21 / 41
3.DIYでリフォームした家が、友人たちのたまり場に
≪護≫2
しおりを挟む
いつも、誰かがいる。
いらいらする……。
隼人さまと二人だけの時には、こうじゃなかった。
僕は、ひとみしりをする方なんだろう。初対面の人が、ひんぱんに遊びにきたり、泊まっていったりするのが、すごくつらい。
旅館に就職したつもりは、なかった。
七月になった。次の月曜日が海の日で、三連休になる週末に、猫が泊まりにきた。
食事は作ったけど、洗濯は、さぼりがちだった。
なんで、僕が、猫の服とか下着を洗わなきゃいけないんだよ。
隼人さまが、僕に文句を言うことはなかった。そのことも、とっくに、あきらめられてるような感じがして、いやな感じだった。
夕方になって、猫に呼びだされた。
なんだ?と思った。
玄関をとおって、庭までつれていかれた。
「話って、なんですか」
「君、いる?」
「……えっ」
「隼人は自炊できるし、なんならDIYで家までリフォームしちゃうし、掃除洗濯もできるし。そもそも、自分で働いてるじゃん!
誰かに手伝ってもらわなくても、一人で生活できるんだよ」
そんなことは、猫なんかに言われなくても、わかっていた。
「君、なんかできることあるの? そうやって、不機嫌そうな顔してる以外に」
「お食事は作ってます……」
「うん。あの、まずいやつね」
「まずいですか?」
「まずいよ」
三宅さんは、ようしゃがなかった。なんなんだ? 猫のくせに。
「ちょっと、考えた方がいいよ。
隼人は、なにも言わないだろうけど。
掃除とか、してるようには見えないけど。してる?」
「してま……せん」
「甘いなー。隼人は」
ため息まじりに、言われた。
けっこう、落ちこんだのに。
それだけで、終わりじゃなかった。
夕ごはんの時間に、メガネがきた。缶ビールの箱を持ってきていた。
冷蔵庫で冷やしてから、夕ごはんの後でビールを出した。僕は飲めないので、三人分だけ。
三人で、楽しそうに話していた。
なんだよ。
つまらなくなって、庭に出た。
畑のそばに座りこんで、まだ固いところがある土を、スコップで、がしがしとほぐした。
なにか、しないといけない……。
本当は、本当のことを言ってしまえば、僕は、こんなところにいないで、大学に行きたかった。
奨学金をとってでも、行くべきだったんだろうか。
「護くん」
メガネがきた。よりによって、泣きそうな時に、なんでくるんだよと思った。
「つまらなそうだったな。ビール、飲みたかった?」
「ちがいます。未成年だし」
「それは、知ってるけど。
ひま? 昼間とか」
「ひま、ですね。すること、ないんで」
嘘だった。掃除とか、畑の手入れとか。僕がしなくちゃいけないことは、いくらでもあるはずだった。
「ひまなんだったら、なにかしたら」
忠告されてしまった。なんなんだよ。メガネのくせに。
痛いところをついてくるんじゃないよ、と思った。
夜に、実家に電話した。
今までも、たまに電話はしていた。
たいてい紗恵が出て、なんということもない会話をする。
今日は、母さんが出た。
「護。おつかれさま」
やさしい声に、まじで、泣くかと思った。
「疲れてないよ。僕、仕事してないし」
「そうなの?」
「うん……。こんなんじゃ、クビになると思う」
「そうなったら、帰ってきたらいいじゃないの」
「……いいの?」
「いいよ。大学、行きたかったよね」
なんだよ。そう思った。
わかってたのか、って。
「大学に行って、ちゃんと就職した方が、よかったかなあ」
声がふるえてしまった。母さんが、「そうねえ。どうかなあ」と返してきた。
「でも、もう、遅いし。ここで、しっかりやらないと……」
「ねえ、護? 一度きりの人生だからね。妹たちとか、母さんとか、父さんのことよりも、あなたが一番したいことを、しようと思って、いいんだからね」
思いやりにみちた声だった。わかっていた。母さんがこういう人だから、僕は、高卒で就職することを負けだとは思わなかった。
でも、今の考えは、就職すると決めた時とは、だいぶちがっていた。
隼人さまも、猫も、メガネも、ふつうに働いていた。
会話の中で、たまに、仕事のぐちをぼやいたりもする。
だけど、みんな、自分の仕事が好きみたいだった。
