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3.DIYでリフォームした家が、友人たちのたまり場に

≪護≫2

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 いつも、誰かがいる。
 いらいらする……。

 隼人さまと二人だけの時には、こうじゃなかった。
 僕は、ひとみしりをする方なんだろう。初対面の人が、ひんぱんに遊びにきたり、泊まっていったりするのが、すごくつらい。
 旅館に就職したつもりは、なかった。


 七月になった。次の月曜日が海の日で、三連休になる週末に、猫が泊まりにきた。
 食事は作ったけど、洗濯は、さぼりがちだった。
 なんで、僕が、猫の服とか下着を洗わなきゃいけないんだよ。
 隼人さまが、僕に文句を言うことはなかった。そのことも、とっくに、あきらめられてるような感じがして、いやな感じだった。

 夕方になって、猫に呼びだされた。
 なんだ?と思った。
 玄関をとおって、庭までつれていかれた。

「話って、なんですか」
「君、いる?」
「……えっ」
「隼人は自炊できるし、なんならDIYで家までリフォームしちゃうし、掃除洗濯もできるし。そもそも、自分で働いてるじゃん!
 誰かに手伝ってもらわなくても、一人で生活できるんだよ」
 そんなことは、猫なんかに言われなくても、わかっていた。
「君、なんかできることあるの? そうやって、不機嫌そうな顔してる以外に」
「お食事は作ってます……」
「うん。あの、まずいやつね」
「まずいですか?」
「まずいよ」
 三宅さんは、ようしゃがなかった。なんなんだ? 猫のくせに。
「ちょっと、考えた方がいいよ。
 隼人は、なにも言わないだろうけど。
 掃除とか、してるようには見えないけど。してる?」
「してま……せん」
「甘いなー。隼人は」
 ため息まじりに、言われた。

 けっこう、落ちこんだのに。
 それだけで、終わりじゃなかった。
 夕ごはんの時間に、メガネがきた。缶ビールの箱を持ってきていた。
 冷蔵庫で冷やしてから、夕ごはんの後でビールを出した。僕は飲めないので、三人分だけ。
 三人で、楽しそうに話していた。
 なんだよ。

 つまらなくなって、庭に出た。
 畑のそばに座りこんで、まだ固いところがある土を、スコップで、がしがしとほぐした。
 なにか、しないといけない……。
 本当は、本当のことを言ってしまえば、僕は、こんなところにいないで、大学に行きたかった。
 奨学金をとってでも、行くべきだったんだろうか。

「護くん」
 メガネがきた。よりによって、泣きそうな時に、なんでくるんだよと思った。
「つまらなそうだったな。ビール、飲みたかった?」
「ちがいます。未成年だし」
「それは、知ってるけど。
 ひま? 昼間とか」
「ひま、ですね。すること、ないんで」
 嘘だった。掃除とか、畑の手入れとか。僕がしなくちゃいけないことは、いくらでもあるはずだった。
「ひまなんだったら、なにかしたら」
 忠告されてしまった。なんなんだよ。メガネのくせに。
 痛いところをついてくるんじゃないよ、と思った。


 夜に、実家に電話した。
 今までも、たまに電話はしていた。
 たいてい紗恵が出て、なんということもない会話をする。
 今日は、母さんが出た。
「護。おつかれさま」
 やさしい声に、まじで、泣くかと思った。
「疲れてないよ。僕、仕事してないし」
「そうなの?」
「うん……。こんなんじゃ、クビになると思う」
「そうなったら、帰ってきたらいいじゃないの」
「……いいの?」
「いいよ。大学、行きたかったよね」
 なんだよ。そう思った。
 わかってたのか、って。
「大学に行って、ちゃんと就職した方が、よかったかなあ」
 声がふるえてしまった。母さんが、「そうねえ。どうかなあ」と返してきた。
「でも、もう、遅いし。ここで、しっかりやらないと……」
「ねえ、護? 一度きりの人生だからね。妹たちとか、母さんとか、父さんのことよりも、あなたが一番したいことを、しようと思って、いいんだからね」
 思いやりにみちた声だった。わかっていた。母さんがこういう人だから、僕は、高卒で就職することを負けだとは思わなかった。
 でも、今の考えは、就職すると決めた時とは、だいぶちがっていた。
 隼人さまも、猫も、メガネも、ふつうに働いていた。
 会話の中で、たまに、仕事のぐちをぼやいたりもする。
 だけど、みんな、自分の仕事が好きみたいだった。
 まぶしかった。
 僕も、大学に行って、勉強したら。卒論を書いたりしたら。
 自分がやりたい仕事を、ちゃんと選べたんだろうか。
 僕がいても、いなくても、なにも変わらなそうな、仕事のようで仕事じゃないみたいな、こんな仕事じゃなくて。
「ちょっと、考えてみる……」
 そう答えたけど、無理だなとも思っていた。
 たぶん、無理だ。
 高校の勉強も、途中で投げだしてしまった。
 僕には、なにかをやりとげる力は、もうない。
 というか、もともとない。そんなふうにしか、思えなかった。
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