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4.貧乏性の御曹司、パーティーに行く
≪隼人≫2
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赤坂のホテルまで、護と二人で、タクシーで向かった。
車の免許がほしいなと思った。いずれは取るつもりで、道路交通法の勉強もしてはいる。
会場に入って、主催者の挨拶を聞いた。
綾音さんがいた。
苦手なタイプの女性だった。俺よりも、いくつか年上だと思う。
やたらと、距離が近いというか……。俺に好意を持ってくれているらしいのは、前々から分かっていた。
しきりと話しかけてくれるのを、失礼にならない程度に、かわしていく。
もう何度も聞いた愛犬の話や、新しい別荘の話には、へきえきするばかりだった。
ふと護を見ると、死んだ魚みたいな目をしていた。いくらなんでも、それは正直すぎるだろうと思った。
スマートフォンを、スーツの胸ポケットから出した。
「すみません。電話です」
嘘も方便だろう。護は、ついてはこなかった。
ロビーに出てから、足が止まった。
会社の先輩たちがいた。女性ばかりだった。
宮田さんもいた。
「西園寺くん!」
「こんにちは」
「すてきー! お友達の結婚式?」
「いえ……」
失敗した。否定してしまった。「そうです」と言えばよかった。
宮田さんと目が合った。大きな目が、丸くなっていた。
「西園寺くん……?」
「宮田さん」
「隼人さま。どうなさったんですか?」
綾音さんに、見つかってしまった。先輩たちがざわつくのを感じた。
最悪だな、と思った。
「大丈夫です。すぐ、戻りますから」
「あら……。では、また」
困ったような笑顔を残して、綾音さんが会場に戻っていく。
「びっくりした……。
あの女の人は、婚約者の方、とか?」
「違う。あの人は、父の知り合いの娘さんで……」
「そうなんだ」
俺は、会社にいる時と、なにも変わっていないつもりなのに。
宮田さんが、俺と心の距離を取ろうとしているのが、手に取るように分かった。
「失礼します」
誰にともなく言って、会場に戻った。
さっきと同じ場所に、護がいた。綾音さんはいなかった。ほっとした。
「ひとりにしないでください」
涙目で言われてしまった。
「ごめん」
「あれ、嘘ですよね。電話が……って」
「嘘だよ」
「ひどいです」
「だから、ごめんって」
「いごこち、悪いですよ。よく、平気でいられますね」
「平気じゃない」
「そうですか?」
そうだよ。平気じゃない。ここでしか生きられないから、踏みとどまろうとしているだけだ。
その時、稲妻にでも打たれたように、頭のてっぺんから、足の先まで、痛いほどの衝撃を感じた。
俺は、三年経ったら、この世界に戻ってこないといけないのか。
自由になったような気になって、泣いて、感動してる場合じゃなかった。
しょせんは、かりそめの自由だった。
一度知ってしまった自由を奪われることに、俺は、耐えられるのだろうか……。
華やかなパーティー会場の中で、俺だけが異邦人だった。
分からない。護も、分かってくれるかもしれない。俺が、きちんと話をすれば……。
「顔色が悪いです。ちょっと、出ましょう」
車の免許がほしいなと思った。いずれは取るつもりで、道路交通法の勉強もしてはいる。
会場に入って、主催者の挨拶を聞いた。
綾音さんがいた。
苦手なタイプの女性だった。俺よりも、いくつか年上だと思う。
やたらと、距離が近いというか……。俺に好意を持ってくれているらしいのは、前々から分かっていた。
しきりと話しかけてくれるのを、失礼にならない程度に、かわしていく。
もう何度も聞いた愛犬の話や、新しい別荘の話には、へきえきするばかりだった。
ふと護を見ると、死んだ魚みたいな目をしていた。いくらなんでも、それは正直すぎるだろうと思った。
スマートフォンを、スーツの胸ポケットから出した。
「すみません。電話です」
嘘も方便だろう。護は、ついてはこなかった。
ロビーに出てから、足が止まった。
会社の先輩たちがいた。女性ばかりだった。
宮田さんもいた。
「西園寺くん!」
「こんにちは」
「すてきー! お友達の結婚式?」
「いえ……」
失敗した。否定してしまった。「そうです」と言えばよかった。
宮田さんと目が合った。大きな目が、丸くなっていた。
「西園寺くん……?」
「宮田さん」
「隼人さま。どうなさったんですか?」
綾音さんに、見つかってしまった。先輩たちがざわつくのを感じた。
最悪だな、と思った。
「大丈夫です。すぐ、戻りますから」
「あら……。では、また」
困ったような笑顔を残して、綾音さんが会場に戻っていく。
「びっくりした……。
あの女の人は、婚約者の方、とか?」
「違う。あの人は、父の知り合いの娘さんで……」
「そうなんだ」
俺は、会社にいる時と、なにも変わっていないつもりなのに。
宮田さんが、俺と心の距離を取ろうとしているのが、手に取るように分かった。
「失礼します」
誰にともなく言って、会場に戻った。
さっきと同じ場所に、護がいた。綾音さんはいなかった。ほっとした。
「ひとりにしないでください」
涙目で言われてしまった。
「ごめん」
「あれ、嘘ですよね。電話が……って」
「嘘だよ」
「ひどいです」
「だから、ごめんって」
「いごこち、悪いですよ。よく、平気でいられますね」
「平気じゃない」
「そうですか?」
そうだよ。平気じゃない。ここでしか生きられないから、踏みとどまろうとしているだけだ。
その時、稲妻にでも打たれたように、頭のてっぺんから、足の先まで、痛いほどの衝撃を感じた。
俺は、三年経ったら、この世界に戻ってこないといけないのか。
自由になったような気になって、泣いて、感動してる場合じゃなかった。
しょせんは、かりそめの自由だった。
一度知ってしまった自由を奪われることに、俺は、耐えられるのだろうか……。
華やかなパーティー会場の中で、俺だけが異邦人だった。
分からない。護も、分かってくれるかもしれない。俺が、きちんと話をすれば……。
「顔色が悪いです。ちょっと、出ましょう」
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