まぶしかった。
僕も、大学に行って、勉強したら。卒論を書いたりしたら。
自分がやりたい仕事を、ちゃんと選べたんだろうか。
僕がいても、いなくても、なにも変わらなそうな、仕事のようで仕事じゃないみたいな、こんな仕事じゃなくて。
「ちょっと、考えてみる……」
そう答えたけど、無理だなとも思っていた。
たぶん、無理だ。
高校の勉強も、途中で投げだしてしまった。
僕には、なにかをやりとげる力は、もうない。
というか、もともとない。そんなふうにしか、思えなかった。
いらいらする……。
隼人さまと二人だけの時には、こうじゃなかった。
僕は、ひとみしりをする方なんだろう。初対面の人が、ひんぱんに遊びにきたり、泊まっていったりするのが、すごくつらい。
旅館に就職したつもりは、なかった。
七月になった。次の月曜日が海の日で、三連休になる週末に、猫が泊まりにきた。
食事は作ったけど、洗濯は、さぼりがちだった。
なんで、僕が、猫の服とか下着を洗わなきゃいけないんだよ。
隼人さまが、僕に文句を言うことはなかった。そのことも、とっくに、あきらめられてるような感じがして、いやな感じだった。
夕方になって、猫に呼びだされた。
なんだ?と思った。
玄関をとおって、庭までつれていかれた。
「話って、なんですか」
「君、いる?」
「……えっ」
「隼人は自炊できるし、なんならDIYで家までリフォームしちゃうし、掃除洗濯もできるし。そもそも、自分で働いてるじゃん!
誰かに手伝ってもらわなくても、一人で生活できるんだよ」
そんなことは、猫なんかに言われなくても、わかっていた。
「君、なんかできることあるの? そうやって、不機嫌そうな顔してる以外に」
「お食事は作ってます……」
「うん。あの、まずいやつね」
「まずいですか?」
「まずいよ」
三宅さんは、ようしゃがなかった。なんなんだ? 猫のくせに。
「ちょっと、考えた方がいいよ。
隼人は、なにも言わないだろうけど。
掃除とか、してるようには見えないけど。してる?」
「してま……せん」
「甘いなー。隼人は」
ため息まじりに、言われた。
けっこう、落ちこんだのに。
それだけで、終わりじゃなかった。
夕ごはんの時間に、メガネがきた。缶ビールの箱を持ってきていた。
冷蔵庫で冷やしてから、夕ごはんの後でビールを出した。僕は飲めないので、三人分だけ。
三人で、楽しそうに話していた。
なんだよ。
つまらなくなって、庭に出た。
畑のそばに座りこんで、まだ固いところがある土を、スコップで、がしがしとほぐした。
なにか、しないといけない……。
本当は、本当のことを言ってしまえば、僕は、こんなところにいないで、大学に行きたかった。
奨学金をとってでも、行くべきだったんだろうか。
「護くん」
メガネがきた。よりによって、泣きそうな時に、なんでくるんだよと思った。
「つまらなそうだったな。ビール、飲みたかった?」
「ちがいます。未成年だし」
「それは、知ってるけど。
ひま? 昼間とか」
「ひま、ですね。すること、ないんで」
嘘だった。掃除とか、畑の手入れとか。僕がしなくちゃいけないことは、いくらでもあるはずだった。
「ひまなんだったら、なにかしたら」
忠告されてしまった。なんなんだよ。メガネのくせに。
痛いところをついてくるんじゃないよ、と思った。
夜に、実家に電話した。
今までも、たまに電話はしていた。
たいてい紗恵が出て、なんということもない会話をする。
今日は、母さんが出た。
「護。おつかれさま」
やさしい声に、まじで、泣くかと思った。
「疲れてないよ。僕、仕事してないし」
「そうなの?」
「うん……。こんなんじゃ、クビになると思う」
「そうなったら、帰ってきたらいいじゃないの」
「……いいの?」
「いいよ。大学、行きたかったよね」
なんだよ。そう思った。
わかってたのか、って。
「大学に行って、ちゃんと就職した方が、よかったかなあ」
声がふるえてしまった。母さんが、「そうねえ。どうかなあ」と返してきた。
「でも、もう、遅いし。ここで、しっかりやらないと……」
「ねえ、護? 一度きりの人生だからね。妹たちとか、母さんとか、父さんのことよりも、あなたが一番したいことを、しようと思って、いいんだからね」
