「叉雷の鱗」は、なぜエタったのか? -自作のエターナル小説について語る-

福守りん

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二章 残響

☆【4】雲雀

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※ここから、サイト上の更新が中断して、エタった後の話になります。
 描写が抜けていたり、そもそも中身がない節があったりします。
 ざっと目を通して、「ここはやばい」と思った場所は、適宜修正を入れていますが、ほぼ当時の文章のままです。
 明らかに抜けているところは、「-略-」と書いておきます。
 歯抜けの小説だけを更新してもしょうがないので、作者本人の感想や、エタった理由の考察を合間に挟んでいく予定です。
 どうしても書きたいところがある節は、可能な範囲で書き足しをする予定です。



 轟々と、まるで海鳴りのように風が渦巻きながら鳴っている。
 澄んだ色の空をいくつもの閃光が走る。何か巨大なものが飛び去りでもしたのか、白い雲はところどころ千切れている。


「遅かったのね……」
 女は痛ましい顔をしていた。
「こちらへ。お体を冷やします」
「なぜ、もっと早く教えてくれなかったの」
 山頂に篝火は無い。祭は既に終わったのだ。恙なく。
「怖れながら、既にご存じかと」
「いいえ、私は知らなかった。あなたたちと繋がっている訳ではないのに、知り得る訳がないでしょう。何を企んでいるの。あなたたちは」
「誤解です」
「ここで人の血が流された。肉体は地上から消え失せ、魂だけが離れた場所で輝いている。こんなことができるのは、私たちの血族だけだ」


「供物は全て獣に変わった筈でしょう。それともまさか私に黙って、今でも各地で儀式を続けているのではないでしょうね?」
 
「陸糸。答えなさい」
 静かな声である。しかし、女の声には男に有無を云わせぬだけの力があった。
「……お許し下さい」
 男――陸糸は深く頭を垂れ、のろのろと跪いた。
「いいえ。こんなことを許す訳にはいかない」
「しかし! 王のお体は最早、贄なしには」
「無数の人を喰い殺さなければ生きられないというのなら、それはもう滅ぶべきものなのだとは思わないの?」
「あなたは、やはり人だ。だから」
「私は滅びを畏れはしない。私たちは神ではない。人と同じく、この星を生きる命の一つでしかない」
「私が人と同じ?」
 陸糸は笑おうとして失敗した。
「かつてはあなたも呑まれる者だった。己が呑む者になったら、弱者の悲鳴など聞こえなくなったとでも云うの?」
「あなたは怖ろしい方だ……」
 陸糸が呻く。
「そう思うのは、あなたの中に後ろめたさがあるからよ。己を見つめなさい。決して目を逸らせてはいけない」

「考えてご覧なさい。このまま野放図に人を喰らい続けた後で、一体何が起こるのかを」

「誰もが私たちのように異形の怪物となり、あなたたちが餌と呼ぶ人が地上から消えた時――。その時こそ、私たちは滅びる」

「人が育てる獣の命を吸うことすらできなくなる。私たちの時間は、人とは決定的に違う。渇きながら、それでもなお生きてゆかなければならない。膨大な時の長さに苦しみ続けてから、ようやく命が尽きて消滅する」

「なぜ、『私たちだけは滅びてはいけない』などと考えるの?」

「あなたは、誕生の日から僅か七日で封じられ、以後千年近く眠り続けていた。人としての肉体を形作ることを覚えたのは、ほんの二百年ほど前のことだ。……しかし、あなたのために全てが変わってしまった」
 沈鬱な表情が陸糸の苦悩の深さを物語っていた。
「人の命を王の贄にしてはならないとされたのは、今よりおよそ百年前のこと。あなたの命令に従わされた同胞たちの間では、あなたは破滅を呼ぶ魔物だと恐れられている」

「私ごときに何ができると?」
「あなたは恐ろしい人だ」

「今一度、全てを喰らって見せなければ分からないと云うのなら、それでもいい。全てを呑み込んで、あなたたちごと消えてもいい」

「皆、あなたの力を畏れている」
「畏れてもいい。でも、どうか再び気を巡らせて。都の穢れは闇の色と等しくなってしまった。清浄な気が何より王の癒しになることを、どうか忘れないでいてほしいの。人の命を呑めば王の力が蘇ると、あなたは本当に信じているの?」
「それは……」
「王がこれまで、どれだけの命を呑んできたと思うの? それでも王は衰えてしまった。陸糸。私たちの命は永遠ではないのよ。人と同じ、限りある命だわ」
「しかし、王の魂をもしも誰かが呑めば」
「ええ。王も、やがてあなたたちのように蘇るでしょう。それを永遠と捉えるならば、確かに永遠であるのかも知れない。だとしても、間違えてはいけないのよ」
「どういう意味でしょうか」
「呑むことと貪ることは、まるで異なる行為だということを。都の地下に眠る忌まわしい者たちは、多くの命を貪ったわ。魂に蘇る道も与えず、己の欲望のままに喰い散らかしたのよ。体から引き剥がされ、散り散りになって彷徨う魂たちの嘆きを、あなたは聞いたことがあるの? どこへも行けず、何にもなれずに、やがて蝶のように採集されて利用される者たちのことを、哀れとは思えないの?」
「――私にも、その位の分別はあります。彼らが忌むべき者だということは重々承知です。ですが、王は人を憎んで呑むのではなく、あまねく大地を護るため、ひいては、人を生かすために呑んでいたのでは無いのですか」
「陸糸。歴代の王たちは、人が生まれる前から全てを護り続けてきたわ」
「……それは」
「もしかしたら、人こそが、少しずつ王たちを狂わせていったのかも知れない。贄の魂の記憶は、贄が王を離れるまでの間、王の魂に蓄積される。この世には善男善女だけが生きている訳ではないわ。悪しき心を抱く者も少なからず混じっていたことでしょう。私たちは人の愛憎を覚え、欲望を学んでしまった。私たちには、心などきっと必要なかったのよ」

-略-
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