兵士に怪しまれるぞ」
「塔衛士だろ?」
「……どっちも同じさ」


「お前はここで待ってろ」
「えー」
 捺夏が唇を尖らせる。
「入る前から追い出されるのは御免だ。絽々は中に入れてもらえないよ」
「しょうがないなあ。いつ頃出てくるの?」
「分からない。少し話をしてくる。そうだな――。二時間くらいしたら、ここで落ち合おう」
「あっそう。じゃあ、おれ一旦繁華街まで戻る」
「了解」
「行くよー」


 黒っぽい人影が目の端を掠めた。
「……?」
 僅かに顔を右に振り、叉雷はぴたりと足を止める。正面からその人物に向き直った。

 そこには、小柄な少女が立っていた。水に濡れた鴉のような、漆黒の着物を身に纏っている。
 目深に被った黒い頭巾の下から、不思議な色の瞳が覗いていた。それは虹のような七色に煌めいて、眩しい光を反射させている。背格好から察するに、年の頃は十四、五か。
 白い手が頭巾を首の後ろへ落とすと、並み外れた美貌が叉雷の前に現れた。滑らかそうな黒髪は、色素の薄い頬の辺りで切り揃えされている。
「……!」
 薄暗い回廊に光が射したように思えて、我知らず後退りそうになる。
「どうか?」
 静かな声が問いかけてくる。少女は眉一つ動かさない。
「いえ」
 叉雷は左手を左目の前に翳して、瞳の中に飛び込んでくる光の量を抑えた。だが、それでもなお眩しいのか、両目はきつく絞られたままであった。
「君の名前は?」
「……」
 少女は数秒の間、何かを探るような視線で叉雷を見つめていた。
「私は千鶴。この学舎で、宝花楼様の側仕えをしています」
 やがて、幾分堅さの取れた声音で答える。
「おれは叉雷。淵沼の村の生まれです」
「淵沼――」
「ど田舎です。高い山の麓にあります」
「いいえ。存じております。白蓮山ですね」


「こちらへ」
「……驚いたな」
「どうか?」
「宝花楼様の式神かと思いました」
「――なぜ?」
「あなたが、あまりにも美しいので」
「ご冗談を」
 少女は被り直した頭巾の陰で笑ったようだった。


「火燦宝花楼様」

「お客人をお連れ致しました」


「この度はお助け頂きまして、誠に有り難く存じます」
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