思いやりにみちた声だった。わかっていた。母さんがこういう人だから、僕は、高卒で就職することを負けだとは思わなかった。
でも、今の考えは、就職すると決めた時とは、だいぶちがっていた。
隼人さまも、猫も、メガネも、ふつうに働いていた。
会話の中で、たまに、仕事のぐちをぼやいたりもする。
だけど、みんな、自分の仕事が好きみたいだった。
まぶしかった。
僕も、大学に行って、勉強したら。卒論を書いたりしたら。
自分がやりたい仕事を、ちゃんと選べたんだろうか。
僕がいても、いなくても、なにも変わらなそうな、仕事のようで仕事じゃないみたいな、こんな仕事じゃなくて。
「ちょっと、考えてみる……」
そう答えたけど、無理だなとも思っていた。
たぶん、無理だ。
高校の勉強も、途中で投げだしてしまった。
僕には、なにかをやりとげる力は、もうない。
というか、もともとない。そんなふうにしか、思えなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
モリウサギ
高村渚
キャラ文芸
完結済。警視庁捜査一課の刑事館那臣は『解決してはならない事件』に手を出し、懲戒免職寸前だった。そんなとき書店で偶然出会った謎の美少女森戸みはや。自らを『守護獣(まもりのけもの)』と呼ぶ彼女に那臣は『主人(あるじ)』として選ばれる。二人の奇妙な同居生活が始まった。次々と起こる女性殺害事件。被害者の女性は皆『オーディション』を受けるため誘い出され、殺害されていた。その影には因縁の相手、警察OBで国家公安委員長である河原崎勇毅、そしてその息子の河原崎尚毅の存在が……?「もう一度、奴らを追う」「主人の望むものすべてを捧げるのが守護獣ですから」那臣とみはや、そしてその仲間たちは河原崎親子の牙城を崩せるのか……?同人誌として6冊にわたり発行されたものに加筆修正しました。小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。なお、作中の挿絵も筆者が描いています。
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
メメント・モリ
キジバト
キャラ文芸
人の魂を管理する、人ならざる者たち。
彼らは魂を発行し、時が来ると回収をする役を担っている。
高岡(タカオカ)は回収を担当とする新人管理者。彼女の配属された課は、回収部のなかでも特に変わった管理者ばかりだとされる「記録管理課」。
記録管理課における高岡の奮闘物語。
Strain:Cavity
Ak!La
キャラ文芸
生まれつき右目のない青年、ルチアーノ。
家族から虐げられる生活を送っていた、そんなある日。薄ら笑いの月夜に、窓から謎の白い男が転がり込んできた。
────それが、全てのはじまりだった。
Strain本編から30年前を舞台にしたスピンオフ、シリーズ4作目。
蛇たちと冥王の物語。
小説家になろうにて2023年1月より連載開始。不定期更新。
https://ncode.syosetu.com/n0074ib/
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女児霊といっしょに。シリーズ
黒糖はるる
キャラ文芸
ノスタルジー:オカルト(しばらく毎日16時、22時更新)
怪異の存在が公になっている世界。
浄霊を生業とする“対霊処あまみや”の跡継ぎ「天宮駆郎」は初仕事で母校の小学校で語られる七不思議の解決を任される。
しかし仕事前に、偶然記憶喪失の女児霊「なな」に出会ったことで、彼女と一緒に仕事をするハメに……。
しかも、この女児霊……ウザい。
感性は小学三年生。成長途中で時が止まった、かわいさとウザさが同居したそんなお年頃の霊。
女心に疎い駆け出しの駆郎と天真爛漫無邪気一直線のななのバディ、ここに爆誕!
※この作品では本筋の物語以外にも様々な謎が散りばめられています。
その謎を集めるとこの世界に関するとある法則が見えてくるかも……?
※エブリスタ、カクヨムでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる